契約その14 もしかしてあなたはalien!?
「緑山アキに正体がバレたっぽいって本当か?」
「ああ、本当だ。いきなりおれの正体について聞かれた」
学校から帰り、ユニは早速その事をルーシーに話した。
それを聞いたルーシーは、アゴに手をやりながら言った。
「そいつは妙だな……。別に彼女は男の頃のお前について覚えているわけじゃないだろ?男の頃のお前が存在したっていう記憶や物的証拠はすでにないんだから」
ルーシーの言い分はもっともである。
由仁がユニになった時点でこの世界は「最初から由仁ではなくユニが存在している世界」になっている。
由仁に関する記憶がない限り、ユニが元男であるという確証を得る事は困難なはずだ。
「まあ女性なのに一人称がおれっていう不自然さはあるけど、というか、それは別におれだってそうだし……」
うーむと唸るルーシー。
「それだけじゃ証拠にはなり得ないはずだ。やっぱり何かの間違いなんじゃないのか?それを確認する為に、明日彼女に確認を取るべきだ」
ルーシーはそうアドバイスした。
ユニもそれに賛成し、とにかく明日探ってみようという話になるのだった。
―――翌日―――
ユニは、アキの掃除の時間に間に合わせるべく早起きをして学校に向かった。
教室に着くと、すでにアキは掃除を始めていた。
アキは、ユニの存在に気づくと、「あっおはよう……」とどこかぎこちなく挨拶した。
ユニも同様に「おはよう……」とぎこちなく挨拶し返す。
アキがやっている様に、ユニも箒とちりとりを持ってくると、掃除をし出した。
「さて、どう切り出すか……」
ユニは掃除を続けながらも思案する。
「いきなり自分が元男である事を知っているかと切り出すか?」
そのアイディアを、ユニは首を横に張って否定する。
「いやダメだ。まだその事を知っているという確証がない」
「仮に知らなかった場合、どこからどう見ても女の子な人間から、とんでもないカミングアウトをされる事になる」
「間違いなく混乱させる」
「ここは遠回しに聞いて出方を伺うか」
当のアキも、一日経ってさすがにユニが宇宙人だなんてあり得ないと思っていた。
昨日のビビり具合は、多分いきなり話しかけられたからだと自分で納得していたのだった。
しかし、なぜかユニは自分と掃除をしにこんなに朝早くに登校して来た。やっぱり何かやましい事があるのか?
アキは訝しむ。しかし、やましい事があるという点ではアキの推測は正しい。
ここでユニが仕掛ける。
「あのさアキ。おれ、何か変じゃないか?ほら、一人称とか」
「い、一人称!?」
アキは思わず口に出してしまった。まさか雌雄同体の宇宙人という可能性が彼女の中に出てきたからだ。
ユニは宇宙人ではないとせっかく自分に言い聞かせていたのに、少なくとも普通の女の子ではない可能性が出て来た。
「な……何でそんな事を……」
アキは動揺を抑えて絞り出す様に言った。
「いやだっておかしいだろ。見た目女の子なのに一人称が『おれ』なんて……」
その時である。教室の片隅から、何か見覚えのある茶色い虫が現れた。
ゴキブリである。
「うひゃあ!」
ユニは驚き、そのまま教室の端から端まで宙返りしながら飛び上がり、見事に着地した。
「ハアハア……危ねェ……びっくりした……」
むしろびっくりしたのはアキである。
あんな身体能力を見せられては、ユニ=宇宙人説により一層信憑性が増してしまう。
「あ……やべ……」
アキの様子を見たユニは、ようやく自分が犯したミスに気づいた。
そもそもこの身体能力は最初から持ち合わせていたわけではない。
ルーシー、悪魔と契約して得たものである。
悪魔と契約すると、さすがに悪魔には及ばないものの、常識を超えた優れた身体能力を得る事ができるのである。
暴発には細心の注意を払っていたが、まさかこんな時に出てしまうとは……。
これってもはや男女どころか人間である事すら疑われる事態なんじゃないのか?そうユニは考えた。
ユニもまた、アキ側の推測に近づきつつあった。
「えーっと……何というか……」
ユニはどう誤魔化そうか悩む。
「確かゴキブリって……そうだ!」
ユニはどうにか苦しい言い訳を思いついた。
「おれ実は宇宙人なんだよ!えーっと母星から指令を受けて……あのその……」
昆虫は宇宙から来たという信憑度ゼロのオカルトじみた俗説が存在する。
ユニの荒唐無稽な言い訳は、ゴキブリとその説から着想を得たものだ。
それにいきなり自分は宇宙人だと言い出すなど正直痛い奴である。
これでアキがこの件に興味をなくしてくれれば……というのがユニの思惑であった。
しかしその言い訳は、数ある言い訳の中でもまさに最悪手だった。
「自白した〜〜〜!!!?」
アキはものすごく驚く。それはもう、言葉に出せない程驚く。
正直宇宙人なんて半信半疑だったアキだったが、本人が認めた以上信じるしかない。
「え?何か信じてるっぽい?」
言葉に表さずとも、アキの動揺ぶりはさすがにユニにも伝わった。
しかし宇宙人だと勘違いされる事と、元男だとバレる事と、一体どちらが社会的ダメージが少ないのだろうか。
正直どっちもどっちな気がする。
しかしもはや後戻りはできない。
この言い訳をアキが信じた意味はユニにはわからなかったが、ここは乗っかるしかなかった。
アキはユニの荒唐無稽な設定をことごとく信じた。
ユニは、母星からこの星を守る様に指令を受けたという設定にした。
そっちの方が地球侵略に来たというより心象がいいと判断したからである。
「へェ……じゃああなたは私達の自由と平和を守る為にやって来たって事?じゃあヒーローじゃん」
「そ、そうなんだ」
「私ヒーローなんて初めて見た!」
「あっそうなんだ……」
アキは、荒ぶる感情を抑えきれなくなっていた。
そもそもアキはヒーローマニアである。そんな彼女の前に、本物のヒーローが現れたのだ。
アキは、ユニの全てを知りたいと思う様になった。その結果……。
「はあ!?一緒に住むゥ!?」
翌日、荷物を持って現れたアキにルーシーは衝撃を受けた。
ルーシーはユニの首根っこを掴んで自室まで連行し、問い詰めた。
「オイオイ何でそんなわけわからん事になってんだ!元男なのがバレたかも知れないから探ってみるって話じゃないのか!」
「何というか、偶然の成り行きというか……」
ユニはルーシーに事の顛末を話した。
「成程……ややこしいな……要するに元男という事実は隠せたけど、更なるウソを重ねてしまったのか……」
「面目ない……」
ユニは謝罪した。
「まあしょうがない!付き合うよ、そのウソに。元男とバレるより今の方が好感度高そうだし」
ユニは両手を合わせてルーシーに感謝するのだった。
いきなり押しかけた形になったが、その分家事炊事をやるという事で同居が認められた。
部屋も客間が当てがわれる事になり、晴れて一員となったのだった。
「やれやれ、先が思いやられるな……」
ルーシーは、これから起こる困難に、ため息を吐いたのだった。
悪魔との契約条項 第十四条
悪魔と契約した人間は、人智を超えた身体能力を得る事ができる。しかし、それが本人にどの様な影響を及ぼすかは誰にもわからない。
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