契約その172 ミズキのsecret!
翌日。把羅神社に七海、紫音、メイ、ヒナの四人がアルバイトにやって来た。
昨日の元日と比べると人はいない様である。
この程度なら人員も四人にミズキを加えた五人で十分らしく、彼女達以外のアルバイトの姿はなかった。
「あの〜……お守りをくださいませんか?」
一人でお守りの販売をしていた七海は、中学生ぐらいの女の子に話しかけられる。
「色々種類がありまして、無病息災、学力向上、恋愛成就とあるんですが……」
七海は覚えたばかりのお守りの種類を暗唱しながら言う。
「あ……あの……」
女の子はもじもじしていた。
「?」
その様子を見た七海は全てを察し、「恋愛成就」のお守りが並べられている棚に少し手をかける。
「れ……恋愛成就のお守りを……お願いします!」
赤面しながらも言い切った女の子。
七海は笑顔で手をかけていたお守りを渡したのだった。
「頑張ってね」
足早に去っていく女の子に聞こえない様に、七海はそう言うのだった。
その頃、昨日の由理達の様に掃除を任せられた他の三人。
「よし、"超便利掃除機Ⅱ"を使うか」
紫音は巨大な掃除機をリュックサックから取り出した。ちなみに紫音は巫女服の上から白衣を羽織る珍妙な姿である。
「再登場早くないか?初登場からまだ二話しか経ってないのに」
メイがため息をつきながらぼやく。
「あれは初代じゃ。今回はあれの"小"相当の出力しか出ない様になっておる」
紫音が装置の準備をしながら言う。
「何かもう色々心配なんだけど……」
ヒナも懐疑的である。
「まあまあ。心配するな」
準備ができ、機械の電源を入れる紫音。ヴォォォという鈍い音が響き、落ち葉を吸い込んでいった。
その音を聞きつけたミズキが社務所から出て来た。
どうやら業務連絡を行っていたらしい。
「一体何事……げ!それは!」
ミズキもまた、稼働中の掃除機を見て顔を引きつらせた。
「本当に大丈夫なの?」
ミズキもまた、大晦日の惨劇の被害者である。その性能について訝しむのも当然だろう。
「リスクを最小限まで減らしたから大丈夫じゃ。一般販売まで漕ぎ着けるのなら、やはり安全第一じゃな」
「売るの!?」
三人は飛び上がりそうな勢いで驚いた。
「こんなの、家庭用ロボット掃除機で十分なんじゃ……。うるさくないし」
メイが言う。もっともな話である。
「いや掃除機以外の機能も搭載して……家事全般をできる様にするなら売れるとは思わんか?」
「それは場合によるとしか言い様がないけど」
ヒナが言う。
「やっぱり人型がいいのか?構想の練り直しか……。五月のあたりまでには試作機を作りたいが……」
紫音が独り言の様に呟く。
そんな中、七海がユニと一緒に戻って来た。
「みんな、そろそろ休憩……ってあれはまさか!」
ミズキとまったく同じ反応をする七海なのだった。
紫音は、二人にさっきと同じ説明をするのだった。
「おー寒い寒い」
みんなは休憩の為に社務所の中に入る。
みんなと言っても、紫音とメイはおみくじやお守りの販売に出ていていないのだが。
自分達以外のアルバイトがいないので、ローテーションで休憩を取る事にしたのである。
「それで、昨日に続いて何でここに来たの?」
ミズキが聞く。
「みんなに差し入れを持って来たんだって」
七海が説明した。
「そうなんだ。由理に持っていけって頼まれてさ」
ユニは持っていたお弁当箱を三人の前に出した。
「おにぎりだ」
七海が言う。
「うん。これがサケでこれがおかか、それとごまとツナマヨだな」
ユニがそれぞれ指差しながら説明する。
「二人にも残しておいてくれ」
ユニはそう言うと、社務所を出ようとする。
「あれ?もう行くの?」
ミズキが聞く。
「ああ。元々商店街に行く用事があって……ここへは由理に頼まれたから来たんだ」
「そうなんだ。また後でね」
三人に見送られて、ユニは出て行ったのであった。
ユニが出て行った後、三人はおにぎりを頬張る。
「うん。やっぱり美味しい」
何個かのおにぎりを残して、三人は紫音とメイと代わるのだった。
翌日。三が日の最終日は、ユニ、ルーシー、モミ、みすかの四人の担当である。
「この真冬に巫女服一枚はさすがに寒いな」
ルーシーがぼやく。
「だったらさ、この貼るタイプのカイロを使うといいよ。昨日切らしてるのを見たから買って来たんだ」
ユニはみんなにそれを渡す。どうやら昨日商店街に用があると言っていたのは、それを買っていたかららしい。
それからは、五人でおみくじとお守りの売り子と境内の掃除をローテーションで行う。
だが三が日の最終日ともなると、昨日にも増して参拝客は少ない。
ヒマな時間が過ぎて行った。
そんな中、ミズキがやけにソワソワしていた。
「どうしたんだミズキ。そんなにソワソワして」
ミズキの異変に気づいたユニが聞いてきた。
「!?いや、何でもないよ!?」
明らかに何かある話し方である。それはユニにもわかっていた。
しかし、話したい時に話して来るだろうと思い、この時点では詮索するのをやめた。
「どうしよう。あんな事、どうやって言えばいいんだろう」
頭を抱えるミズキ。
そんな彼女がユニ達と一緒にいれる時間は、刻一刻と少なくなっているのだった。
悪魔との契約条項 第百七十二条
誰にだって、秘密はある。
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