契約その112 みすかが望むafter this!
その週の週末。両親からの許しを得て、みすかも瀬楠家へ引っ越してきた。
「えっと……改めて……これからよろしくお願いします……」
みすかはやけに小さい声で挨拶した。
「うん。よろしく」
ユニ達は、「声が小さい」などと咎めたりはしなかった。
そんな事言っても、彼女の為にならないからである。
「部屋は地下を使ってほしい。基本的に好きな様に模様替えしてもいいから。よろしくね」
ユニが笑顔で言った。
「へやっ!?はっ!はいっ!」
みすかは慌てて荷物を置きに行くのだった。
そんなみすかの部屋のドアを叩く音が聞こえた。
ドアを開け、どなたですか?と聞くみすか。
そこにいたのはアゲハだった。
「ちょすちょす!みすやん!」
「ミスヤン?って誰ですか?」
みすかは聞き返す。
「何って、あだ名だよー。『みすか』だから『みすやん』ね!」
「あだ名」という言葉を聞き、みすかは悶えてのたうち回った。
「あだ名……。わぁぁぁぁ!あだ名!あだ名!生まれて初めての!あ・だ・名ァ!」
「ありがとうございます……!ありがとうございます……!長年の夢が叶いました……。ずっと『前賀さん』だったので……」
土下座で感謝を述べるみすか。その様子に、さすがのアゲハも少し引いた。
「いや……まあ……そんなに喜んでくれるならウチも嬉しいけど……」
「しかし!一体何の目的で私の元に……」
土下座のポーズのまま、みすかは顔を上げて聞いた。
「えー?理由がないとダメ?」
「はわぁっ!いや!決してダメというわけでは……」
このコミュ力モンスターにみすかはタジタジになり、アゲハから目を逸らしながら言う。
その時、アゲハはハッとして手を叩いて言った。
「そうだ!みすやんはショッピングは好き?」
「へ?まあ……」
目を逸らしながらみすかが言う。
「だったらさ!一緒にショッピング行こうよ!」
「いいんですか!私なんかが!」
アゲハの圧倒的な聖なるオーラに、みすかはただ圧倒されるのだった。
その後、二人は「リオン東徐氏堂市店」を訪れる。
ここは以前、服が欲しいユニとコーディネートしたいアゲハが訪れたショッピングモールである。
二人は、「CLOTHES-DRAGON」という店を訪れた。世界中に展開しているオシャレな服屋さんである。
「最近気になる新作が出てねー。ほら!ワンピース!」
アゲハは、みすかにワンピースを広げて見せた。
みすかはそれを見ながら感想を漏らす。
「ワンピースで一番食べたい悪魔の実は『スケスケの実』です!」
「?」
トンチンカンな事を言うみすかに、アゲハはキョトンとする。
「うわァ〜〜!間違えたァ〜〜〜!」
みすかは店舗の壁におでこをガンガン叩きつけ、反省する。その様子は、周囲の人達の目も惹きつけていた。
勿論その直後に目を逸らされたが。
「芽ヶ森さんが言ってんのは服の方!テンパリ過ぎたァ〜〜!」
「えっと……大丈夫?」
みすかの奇行に、アゲハは心配しながら言う。
「いえいえ。これはクソザコな私に対する禊です。ショッピングを続けましょう」
みすかは何事もなかったかの様にショッピングを再開するのだった。
「ありがとうございましたー!」
店員の言葉を背に受け、二人は店を後にした。
「いやーたくさん買えてよかったねぇ」
アゲハが言う。
「そうだ!この近くにクレープのお店があってね……」
みすかはアゲハに連れられる形でクレープ屋さんを訪れるのだった。
店の前に着くと、アゲハはみすかに何がいいか聞いてくる。
「あ……いや別に!私は何でもよろしい事よ!」
「あはは。面白いねぇ。みすやんって」
みすかが笑いながら言った。
「面……白い!?」
そんな事初めて言われた!とみすかはやはり悶えた。
やがてアゲハが二人分のクレープを持ってきた。
「お待たせ!チョコとストロベリーにしたけどどっちが……って、何やってんの?」
アゲハが見たのは、人目も憚らず悶えているみすかの姿だった。
「いや〜。本当に面目ないです。私の悪いクセでして……」
みすかは頭を掻きながら謝罪した。
手頃なテーブルに座った二人は、そこでティータイムをする事にする。
「大丈夫大丈夫!だって慣れてないんでしょ。こういう事に」
アゲハは、ストロベリーのクレープをみすかに渡しながら言った。
「そ……そうですね……あまりホメられ慣れてないというか何というか……。親からもその性格を治してこいと叩き出されましたし」
みすかはクレープを小さくかじる。
それを聞いたアゲハは、うんうんと頷きながら聞き、それから口を開いた。
「そっか……でもね、たぶんユニならこう言うと思うんだ。『大事なのはキミがどう思うのか』だって」
「私が?」
みすかが聞き返す。
「そう。だから、これから決めていけばいいと思う。本当にこのままでいいのか……ってね」
「私が……。わかりました!」
みすかは、その言葉を深く心に刻み込んだのだった。
家に帰ると、ユニが待っていた。
「あ、帰ったか二人共」
みすかは、帰ってくるなりユニに抱きつく。
「みすか……?」
動揺するユニに、みすかは語りかける。
「ユニさん。私、実は憧れてたんだと思います。ストーカーなんかして……。私もそこに入れて欲しかったんだ」
「だからお願いします。私と、付き合って下さい!変かも知れないけど……」
ユニは、みすかの体を優しく抱きしめた。
「!?」
赤面するみすか。
「ああ。勿論だ。幸せにする」
みすかの目から熱いものが流れる。
そして二人は、熱い口付けを交わすのだった。
悪魔との契約条項 第百十二条
かつての自分から脱皮し、一歩踏み出せるのかどうかは、その人次第である。
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