契約その123 Fire placeのバカ力!
男が起こした火は、その時は誰にも気づかれないまま燃え広がっていった。
「ハハハ!いいぞ!燃えろ燃えろォ〜!」
その時の学校は、まさにそろそろ朝会が始まろうとしていた時であった。
「何か焦げ臭くない?」
ユニ達のクラスでも、にわかに話題になる。
その時、丁井先生が慌てて教室に入ってきた。
「火事だ!落ち着いて避難しろ!」
「火事」という言葉を聞き、クラスがざわつく。
その時、緊急の放送がスピーカーから流れた。
「火事です。生徒教職員は、落ち着いて校庭の方まで避難する様に。繰り返します。火事です……」
「放送の通りだ。落ち着いて避難するんだ!」
丁井先生の指示に従い、ユニ達のクラスは避難を始めるのだった。
一方その頃、そんな学校の騒ぎを知らないヒナは、これまた騒ぎに気づかないユニを屋上に呼び出した。
「ぐふっ……何の用だ……」
本人を直接目にしたせいで、ユニはすでに満身創痍だった。
「それは……今朝あなたの彼女達に怒られて……それで改めて謝罪しようと……」
成程それでか。ユニは納得した。
「それじゃ……」
ヒナが謝罪しようとした、まさにその時、ユニの電話がけたたましく鳴る。七海からである。
ユニはヒナに出てもいいか聞き、了承を得たので電話に出る。
「もしもし?悪いけど、後にしてくれないかな。今取り込み中で……」
「違うの!今どこにいるの!ユニ!」
電話越しに叫ぶ七海。
「いや学校の屋上でヒナと一緒にいて……」
「そんなに呑気にいるって事は、まだそこまで煙は来てないんだね!?」
「煙」という言葉に、ユニは違和感を覚えた。
「『煙』ってどういう事だ!?」
「だから!今学校が火事で!今は一階の一部で済んでるけど!煙の勢いがすごくて……」
電話越しからも、緊迫した様子が伝わってきた。
「離せェ!おれがユニを助けんだ!おれは悪魔だ、死なねェよ!」
「ダメだルーシー!この前キミ爆弾で死にかけたの忘れたのか!?その体じゃあ悪魔の力を存分には使えないんだろ!?」
ルーシーとアキの声が聞こえる。
それどころか、消防車のサイレンの音まで聞こえていた。
「わかった。おれ達二人はここで待ってる。そっちの方が助かるからな。常に電話は切らずにいてくれ」
ユニは七海に指示を出した。
「ちょっ……どういう事!?『煙』って……」
ヒナが聞く。
「手短に言うと、学校が火事になった。校舎内に煙が充満しているらしい」
ユニは非常に冷静に伝える。
自分が慌てると、ヒナご不安がると考えたからである。
「そんな……早く脱出しないと!」
「いや、ここは屋上、煙が到達するのは一番遅いはずだ。ここで助けを待った方が賢明だな」
そしてユニは、ヒナの両肩を強く叩いて言った。
「でも、それでも、二人とも助からないんなら……その時はおれがキミを守るから!」
「ユニ……」
ヒナの心の、燃え尽きたと思っていた感情が、再び燃え始めた。
「それと、黒幕が来たらしいな……」
放火犯の男が、ついに屋上へやって来た。
この男が犯人であるという確証はユニにはなかった。
だが、男が自動発火装置に火炎放射器という武装スタイルだったので、ほとんど目星がついていた。
「さっき屋上に人がいるっていう話を聞いて来たんだ。おれと一緒に帰ろう」
とても火炎放射器と自動発火装置を持っている男とは思えない、穏やかな口調だった。
「帰るって、どうするんだ?煙の中に突っ込むのか?それこそ自殺行為だぞ」
ユニがキッパリと言う。
「助かりたいんならここでおれ達と助けを待つべきだ」
ユニはそう続けた。
男は青筋を立てながら叫ぶ。
「うるせェな……。おれは英雄になるんだよ!子供二人を救おうとしたが力及ばす死んだ悲劇の英雄になァ!」
「そんな事の為に、火事を起こしたの!?」
ヒナが言う。
「黙れ黙れ黙れェ〜!おれの邪魔をするなァ〜!」
男は火炎放射器を二人に向けると、思い切り火を放射した。
「お前らは英雄の礎になるんだ!ありがたく思え!」
「危ない避けろ!」
ユニはヒナを庇いながらその火炎放射を避けた。
「避けた!?」
「生憎、おれは普通の女子高生じゃないんだよ」
男に向かうユニ。
男は慌てて火炎放射器を向けるが、何もかもが遅かった。
男は、ユニの飛び蹴りを顔面に叩き込まれて吹き飛ばされた。
「畜生……このつまらん世の中を……変えてやろうとしたのに……」
そう言い残し、気絶する男。
「お前に変えられる程、世の中は甘くねェよ……」
ユニは男にそう吐き捨てるのであった。
その後ユニ達は、駆けつけたレスキュー隊員に救助された。
当然男は、放火や不法侵入などの罪によって現行犯逮捕、火事も一階の一部を焼いたのみで消し止められた。
当然授業はできないので、ユニ達はそのまま帰る事になった。
「避難訓練どころか、本当の避難になっちゃったな」
藤香が呟いた。
その後、警察の捜査や焼かれた部分の建て替え、生徒教職員の心のケアなどを目的とし、一週間程学校は臨時休校になった。
そんなある日、瀬楠家を誰かが尋ねてきた。
「私です」
尋ねて来たのはヒナだった。
「ヒナ……」
「ごめんなさい!」
ヒナは深く深く謝罪した。
「え?」
動揺するユニ。
「私、あなたを傷つけてしまって……それにあの放火犯の動機が『つまらなかったから』っていうのが自分と重なったんだ」
「そんな事……」
ユニはそう呟く。
「もしかしたら、私もあんな風になってたんじゃないかって」
「ヒナ……」
「私をそこから、助けてくれてありがとう。だから……」
ヒナは長く手を伸ばして言った。
「もう一度私と、付き合って下さい」
ユニはその手をしっかり取るとこう言った。
「ああ。喜んで!」
悪魔との契約条項 第百二十三条
受肉した悪魔は、普段よりも弱体化する。
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