契約その130 再公開!初恋eternal!
日差しが照りつける八月中旬、いよいよコミケの開催日がやって来た。
ユニ、アゲハ、藤香、ルア、紫音、萌絵の六人は、用事で家に残るみんなに別れを告げ、一路東京にある会場に乗り込もうとする。
「ちょっと待て」
家を出る直前、ルーシーがユニにある紙を渡した。
座布団ぐらいはある大きな紙で、謎の模様が描かれている。
「何だこれ」
ユニがその模様を横にしたり縦にしたりして見ていると、ルーシーが説明し出す。
「それは『魔法陣』っていうんだ。『描くもの』と『描けるもの』があれば誰でも作れる」
「それが何だっていうんだ?まさかただのお守りってわけでもないだろ」
「そりゃ勿論。これを適当に広げて、一言『いでよ』と唱えれば、『魔導書』がなくとも悪魔の召喚ができる」
ルーシーが言うには、悪魔には一人一人対応する「魔法陣」があり、それを描く事で悪魔の召喚が行えるらしい。
「人手が足りなくなった時に使ってくれよ。おれを召喚してくれれば手伝うからさ」
「わかった。ありがとう。行ってくるよ」
ユニ達は、ルーシーの「手向け」を受け取ると、そのまま会場へと向かって行くのだった。
かなり早く会場に訪れたユニ達は、その混雑具合に驚く。
「すごいな。まだこれで始まってないんだろ?出展する人達だけでこの賑わいぷりって事か」
ユニが正直な感想を漏らす。
「そりゃ世界最大の同人誌即売会ですから。それだけ注目もされるわけです」
萌絵が説明する。
自分達のスペースを確保したユニ達は、スペースの飾り付けから品物の配置までハイスピードで済ませた。
「それと皆さんには……」
萌絵は一人一人に紙袋を手渡す。
中には服が入っている様だ。
「これって、撮影に使った制服じゃないか」
ユニが言う。
「これ着て接客すれば少なからず目立つでしょう。使えるものは何でも使わなければ」
萌絵が示した更衣室で、ユニ達は着替えてきた。撮影中何度も着ていたので、もう慣れてしまった。
あとはカツラをかぶって形を整えて完成である。
「よし、これでOKだな」
着替えたユニ達は、いよいよコミケに臨むのだった。
しかし、それは想像を絶する程過酷だった。
ようやく始まったコミケだが、すでにユニ達のブースには閑古鳥が鳴いていた。
「ミスりましたな……拙者達はそこそこ名のあるグループなので人も集まると思いましたが……やはり品を変えすぎたのがよくなかったのでしょうか」
萌絵は冷静に原因を考えるが、内心では焦っていた。
「これじゃ完売も厳しいな」
ユニも焦っている。
「じゃあこれを使うしかないのう……気が進まないが……」
この状況を見かねて、渋々という感じではあるが、紫音は自分のリュックサックを探る。
「今更だけど、よくそんなにものが入るな。四次元ポケットか?」
ユニが呆れ半分に聞いた。
「限界はあるがな」
そう言いつつも、目当てのものを見つけた紫音は、リュックサックから引っ張り出す形であるものを取り出す。
「『客寄せパンダ着ぐるみ』!」
「それ前に見た事あるな」
それは、紫音が初めて同居する時に見せてくれた発明品の一つであった。
よく覚えてないであろうユニ達に、紫音は改めて説明する。
「これを着て宣伝すれば、千客万来の大盛況になる発明品じゃ。着た時の見栄えが悪すぎるのが欠点じゃが……」
それが出し渋っていた原因であった。
「まあ辺りにたくさんコスプレイヤーがいるし、意外と目立たないんじゃないのか?」
ユニがフォローした。
一着しかないので、ユニが着てみる事になった。
「ど……どうかな……」
彼女達に感想を求めるユニ。
「いやその何というか……」
「おいたわしや……」
「せめて顔を隠せればよかったんじゃが……仕様上……」
微妙そうな感想を漏らす彼女達。
それもそのはず、ちょうどパンダの口の部分が、着用者の顔に来る様になっている。さながらパンダの口から顔を出している格好である。
そして体のラインが丸見えになるムダにピチピチなデザイン。
それに、そもそもただパンダの着ぐるみを着ただけではコスプレとは言わない。
よって、会場に並みいるコスプレイヤーの中でも一際異彩を放っていた。
もはや着る事自体罰ゲームといえるレベルだが、さすがにこれを彼女達に着せるわけにはいかないと、ユニは自ら志願したのである。
「これで本当に客集まるんですか?」
唯一この発明品の存在を知らなかった萌絵は懐疑的だった。
「実験はしとるからたぶん大丈夫じゃ」
ユニは恥ずかしさを我慢しながらも宣伝をする。
「実写版『初恋エターナル』に不満を持っているあなた!我々のサークルが新たに撮影しました!寄ってって下さい!」
すると、今までバラバラにいた客達が一斉にこちらへ一塊になってやって来た。
「こっちにくれ!」
「視聴用、保存用、布教用に三枚!」
まさに言った通りの千客万来の大盛況である。
だが人が集まるという事は、それだけ衆目に触れるという事であり、ユニの恥ずかしさもその分増えた。
多めに持って来たのだが、その盛況ぶりにすぐになくなってしまった。
仕方がないので、紫音の発明品「携帯式プリンター」で増やして間に合わせるのだった。
「こりゃみんなで働いても人手が足りないな……」
ユニはルーシーに、電話で今から魔法陣を使う旨を連絡する。
了承を得られたので、ユニは床に魔法陣を敷き、「いでよ」と唱えた。
すると、魔法陣が光り輝き、そこから出てくる様な形でルーシーが登場した。
「呼ばれて飛び出て……」
「御託はいいから手伝ってくれ!」
ユニにしては強い口調でルーシーを叱責した。
ルーシーも加わり、売り場はますますスピードアップしていく。
そして全日程で、何と約3000部を売り上げる事に成功するのだった。
ハードな売り子を終え、その場でへたり込むユニ達。
そんなユニの頬に、冷たい飲み物が当たる。
藤香だった。
「お疲れ様。そしてありがとう」
「いいよ」
ユニは笑顔で答えたのだった。
肝心の映画の評判は、上々だった。
素人が作ったので、やはりクオリティはそれ相応だったが、少なくとも本家よりは好評だったらしい。
しかし所詮は同人作品、本家より知名度は下である。
しかし、何より「原作者が直々に関わっている」という点が一部で大きな波紋を呼び、コミケが終わってからも引き続き増産がなされる事になった。
「黄桃ハル」の名誉は回復というユニ達の目的は果たされた。
全てが終わった後、藤香はユニに聞いた。
「どうして、ここまでやったんだ?」
「『おれにホレた彼女達全員を幸せにする』それがおれの願いだからさ。その為には、何だってするよ」
それを聞いた藤香は、嬉しそうに頷いた。
その様を見ていたユニは、心の中で呟く。
「でも、言えないよな。それは目的の半分で、本当はルアと誰かのキスを演技とはいえ見たくなかったなんて」
ユニは、この理由は墓場まで持っていこうと決意したのだった。
悪魔との契約条項 第百三十条
悪魔一人一人には、それぞれ模様が違う「魔法陣」が存在する。それを用いれば、「魔導書」がなくとも悪魔を召喚できる。
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