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契約その12 最高のsmile!

 かくして一位となったユニ達は、最高の気分で帰路に就いた。


 当然車はない為、帰りは電車である。


 すでに日が西に傾いており、車内を眩く照らしていた。


 その車内で、七海はふと呟いた。


「先生にも、私達の走り見せてあげたかったなあ……」


「……」


 ユニは意味深に黙っていた。


 そんな時、アキがふと思い出した様に言った。


「そうだ。そういえばさ、ユニ達なぜか私達を先に行かせたよな。あれって何があったんだ?」


 ユニ達は回答に困ってしまった。


 そもそもあれはルーシーのいわば「超感覚」と言うべきもので、犯人を察知したからである。


「あーえっとそれは……」


 ルーシーが回答に窮していると、ユニがそれをかき消す様に言う。


「トイレだよトイレ!いやーあの時はかなりの揺れだったからさ、おれ達二人、膀胱にダメージ?負っちゃってさァ!慌ててトイレ探して大変だったんだ」


 あまりに苦しい言い訳だったが、ルーシーはそれに乗っかり、まるで痙攣するかの様にガクガクと頷いて見せた。


 みんなとりあえずこれ以上の詮索はしなかったが、独断専行はかなり危険だとわかった二人だった。



 さて、無事大会も終わり、また日常が戻って来た。


 ユニ達の県大会突破という実績は、学生や教職員の多くが知る事となり、新たな部室をあてがわれる事となった。


「女子総合陸上部」は多くの新入部員に恵まれる事となり、もはや停部や廃部の心配はない。


 この結果を以ってユニの計画は完遂されたのだった。


 しかし、まだ問題がある。ある日の放課後、ユニは一人で空き教室となった旧部室にある人を呼び出した。


「来てくれましたか」


「何だよ。こっちは車の買い替えとかで色々忙しいんだぞ」


「あなたに、話があって呼びました。岩倉先生」


 ユニが呼び出したのは、「女子総合陸上部」顧問の岩倉友児だった。


「何だ話ってのは。授業についてか?お前は成績がいいから……」


「単刀直入に言います」


 ユニはその言葉を遮って言った。


「自首して下さい。岩倉先生」


 次の瞬間、岩倉はハッとした顔をする。


「何の話だ」


 岩倉は言った。


「とぼけないで下さい。私はあの日、実行犯となった女子生徒から直接話を聞きました」


「話……?」


「はい。あなたが金を渡して、自分達に自分の車をパンクさせたんだと」


 岩倉は黙っている。


「もっとも、私とて彼女達を信用しているわけではないので、こうやって直接あなたに接触したわけですが」


 それを聞いた岩倉の体が小刻みに揺れる。明らかに動揺している様だった。


 しばらくすると落ち着いて、岩倉は冷静に言い返す。


「……そんな事して、一体おれに何のメリットがある。こっちは新車壊されてんだ。むしろ弁償して貰いたいぐらいだ」


「メリットか……それはあなたに言われないとわかりませんけど、例えば……『自殺』とか?」


「!?」


 岩倉は明らかに動揺した。


「証拠はあるのか?」


「明らかに動揺している、その態度が証拠になりませんか?本当にシロなら、ただの生徒の戯言だと聞き流せばいいじゃないですか」


「……」


 岩倉は黙ってしまった。


 ユニは続ける。


「それと、他の先生方にアンケートを取ってみた所、あなたは常に『仕事がきつい』『死にたい』と漏らしていたとか」


「だから女子生徒を巻き込んで交通事故に見せかけて自殺しようとした……。でも死にきれなかった。私にはなぜ関係ない女子生徒を巻き込もうとしたのか、わかりかねますけどね」


 岩倉はハァ……とため息をつき、言った。


「やっぱ悪い事はできねェモンだなァ……。ああそうだよ。おれがあいつらを利用してお前らを道連れに自殺しようとした。謝っても許される事じゃないが……すまなかった」


「……お話を聞かせて貰えませんか?」


 ユニは、部室内に放置されていたイスに座って言った。


 岩倉の方は立ちっぱなしで、自分の心の内を語り出した。


「おれは教師になる事が夢だった。憧れだったんだ。だから努力の末に教職免許を取って、念願の教師になった」


 ユニは、岩倉の話を黙って聞いている。


「でもな、夢だった教師の世界は、闇だった。毎日夜の十時まで働かされ、休みもない。さらに給料も高くない。おれは、教師になってから、教師という仕事に絶望したんだ」


 岩倉は二、三歩ユニの方に近づいて言った。


「お前がこの件に関わったのはなぜだ」


「大切な人の夢を叶えて、幸せにしたかったからです」


 ユニは胸を張って言った。


 それを聞いた岩倉はユニの方に背を向ける。


「いいか、瀬楠。夢を叶える事が必ずしも幸せとは限らないんだ……!夢を夢のままにしておけば、少なくともおれは、こんな事にはならなかったはずだ……」


 岩倉は、再びユニの方に向き直って、言った。


「だから夢ってのはな、叶えようと努力している時が一番幸せなんだ!」


 叫び出した岩倉に、ユニは思わずビクッとする。


『夢』が『現実』に変わった時、自分の思い描いてた夢とのギャップに苦しむ事になる!」


「夢を叶えて、長寺は果たして幸せか?大きくなった『女子総合陸上部』の制御に苦労する事になるだろうな。結果が出ない可能性もある。それでも彼女は、自分の事を幸せと言えるのか!?」


「それは彼女次第だ」


 ユニは一蹴する。


 それを聞いた岩倉は、一転して穏やかな顔になる。何か憑き物が落ちた様だった。


「……そうだよな。そりゃそうだよな。……わかったよ。お前の言う通り自首する。迷惑かけたな。すまなかった」


 岩倉は再びユニに謝罪した。どこか教師の顔に戻った様だった。


 岩倉は部室を去ろうとする。その姿を、ユニは呼び止めた。


「あの……一ついいですか?何であの時、私達を助けようとしたんですか?無理心中なら、パンクさせた後、超スピードでどこかに突っ込めば済んだ筈だ」


 岩倉は、ゆっくりと口を開いた。


「さあな……。おれにもよくわからん」


 そう言い残すと、岩倉は去っていった。



 翌日、全校集会で岩倉先生が一身上の都合で学校をやめる事になった事が発表された。


 しかし、そこに隠された真実を知る者は、ユニと、後で事情を聞かされたルーシーのみである。



「女子総合陸上部」はその後も快進撃を続け、全国大会ベスト8という結果を残した。


 正規の部員ではないユニ達は、全国大会に参加する事はできなかったものの、その勇姿を深く目に焼きつけたのだった。


 忙しい部活の合間を縫って、ユニは七海に聞いてみた。


「七海、夢を叶えて、キミは本当に幸せか?」


 七海は答える。


「勿論!」


 その嘘偽りのない笑顔に、ユニもまた、頑張った甲斐があったと思うのだった。



 その後……。


「はァ!?一緒に住むゥ!?」


 ある日、七海がスーツケースを持って訪れた。


「そう。やっぱりみんなとずっと一緒にいたいなって思って。ダメかな」


「いやまあ、部屋はまだ残ってるし、別にいいけど……。そもそも家隣じゃん。同居する意味はあまりないと思うけど」


 ユニの言い分はもっともである。


「それでも!だって私……」


 七海はユニに近づいて、言った。


「あなたの事が好きになっちゃった!」


「……!」


 三人は、言葉にできない程驚いた。


「だから、これからもよろしくね!」


 七海は、とびきりの笑顔を見せたのだった。


「これはまた、騒がしくなりそうだな……」


 ルーシーはため息をつきながら、思ったのだった。


 悪魔との契約条項 第十二条

悪魔にも、秘密にしておきたい事はある。

読んで下さりありがとうございます。

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