契約その155 何でウチがstudent councilに!?
アゲハは、アキに生徒会に入って欲しいと頼まれた。
「じゃあ、今日買い物に誘ったのはその話をする為?」
アゲハが聞く。心から動揺している様だ。
「そうだ。学校とか、家とかだとあまり二人きりにはなれないから……それに、あまり生徒会は人に好かれる役職じゃ……」
アキが大きく頷いて言う。生徒会は権力側なので、あまり人に好かれる役職ではないのである。
そこにアゲハが入るという話が噂でも流れたら、きっとアゲハは孤立してしまう。
だからせめて、こうやって二人きりになれる時間を作り、彼女の意見を問おうとしたのである。
「何でウチを生徒会に入れようとしたの?」
アゲハが聞いた。
以前みんなで勉強会をした時に判明した様に、アゲハは学校の成績がいい方ではない。
生徒会というものはそもそも優等生が入るもので、自分には縁のないものだと思っていた。
それなのになぜ、アキは自分を生徒会に誘ったのか。それがわからなかった。だから聞いたのである。
確かに、理由を教えるのは筋である。
アキはハッキリとした口調で伝えた。
「まず生徒会は優等生がなるべきものという認識が間違っている。その道は全校生徒に開かれているべき。それが民主主義だ」
アキは成績優秀者のみがそうした「政治」に関わるという現状を打破したいと考えていたのである。
「私は、有能な人間が適切な所で力を発揮するべきだと思っている。そもそも優等生=有能ってわけでもないからな」
アキが続けた。
だが、アゲハには肝心な事がわからない。
「その……だから何でウチが勧誘されたの?」
アゲハは改めてアキに聞く。
アキはあっけらかんとした雰囲気で言い返した。
「何でって……キミが有能だからさ。キミの穏やかな性格は、組織の潤滑油になり得る。だから勧誘したんだ」
それを聞いたアゲハは驚く。
「そんな……穏やかなんて……」
「いや、キミの家での振る舞いを見てればわかる。キミは、生徒会に必要な人材だ」
そんな事を言われたのは、生まれて初めてだった。
アゲハは嬉しい気持ちになったが、一つ訂正しなければならない事があった。
「アキちゃん、あなたは生徒会を好かれる役職じゃないって言ったけど、少なくともウチやユニち達は、あなたの事を嫌ってないよ」
「……」
それを聞いたアキは何も言わなかったが、少し表情が明るくなった様な感じがした。
アゲハは、意を決した様に言う。
「わかった。その勧誘、受けさせて貰います!」
それを聞いたアキは、渾身の笑みを見せた。
「ありがとう。アゲハ」
そして二人は、仲良く家へ帰っていくのだった。
帰宅後、嬉しそうな二人に、ユニが気づく。
「どうしたんだ二人共。何か嬉しそうだな」
「いや〜何とも……」
二人は嬉しそうに答えた。
そもそも晴夢学園の生徒会は、生徒会長に全員のメンバーを決める権限がある。
もっとも完全に生徒会長任せというわけではなく、理事長の承認を得て決まる。
しかし、その承認期間も含めて十一月の中旬には、生徒会のメンバーを全員決めなくてはならない。
生徒会長の人望がなかった年は、やむを得ず立候補によって選ばれたり、理事長が勝手に決めたりしていたらしい。
生徒会は会長(二年)一人、副会長(二年)一人、そして書記と会計がそれぞれ二人(一年と二年)というメンバーである。
とにかくあと二週間しかない。アキはとりあえずアゲハを副会長(暫定)とし、メンバー集めに奔走する事になった。
「という事で、誰かなりたい人いる?あるいは誰か知り合いとか……」
アキは瀬楠家のみんなに頼んだ。
しかし、生徒会がみんなの嫌われ者である事は確かである。立候補はともかく、なりたいという知り合いがいるとは……。
「私は一応高校一年生だから入れはするし、力になりたいけど……委員会との兼業はちょっと……」
由理が言う。確かにそれは、色々とマズかろう。
「この前の選挙で戦った人達をスカウトしたらどうだ?それでとりあえず二人は埋まる」
ユニが言う。
「私も色々声をかけておきます」
由理もそう言ってくれた。
その後、ユニのアドバイスと、由理の助力によって、何とか生徒会のメンバーは集まったのであった。
十一月十四日、いよいよ生徒会が本格的に始動するのであった。
その日の放課後、顔見せも兼ねて自己紹介をする。
「田中です」
「鈴木です」
「松本です」
田中さんと鈴木君は、それぞれ一年の書記と会計に、松本君は二年の会計に入って貰う。
松本君は、描写はなかったがアキと生徒会長の座を競った仲である。
「そしてあと一人が……」
ふてぶてしく生徒会室のイスに座っている男子生徒。
二年の「義屋楽人」君である。
彼もまた、松本君と同じ様にアキと生徒会長の座を競った仲だった。
「えっと、じゃあ義屋君は二年の書記に……」
アキの提案を、義屋は「いやだ」と断る。
「そんな、何で……」
アゲハが問う。
「せめておれに副会長の座を譲って欲しい。芽ヶ森さん、キミは現会長直々のヘッドハンティングで、地位には興味ないだろう」
確かに彼の言う通りである。
アキも、アゲハには生徒会にいてくれさえすればいいというスタンスであり、副会長でいさせる理由はあまりない。
「わかった。副会長の席はあなたに譲るよ。やる気のある人がやった方がいいしね」
というわけで、アゲハが書記にスライドする事になった。
これで、アキを中心とする晴夢学園生徒会が発足したのだった。
しかし、この生徒会は、あっさりと瓦解する事になる。
アキ達は、彼の内なる野望に、気づく事はできなかった。
悪魔との契約条項 第百五十五条
悪魔は、欲の深い人間を好む。
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