契約その154 Galと生徒会長の心の触れ合い!
「アキちゃーん!約束の……」
「ああ。今行く」
アキは、アゲハと一緒にショッピングに行く約束をしていた。
二人は徒歩で「徐氏堂新未来都市」へ行くのだった。
「でもさ、アキちゃんから誘ってくるなんて珍しいよねー!」
そうなのである。いつもとは違い、今日のショッピングは珍しくアキから誘った。
「今日は何が欲しいの?」
アゲハは振り返って聞く。
「そうだな……えっと……」
少し考えたアキは、自分の服が欲しいと言った。
「わかった。じゃあ……」
という事で、二人は「徐氏堂新未来都市」内のショッピングモールにある服屋「CLOTHES-DRAGON」を訪れたのだった。
「CLOTHES-DRAGON」は日本発の有名ファッションブランドで、全世界に進出を果たしている。
とにかく大きなショッピングモールなどには、必ず一店舗はあると言ってもいい。
「ねェアキちゃん、これとかよくない?」
アゲハが手に取ったのは白いワンピースである。
「ほら、アキちゃんっていつもジーンズ履いてるし、持ってるスカートって制服ぐらいでしょ?」
たまにはこういうのもいいと、アゲハはアキにそのワンピースを合わせてみた。
「ほらこれに、カノチェとか合わせてみて……。いやカノチェは黒い方が映えていいかな?それにこのハンドバッグを……」
お互いにアルバイトの給料があるので、買えない事はなかった。
「お買い上げありがとうございました〜」
店員の挨拶を背に受けながら、二人は今買った服に着替えて店を出た。
「ありがとうアキ。こういう服着る事あまりないからさ、新鮮な気分だ」
「そう?喜んでくれるならウチは嬉しいけど……」
「ああ、嬉しい。この服大事にするよ」
アキはアゲハの手を握って言った。
アキはものすごい美人である。
たまに融通が利かない所もあるが、いつもこれだけ素直なら、きっともっと多くの友達ができるのではないだろうか。
アゲハはそう思っていた。
「CLOTHES-DRAGON」のあるショッピングモールには、もっと多くの店がある。
アキは何かお礼をしようと、目についたたこ焼き屋に入ろうとするが、アゲハがタコ嫌いな事を思い出したのでやめた。
「結局こんなお礼になっちゃったけど……」
アキは、自動販売機からアゲハの分まで買ってきた。
「ううん、ありがとう。わざわざ値段高めのココア買ってきてくれて」
十一月に入り、いよいよ寒さも本番になってきた。
自動販売機の「あたたか〜い」もこれまでより充実している。
冷え性なアゲハには、この時期はココアが欠かせないのである。
「あ……あったかい……ありがとう」
缶からも、温かさと優しさが伝わってきた。
そしてココアを一口。ココアの温かさが身体の芯まで沁みた。
「ふう……あったかい……」
二人は並んで、自動販売機の脇にあるベンチに座っていた。
アキは、まるで意を決した様にかぶっていた帽子を取り、隣に座るアゲハに話しかける。
「アゲハ。実はキミに話があって……」
アキが何やら話を切り出そうとしたその時である。
「あ!アゲハじゃーん!こんなとこで何してんの?」
数人のギャル達がアゲハを見つけるなり話しかけてきた。
彼女達は、以前までアゲハの友達だった者達である(契約その16参照)。
アゲハ達とは別に、彼女達もここへ遊びにきてた様だ。
「いや……ウチも友達と遊びに来てて……」
あの一件以降、アゲハは彼女達に苦手意識があった。なので返答もしどろもどろになる。
「へー。どこにあんたの友達がいんの?」
ギャル達は辺りを見渡す。
しかし、彼女達にはアキが見えているはずである。
「どこって……ここにいますけど!?」
アゲハは、少し怒ってギャル達に言う。
ギャル達、特にリーダー格の女子はまじまじとアキを見つめる。
「へー……これがあんたの友達……誰かと思ったらカイチョーじゃん!何その服!ギャグのつもり!?」
ゲラゲラと笑うギャル達。
アゲハは、カッとなってリーダーの胸ぐらを掴む。
「ああ……そんな事するんだ……あんたにしては……」
リーダーはアゲハからココアの残りを奪うと、それをアキの頭上から思い切りかけた。
「あ!」
アゲハは慌ててアキの元へ駆け寄る。
リーダーはからになったココアの缶をアキに投げつけて言う。
「それで少しはお似合いになったんじゃない?」
ギャル達はそう言い捨てると、ケラケラ笑いながら去っていった。
そうしてその場に残された二人。
「ごめんね。ウチがあんな子達と付き合ってたばかりに……」
アゲハはハンカチでアキの頭を拭きながら、必死に謝った。
ギャル達はアキが「大事にする」と言ってくれた服を、事もあろうにアキ自身の優しさで汚したのである。
「いや大丈夫だ。私、彼女達によく思われてないからさ、バチが当たったんだよ」
「そんな事ない!そんな事ないよ!この仕打ちが『バチ』って言うんなら、もう神様なんて信じない!」
そう言ってくれるだけでアキは嬉しかった。
「とにかく洗剤を買って、トイレで洗って……今すぐシミ落としもすれば……たぶん跡は残らないから……」
二人は急いで洗剤売り場へ行き、最寄りのトイレへ向かうのだった。
何とかココアの汚れを洗った二人。こんな状況になってしまった以上、もう帰ろうという話になったので家路についた。
その帰り道の事である。
「おうお前ら……一緒に行こうや……」
「いやだ!離してよ!」
誰かが河川敷の下で絡まれているのを発見した。
絡まれているのはさっきのギャル達である。
そして絡んでいる相手は……。
「あいつら……」
それはかつてアキが危うく襲われかけた(契約その15参照)クラスの陽キャのその一人だった。
ユニにのされた上に退学処分になったはずだが、こんな所でたむろしていたのである。
「アキちゃん……」
アゲハは止めようとしたがムダだと感じた。
アキはその男の前に現れ、聞いた。
「オイ。私の顔に見覚えはないか?」
「か……カイチョー!」
ギャル達は、ここぞとばかりに我らが救世主といった目でアキを見る。調子のいい者達である。
男は、すぐにアキの存在に気づいた。
「誰かと思ったら……ちょうどいい……今回はアイツはいない様だから……あの時の恨み晴らさせて貰うぞ!」
向かってくる男に、アキはキックを喰らわせる……フリをした。
「わ……」
思わず驚き、尻餅をつく男。
「ヒーローは、戦うべきタイミングを間違えない……。お前に使う拳はない!」
毅然と言い放つアキ。
「って事はよ……無抵抗って事じゃねェかよォ!」
再び向かってくる男。その時である。
「これでも食らえ〜!」
アゲハはさっき買った洗剤を、男めがけて噴射した。
「うわっ目が!くそォ覚えてろ!」
アゲハの不意打ちに、男は逃げ去っていった。
「ありがとー!お陰で助かったよ!」
ギャル達が駆け寄るが、アゲハはそれを拒否する。
「ウチが助けたのは友達で、あなた達じゃない!」
そのまま彼女達にあっかんべーをすると、呆然とするギャル達を残して二人は去っていった。
なぜアキは反撃をしなかったのか。その理由はアゲハにはわかっていた。
生徒会長が、そんな所で暴力を振るうわけにはいかないからである。
それを心にしまい込み、アゲハはアキに聞く。
「それで、さっきの話って何?」
アゲハから聞かれ、アキはついに口を開く。
その内容は、アゲハにとって驚くべき事だった。
「アゲハ、キミに生徒会に入って欲しいんだ」
悪魔との契約条項 第百五十四条
友情は、立場をも越える。
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