契約その185 登場!カリスマgal!
藤香が締切に苦しんでいた頃、ヒナはアゲハに呼び出されていた。
「で、何の用なの?私を『キスバーガー』に連れてきて」
ヒナは、頬張ったハンバーガーをきちんと飲み込んでから聞いた。
このハンバーガーセットはアゲハの奢りである。わざわざ奢るという事は、何か頼み事があるという事だろう。
ヒナはそう推測していた。
ヒナに用件を聞かれ、向かいの席に座っていたアゲハが言う。
「実はね……」
まず最初に、アゲハは自分がギャルインフルエンサーの集まりに参加している事を伝えた。
その内の一人がギャルファッション専門の動画チャンネルをやっているらしく、アゲハがそれに登場する事になったという。
どうやら「普通な子のギャルデビュー」というテーマで撮影をするらしい。
そこで、アゲハの交友関係で一番「普通の子」であるヒナに白羽の矢が立ったのである。
「ネット上に素顔を晒す事になるけど……そこを何とか!お願いしますっ!」
アゲハは、パンッと手を力強く合わせながらお願いする。
ヒナは、摘んでいたポテトをきちんと飲み込んだ後に言う。
「別にいいよ」
「ホント!?」
アゲハの顔がぱあっと明るくなる。
「そのインフルエンサーにも興味あるし!」
「そう?すごく有名な人だからきっとびっくりすると思う!」
アゲハはそう笑顔で言うのだった。
―――数日後。
二人は、そのインフルエンサーに呼ばれて東京は渋谷にある某スタジオがある建物にやって来た。
三十階はある大きなビルに、そのスタジオはあるという。
「うわぁ……おっきい……」
ビルを見上げながら、月並みな感想を漏らすヒナ。
二人は、ビルの中に入るのであった。
中は普通のオフィスビルの様である。
二人は大きなエレベーターの前へ行った。
「このビルの二十二階にスタジオがあるんだって」
エレベーターを待ちながらアゲハが言う。
間もなくエレベーターが着く。ヒナと一緒にエレベーターの中に入ったアゲハは、エレベーターの22のボタンを押す。
エレベーターは高速で二十二階へと向かった。あまりに速すぎて耳がキーンとなるタイプのエレベーターである。
数分もしない内に二十ニ階に着き、二人はエレベーターを出る。
お仕事系のドラマで見る様な、キッチリとしたオフィスビルの内部といった感じであった。
ビルに着いた時から薄々感じていた事だが、ギャルのイメージとは程遠い場所である。
「本当にここで合ってるの?ダマされてたりしない?」
ヒナがこっそりと言う。
「信用してるし、そんな事はないと思うけど……でももしかしたらドッキリではあるかも」
アゲハが明るい声で言う。
ドッキリなどかけられた事がないヒナはドッキリではない事を願った。
しばらく歩くと、先導するアゲハの歩みがある部屋で止まる。
「ここみたい」
スマホに送られていた情報を確認しつつアゲハが言う。
アゲハは小さくドアをノックした後、ドア越しに待っているであろう人物に話しかける。
「もしもーし?アゲハでーす。友達連れて来ました!」
ドンドンとドアをノックし返す音が聞こえる。
トイレみたいだとヒナは思った。
「待ってるみたい。じゃあ開けるよ」
アゲハはヒナの方を見ながらそう言うと、ドアノブに手をかけ、そのままゆっくりと開けるのであった。
中には長机とパイプイスが何個か用意されており、その内のパイプイスの内一つに座っている女性がいた。
「あ!アゲちゃん!お久〜!」
ブンブンと手を振る女性。女性というより少女と言った方がいいのかも知れない。
制服姿にふわふわの薄いオレンジの髪、手首にはシュシュ、水色のパステルカラーのカーディガンを腰巻きにしていた。
その少女をヒナは知っていた。いや普通のJKなら誰もが知っているだろう。
「まさか……インフルエンサーの『Mayu』さんですか!?」
「えー!知ってくれてるの?嬉しーなー!」
「Mayu」はニコニコフレンドリーな雰囲気で嬉しそうに言った。
「Mayu」は、SNSのフォロワー数が300万人を超えている大物インフルエンサーである。
JK達への影響力で言えば、トップアイドルたるルアとも互角と言われる程である。
「マユちゃん、紹介するね。ウチの友達の『佐藤陽奈』ちゃん。今回協力してくれるんだ」
アゲハがヒナの紹介をする。
「ん!よろしくね!」
マユはヒナの両手をしっかりと握って挨拶した。
ヒナは赤面しながらもしっかり挨拶をする。
挨拶も済んだ所で、マユに促される形で二人は用意されたパイプイスに座る。
マユのマネージャーが来るまでフリータイムらしい。
このタイミングで、ヒナはさっきから気になっていた事をアゲハに聞く。
「それで、どうして『Mayu』さんとアゲハが知り合いなの?」
「そんな、単純だよ。ウチとマユちゃんはイトコ同士なんだ」
あっけらかんとアゲハが言う。
「そうなの!?」
目を丸くしながら驚くヒナ。
「うん。ウチがギャルになる時に色々アドバイスくれて……言わばウチの『ギャル師匠』!……的な?」
アゲハは小首を傾げながら言った。
「いや、あの時のアゲちゃんは本当に苦しそうで、だったらギャルになったらって提案しただけだよ〜」
マユはバッグから全員で摘めるチョコレートを取り出し、二人に勧めながら言う。
二人はありがたく貰う事にした。
「それに、ギャルになってもあまり状況変わってなかったっぽいし、ウチは何もやってない。でもさ、最近はすごく楽しそうで!」
嬉しそうに語るマユ。そして向かいに座ったアゲハの方に体を乗り出す形でアゲハに言う。
「もしかして、恋しちゃってるとか?」
「!!?」
二人は危うく口に含んだチョコレートを吐き出しそうになった。
「な……何でそんな事を!?」
むせながらアゲハが聞く。その背中をささってあげるヒナ。
「んーそーだねー、ある時を境にちょっと雰囲気が明るくなったんだよね」
かなり鋭い。確かにある時を境に雰囲気は変わった。
「ふふ。図星か。それでどんな男の人なの?イヤなら言わなくてもいいけど」
「男の人じゃないです!」
二人は一斉に言う。
「え……え?」
その状況にマユは混乱する。
「いや、男の人なのかな?本人はそう言ってたけど」
気を取り直して、アゲハは自分の恋人の魅力を赤裸々に語った。
「その子はね、顔がよくてすごくかわいいんだけど!それでいてかっこよくて!誠実で!どんな状況でも守ってくれて……」
その内容に、ヒナも頷きながら同意する。
本人がこの場にいたら、顔を真っ赤にしそうな内容である。
「?」
しかし、マユにはどこか腑に落ちなかった。
アゲハが自分の彼氏?をよく言うならわかるが、それにヒナも同意しているのはどういう事なのだろうか。
―――共通の友達って事なのかな?
確かにそれなら理屈は通る。実際は共通の恋人なのだが。
マユはその理屈で自分を納得させた。
「それで……」
語り切れない恋人の魅力をまだ語ろうとしたアゲハだったが、マネージャーが来た事で中断された。
マネージャーからプリントを渡される二人。
かなり長いプロジェクトらしく、一ヶ月はかかるらしい。
まずは親睦を深めるべきだというマネージャーの意見で、三人は渋谷の街に駆けていくのだった。
「案内するね。渋谷はウチの庭みたいなものだから!」
マユが笑顔で言った。
悪魔との契約条項 第百八十五条
契約に関する内容を第三者に話すと、不自然に思われる事がある。
十分に気をつける様に。
読んで下さりありがとうございます。
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