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契約その167 Normalって何だろう?

 そろそろ冬休みに入る十二月中旬。


 悩むヒナは、放課後にユニをカラオケに誘った。


「結構珍しいな。キミが誘いに来るなんて」


 カラオケ店「ヒビキ」にて、ユニは前払いの料金を払いながら言う。


「うん。ちょっとね……」


 ヒナはどこか表情が暗い。


 きっと、何か相談したい事があるのだろう。


 個室で防音設備のあるカラオケに誘ったのは、人には聞かれたくないからだろうか。


 支払いを終え、ついでにドリンクバーで飲み物を注いだ二人は、店員に一番奥の部屋へと案内された。


 中は普通のカラオケルームと変わらない作りである。


 中は薄暗く、L字型のソファーに透明なプラスチック製の机が置いてある。


 もう古いのか、机は所々がひび割れていた。


「どうする?まずは料理でも……」


 ユニは備えつけの電話から料理を注文する。


 なお、料理は別料金である。


 ユニはとりあえずピザとフライドポテトを頼んだ。


 その間にも、ヒナは機械を操作して色々曲を入れていた。


「ごめんね。料理とか頼ませちゃって」


 曰く、自分の都合で呼んだからさっきのカラオケの料金も、料理も、全部ヒナが持つらしい。


 それは悪いから割り勘にしようとユニは言う。


「いや!払わせて!そうでもしないと、何か……」


 それが何かとユニが聞こうとしたその時、予約していた曲が流れ始める。


 女子高生の間で人気なK-popだった。


 ヒナは、それを大声量で歌う。その姿は、まるで何かを振り切ろうとしている様だった。


 点数自体は可もなく不可もなくといった感じであった。


「やっぱり普通……。別に上手くも下手でもない……か……」


 呟く様に言うヒナ。


「やっぱりキミは……」


 ユニが何かを言いかけようとしたその時、今度は店員がピザとフライドポテトを持ってやって来たのでおざなりになった。


 何枚かピザを食べてから、ユニはようやく聞く。


「ヒナ、何か悩んでる事あるでしょ」


「!?」


 驚いたヒナは危うく口に含んだ飲み物を吹き出しそうになった。


「ま、まあ、わざわざカラオケの個室を頼んだらね……」


 ヒナはどこか物憂げに言った。


「ヒナ……」


 ユニは消え入る様な声で呟く。


「みんな、本当にすごいよね。それぞれ将来の事考えたり……自分の『やりたい事』に一生懸命だったり……。私には何もない」


 ヒナはうつむきながら言う。


 途中でカラオケの二曲目が流れたが、歌う様な気分ではなかったのか、ヒナはリモコンの演奏中止ボタンを押して止めた。


 イントロの時点で曲が止まり、室内は静寂な雰囲気になった。


 ヒナは「普通の少女」で、目立った特技もない。


 そこそこ顔がよくて、そこそこ勉強も運動もできるというだけの自分に、コンプレックスを感じていたのである。


 ましてや、他の同居している女の子達が、ことごとく才能溢れる人達だったら……。


 ヒナはユニの方に体を向け、言った。


「自分が情けないって思う。こうやってユニの時間を使わせて、その料金を奢る事しかできないって……」


 ヒナは、さらにユニのマネに抱きついて言う。


「こうやって、わざわざ時間を作ってくれている『恩人』に、愚痴を言う事しかできないのも悔しい……」


 ヒナは顔を上げて言う。


「私、一体どうすればいいんだろう?」


 ユニは、彼女に何と言えばいいのか悩んだ。


「そんな事ない!キミにしかない魅力がたくさんある!」と言えばいいのか。


 いや……ここは……。


 ユニは、ヒナをギュッと抱きしめて言う。


「それはおれも同じだ。おれも、自分が将来何をすればいいのかよくわからない」


「ユニ……も……?」


 ヒナは驚いた様な表情を見せる。


「でもさ、おれ達はまだ高校生だからさ、将来とか、自分のやりたい事とか、わからなくて当然なんだ」


「……」


「だから、そういうのはこれから探していければいいと思う。ほら、人生はまだ長いんだからさ」


 ユニは一言一言を丁寧に伝えた。それは、どこか自分にも語りかけている様だった。


 それを聞いたヒナもまた、ユニを強く抱きしめ返した。


「それでも私、不安なの。上手くやっていけるかどうか……だからさ……」


 ヒナは意を決して言う。


「私と、キスをして欲しいの」


 ヒナは目を潤わせて言う。身長はユニより高いはずだが、どこか小動物の様な雰囲気があった。


「……わかった」


 ユニはそれだけ言うと、ヒナの唇に口を近づけて……口づけをした。


 女の子同士の舌が官能的に絡み合う。非常に濃厚で情熱的だった。


「!?」


 ヒナはボゥっと顔が赤くなり、ソファーの下に下ろしていた足をピンと伸ばす。


 手の指がワナワナと動き、何度も悶えた。


 数分後、ようやくキスは終わった。


「ハァーッ……ハァーッ……」


 キスが終わり、ヒナは一旦ユニに背を向ける。


 その間ほとんど呼吸ができなかったので、ヒナは軽く呼吸困難を起こしかけた。


「何て……情熱的な……」


 これをほとんど無自覚でやっているのだから恐ろしい。


「大丈夫?」


 ユニが恐る恐る聞く。


 ヒナは呼吸を整え、大丈夫だと伝えた。


「どう?ほんの少しでも不安が和らいだらいいんだけど……」


 ユニが聞く。


「不安なんて……」


 あんな情熱的な部分見せつけられたら、とても「普通」ではいられないとヒナは思った。


「く……」


 ヒナはキスを思い出し、また悶える。


 この快楽の前では、あらゆる悩みも吹っ飛んでしまった。


 時間が経って少し冷静さを取り戻したヒナは言う。


「私わかった。自分のやりたい事。具体性は何もないけど……」


 ヒナはユニに向かい直すと言う。


「私、あなたと釣り合う人間になりたい!まだわからないけど、それを人生を賭けてでも探して行きたいんだ!」


 ヒナの決意の灯った目。さっきまでとは別人だった。


「それはよかった」


 ユニは満足そうに言う。


「じゃあ時間も勿体ないし、カラオケ!続けよう!」


 ヒナはそう言うと、また機械を操作して曲を入れるのだった。


 悪魔との契約条項 第百六十七条

「普通」は、人によって違う。

読んで下さりありがとうございます。

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