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契約その116 皆の者!infantilizeせよ!

 待ちに待った大型連休の最初の日の朝。ユニ、ルーシー、七海、ルア、丁井先生の五人は、レッスン室で汗を流し終えた。


 毎朝レッスン室で軽く汗を流す事が、ルアのルーティンとなっている。四人はその付き合いなのである。


「四人共ありがとうね」


 ルアがお礼を言う。


「気にしないでよ。運動しないと体がナマっちゃうし」


 七海が言った。


 その時、誰かの携帯が鳴る。ユニの携帯である。


「メッセージが来てたな。由理からだ。『高級ロールケーキ買ってきたから食べてもいいよ』だってさ」


「ホントか!?楽しみ!」


 それを聞いたルーシーは、リビングへ駆け出して行った。



 リビングに来ると、ダイニングテーブルに何切れかのロールケーキが置いてあった。おそらくこれだろう。


「うはっ!ちょうどいいな。酒の肴にピッタリだ」


 丁井先生はそう言うと、冷蔵庫から何本かビールの缶を取り出してきた。もうすっかり自分家の様にしている。


「いっただきまーす!」


 五人はそのロールケーキにむしゃぶりつく。


「うん、うまい。やっぱり高級は違うな」


 そう感想をもらすユニ。


「そう言えばさ、冷蔵庫にもロールケーキらしき箱がしまってあったぞ。ビール取り出す時に見たんだ」


 冷蔵庫を指差しながら丁井先生が言う。


「たぶんだけど、これの余りなんじゃないですか?」


 ロールケーキを食べながらルーシーが言った。


「でも何でテーブルに出しっ放しにしてたんだろう」


 七海が言うが、五人にはわからなかった。


「ふう……もう一切れ……」


 ユニがロールケーキを一口口にした、その時である。


「あー!何を食べてんのじゃ!」


 由理、アゲハ、みすかと一緒に買い物に行っていた紫音が叫ぶ。


「え?このロールケーキか?余りならさっき冷蔵庫に……」


「違う!()()じゃないんじゃ!」


「?」


 頭にはてなマークが浮かぶ五人。


「私、ロールケーキ買ってきてから買い物に出かけたんだけど、冷蔵庫にしまったっきり出してないけど?」


 そもそも夏なのに腐りやすいものを出しっぱなしにするわけがないと由理が言う。


「じゃあ、このロールケーキは何なんだ?」


 ルーシーが聞く。


 紫音が言う。


「それは、ロールケーキの様でロールケーキではない……人を若返らせる、その名も"ロー()ケーキ"じゃ!」


「ロ……"ローリケーキ"だと!?」


 五人は驚愕の表情を浮かべる。


「ああ。人にもよるが目安として一切れにつき五歳若返る事になるんじゃ」


 紫音が説明を始める。


「原理としては、摂取した生物の遺伝子情報を破壊、書き換え、作り変える。その過程で生じた老廃物は空気中の元素と結びついて……」


「とどのつまり、どういう事だ?」


 説明が長くなりそうだったので、話をぶった斬ってルーシーが聞く。


「人にもよるが、一切れにつき約五歳分、肉体、及び精神の退行を引き起こす事になる。要は幼児化するんじゃ」


 それを聞いた五人は絶句した。


「元に戻す方法は!?」


 慌ててユニが聞く。


「能動的にはない。時間経過で戻る。だいたい三日か……この点がネックになって、開発も凍結されたから処分しようと置いておいたものを……」


 紛らわしい所に置いた自分が悪かったと、紫音は謝った。


「三日!?私これから仕事なんだけど!」


 ルアが嘆いた。それを聞いた紫音は、それはこっちで何とかすると言うのだった。


「食べた数はどれくらいじゃ?」


 紫音が聞く。


「アタシは……四切れだな」


 指折り数えながら丁井先生が言う。


「おれと七海は二切れだな。でもユニはそれに加えて一口食べてた。ルアは二切れと半分だと思う」


 ルーシーが言う。


「つまり、先生が三歳、ルーシーと七海が六歳、ユニは……四、五歳だと思う。ルアは先生と同じで三歳ぐらいじゃろう」


 紫音が伝える。


「でも、まだ特に体に変化は……」


 体のあちこちを触りながらユニが言う。


「そんなに早くは効かないぞ。おそらくこれから……」


 紫音が言いかけたその時である。


 ドクンッ……!


「何だこの感触……!」


「胸がだんだん苦しくなって……」


 次々と体の不調を訴え始める五人。


「変化が始まったんじゃ!」


 紫音が叫ぶ。


「後は頼むぞ……。紫音」


 ユニはそう言い残す。


 五人はどんどん体が小さくなり、着ていた服に埋もれて見えなくなった。


「変わったんですか?」


 みすかが聞く。


「ああ。おそらくな」


 紫音が言う。


 しばらくして、服の山から小さな女の子が五人、這い出して来た。


 全員しっかり幼女になったのである。


「えっと……とりあえずまずは服じゃないですか?」


 ルアを抱き抱えた後、みすかが言う。


 動いたのは由理である。


「わかった。古着をハンドメイドして作ってみる。アゲハ、協力してくれる?」


「おーけー!」


 二人は急いで服の製作に着手した。


 残された紫音とみすかの二人は、慣れないお守りをする事になった。


「あででで!引っ張るな!ツインテールを!」


 七海に自分の髪を引っ張られまくる紫音。


「痛ったい!噛みつかれた!」


 みすかは丁井先生に指を噛みつかれた。


「なんてお転婆揃い……これ、わしらが持たないんじゃないか?」


 髪や服を引っ張られてボロボロにされながら紫音がぼやく。


「アニメ見せましょう。『マニキュア』を」


「マニキュア」とは、この世界における人気女児アニメである。


「確かに、そっちの方がよさそうじゃ」


 紫音も頷く。


「はーいみんなー!アニメを見ましょうねー」


 みすかは五人にそう言い聞かせながら、動画配信サービスから『マニキュア』のアニメを検索して、五人に見せる。


「仕方ないとはいえ女児の全裸は色々マズいので……」


 みすかはそういうと、ブカブカではあるが元の服を着せたのだった。


 とりあえず今の所はアニメを見てくれているので、五人のお転婆にてんやわんやする必要はなくなった。


 ほっとひと息つきながら、みすかは先程から気になっていた疑問を紫音にぶつける。


「そういえば、ルーシーって千歳ぐらいなんでしょ?何で数切れで幼女になってんですか?」


 確かに、二百切れ程食べないと効果は出ないはずである。


「わからんが、おそらく肉体の問題じゃろうな。女子高生の肉体に精神が持っていかれたのじゃろう」


 紫音が自らの見解を述べた。


「しかし、確かに興味深いのう……実験段階で悪魔がローリケーキを食べる事はなかったから……」


 紫音はメモを取りつつつぶやいた。


「一体、これからどうなるんでしょう……」


 そんな紫音に呆れながらみすかがぼやいた。


 そんな彼女達の苦悩などつゆ知らず、五人は無邪気に「マニキュア」に見入るのでだった。


 悪魔との契約条項 第百十六条

悪魔の精神は、その肉体に左右される。

読んで下さりありがとうございます。

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