契約その15 私の救いのhero……!
それからというもの、アキは常にユニの動向に目を光らせていた。
「別の星からやって来た正義の宇宙人」たるユニの行動を見れば、「正義とは何か」「ヒーローとは何か」そうした答えが出せると思ったからであった。
しかし同居を初めて一週間、何の変化もなかったのであった。
「ダメだー!成果なし!ただの女の子の生活だ!本当に正義の宇宙人なのかな……」
しかし、事件が起きない以上そのヒーローの出番もないはずだという結論に至り、しばらく様子を見る事にしたのだった。
そんな中、ユニのクラスは授業の理解度を確認する小テストが開かれる事となった。
それ自体はさして珍しいものではない。しかし問題はそれではなかった。
テスト返しの時、授業の先生が衝撃的な事実を伝える。
「えーある生徒の密告により、ある生徒達のカンニングが発覚した。今から名前を呼ぶ者達は、教室の前に集まる様に。それ以外の学生は自習だ」
先生はそう言うと、数名の学生の名前を呼ぶ。明らかに重い足取りで、名を呼ばれた学生達は集まった。
学生達は集まった後、先生によって廊下に連れて行かれた。するとしばらくして、生徒達は、明らかに教室まで聞こえる様な、轟く先生の怒号が聞こえるのを耳にする事になった。
「うわー……めっちゃ怒ってる……」
「今呼ばれた人達ってクラスの一軍でしょ?誰の告げ口だったんだろ」
そうした声が飛び交う中、その非日常ぶりに、自習に身が入ってない者がほとんどであった。
その先生の説教に待ったをかけたのは、終業のチャイムだった。つまり一時間丸ごと怒っていたわけである。
授業が終わり、叱られた者達は皆、泣き腫らした顔をクラスに見せつけるハメになり、その姿は先生の説教の苛烈さを物語っていた。
そんな彼らは、恥をかかされたという理由でその密告者を逆恨みしていた。まず、彼らの席はひとかたまりになっていた。
だからこそ答えを教え合ってカンニングし合う事が可能なわけだが、つまり疑われない程度にチラリと見えれば、自分達全員の状況を確認する事は可能だという事になる。
彼らには、密告した者のメドはついていた。アキである。
カンニングに気づいたアキは、まず素直に先生に謝罪する事を求めた。
しかしアキの言う事を聞く様な者達ではなかったのである。
それでもそうした「悪」を見逃せなかったアキは、最後の手段として先生への告げ口を行ったのだ。
この行為は当事者達に相当恨まれる事になったが、アキはそれを気に留めなかった。
放課後、アキは彼らに呼び出される。場所は旧体育倉庫。
数年前新たに体育倉庫が作られた際にお払い箱となった場所である。
鍵は開け放されており、生徒達のの溜まり場となっていた。つまり、アキはそこに連れ込まれる形になったのである。
アキを倉庫の中に連れ込んだ者達は、しっかりと倉庫の扉を閉めたのち、アキに怒りをぶつけた。
「オイオイ……おれ達はお前らのせいでとんだ恥を晒す事になったんだぞ……?わかるか?」
リーダー格の男が、しゃがみ込んでアキを覗き込む様に睨みつけた。
「わかるかそんな事。お前達がカンニングしたのが悪い」
ぐうの音も出ない正論である。だがそれは彼らをより怒らせる事になった。
「何だその態度は!」
逆ギレする男。
「立場がわかってねェならやっちまおう!」
チャラそうな男が言う。
「え?」
アキはそこで初めて顔を歪ませた。
男達はそれを気にせず、力に任せてアキの制服を脱がせ、下着姿にした。
「オイオイ……よく見たら可愛い顔してんじゃねェか。勿体ねェ」
「夢みてェだ!こんなのを堪能できるなんて!」
ここでアキは、今自分が置かれている立場を理解し、絶望した。男達は、その様子を見て益々興奮するのだった。
昔から、アキは悪を許さない正義感の強い少女だった。
ポイ捨て、万引き、痴漢……ありとあらゆる「社会の悪」に、アキは立ち向かっていった。
それは高校生になった今でも変わらず、今度は学校における「悪」に立ち向かい続けていたのである。
彼女がそうした「正義」を貫く「委員長」という役職を志願したのもその為である。
だが社会を動かすのに多少の「悪」は必要で、一切の汚れを許さない窮屈なアキの正義が、他人に認められる事はなかった。
アキにとって最悪だったのは、自分自身がその「正義を貫く代償」を支払う事になるこの時まで、その事にほとんど気づく事がなかった事であった。
「もう我慢できねェよ!」
「まあ待て……減るもんじゃねェ……まずはおれからだ」
アキに向かう男達。
アキは涙を流しながらガタガタと震えた。
「ヤバイヤバイ!本当にヤバい!このままだと私……!助けて……私のヒーロー……」
アキは心の中で叫んだ。
アキが男達の毒牙にかかろうとした次の瞬間、誰も気づかず、開かないはずの倉庫の扉がゆっくりと開いた。
「何だ!?」
男達は叫ぶ。
倉庫に差し込む太陽の光を背に、現れたその姿は、ユニだった。
「ユニ……」
「てめェは……瀬楠!何の用だ!」
ユニは男達をギロリと睨みつけて言った。
「『何の用だ』だと……?今この状況で、何の用かもわからないのか?」
「……この野郎!」
自身に向かってくる一人の男を、ユニはた易く無力化した。
「生憎だが、今のおれは麻酔を入れられてない。コンディションは万全だ。お前達じゃ、今のおれには勝てない!」
ユニは毅然と言い放った。
「てめェ……そういやお前も気になってたんだよなァ……。楽しみを二倍に増やすのもいいかもな」
リーダー格の男が言った。
ユニはその男の顔面を力の限り殴り飛ばした。
吹き飛ばされて倉庫の壁に叩きつけられる男。
その力に、残りの男達は圧倒された。
「消えろよ!そいつを持ってな!それと、今後この娘のバックにはおれがついてるからな!覚悟しろよ!」
男達は、悲鳴を上げながら逃げ去っていくのだった。
「危なかった……。大丈夫か?」
ユニはアキの下着を見ない様にしながら制服の一式を渡した。
「ありがとう。でもどうしてここが?もしかして宇宙人の超感覚?」
「いや、そんなんじゃない。悪魔が教えてくれたんだ。キミの危機を察知して。それとキミに言う事が……」
ユニは覚悟を決めた。もはやウソをつき続ける必要はないと悟ったからだ。
「おれは宇宙人じゃない。今はただの一介の女子高生さ」
それを聞いたアキはにこりと笑いながら言った。
「何だ。そうだったの。あなた自身が言うなら仕方ないかな……」
すると突然、アキはユニに抱きついた。
「うっ……ぐずっ……怖がっだよぉ〜!」
大粒の涙を流してユニにその身を委ねる。ユニは、その体を優しく抱きしめたのだった。
「じゃあユニは元男で、ルーシーが悪魔って事?」
ユニは、日を改めてアキに全てを打ち明けた。
「ああ、どうやらお互いに勘違いしてたみたいだな」
「うーややこしい……」
アキは頭を抱えた。
「でもよかった。ちゃんと話してくれて。これからもよろしくね」
―――私のヒーロー。
アキはにっこりと笑顔を見せたのだった。
悪魔との契約条項 第十五条
悪魔には、危険を察知する「超感覚」が備わっている。
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