契約その181 大乱戦!heroin vs heroin!
「うん。体温的には問題ないみたい」
由理が体温計を見ながら太鼓判を押した。
「迷惑かけたね」
ユニが謝罪する。
「いいよ、気にしないで。でもまさか姉さんだけがインフルエンザ拗らせるなんてね……」
「ラファエル」との決戦から四日後。
他の彼女達は三日も経てば完治したが、ユニだけは完治に四日かかってしまった。
「でもお医者さんの話だと、みんな一週間は休んでおかないといけないらしいし、そうなると三学期の開始には間に合わないか……」
由理がため息をつく。
そんな由理にユニが言う。
「たぶんおれのクラスは学級閉鎖だろうな。十人以上休んでるから」
「それもそうか……そっちも大変ねえ」
由理が心から同情する様に言う。
とにかく治った事は治ったので、ユニは久しぶりにリビングに降りる事にした。
「みんな、治ったよ」
ユニはそう言いながらリビングに降りる。
「あ、治ったんだユニ。おはよう」
アゲハが言う。
ユニは、みんなが何か飲み物を飲んでいるのを見つけた。
「何飲んでるの?」
ユニが聞く。
「ああ。紫音がな、『わ〜いお茶』買ってきてくれたんだ。雪かきを労う為に」
アキが言う。
そういえば、みんな雪かきをしていた所をユニは自室から見ていた。
「飲むか?」とアキが渡してきたそれを、ユニは快く受け取った。
「じゃあ早速……」
ユニが渡されたそれを飲もうとしたその時である。
「ちょっと待てェ!」
紫音が慌てた様子でやってきた。
「どうしたの?」
アゲハが聞く。
「まさかとは思うが、冷蔵庫にあるお茶を飲んだりしてないか?」
「お茶ってこれの事か?」
藤香が示してきた。
「飲んだのか!」
紫音が焦燥しながら聞く。
「うん。ユニとあなた以外はみんなね。500mlぐらい」
ルアが言う。
それを聞いた紫音はあわわわと言いながら頭を抱えた。
「ユニ!今すぐじゃ!今すぐこの場を離れるんじゃ!」
紫音が叫ぶ。
「そんな……何で……?」
「今みんなが飲んだのは要するに『惚れ薬』!"愛お茶"じゃ!本家とラベルも似ておるから間違えたんじゃろ」
それを聞いたみんなは一斉に吐き出そうとする。
「何でまたそんなのを放っておいたの!?」
みんなは怒った。
「だいたい"契約その27"辺りの時に開発してたものじゃが、もはや必要ないと思って破棄しようとしてたんじゃ」
"契約その27"は、紫音が彼女入りした時のエピソードである。
その時はまだユニの愛を信じ切れていなかった紫音が、秘密裏に開発していた代物らしい。
だが、次第にユニの愛が本物である事を理解し、もはや必要ないと思った紫音は、それを今になって破棄しようとした。
台所に置いておいたそれを、彼女達が「わ〜いお茶」だと勘違いして飲んでしまったというわけである。
「まさか当時遊び心で似せたのが裏目に出るとは……」
ガクッと肩を落とし、紫音は後悔した。
「確かに冷蔵庫にはあったな。本物が」
ユニは冷蔵庫に入っていた何本かを取り出して言う。
「ほら、細部が違うじゃろ。ラベルの色味とか微妙に。何でこれを……。いや、こんなものを適当に置いておいたわしが悪いのじゃが……」
紫音はそう悔やみながら、本物の方を飲む。
「紫音!それは!」
「え?」
紫音が本物だと思って飲んだのは、「惚れ薬」の方だったのである。
「しまった!わしまで間違えた!」
先程の様に頭を抱える紫音。
「どうにかして、治す方法はないんですか?」
萌絵が頭を抱える紫音に聞く。
「ないな。飲んだら最後、しばらく効きっぱなしじゃ」
頭を抱えながら紫音が断言する。
「どれくらい効くの?」
ヒナが聞く。
「個人差はあるが、だいたい二時間程……」
紫音が答える。
その上で、紫音はこう付け加えた。
「『惚れ薬』とは言うが、これは元々ある好意を数百倍にするものなんじゃ」
そしてそれはより好意を惹きつける人物、つまりユニに向けられると紫音は言う。
「だいたい飲んでから十五分程ラグがある。だからその前になるべくユニを遠くへ逃がそうと……いやもう手遅れか……」
紫音が言う。
真っ先に症状が出たのは由理である。
「ハアハア……お姉ちゃん……」
顔を赤らめ、息も絶え絶えな由理。
「だ……」
「だ?」
「だ〜い好き♡」
由理はそう言いながら、ユニへ思い切りダイブした。
「うわ!」
その勢いで、後ろへ倒れるユニ。
「お姉ちゃ〜ん♡」
猫撫で声で、由理はユニの体の至る所にキスをしまくる。
「ちょっ……やめっ……くすぐったいよ!アハハハ!」
思わず笑ってしまうユニ。
だが、それと同時に疑問に思う。
これぐらいなら、大して問題はないのではないだろうか。
いや、十数人分の愛を受け取るのは確かに大変だが、ユニなら二時間は耐えられるハズである。
ユニはその事について紫音に聞いてみた。
「確かにただ愛を振り撒くなら大した事はないじゃろうが、この薬の恐るべき所は、愛の為なら自分の障害をも排除する所じゃ」
「つまりそれって……」
ユニが危惧した事を察したのか、紫音は大きく頷いて言う。
「ああ。これから二時間、ユニを巡るわし達の『バトルロワイヤル』が始まるというわけじゃ!」
「そんな……」
ユニは絶句した。
「ただでさえわしらは高い戦闘力を持つ集団……。何が起こるかわからん……。だからなるべく遠くへ逃げる様に言ったんじゃ」
―――争いが、起こる前に!
ユニを独り占めしていた由理に近づく黒い影。
ルーシーだった。
「悪いけどユニは渡さない……」
「こっちこそ……お姉ちゃんとは私が一番長い付き合いなんだから……」
売り言葉に買い言葉だった。
ルーシーと由理、拳と拳、意地と意地がぶつかり合う。
「こういう時、おれは何て言うべきなんだっけ……」
そんな熾烈な争いを見て、ユニはこう叫ぶのであった。
「やめてくれ!おれの為に争わないでくれェ!」
彼女達による、ユニを巡ったバトルロワイヤルが始まるのだった。
悪魔との契約条項 第百八十一条
愛にも、限度がある。
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