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契約その17 Galと委員長の心の差……?

 ユニは、その一瞬で彼女の胸の奥底の闇を見抜いた。


 表面上、他人と合わせる事ぐらいなら誰にだってできる。


 しかし彼女は、「表面上は同調してても、『自分はイヤだ』と言う雰囲気」を流してしまうのである。


 それは一体どれだけ辛い事だろうか。


「……」


 ユニは、何も言わずにアゲハを抱きしめた。


「!?」


 アゲハは赤面すると、その場で座り込んでしまった。


「大丈夫。大丈夫だから……」


 ユニはそう言い聞かせながら、アゲハの頭を撫でた。


 その瞬間、まるで堰を切った様に泣き出すアゲハ。


 その横を、通行人がジロジロ見ながら通り過ぎるが、今は人の目を気にする余裕はなかったのである。


 今まで愛に飢えていた少女の、生まれて初めて受けた愛だった。



「というわけで……」


 アゲハと手を繋いで帰って来たユニを見て、みんなは衝撃を受けた。


「めっちゃ懐かれたから彼女も一緒に暮らしてもいいか?」


 ユニは同居人達に聞いた。


「そんな捨て猫みたいに!」


 みんなはそう呆れつつも、快くOKしてくれた。


「ありがとう。でもこうなってくるともはやシェアハウスだな」


 ユニがぼやいた。


「ちょっと待って」


 口を挟んだのはアキである。


「私は反対だ。彼女をここに住まわすのは」


「……?どうしてだ」


 ユニが聞く。


「私は、彼女にバカにされたからだ」


 アキが答える。


 そしてアキは、アゲハとの確執を語り出した。



 それは陸上部の件から少し経ったある日の事である。


 アキは、いつもの様に遅刻してきた少女達に対して注意していた。


「あなた達が遅刻するとみんなが迷惑するんです。やめてください」


「はあ?そんな事私達が知るかっての。勝手に授業始めてりゃいいじゃん」


 少女達が勝手な理論を振りかざす。


「ほらアゲハ。このバカに何か言ってやってよ」


 先頭に立っていた少女がアゲハに振る。その集団の中にアゲハがいたのである。


 元々アキとアゲハは陸上部の件で共闘した仲、お互い憎からず思っていたのだが、アゲハは集団の意向に逆らえなかった。


 アゲハは意を決して、アキの胸ぐらを掴むと、教室の隅に追い詰めて言った。


「……あまり、ウチ達に逆らわない方が身の為だよ?逆らうととんでもない事になるから」


 これは、「自分も彼女達には逆らえない」というニュアンスも多少含めた言葉であった。


 しかし、アゲハがアキからの反感を買うのには十分な動機である。



「成程なァ……」


 ユニが呟く。そういう事があった事は、ユニも覚えていた。まさかそこから繋がっていたとは。


「ごめん。キミの感情をわかってあげられなくて」


 ユニが謝罪した。


「いいさ、気にするな。ユニは悪くない」


 そうは言いつつも、アキはアゲハを睨んでいた。


 対するアゲハも、謝ろうとするが謝る言葉が見つからなかった。単純な謝罪では逆効果だからである。


 雰囲気が重くなる現場。


「そうだ。だったらさ……」


「へ?」


 ユニの提案に、二人は目を丸くするのだった。



「色々あって……ユニから親睦を深める為に一緒に遊んでこいって言われたわけだけど……」


「……」


 二人は道路の右端と左端に分かれて歩いていた。側から見ると、とても一緒に歩いている様には見えない。


 まるで二人の今の心の差を表している様だった。


「あのさあ!どこに行きたい?もう暗くなり始めてるからとりあえずご飯でも食べに行こうよ!」


 アゲハが叫ぶ。道路の端を歩いているので少し叫ばないと聞こえないからだ。



「―――!」


「何だってー!?聞こえない!」


 間の悪い事に、二人の間を大きめのトラックが通ったのでその音にかき消されたのである。


「だから!別にお前の好きな所でいいって言ったんだ!」


 アキが叫び返した。


「じゃあさ!おすすめのご飯屋さんがあるんだけど!」


「?」


 アキの頭にはてなマークが浮かんだ。


 二人が訪れたのは駅前の繁華街である。バス停留所などがある西口とは違い、こちらは東口の側となる。


 こちらも飲食店が立ち並んでいてそこそこ栄えている。ただ治安が悪いのが欠点だが。


 その繁華街の一角に夜しか開かない「バーさなぎ」という店があった。


 二人はその暖簾を潜る。


「いらっしゃい。あら、アゲハ。珍しい」


 出迎えてくれたのは綺麗な女性だった。名を芽ヶ森紗凪(めがもりさなぎ)という。つまりアゲハの母である。


「誰その子。お友達?」


「んーまあそんな感じ」


 その割には距離が遠いとアキは感じていた。


「二人は高校生だからお酒は飲めないわよね」


 紗凪はそう言うとりんごジュースを注いでくれた。


「何かご注文は?」


 アゲハが何か頼もうとした次の瞬間だった。


 何か怒号が聞こえたかと思うと、いきなりガラの悪い男が店の中に入ってきた。


 スキンヘッドに黒いサングラス、金の鎖ネックレスと白いスーツで身を固めた、まさにその道の人と一目でわかる姿である。


「おうおう早く耳揃えて渡さんかいワレェ!」


 男はそう言うとカウンターに詰め寄る。


「待ってください!今は娘がいるので……」


 紗凪は言う。


「はあ?んー?」


 アゲハは気づかれない様にカウンターの陰に隠れていた。


 アキにも隠れる様に言ったが間に合わなかった様である。


 なので男は同じカウンターにいたアキを娘と勘違いした様である。男はアキをジロジロ見て言った。


「ほーこりゃエライベッピンやなァ……ちょうどエエ、この娘で手打ちにしといたるわ」


「!」


 アゲハは青ざめる。確かこの男はここ一帯を治めるヤクザの一人だったはずだ。


 周囲の飲食店にみかじめ料を請求している。そんな男に連れて行かれる所が、いい所なわけがない。


 男はアキの首根っこを掴む。


「やめ……離して……」


 アキは抵抗するが、ダメな様だ。


 その時である。


「私の友達に……手を出すな!」


 アゲハはカウンターの陰から飛び出すと、男の指に噛み付いた。


「痛でェ!何やこのガキ!」


 男は慌ててアキを離した。


「アゲハ!」


「ごめんね。償わせて」


 噛みつきながら、アゲハはにっこりと笑いかけた。


「痛いんじゃこのガキャア!」


 男は腕を振り回し、アゲハを振り解く。


 アゲハは吹き飛ばされ、「ガシャアン!」と音を立てながら椅子に顔をぶつけて出血した。


「アゲハ!」


 紗凪が叫んで駆け寄る。


「ハハ、ザマァねェ」


 男が嘲笑う。


 その時、アキから沸々と怒りが込み上げてくるのがわかった。


「よくも私の友達を!」


 アキは、怒号を上げながら男のアゴに向かって強烈なアッパーカットを食らわせた。


 不意をつかれた事と、人体の急所に当たった事で、男はその場で一回転した後すっ転び、皮肉にも椅子に頭をぶつけて気絶した。


 その後、駆けつけた警察に男は恐喝と暴行の容疑で逮捕された。


 負傷したアゲハは、病院に搬送されたが幸いにも命に別条はなく、傷は残らずに退院できた。


 その後、大切な人を傷つけられた事で激怒した少女と悪魔の手によってとある暴力団が壊滅したのだが、それはまた別の話である。


 この一件以後、アキとアゲハは親友と言える程仲良くなった。アゲハの退院後は手を繋いで帰宅した程である。


 この結果を見たルーシーがユニに言う。


「まさか、最初からこれを見越してたのか?」


「いやいや、さすがにここまでうまくいくとは思わなかったよ」


 ユニはにっこりと返し、こう呟く。


「雨降って地固まるだな」



 悪魔との契約条項 第十七条

 人間にも、悪魔より醜い者はたくさんいる。

読んで下さりありがとうございます。

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[良い点] こんばんは! ヤムです! Twitter企画からお邪魔させていただいてます! 面白くて今日の午前中ずっと呼んでました、 現実世界物はあまり読まなかったのですが、陸上競技&その裏幕のどんで…
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