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契約その184 もみもみもえもえparadise!

 一月中旬。今をときめく高校生漫画家「黄桃ハル」先生は、自宅内のスタジオで漫画の締切に追われていた。


 この前のインフルエンザで急遽休載となったので、もはや遅れるわけにはいかないのである。


 ましてやアニメの第二期が決まった「初恋エターナル」は今が大切な時である。


 自然と筆にも力が入る。


 しかし、時間が時間である。


「あ〜!やっぱり一人じゃ間に合わない!アシさんに正月休み取らせたのが間違いだったか?」


 藤香が呟く。しかし、今更戻ってきてくれと言うわけにはいかない。


「仕方ない。今いる娘に応援を頼むか……」


 藤香は今自宅内にいる女の子達に電話をかけるのであった。



「それで、今いるのが……」


 生憎ほとんどの女の子達は外出しており、自分以外には二人しかいなかった。


 モミと萌絵の二人である。


「それで、藤香は一体何の用ですか!?」


 萌絵が聞く。


「その……実は……」


 藤香は締切がいよいよやばい事を伝えた。


「それで、二人の助けを借りたいわけなんだ」


 藤香が藁にも縋る様な雰囲気で伝える。


「成程成程……」


 萌絵はふむふむと首を縦に振りながら聞いていた。


「頼むよ。ほら、キミだって僕の作品のファンだろ?そのファン心理を利用する様で悪いけどさ、この通り!」


 藤香は両手を合わせながら二人に懇願する。


 少し考えた萌絵は、はっきりとした口調で言う。


「わかりました!お断りさせていただきます!」


「そうだよそうこなくっちゃ……って、え!?」


 てっきり快諾してくれると思っていた藤香は目を丸くして驚いた。


「何でよ!『初恋エターナル』の手伝いが……」


()()()()()ですよ!」


 詰め寄る藤香を、萌絵は押し返しながら言った。


「私は、『作者に認識されたくない系』のオタクですので!こうやってご本人に頼られるのは何かちょっと違うんです!」


「??」


 藤香は首を傾げる。そういうオタクの微妙な心理が、あまりよく理解できていない様だ。


「なので断らせていただきます!」


 萌絵は改めてキッパリと断った。


「そんな……」


 藤香はガックリとうなだれた。


 しかしめげる事なく、今度はモミに話を振る。


「モミはどうかな?」


「ふむ……」


 モミは少し悩むと、バッと両手を広げてわきわきさせながら言う。


()()()……いえ()()()一ページでどうです?」


 モミの言う一揉み、二揉みが一体どういう意味かは藤香にはわかっていた。


 藤香は苦悶の表情をしつつも決心した。


「わかった……受けよう。でもさ……」


「……?何です?」


 モミが聞く。


「僕はあまりその……自分の体型には自信がないというか……ユニや丁井先生の足元にも及ばないというか……」


 そもそも藤香は未だに140cm台の小柄な体型である。もはやグラマラスな成長などできない事はわかっている。


 だが、モミは気にしなかった。彼女は、藤香の肩に手を置きながら言う。


「そんな事、気にしなくていいんです。()()には()()の、()()には()()の、それぞれのよさがありますから」


「え……それって褒めてるの?」


 藤香が聞くが、モミは腕まくりしながら言う。


「さあ!モミは何をすればよいのですか?」


 どうやらやってくれる気になった様である。


 でもそれって、胸揉まれるって事だよな……。


 藤香は一瞬そう思ったが、気にしない様にした。


「じゃあ……ベタ塗りしてくれ」


 ベタ塗りとは、黒髪などの黒い部分を塗る作業の事である。もっとも、今はパソコンソフトですぐできる作業である。


「かしこまりました!」


 モミは早速作業に取り掛かった。


「それと、絵は描ける?」


 藤香が聞く。


「えぇ、多少は!」


「多少」と謙遜しているが、その口調は自信に満ち溢れたものだった。


「よし。だったら建物とか背景も描いて欲しい。見本はここにあるから」


 藤香は大量の紙の束を指差して言った。美術資料というものである。


「かしこまりました!」


「あと今週は巻頭カラー貰ってて、さらに時間が差し迫るけど大丈夫?」


 藤香が聞く。


「はい!おっぱいの為ですから!」


 己の欲望を隠そうともしない。


「とりあえずそれは終わってからだとして……急ごう。二人でも手が足りないぐらいなんだ」


 そして二人は、黙々と作業を始めるのだった。



 さて、残された萌絵はというと、彼女は葛藤していた。


 彼女達は「原作者に認知されたくない系のオタク」である。それは純然たる事実だ。


 だがこの作業量、とても二人では追いつかない。追いつかないとどうなるか?原稿を落とす事になるだろう。


 原稿を落とす事は、漫画家にとって信用問題に関わる事である。


 ()()()()()()()()()()事で、黄桃ハル先生は信用を失う事になるのだ。


「……」


 萌絵も決心した。


()()()()()()!」


 先生は萌絵の方を向く。


「恐れ多いのですが……私にも手伝わせてくれはしませんでしょうか!?」


 真剣な表情をする萌絵。


 藤香は、それがウソではないと判断した。


「元より猫の手でも借りたい所だ。モミは今ベタ塗りしてるから、背景を手がけてくれ」


 萌絵の顔が明るくなり、笑顔で「はい!」と答えるのだった。


 その後は黙々と作業を続けていた三人。


 何とか締切前に原稿を完成させる事に成功したのだった。


「ハア……ハア……終わったァ!」


 歓声を上げる三人。性根尽き果てたのか、そのまま倒れる様に眠りにつくのだった。



 ―――数時間後。


「図書館の品揃えがよくてつい見入っちゃったな……」


 そう言いながらユニが帰宅する。


「ただいま……」


 確か藤香、モミ、萌絵の三人が留守番をしているはずだと、ユニはリビングに入ってきた。


 しかしリビングは暗いまま、誰もいない。


「まさか……!」


 ユニは慌てて黄桃ハルのスタジオを訪れる。


 ユニの予想通り、三人は机に突っ伏した状態で眠りについていた。


「電話くれればおれも手伝ったんだけどな……」


 ユニはそう静かにぼやきながらも、一人一人の背中に持ってきた毛布をかけてやる。


 それから、こう静かに声をかけるのだった。


「お疲れ様」



 ―――翌日、胸を揉ませろと追いかけるモミと、逃げる藤香の姿があったが、それはまた別の話である。


 悪魔との契約条項 第百八十四条

プライドを捨てる事で、守られるものもある。

読んで下さりありがとうございます。

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