契約その146 会長候補のscandal!
翌日。晴夢学園の学校新聞の一面を、写真と共にこんな記事が踊った。
「生徒会長選挙立候補の緑山アキ(16)、廊下でベロチューキス!」
それを見たユニは、驚愕する表情を見せた後に憤慨した。
「道理で校舎内に入った時に、やけに視線を感じたわけだ……。畜生フザけやがって!」
新聞を握る手に力が入り、その手によって新聞はぐしゃぐしゃになった。
「大丈夫か?ユニ」
ルーシーが気遣って話しかけてきた。
「いや、心配なのはおれよりもアキの方だ。絶対選挙に悪影響が出るぞ」
ユニがそう言ったその時である。
ガラガラと学校のドアが開き、クラス中の視線がそこに集まった。
渦中のアキが登校してきたからである。
「アキ!」
慌ててユニはアキの元へ駆け寄る。
「学内の新聞見たか?とんでもない内容だ。でも、こういうリスクを考えてなかったおれが悪い。だから……ごめんなさい」
アキに頭を下げ、謝罪をするユニ。
アキがそれに対して何か言おうとしたその時である。
「いやー楽しんで貰えましたかねェ……」
メガネに出っ歯の小男が、二人に話しかけてきた。
黒髪七三分けに、首から下げたカメラがいかにも胡散臭い。
「えっと確かお前は……」
アキはすぐには名前が出てこなかった。
「忘れたんですかァ……クラスメイトの名をォ……」
小男はニヤニヤしながら言う。
「報道部の昼川か。お前が黒幕だな?」
ユニが言う。その口調はとても鋭い。
「いやァ……黒幕なんて滅相もない……わたくしはある人の依頼で記事を書いただけですよォ……」
「依頼だと!?どこのどいつだ!言え!」
ユニが怒鳴る。胸ぐらなどを掴むと不利になる可能性があったので、実力行使はしなかった。
「おっとォ……この先は守備義務に違反しますのでェ……」
さすがに口を滑らせたと思ったのか、昼川はそれ以上は言わなかった。
しかし、犯人の目星はついている。この記事で得をする人間……つまりアキのライバルの会長候補の誰かである。
しかしその中の誰かかは調べないとわからない。
そんな中、昼川の背後に人影が現れる。
その人影は、昼川をヘッドロックで捕らえると、ギュゥゥと首締めを始めた。
その人影の正体は、ルーシーであった。
「な……何をォ……」
顔を真っ赤にしながら、昼川が聞く。
ルーシーは手を緩めながら言う。
「おれと契約しろ。代償はお前に依頼した黒幕の正体を洗いざらい吐く事。見返りは『お前自身の命』だ」
ルーシーが久しぶりに見せた悪魔の姿であった。
「わたくしを殺したらァ……あなたは殺人者……スキャンダルどころじゃありませんねェ……」
昼川が食い下がる。
「お前の存在が消えれば問題はない」
つまりルーシーは、昼川を始末した後にその存在を消そうと言うのである。
世界中の人間の記憶から、瀬楠由仁の存在を消した時の様に。
契約はそんな用途に使う事もできるのである。
「わかりましたよ……だがお前には、その真実を確認する術はない……私がウソをついていてもね……」
「心配するなよ。契約を結んだ以上、お前はウソをつく事はできない」
契約を結ぶという意思を確認した為か、ルーシーは昼川を解放した。
「ぐえっ……ゼエゼエ……メチャクチャな女です……ですがこうやってウソつけば解放されるのだから楽勝ですねェ……」
ウソをつくつもりで、昼川はルーシーに情報を与えようとする。
「私に依頼した黒幕は……」
ウソをつくつもりだった昼川だが、「契約」によって真実を話してしまった。
「な……何ィ!?一体なぜだ!」
「悪魔との契約は絶対だよ」
ルーシーはそう吐き捨てると、情報が聞き出せたとユニとアキに言うのだった。
放課後。ユニは一人で隣のクラスへ行った。
「話がある」とユニはその黒幕を中庭へ連れ出すのだった。
その近くで、ルーシーとアキが物陰に隠れて待機する。
「話って何かな。もしかして告白?キミにはもう先客がいるはずだけど……」
ユニが連れ出したのは、正鹿という名前の男子生徒だった。
ポッと出のこいつが、スキャンダルの黒幕という事である。
「おれがお前の事を好きなわけねェだろ。お前の被害者なんだから」
「だから何の話だい?」
あくまでシラを切る正鹿。
「とぼけるな。昼川が吐いたぞ。お前の依頼であんな記事を書いたって」
(吐いたのか。じゃあ「おれが生徒会長になれば報道部の部費アップ」っていう見返りはなしだな。)
正鹿は心の中で思った。
「お前が認めるも認めないも実は意味がないんだ。ルーシーが集めた情報は絶対。純然たる事実だ」
ユニが言い放つ。
「その通りだ」
アキが物陰から出てきた。
「第一、この程度でスキャンダルになるとでも思ってんのか?」
「何!?」
正鹿が言う。
アキはユニの元へ向かうと、ユニを抱きしめながら言う。
「この通り、私達は愛し合っている。そしてそれを誇りに思っている。この記事で、私は何一つダメージを喰らっていない!」
「アキ……!」
彼女と恋人になって、本当によかった。
ユニは心の中でしみじみそう感じ、アキの体を抱きしめ返す。
そして、アキは正鹿に堂々言い放つ。
「それを証明してやるよ……!当日!生徒会長総選挙でな!」
それはアキの宣戦布告だった。
そんな因縁を抱えながら、いよいよ生徒会長総選挙当日を迎える。
悪魔との契約条項 第百四十六条
契約を利用すれば、「契約者の命」を担保に契約者に言う事を聞かす事も可能であり、問題はない。
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