契約その152 ユニのmorning routine!
今回は、瀬楠ユニのある一日について詳しく見ていこうと思う。
―――AM5:00 瀬楠家―――
ユニの朝は早い。遅くとも、この時間にはすでに起床している。
まずは「くあっ……」と大あくび。クセっ毛と寝グセの相乗効果でボサボサになった髪を揺らしながらリビングへ降りる。
だいたいユニより早く起きているのは由理である。
「おはよう……」
「おはよう姉さん。顔洗って、髪ちゃんと直してきてね」
由理はユニの方を振り向いて言う。エプロンをしているのは、全員分の朝食を用意しているからだ。
ユニは由理から言われた通り、洗面所で顔を洗い、髪もちゃんと直す。
リビングに戻ってくると、すでに七海がいた。朝が早いのはだいたいこの三人である。
「ユニ、昨日約束した通り、今日は早朝ランニングね」
由理が用意してくれたお茶を飲みながら、七海が言った。
七海は、毎日の日課として早朝のランニングを行なっている。これで十分に体を温めてから、部活の朝練に行くのだという。
普段は一人で走っている七海だが、たまに誰かと一緒に走りたくなるらしい。
その相手として、昨日ユニが名乗りを上げたのである。
学校の指定ジャージに着替えた二人は、朝ごはんの前に家を出て、ランニングを始めるのだった。
この時期の早朝五時は、まだ辺りも暗い。二人は足元に注意しながら、小走りで道を行くのだった。
しばらく走っていると、ミズキが神主を務める把羅神社の前に着いた。
「いつもここで休憩するんだ」
七海が言う。
二人は、鳥居の前で一礼すると、境内へ入っていくのだった。
すでにミズキは起きていて、巫女服姿で掃除をしていた。
「おはようミズキ」
七海から話しかけられ、その存在に気づいたミズキは「おはよう」と返して軽く会釈した。
「今日はユニも一緒なんだ」
「うん。たまには二人で話しながらランニングするのもいいと思って。無理言ってついて来て貰ったんだ」
七海はそう言いながら境内にある自販機からスポーツドリンクを三本買い、一つはユニに、もう一つはミズキに投げ渡した。
どうやら付き合ってくれたお礼らしい。
それから三人で並んで神社の階段に座ってしばしの休憩。飲み終えると、ユニと七海はミズキと別れて家路に着くのだった。
帰ってくると時刻は六時、七海はしっかり朝食を取ってから部活の朝練に出かけていくのだった。
それからユニもようやく朝食を取る。今日は風月のリクエストで和朝食である。
漬物と味噌汁、そして佃煮ご飯を食べていると、突然謎の黒い影がリビングに降りて来た。
その影は、一言いただきますと言うと、二秒で漬物、八秒で味噌汁、二十秒で佃煮ご飯を食べ切り、ごちそうさまと言う。
それから来た時と同じスピードで再び二階へと向かっていったのだった。
時間にして一分かからない程のスピードだった。
ユニと由理が、その正体を締切ギリギリの藤香だった事を理解したのは、彼女が去った後だった。
「あれはたぶん徹夜したな」
ユニはお茶を飲みながら言う。
「彼女にとって、今の何ご飯になるんだろ」
由理もぼやいたのだった。
そして時刻は午前六時半、ルアが降りて来た。ルアは平日でも休日でも、起床時間は変わらない。
「二人ともおはよう」
「ああおはよう。今日は仕事あるの?」
お茶(二杯目)を飲みながら、ユニが聞いた。
「今日は新曲のMVとグラビア撮影、それと音楽とバラエティ番組の出演があるの」
夜の十時には帰るとルアは言った。
「だから晩ご飯は……」
お茶を飲みつつ、ルアが言いかけた次の瞬間である。
「コケコッコー!!!」
鶏の鳴き声がけたたましく辺りに鳴り響いた。
「一体何だ!?」
飲んでいたお茶が気管に入り、むせるルアの背中をさすりながらユニが言う。
「音量ミスったか……?これじゃただの近所迷惑じゃな……。迷惑かけたな、ごめん」
左手で耳を押さえながら、紫音がリビングに降りて来た。
右手には鶏型のオブジェを持っている。
「それは何だ?」
ユニは鶏のオブジェを指差して言った。
「これか?これは"遠くの人専用目覚まし時計"と言って、特定の人を目覚めさせるものなんじゃが……これは失敗じゃな」
紫音はそれをリビングのダイニングテーブルに置いた上で改めて謝罪した。
そのうるささで、叩き起こされた彼女達が続々とリビングにやってくる。
「休日になんて起こし方するんですか!」
「今までで最悪な起き方だったぞ!」
みすかやルーシーが憤る。
紫音は、またみんなに謝る事になった。
そのまま自室へと戻っていく彼女達。
「ダメじゃな……こんなんじゃ……」
紫音はなぜだかどこか焦っている様にも見えた。
そんな中、他の彼女達と入れ違いになる形で、藤香も再びリビングに降りて来た。
「さっきのうるささのせいで出かけてたアイディアが引っ込んじゃったぞ!」
今度は藤香にも謝る事になる紫音。
「どんなアイディアで悩んでたんだ?」
ユニが聞く。
「ああ、上手いデートのシチュエーションが思い浮かばなくて……原稿に遅れが出てるんだ」
藤香はため息をつきながら言う。
それを聞いたユニは、少し考えてから言う。
「じゃあさ、映画館っていうのはどうだ?」
「映画館?」
藤香が聞く。
「うん。映画館って暗くなるから、緊迫したシーンでお互いに手を握ったりしてさ……」
それを聞いた藤香は、途端に顔が明るくなった。
さっきまでの顔が薄暗い白熱電球だとすると、今はLED電球である。まるで違う。
「そうか!それなら……!ありがとう!これで時間にして約三時間の余裕ができた!」
藤香はそう言い残すと、今度は軽やかな足取りで自室へと戻っていくのだった。
「あの目覚ましの暴発がなかったら紫音はここに来る事もなく、あのアイディアもなかったはずだ」
ユニが呟く。
「だから誇ってくれ。キミの発明品は人の役に立ってる」
先程から紫音の様子が気になっていたユニは、紫音のフォローをするのだった。
「ありがとう。少しだけ、心の余裕ができた」
紫音はそう言うと、目覚ましを持ってから自室へと引き返して行ったのだった。
その後、仕事へ向かうルアの見送りもし、少しだけ平穏な時間が流れる。
九時半頃になって、ようやくアキがリビングに降りて来た。正確には目覚まし騒動で一度降りて来ていたのだが。
「そろそろ特撮が始まる頃だからさ」
そうだった。土日の朝は特撮を見たいアキがテレビを占拠するのである。
一応見逃し配信もあるらしいのだが、やはりリアタイしたいらしい。
「今回の怪獣は約六十年ぶりの登場で……」
アキが何かを言いかけたその時、勇ましい音楽と共に、OPが流れ出した。
そのまま流れでユニと由理も視聴するのだった。
視聴が終わり、「見逃し配信も見る」と言い残して、アキは自室へと引き返していくのだった。
「趣味に関してはマイペースだよね」
由理が呟いた。
「そういえば」
すると突然、何かを思い出した様にユニが立ち上がる。
「図書館に行く予定があったんだ」
ユニが言うと、由理はそのついでとしてお使いを頼んだ。
それを快諾するユニ。
空から自分のリュックサックを背負い、外に出るユニ。
ユニの一日は、こうして始まる。
悪魔との契約条項 第百五十二条
「一日の計は朝にあり」という諺が、人間界にはある。
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