契約その124 私がfellowに認められるまで……!
「というわけで……これから一緒に住む事になった佐藤陽奈さんです」
「よ……よろしくお願いします……」
ユニの紹介を受け、ヒナは深々と頭を下げて挨拶した。
(やっぱりそうなるんだ……)
彼女達は一斉にそう思った。
「色々あったけど、みんな仲良くしてほしい」
ユニが言った。
「それで部屋は……」
ユニに部屋に案内され、とりあえずそこに荷物を置いた後で、ヒナはリビングに降りて来た。
リビングに降りると、ルーシーがソファーに座ってテレビを見ているのを見つけた。
意を決して、ヒナはルーシーに悲しかける。
「何見てるの?」
ルーシーは一瞬驚いた様な顔をした後、テレビを消して自室へと帰っていくのだった。
「あれ?何か避けられてる?まあ私は一度ユニをフッた身、そんな私が一緒にいて、気分いいわけないか……」
そもそもの経緯が経緯なので、ヒナが瀬楠家に慣れるのにはかなりの時間がかかった。
しかし、ヒナの元々の人柄もあってか着実に彼女達の輪の中に入れる様になって来たのだった。
それから一ヶ月経てば、もうヒナを避ける様な彼女はいなくなっていたのである。
ただ一人を除いては。
その一人とは、ルーシーの事だった。
元々ヒナのやった事に人一倍怒っていたルーシーは、未だヒナを認める事はなかったのである。
この状況に対処しようとしたのがユニであった。
ユニはどれみのツテで徐氏堂美術館のチケットを三枚分入手すると、ルーシーとヒナを誘って一緒に行く事にした。
「『世界各国の偽作展』っていうのか……」
ルーシーは、入り口で貰ったパンフレットを見ながらそう漏らした。
「『偽作』っていうのは、要はコピー品、ニセモノの芸術品って事だな」
ユニが説明する。
どうやら本物が入手できなかったが故の展示品らしい。
「確かにどこかで見た事あるけど、微妙に違うものばっかりだ」
微妙に違う絵画達を見ながら、ヒナが言う。
「これは『モナリザ』じゃなくて『モナリサ』か」
ルーシーが感想を漏らす。「モナリサ」は、小太りのおばさんが「モナリザ」と同じ構図で描かれているものだった。
「さすがに似せる努力はしない?」
ヒナが呆れながら言った。
「この絵画展の為に、無名の画家達に描かせたものらしい。ニセモノっていうよりもはやパロディだな」
絵を見ながらユニが言う。
「こっちは『ひまわり』じゃなくて『おまわり』だし。ムンクの『叫び』じゃなくて『アケビ』なんてのもあるな」
「おまわり」はおまわりさんが描かれていて、「アケビ」もそのまま果物のアケビが描かれている絵だった。
「これってそういうネタ的な絵画展なの?」
ヒナが突っ込んだ。
「でもな、中々味があっていいと思うぞ」
ユニが言った。
「えぇ……」
「たまにあの子、センスおかしい時があるから気をつけた方がいいぞ」
呆然とするヒナに、ルーシーがこっそり教える。
一通り絵画を見て楽しんだ後、三人は近くの天ぷら専門店を訪れた。
現れた三人を、店員が出迎える。
「予約の瀬楠様ですね。こちらになります」
三人は窓際のお座敷に通された。
「わざわざ予約してくれたの?」
ヒナが驚く。
「バイト代入ったし、今なら食べ放題コースが安く予約のできたから、これぐらい奮発してもいいって思った」
二人は、何か悪い様に思った。
「まあまあ。今日はおれの奢りだからさ。じゃんじゃん食べてくれよ」
まもなく注文した天ぷらがやってくる。
二人はユニに感謝しながら箸を伸ばすのだった。
「海老天にちくわ天……どれもおいしい!」
舌鼓を打つ二人。
「そろそろかな……」
ユニがそう思った次の瞬間である。
「ぎゅらぎゅるぅぅぅ!」
ユニのお腹がものすごい音を立てた。
「ど!どどどうしたの!?」
あまりに急な事で、二人は動揺する。
「きっと天ぷらが当たったんだ……。さながら徳川家康だな……ちょっとトイレに行ってくる……」
ユニはヨロヨロしながトイレへと向かって行ったのであった。
「気……気をつけてね……」
ヒナは手を振ってユニを見送り、ユニもそれに反応を返すのであった。
ユニが角を曲がって見えなくなったのを見計らい、ルーシーはヒナに話しかける。
「ユニが作ってくれた時間だ。これで心置きなくお前と話せる」
ドキ……!とするヒナ。
「まず第一に、お前はユニを一度フッた。なのにお前は、ユニの優しさにつけ込んで、ユニとよりを戻したんだ」
言い方は悪いけどな……とルーシーは付け加える。
「おれは、ユニの事が好きだ。おれだけじゃない。他の子達もみんな、ユニの事が好きなんだ。それは覚えておいてほしい」
ヒナは黙っていた。
「つまり、一度フッてまたよりを戻したという状況は、おれ達の心を踏みにじったっていう事だ。反省してほしい」
ヒナは神妙な顔で聞く。
「勿論。反省してる。禊も受ける。でも……どうしてあなたはそこまで私の事を?」
それを聞いたルーシーは少し考え込んでから、答えた。
「おれも、あの子に負い目を感じているからだ。おれが、あの子の人生を歪めた。性別を変えたんだから」
「……!?」
それを聞いたヒナは驚いた。
確かにどこか男子っぽい言い方するなとは思っていたが、まさか本当に男の子だったとは。
「でも……あの子はおれを許した……。だからつまり……、同族嫌悪だ」
この心の内は、今まで誰にも言った事のないルーシーの本心だった。
それを聞いたヒナは、ゆっくりと穏やかに言う。
「たぶん私も同じ。火事の時も、何で私なんかの為に……って思った。同じ考えを持つなら、きっと私達は友達になれる」
自分が言うのもおこがましいけど……とヒナは後に付け加える。
「そうか……そうだよな……」
ルーシーは、何だか嫌悪していたのがバカらしくなってしまった。
そして二人はガッチリ握手を交わし、親友になった。
その様子を物陰から見ながら、ユニは紫音に電話をかけていた。
「どうじゃ。便秘並みの腹痛を起こす『腹が痛くなる薬』の効果は」
電話越しに、紫音が聞いてきた。
「ああ、ありがとう。水をコップ一杯飲んだらよくなったよ。想定以上の効果だ。二つの意味でな」
ユニは、事前に紫音開発の「腹が痛くなる薬」を飲み、腹が痛くなったと芝居を打ったのである。
「一緒に住むんだ、仲が悪いとお互いに嫌だろう。でも……仲良くできそうでよかった」
仲良く談笑する二人を見ながら、ユニは笑顔で答えるのだった。
悪魔との契約条項 第百二十四条
悪魔と人間は、親友になれる。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。