契約その128 完成!初恋eternal!
監督にスカウトされたユニは、監督に頭を下げながら言う。
「謹んで、お断りします。あなたは、私の恋人を悲しませてるから」
それを聞いた監督は、なおもユニに縋りつく。
「そ……そこを何とか〜!」
「見苦しいですよ、監督」
しつこいな……とユニが思っていた所、そんな監督の痴態に口を出してきたのは、原作者たる藤香だった。
「原作者が何の用で?」
藤香は、にこりともせずに毅然と言い放つ。
「これ以上僕の……いや僕達の作品を汚さないで欲しい」
監督は、その物言いが気に入らなかった様で、ユニより藤香の方に矛先を向けた。
「映画には映画の掟がある!素人が口出ししていい所じゃあないんですよ!ましてやたかだか漫画家気取りの高校生が!」
ユニは藤香を侮辱するその言葉に激怒し、危うく手が出そうになったが、どうにか精神で抑えた。
藤香はゆっくりと、威圧する様に言う。
「スタッフも役者も楽しめない現場に、掟もクソもないでしょう」
「ぐっ……」
痛い所を突かれたのか、監督は黙ってしまった。
「これはマズイな……」
焦ってきたのはユニである。
監督と原作者の対立に、現場の雰囲気も最悪になってしまった。
何より、金を出している火殿グループのどれみと、この主演のルアは、友情と仕事の板挟みになった。
友情を尊重するなら主演や出資を降りるのだろうが、そう上手くはないのがこの世界である。
「あとでフォローしなくちゃな……」
ユニはそう思った。
「帰ります。ここにいて得るものは何もない」
藤香は監督に背を向けると、とっとと教室から出て行った。
慌ててユニ達も教室を出ていく。
「あっちょっと!お待ち下さいまし!私が謝りますから……」
どれみも慌てて出て行った。
ルアはそれを追えなかった。友達を傷つけてまで仕事をやりたくなかったのだが、これは事務所が取ってきた仕事である。
自分の都合で勝手に降板するわけにはいかなかったのだ。
「せめて私が、この作品をよりいいものにしなくちゃ」
ルアはそう決意したのだった。
それから数週間の超スピードで、実写版は完成、公開された。
結局ルア達の出演シーンは、本来の役者で撮り直されたらしい。
一応試写会の案内は届いたが、藤香は何のアクションも起こさなかった。
映画自体の評価は、まあお察しの通りだった。
主演(あの勘違い野郎)の演技が稚拙、脚本が微妙、再現度も微妙、劇伴も微妙と散々だった。
ただ一つ、ルアの演技はよかったという評価を貰った。
藤香は、映画とは関係なく連載を続けていた。
良くも悪くも実写化で話題になった作品なので、カラーを貰う事が多くなり、それに伴い仕事量も増えた。
よって、ユニ達すら学校以外で姿を見ない日が続いたのである。
そんなある日、ルアとどれみは、藤香の部屋の前を訪れた。
勿論謝罪の為である。
二人は藤香の部屋のドアの前に立って、コンコンと二回ノックする。
「イヤなら、出なくてもいい。ただ私達はあなたに謝りたくて……」
「藤香さん、ごめんなさい。出資したのはわたくしではなくわたくしの家でして……わたくし個人の希望は通らなかったのですわ」
どれみは深く深く頭を下げた。
「私も……事務所には逆らえなかった。降板したら私だけじゃなく事務所の信頼にも関わるから……今思えば無理にでも降板すればよかったと……」
ルアがそう言いかけた時、ドアがゆっくりと開き、藤香が顔を見せた。
「いいんだ。二人共事情がある。謝らなくていい。何より元々、この作品は漫画なんだから。僕が読者を楽しませられればそれでいい」
そう言う藤香の顔は、どこか諦めている様だった。
「藤香……」
二人はこれ以上かける言葉が見つからなかった。
「じゃあ僕忙しいから……」
藤香はそう言うと、ゆっくりドアを閉めようとした。
「ちょっと待って!」
その閉まるドアを止めようとする者がいた。
ユニである。
「本当に、それでいいのか?今回の映画の出来は、キミの作品やキミ自身の評価まで落とす事になってる……おれはイヤだ」
藤香は少し驚いた様な顔をしたが、またすぐに暗い顔に戻って言った。
「いいわけがない。でも、もう映画は完成してて、公開されてる。今更評価は覆らない」
ユニは、なおも藤香にくらいつく。
「確かに評価は覆らないかも知れない……でも!キミと……『ハル』の気持ちの為に……何とかできるかも知れないんだ」
「そんな……何とかって……」
藤香は、ユニから目を逸らしながら呟いた。
ユニは、そんな藤香に大きく叫んだ。
「おれ達で、映画を作るんだ!」
それを聞いた藤香は驚きつつもこう言う。
「自作映画って事か。でもそんな事……お金もかかるし……」
「お金ならわたくしが出しますわ!いくらでも!第一、火殿グループの名を使っておいてあの程度の映画では、火殿グループのブランドに傷がつきますし!」
どれみが名乗りを上げた。
「じゃあ私は、俳優を用意するよ。伝手ならあるから」
ルアが言った。
「じゃあ、CGだったり撮影機材はわしの担当じゃな」
「衣装の準備はウチがやるよー!」
いつの間にかそばにいた紫音とアゲハも名乗りを上げた。
「それに、近頃コミケっていう一大イベントがありまして、それに間に合わせれば、多数の人数に行き届かせる事はできます」
萌絵が言う。
「藤香、キミにはこんなに仲間がいるんだ。おれ達の手で、本家を見返そう!」
ユニは、藤香の肩を強く叩いて言った。
「うん、わかった!」
藤香も笑顔で応えるのだった。
悪魔との契約条項 第百二十八条
契約によって集まった仲間でも、契約者やその周辺の人物にとっては、強い味方となる。
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