契約その170 年末cleaning!
火殿グループ主催のクリスマスパーティも終わり、いよいよ世間も年越しムードが高まっていた。
それは瀬楠家も同じである。
「そうだ」
年の瀬も極まる大晦日、ユニは思い出したかの様に言う。
「みんな、大掃除やるぞ」
ユニはみんなに呼びかけた。
「大掃除か……」
なぜかみんな乗り気ではない。
「別に……やらなくてもいいんじゃないか?」
丁井先生に至ってはそんな事を言う始末だった。
「ダメですよ。ちゃんとしっかりやらないと」
「むー。でも確かに面倒くさがってちゃ生徒に示しがつかないか……」
しばらく唸っていた丁井先生だったが、決心したのかパチンと手を叩いて言う。
「わかった。やろう」
こうして、ユニ達の大掃除が始まったのであった。
とりあえず、各々の部屋を片付けてから、リビングなどの共有スペースを掃除する事になった。
普段から掃除をしているユニ、由理、七海、アキ、アゲハ、ルア、どれみ、モミ、ミズキ、みすか、ヒナ、風月の掃除はすぐ終わった。
問題は残っている人達である。
ユニ達は順番に部屋の大掃除を手伝おうとするのだった。
まずは一番まともそうなメイの部屋。
「うわっ!何だこれ!」
辺りにプリント?が散乱していた。内容を見てみると、アマチュアのゲーム大会の日付が書かれていた。
「みんな参加するのか?」
ユニが聞く。
メイは当然だがとでも言いたげな顔で首を縦に振る。
「こういう予定はみんな予定帳に書くから必要なくなるんだ」
メイが説明する。
「でもだからと言ってその場に放っておいてもいいって事にはならないよな」
「それはその……確かに……ごめんなさい」
ユニの指摘に、メイは素直に謝ったのだった。
次は藤香の部屋に行った。
「うわーさすがにすごいな……これ全部資料か?」
壁どころか床にも敷き詰められている大量の紙に、ユニは驚いた。
「そう。全部な。この前アゲハにたくさん貰って……お陰でキャラクターの服装には困らないんだけど、ちょっと多いな」
それを聞いたアゲハは、申し訳ないと手のひらを合わせて謝罪していた。
「まあ全部データ化してアーカイブを残しているから大丈夫なんだけど、アゲハの許可がないと捨てられないから困ってたんだ」
そう言うと、藤香はアゲハの方を見る。
「いい!いい!いいよ!捨てちゃって!元々みんな失敗作なんだから!」
アゲハは首をブンブン縦に振りながら答えた。
資料の整理が終わり、藤香の部屋も片付け終わった。
藤香も加わり、今度は萌絵の部屋にやってきた。
「すごいな……何というか……色々と」
ユニがそう評した様に、壁には所狭しとアニメグッズが並べられていた。
見た所片付いている様だが、何が問題なのだろうか。
「その……そろそろ部屋の容量が限界なので断捨離しようとしてるんですけど……捨てられないんです!」
萌絵曰く、一部は実家に送ったのだが、それでも足りないらしい。
「もういっそ倉庫でも借りた方が……」
それはあくまでも最終手段である。
「僕の部屋に置くのはどうだ?」
藤香が言う。
「え?ついさっき片付けたのに?」
ヒナが言う。
「そのお陰でスペースができたんだ。是非僕にも布教して欲しいな。キミの趣味を」
「あ、ありがとうございます!」
これで事態は解決したのだった。
みんなは続いてはルーシーの部屋に行く。
「これは……単に部屋が汚いって言えるか……」
床に所狭しと服が放り出されている、普通にひどい状況だった。
「困ったな……捨てるものないぞ」
「いやいや冗談でしょ!?」
ミズキが言う。
「こういうボロボロの服とかもいるのかよ」
ユニが服を持って示す。
「それは、服の補修に使うやつだ。DAYってやつだな」
「ただのケチって言うんですよ」
みすかが言い放つ。
「仮に補修したとして、その服着るの?」
アゲハが聞く。
「えっとそれは……」
返答に困るルーシー。汚い部屋の中にしばらく沈黙が流れた。
「……いらないな」
ルーシーはそう言うと、その服をゴミ袋に捨てた。
容赦なく捨てていき、割ときれいになった。
「捨てる時は惜しむけど、実際捨てたら大した事ないな」
「そういうもんだぞ掃除って」
ユニが言う。
続いては紫音の部屋である。
「これは入る時点から気をつけなくちゃな」
息を呑むみんな。ユニは恐る恐るドアを開くのだった。
入ると、紫音がジュースを飲んでくつろいでいた。
「紫音!?掃除は?」
詰め寄るみんな。
「掃除?やっとるぞほら」
紫音が指差した先には、巨大な掃除機が稼働していた。
「これは"超便利掃除機"じゃ。いるものいらないものを分け、いらないものを自治体のゴミ分けの通りに分けて吸ってくれる」
だからくつろいでいたわけである。
「でも『小』にしてるんだ」
ルアが近づいて言う。
どうやら弱い順に小→中→高→大に分かれている様だ。
「分け方日本の教育制度か」
ユニが言う。
「じゃあ『大』にすれば……」
ルアがレバーを「大」に倒そうとする。
「わーやめろ!」
すると突然紫音が青ざめてとめようとする。
「え?」
だがもう遅かった。
ヴォォォン!グォォォン!
掃除機は大きな音を立てながら、あらゆるものを吸い込んでいった。
「え!?どういう事!?」
驚くルア。それに紫音が言う。
「それは試作品!『小』より上はまだ制御できないんじゃ!」
「先言ってよ!」
吸い込まれそうになるルア。
「どうすんだこれ!」
ユニ達もまた吸い込まれそうになる。
部屋の中では暴風が吹き荒れ、めちゃくちゃになっていた。
「なるべくこれは使いたくはなかったが……」
紫音は白衣の内ポケットからボタンを取り出し、指示する。
「みんな伏せろ!」
伏せたのを確認して、紫音はそのボタンを押す。
その瞬間、掃除機は線香を放って爆発したのだった。
ボタンは自爆スイッチだったのだ。
煙が晴れ、黒焦げになったユニ達は言う。
「もっと他になかったのか!?」
それでも何とか元に戻し、部屋はきれいになった。
ユニ達は続けて丁井先生の部屋に行く。
「いいか、開けるぞ」
以前の経験から、ユニは警戒しながらドアを開けるのだった。
果たしてどんなゴミ屋敷になっているのか……。
「あれ?」
意外と片付いている丁井先生の部屋。
その光景に、ユニ達は面食らった。
「あ、ようこそ」
掃除を終えたのか、お茶を飲んで一息ついていた丁井先生が出迎えてくれた。
「これは……」
「あーこれか?」
先生は笑いながら言う。
「いやー『やれ』って義務づけられると『やらなくちゃ』って気分になるんだよアタシは」
そういうもんなのか……。
意外な一面に、ユニ達は声も出さずに驚いていた。
「そうだ。ちょうどみんなに振る舞いたいものがあったんだ」
丁井先生が、ふと思い出したかの様に言う。
「振る舞いたいもの?」
ユニ達は目を丸くし、お互いの顔を見合わせるのであった。
その後、瀬楠家の食卓には丁井先生お手製の年越しそばが並んだ。
「美味しい!」
由理が言うのでそのうまさは折り紙つきである。
「丁井家に伝わる伝説のそばだ。気に入ってくれると嬉しい」
丁井先生は笑顔で言う。
そばで楽しみながら、ユニ達の年は明けていくのだった。
悪魔との契約条項 第百七十条
人に何かをやらせる時は、させやすい方法を選ぶといい。
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