契約その109 Flowerよりdumpling!?
三月になり、気候もだんだん暖かくなってきた。
以前からユニ達は、春休みを利用してのお花見を計画していたのだが、三月二十日の今日、いよいよそれを実行する事にした。
「これでよし……と」
ユニは大きめのレジャーシートとお弁当を運ぶ役目をする事になった。
「準備できたぞ。いつでも出発できそうだ」
ユニは、以前使ったホバーボードに乗りながら言った。
背中にはお弁当の入った大きなリュックサックにレジャーシートを背負っている。
「場所取りとか大丈夫なの?この時期、どこも人だらけで場所取りするのも一苦労ってテレビでやってたけど」
由理が言う。
「なーに心配いらぬ。わしの発明品"場所鳥"が場所取りしてくれてるからな」
大船に乗ったつもりでいればいいと紫音が言った。
とはいえ心配ではある。なのでユニ達は早めに行く事にした。
さすがに午前五時に行けば人もいないだろうという話になり、午前五時頃に中央公園にやってきたユニ達だったが、甘かった。
中央公園の大きな桜の木の下は、絶好のお花見のターゲットであり、実際ユニ達も狙っていた。
しかし、どこもかしこも人だらけで足の踏み場もなかったのである。
「何だこれ……"場所鳥"はどうなったんだ?」
辺りを見渡しながら、ユニは紫音に聞いた。
「それが……」
紫音はどうにか"場所鳥"を回収していた。紫音が言うには鳥のサギ型のロボットだったらしい。
しかし、それは見る影もなく無残に破壊されていた。
「"場所鳥"は場所を奪おうとした人間を追い出そうとする発明品なのじゃが、実力行使はできないんじゃ」
つまり"場所鳥"を破壊してまで場所を奪った奴がいるというわけである。
「いくら場所取りたいからって、得体の知れないロボットをぶっ壊すまでするのか?」
ルーシーが言う。ぐうの音も出ない正論である。
「理由はわからないが、取らなくちゃいけない理由があったんじゃろうな」
"場所鳥"の残骸の残りを回収しながら紫音が言った。
しかし、もはや中央公園にレジャーシートを広げる場所はなかった。
仕方がないので、ユニ達は片っ端から公園へアタックを仕掛ける事にした。
数の利を生かした人海戦術で場所取りを狙ったのである。
「それと、みんな気をつけてな。こういう場所だとスリが多発するから。まあ一応対策はしてあるが……」
別れ際に、紫音が言った。
そして彼女達は各地に散っていった。
「ここは無理なのです」
「同じくこちらも!次に拙者はどこに行けばいいんでしょうか?」
彼女達の連絡が入る度に、ユニが持つ地図上の公園の位置にバツ印が入る。
「大きい公園は無理っぽいな……」
バツ印が入った地図を見ながら、ユニはため息をついた。
それもそのはず、表だった公園にはもうすでに、全部バツがついているのである。
「わかった。小さい公園も対象にしよう。でも、中には宴会禁止の看板があるから注意する様にな」
ユニが言った。
その時、ユニはドンと誰かにぶつかられた。
「……すみません」
帽子を深く被ったその人物は、それだけ言うと去っていった。
「……何だアイツ」
ユニはそう思ったが、今は場所取りの方が大事である。
ユニも、各地の公園を巡っていくのだった。
しばらくして、何とかレジャーシートを広げられそうな場所が見つかったという連絡がルーシーから入る。
ユニ達は、その場所で合流する事にした。
お花見の会場として選ばれたのは、「すぎの公園」という小さな公園である。
一応小さめの桜の木はあるが、それ以外は何もないという公園だった。
弁当やレジャーシートは、全てユニが持っているので、ユニは他の人より早めに行った。
「ここか……」
現地に着くと、すでにルーシーがいた。
「いやーよかったな場所が見つかって」
ルーシーが言う。
二人はレジャーシートを広げ、重箱に入ったお弁当を準備する。
そうこうしていると、他の彼女達も集まり出し、花見が始まった。
「えーっと……それじゃあ……乾杯!」
乾杯の音頭を取るユニ。それに合わせて彼女達もジュースで乾杯するのだった。
花見が始まると、花を見る者は誰もいなかった。
矛盾している様に見えるが、みんな料理に集中しているのである。
「『花より団子』って言うんだよな……こういうの」
ユニはぼやいた。
お弁当を食べ終わったものの、まだ足りないという彼女達。そこでユニは、食料の買い出しに出かける事にした。
「なるべく早くなー」
ルーシーが言った。
「ああ心配するな。ここに財布が……ない!?」
慌ててユニは自分のズボンのポケットを全て確認する。
しかしどこにもなかった。
「まさかスリに……」
アキが言う。
「そうだ、あの時だ!さっきなんか変な男にぶつかられて……そこでスラれたんだ!」
あの財布は、ユニにとってかけがえのない大切なものなのである。
今すぐその男を探しに行こうと飛び出そうとするユニ。それを紫音は止めた。
「待つんじゃユニ。こういう時の為に対策を打っておいたんじゃ」
「対策?」
ユニは聞き返す。
確かに、さっきそんな事を言っていた様な気がする。
「財布の様な貴重品にはな、事前に発信機をつけておいた。情報を送ったから、スマホから位置がわかる筈じゃ」
ユニは自分のスマホを確認する。確かに、赤い点が中央公園を移動している様に見える。
「これか……ありがとう。行ってくる!」
ユニは中央公園へ向かって走り出したのだった。
その頃、ユニの財布をスッた男は、予想外の収穫にご満悦の様子だった。
男は茂みに隠れると、待っていたリュックからたくさんの財布を地面にボトボトと落とす。
ユニ以外にも被害者がいた様だ。
「特に一番は、あの女の財布だな。年の割には溜め込んでやがる。さてもう一稼ぎ……」
次なる獲物を求めて、男が立ち上がった次の瞬間だった。
さっき財布をスッた女、ユニがものすごい形相でこちらへ向かってきた。
「何でここが!?」
男が動揺するのも、ユニは構わなかった。
「おれの財布……返しやがれやァ!」
スリ犯の顔面に勢いよくドロップキックをぶち込むユニ。
「どばァ!!?」
男は目測で二十メートル程吹き飛ばされ、気絶した。
ユニは自分の大切な財布を優しく拾い、土を払いながら言う。
「金以外にも……この財布は彼女達が誕生日プレゼントにくれた宝物なんだ。全部返して貰うぞ」
早速ユニは警察へ連絡した。
男は駆けつけた警察にアッサリ逮捕され、財布も元の持ち主へ全て返されたのだった。
その後、ユニは大きなレジ袋を携えて彼女達の元へ帰ってきた。
「はい、買ってきたぞ。お菓子とかサンドイッチとかおにぎりとか」
戻ってきたユニの元に、彼女達は駆け寄った。
ユニは言う。
「やっぱり団子もいいけど花もいいな」
ユニと彼女達は、桜を楽しみながら飲食する事にした。
「桜といえばさ、おれ達もそろそろ進級だな」
「一年後も、いや現実が許すまで、こうやってみんなで桜を見に行きたいな……」
ユニは呟く。
そう呟くユニに、ルーシーは意味深な視線を向けていた。
そしてみんなは、時間が許す限り、桜を見物するのだった。
悪魔との契約条項 第百九条
悪魔と人間は、寿命が違う。
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