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契約その11 勝利へのrunning!

「あっ来た!」


 七海が指を指す方から、ユニとルーシーが走ってやって来た。


 まさに時間ギリギリだった。


「わーよかったァ!でもどうして間に合ったの?」


 七海の質問に、ユニが答える。


()()()()が送ってくれたんだ」


 一応ウソは言っていない。


「とにかく急がないと。時間が来ちゃう」


 みんなは急いでエントランスへ向かうのだった。


 時間がなかったので、荷物を指定の場所に置いたらすぐ会場入りである。


 出場校数は全部で二十校。その内リレーに参加するのは十五校で、上位二校が県大会へとコマを進める。


 せめてそこまで行ければ、「実績を作れた」と言えるだろう。


 しかし、対戦校の選手達は、一目見ただけで皆強者である事がわかる。


 いくら才能があるとはいえ、素人に毛が生えた様なユニ達では太刀打ちできないのは火を見るより明らかだ。


 しかし作戦はある。それは並び順である。


 ―――大会前日のミーティングにて―――


 ユニが黒板に絵を描き、作戦の説明をし出した。


「いいか、まず経験者の七海がなるべくリードを取る。相手もおそらく強いが……取れるか?」


 ユニが確認する。七海は強く頷いた。


「よし。そして二番手は、アキだ。確実に次に繋いでほしい」


「わかったァ!」


「そして三番手が、アゲハ。おれ達三人素人チームの『中継ぎ』を担当してほしい」


「おれには、キミがみんなにとりわけ一生懸命合わせようと努力している様に見えたからな。一番重要なポジションだ」


「当然っ!ギャルはチームワークだもんねっ!」


 アゲハは胸を張る。


 ユニはそれを見て強く頷く。


「そして四番手がおれ。そしてアンカーが、ルーシーだ。一番の俊足だからな。よろしく頼むよ」


「ああ、任せとけ!」


 ルーシーは強く言い放ったのだった。



 以上がユニと七海が考えた、「個々人の個性を活かした並び順」である。これ以上の並び順はなかった。


 大会はつつがなく進行していき、いよいよユニ達が出場する「団体リレー」の時間がやって来た。


 トップバッターは七海。前述の通り、そこでなるべくリードを取る作戦である。


 スタッフがピストルを片手にやって来た。どうやら彼が合図を出すらしい。


「位置について!よーい……」


 ドォン!


 そのスタッフがピストルを上空へ撃つと、それを合図に選手が一斉に飛び出していった。


 作戦通り、先頭で抜け出したのは七海だった。その速さはまさに矢の如しであった。


 他との差はどんどん広がっていく。後続は混戦状態、どこが二位に浮上してもおかしくない。


 まもなくカーブに差し掛かる。


 七海は内側に軽く体を倒し、このカーブをトップスピードで乗り切ろうとした。


 よし行ける!誰もがそう思ったその時、信じられない事が起こった。


 運命のいたずらか、あるいは緊張によるものか、何と七海は足を滑らせてしまった。


 七海の体はそのまま内側に倒れ、ズダァーン!という激しい音が聞こえた。


 待機している仲間達は、この衝撃的な出来事に一様に叫ぶ。その横を、無情にも後続の選手が追い抜いていった。


 それでも七海は諦めず、次の一瞬で一気に立ち上がると、また走り出す。


 一気に最下位に落ちたが、まだ逆転は可能な距離だ。汗か、もしくは涙か、水を滴らせながら七海は走った。


 ようやく第二走者のアキにバトンが渡った。渡す直前、「ごめん」と七海が伝えると、アキは一言「任せろ」と呟いた。


 アキからは、涙で濡れた七海が見えた。それで更なる闘志を燃やしたアキは、普段以上の力を出す。


 何と二、三人を抜く事に成功した。

 第三走者はアゲハ、叫び声を上げながら向かってくるアキに、彼女は若干ビビった。


「うおォォ!アゲハ!行けー!」


 アゲハはその魂を強く受け継ぎ、まるで雷の様な速さでトップに迫る。


 すでに集団は伸び切っており、上位グループ、中位グループ、下位グループに大別できる様になった。


 ユニ達はまだ下位グループ、しかしその集団から抜け出す事に成功した。


 そしてそのままユニにバトンが渡る。


「頼んだっ!」


「任せろォ!」


 ユニは勢いはそのままに、大地を踏み締め、さらに加速する。


 俯瞰で見てみても、他と比べて明らかにスピードが違う事がわかる。


 ユニは中位グループを捉え、その集団もぐんぐんと抜いていく。選手達はその走りと気迫に圧倒されている様だった。


 ユニは中位グループの首位に立つ。その見事な走りに会場の観客も魅了されている様だった。


 そしてアンカー、ルーシーにバトンが渡る。


「ルーシー!行けェ〜!必ず勝てェ!」


 ユニは力の限り叫んだ。


 ルーシーは悩んでいた。「悪魔の力」を使う事についてである。


 そもそもルーシーの故郷である魔界には、「『悪魔の力』を人間界でみだりに使用しない事」という暗黙のルールがあった。


 ルーシーが悪魔である事を知っているのも、同居しているユニと由理のみである。


 しかし、上位グループとの差は激しい。


 人間態でも優れた運動能力を待つとはいえ、悪魔の力抜きで上位二位に入れるとは思えなかった。


「ごめん、ユニ……」


 ルーシーは心の中で呟くと、少しだけ「悪魔の力」を解放するのだった。


 元々、悪魔と人間には隔絶した差がある。


 悪魔は、古来から自分達より力が劣る人間を、「契約」という形で娯楽として消費していた。


「願いが叶う」という甘言に踊らされ、振り回され、破滅していく様に興奮し、賞賛を浴びせた。


 勿論「ルシファー」もその一人だった。しかし、その契約で人間に惚れ、「ルシファー」は「ルーシー」になった。


 そして今は人間の為にその力を使った。


「魔界の連中はどう思うかな」


 しかし、今のルーシーには、そんな事どうでもよかった。


「悪魔の力」を解放したルーシーは、どんどん上位グループとの差を縮めていった。


 その姿はまさに「電光石火」という言葉が相応しいものだった。


「うおあァァァ!」


 ルーシーはさらにギアがかかる。いつの間にか上位グループに入り、首位争いを演じる。


 その勝負にも勝ち、見事首位でゴールテープを切ったのであった。


 喜びを爆発させて駆け寄る仲間達。


 当のルーシーは、その勢いのまま思い切り顔面からダイブしてしまった。


 喜びは心配に変わり、慌てて駆け寄る仲間達。ルーシーは顔面を擦りむいたものの無事だった。


「痛てて……」


 転んだルーシーをチームメイトが抱き起こす。


「やった!すごいよルーシー!」


 アキは興奮しきった様子で言う。


「ウチらのれんしゅーのタマノモだねっ!」


 アゲハもVサインを出した。


「よく頑張った。みんな……」


 ユニは感慨深げに語る。


 しかしただ一人、泣き出しそうな者がいた。


 七海である。


「みんな、ごめんなさい。あんな大事な場面で転んで……迷惑かけて……」


「……」


 七海の心情を察したのか、みんな黙り込んでしまった。


 口を開いたのはユニである。


 ユニは七海を抱いて言った。


「謝るな。キミは頑張った。キミが頑張らなくちゃ、ここまでのチームはできなかった。誇れ。キミの功績だ」


 その言葉に、七海は堰を切った様に泣き出した。


 ただの子供の様に、いつまでも泣いていた。


 悪魔との契約条項 第十一条

「契約」とは、人間を破滅させて楽しむ、悪魔の娯楽の一種である。

読んで下さりありがとうございます。

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