契約その173 私は世界一のlucky girl!
最終日のアルバイトもつつがなく終わった。
「また明日ね」
「うん。また明日」
帰っていくユニ達を、ミズキは見送るのだった。
「さて……」
ミズキは、昨日と同じ様に母へ連絡を入れた。
プルルルル……プルルルル……ガチャ
「もしもし?お母さん?」
「あら昨日ぶりねミズキ」
母の優しい声が聞こえる。
このミズキの母こそが、ミズキをこの神社へ派遣した張本人である。
「例の事なんだけど、どうしてもダメかな」
「無理ね。何で今回に限ってそんなに反対するのかしら?今まではそんなに反対しなかったのに」
母が呆れながら言う。
「それは……かけがえのない大切な人が……いや人達ができたから。あんなにいい人達、もう一生出会えないと思う」
ミズキが強い口調で言い返した。
「今までわがままの一つも言わなかった娘のわがままだから、叶えてあげたいのも山々なんだけどね、そうもいかないの」
ミズキは黙っていた。
「だから上に無理を言って、三月まで待って貰ってて……それが限界よ」
「そんな……」
ミズキは今にも泣き出しそうな声を出す。
「だから残りの三ヶ月、くいなく過ごしてくださいな。応援してるから」
ピッ……。
そこで電話が切れた。
「言えない……言えるわけないよ……!みんなと三月でお別れなんて……」
そしてミズキは、声を殺して泣いたのだった。
翌日。三が日も終わり、だんだんと世間の正月ムードも抜けてくる。
ユニ達の学校の冬休みは、一応年越し後一週間は続く。
まだしばらく、正月気分は抜けそうもない。
「三が日過ぎると、ロクな特番やらなくなるな」
テレビのチャンネルを変えながらユニが言う。
「まあ三が日過ぎたらもう仕事っていう人もいますから」
どれみが言う。彼女はむしろ三が日過ぎてから本格的に休める様になった。
「まあ……そうだろうな……」
ユニは、コタツに置かれたみかんを口にしながら言った。
そんな日常の中でも、ミズキは黙っていた。
そんな様子がルーシーは気になった様で、直接本人に問うた。
「どうしたんだミズキ。昨日から黙っちゃって」
「……何でもない」
ミズキはそう言い残すと、神社へと帰って行った。
「何かおかしいよな……どうしちゃったんだろ」
去っていくミズキの背を見送りながら、ルーシーはぼやいた。
その深夜。把羅神社の離れで、ミズキは一人で寝っ転がっていた。
昔ながらの和室に布団を敷いている。
「今言わなくても、いずれはみんなに言わなくちゃいけない。それなら早めに言った方がいいけど……でも……」
一人で悩むミズキ。
その時である。
コンコン……コンコン……
離れの引き戸を叩く音がする。
「こんな夜中に一体誰?」
ミズキが上半身を起こすと、今度は枕元の携帯が鳴り出した。
画面を見ると、電話帳に登録している「ユニ」の名前が表示されている。
ミズキが電話を取った。
「もしもし。ユニだけど。夜中にごめん」
ユニのいつもの声が聞こえる。
「一体どうしたの?」
ミズキが聞く。どこか助けを求めている様でもあった。
「その……キミが苦しんでいる様に見えたから。もしよければおれに話して欲しい」
ミズキは決心した。
「いいよ。鍵開けるから入って来て」
「お邪魔します」
夜中なのもあり、ユニはこっそりと言いつつ中に入った。
「お茶でもどうぞ」
ミズキが出した緑茶を、ユニはありがたく貰う。
「それで、理由は何なの?」
ユニはしっかりとお茶を飲み干してから言った。
「実は私ね、今年の三月に転校する事になったの」
「……!」
ユニは、危うくお茶の入っていた茶飲みを落としそうになった。
「そんな……!一体どうして……!」
ミズキはゆっくりと説明する。
「私はこの把羅神社を守る為にこの町に来た。でも四月から別の人がここに来る事になって、私は別の所に……」
「そんな……!」
ユニは青ざめた。
「上の決定だもん。仕方ないよ。これでも無理して伸ばして貰ってるし……。だからせめて……」
「キミ自身はどう思ってる」
ミズキの言葉を遮ってまで、ユニが聞く。
「え?」
思わず聞き返すミズキ。
「その決定にキミ自身は納得してるのか?していないのか?キミ自身の言葉を知りたい!」
ユニはしっかりとミズキの方を見る。真剣な表情だった。
「私の……?」
ミズキは考える。
そう言えば、その理由を聞いても、母は上からの指示の一点張りである。ミズキに理由は知らされていない。
いや、それ以前に……。
「私は……一緒にいたい。未来はまだわからないけど、今はみんなと一緒にいたいんだ!」
ミズキは堪え切れずに涙を流した。
ミズキを抱きしめるユニ。
「ごめん。キミの苦しみに気づいてあげられなくて。だけどその代わり、おれは許さない……!キミを泣かした存在を……!必ず!」
「ありがとう……ありがとう……ありがとう……」
ミズキはしきりにお礼を言っていた。
親でも、自分の事をこんなに想ってはくれなかった。
「だから私は……世界で一番の……幸せ者だよ!」
再び強く抱きしめ合う二人。
ユニは、その肌の感触を、二度と忘れる事はなかった。
悪魔との契約条項 第百七十三条
自分の事を、心から愛してくれる人と出会える事は、ものすごく幸運な事である。
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