契約その16 悲しみのloneliness……!
カラオケ店「ヒビキ」にて、数人の少女が遊びに来ていた。
「記念すべき二十曲目!行ってみよー!」
カラオケの機械から韓流アイドルの曲が流れ出した。
あっという間にメドレーになり、少女達はカラオケを楽しんだのだった。
外に出ると、辺りはもうすでに暗くなっていた。
メンバーの一人、「芽ヶ森アゲハ」も集団の一番後ろについていく形で店から出たのだった。
「あのさーアゲハ」
先頭を行っていた少女が切り出した。
「ん?なあに?」
アゲハがのん気に答える。
「私達といてもあまり楽しくしなさそうだよね。さっきも歌わずにずっとタンバリン叩いてたし」
「そんな事ないよ。うん、すっごく楽しかった」
アゲハは笑顔で答える。しかし、その顔はどこか引きつっていた。
「もういいよ。友達やめても」
「そうだよ」
他の少女達も同調した。
「えっ……えーっとぉ……」
アゲハの言葉を聞かず、少女達は去って行った。
アゲハは、昔から人に合わせるのが苦手だった。
人に合わせるのが苦手だから、いつの間にかギャルになっていた。
当然ギャルの世界にも人付き合いがあり、結局いつも最後は一人になるのである。
アゲハは一人で帰宅した。
家の前に着くと、カバンから鍵を取り出してドアを開ける。部屋の中は真っ暗だ。
リビングの机の上に手紙が置いてあった。
「仕事に行ってきます。冷凍食品で済ましてね。 母」
アゲハは髪を解き、靴下を脱いで洗濯機に投げつける様に入れる。
それから冷凍庫から「ハウスダスト食品 レンジで簡単!五目チャーハン」の袋を取り出す。
その袋を丸ごとレンジに突っ込み、適当にボタンを押した。
器を用意するのも面倒だった。
その後、温まったチャーハンをスプーンでかき込むのだった。
アゲハの家は母子家庭である。父親の存在は知らない。母は所謂「夜の仕事」をやっていて、日中は寝ている。
遊んで貰った記憶もない。アゲハは、いつも一人だった。
アゲハは、その日もまた軽くシャワーを浴び、自室のベッドに潜って眠りについた。
そして朝の瀬楠家。もうすっかり大所帯になった家で、五人は朝の支度をしていた。
「へー姉さん新しい服が欲しいの」
由理はコーンフレークを食べながら聞いた。
「そうなんだよ。最近胸の辺りがキツくなってさ。今ある服が苦しいんだ」
ユニはお茶漬けにハチミツを並々入れながら言った。
「それはもはやハチミツ漬けじゃないか?」というアキの声が聞こえる。
ユニの宇宙人の疑いは晴れたが、引き続きここで暮らす様だ。
「やっぱり胸がでかいと色々と不便だな。なあルーシー」
「何でおれに聞くんだよ」
ルーシーが不機嫌そうに言った。ルーシーは胸が小さいのがコンプレックスなのである。
「だから放課後買いに行きたいんだけどさ、予定空いてる人いる?」
「ごめんだけど、部活で忙しい」
「私は学校の委員会で」
「私はバイトがあるから」
「おれは魔界に少し帰らないといけないから」
「そっか……全員ムリか……」
ユニは正直自分のセンスに自信がなかった。
だから誰か付き添いで来て欲しかったのである。一人で行くととんでもないものを買いそうで怖いから。
確かに「今年のトレンド」なんかは調べればいくらでも出てくるものだが、トレンドとはいずれ廃れるもの。
普遍的に「おしゃれ」だと言われる様な服を着たいのである。
「じゃあ誰かを誘わないとな……。あっそうだ」
ユニの中に名案が浮かんだ。
「あの娘に頼んでみるか」
「あの娘?」
それが誰の事かわからなかった四人は、互いに目を見合わせたのだった。
「それでっ!ウチにユニちの服を選んで欲しいって事?」
「そうなんだよ!頼むよ。今日ヒマならさ、一緒にショッピングモールに行って、おれに似合う服を見繕って欲しいんだ」
登校して、ユニはアゲハに手を合わせてお願いをしていた。
「まー今日はバイトないしいいけど」
「ホントか!ありがとう」
こうしてユニはアゲハとの約束を取り付けたのだった。
放課後、二人は「リオン東徐氏堂市店」にやって来た。
ちなみに「徐氏堂市」とはユニ達が住んでいる市の名前である。
これはかつてこの地を徐氏という豪族が治めていた事に由来する。ここの住人なら誰もが知っている常識である。
それはさておき、まずユニ達はまっすぐに三階の服屋に行った。
服屋に着き、アゲハはユニに質問をしていく。
「欲しいのは夏服、冬服?」
「とりあえず今は夏服だな」
「ワンピがいいとかパンツがいいとか、そういう希望は?」
「特にない」
「化学製品に弱いとか、そういうのはある?」
「ないと思う」
そうした質問を何とかしていき、ユニの大まかな希望を聞いたアゲハは言った。
「じゃあまずは試着してみよっか」
アゲハはユニの体をジロジロと見ると、各方面から服を持って来て渡した。
「上から着ていってね」
そう釘を刺す。
ユニは試着室に入るとモゴモゴと着替え出したのだった。
「どうだ!」
早速着替えたユニが勢いよく試着室のカーテンを開いた。
「おっ!いーじゃん」
白いワンピースに麦わら帽子を合わせたスタイルである。
「これはどうだ!」
次はショートパンツにTシャツを合わせたスタイル。
「いーじゃん」
「こいつでどうだ!」
続けてミニスカートスタイル。
「スゲーじゃん」
その後も試着は続き、何着かのお買い上げになったのだった。
「やっぱり素材がいいと何でも似合うねぇ」
アゲハもかなり満足そうであった。
「さて……と」
ここまで付き合って貰ったので、何か奢らないと申し訳がつかない。
近くにタコ焼きのチェーン店を見つけたので、それにする事にした。
ユニが財布を取り出しつつ言う。
「せっかく付き合って貰ったんだし、タコ焼きでも奢ろうか?」
「タコ焼き……?」
アゲハはタコが苦手であった。しかし、奢って貰う立場で、断る事ができなかった。
「じゃあそれで」と言おうとしたその時、ユニがその事に気づいた。
「何か乗り気じゃなさそうだな。タコ嫌いか?それならあっちのパフェにしようか」
ユニは、近くの店内地図でパフェ専門店の場所を確認すると、一旦たこ焼き屋に向いた足をパフェ専門店に向けて歩いていった。
いつもこうだ。人に合わせるのが苦手で、いつも人に気を遣わせて……せっかく仲良くしてくれるのに……。
アゲハは、ユニが陸上大会の前日に言ってくれた事を思い出していた。
「そして三番手が、アゲハ。おれ達三人素人チームの『中継ぎ』を担当してほしい。おれには、キミがみんなにとりわけ一生懸命合わせようと努力している様に見えたからな」
そんな努力が実るわけがなかった。必死に合わせようとしても、必ずどこかでみんなとズレてしまう。
「そうだった」
ユニは一旦アゲハの元に戻ると、アゲハの手を取って言った。
「食べたいパフェの種類を聞かなくちゃならなかった。一緒に来てくれ」
ユニはアゲハの手を引こうとするが、アゲハはその手を振り解くと、こう言った。
「私、変じゃない?こんなに私に優しくしてくれるのに、こうやって気を遣わせて、合わせる事もできなくて、だから私は……」
ついに見せたアゲハの本心。果たしてユニはどんな返答をするのだろうか。
悪魔との契約条項 第十六条
人間界に定住している悪魔は、月に一回魔界に里帰りする義務がある。
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