契約その108 作れ!Valentine chocolate!
お正月から、またしばらく時間が経った。
時期は二月の十三日、バレンタインデー前日になった。
しかしユニは、どうにも複雑な気分だった。
「ねェ、おれって『貰う側』なのかな。それとも『あげる側』なのかな」
ユニはルーシーに聞いてみた。
体は女子でも、心は男子のままなので、どっちとして振る舞えばいいのかわからなかったからである。
リームは、それは確かに複雑な問題だとした上で、こう言った。
「『貰う側』と『あげる側』、両方やればいいんじゃないか?今じゃ女子でも貰う人が増えてるって言うし」
俗に言う「友チョコ」という奴である。女子だからって、あげる側のみやるというわけではないのだ。
「それは確かにそうだ」
ユニは納得した。
しかし、それだとまた大きな問題があった。
それを解決するべく、ユニは由理に頭を下げて頼み込んでいた。
「頼むっ!おれにチョコ作りを教えてくれ!」
「え〜!一体どんな風の吹き回し!?」
由理は、昨日までユニがチョコを貰える事を嬉々として話していた事を知っていた。そんな彼女が『チョコを作りたい』とは。
驚いた由理は、ユニに恐る恐る聞いてみたら。
「一応聞くけど、まさか他に好きな男の子ができたとか、そんなんじゃないよね」
それを聞いたユニは、笑いながら言った。
「まさか。女の子を好きになる事はあっても、男を好きになる事は多分今後もないと思うよ。だって人格男だもん」
「そっか。そうだよね。よし。そういう事なら……」.
安心した由理は、「由理のお料理教室」を敢行する事にした。
手作りのチョコをプレゼントしたい他の彼女達も参加する事にした。
あつまったメンバーはユニ、ルーシー、藤香、紫音、どれみ、メイの六人で、あまり料理ができないメンバーだった。
みんなエプロン姿で準備万端である。
講師たる由理が言う。
「まず第一に、市販のチョコを溶かす所からね。お鍋にチョコを入れて、火をつけて少しずつ溶かしていくの」
由理はそう言うと、鍋に買ってきたチョコを入れて、IHにかける。しばらくするとチョコが溶け出した。
「あまり熱を与え続けると今度は焦がしちゃうから気をつけてね」
由理が忠告するのだった。
次はみんなでやる番である。
その前に、紫音は何やらリモコンを操作し、IHの数を増やした。
まさかそんな機能が……と驚くユニ達に対し、紫音は「たくさんの料理を作る為の機能じゃ」と語った。
IHの準備もでき、ユニは大きな鍋を取り出し、これまたたくさんのチョコレートを投入した。
「ちょっと入れ過ぎじゃない?」
由理は心配する。
「大丈夫だって。だっておれ、十三人全員にチョコあげなくちゃいけないんだぞ?」
「まあ確かにそうかも知れないけど……」
由理は納得した。
しかし心配は心配である。特にユニは。とにかく不器用なユニは、マトモに料理を作れた事がなかった。
「本当に大丈夫かな……」
心配する由理。その不安は的中する事になる。
最初は持ち前の体力を活かしてかき混ぜていたユニだったが、次第にヒートアップしてくる。
「よーし!この調子で……」
ユニのかき混ぜるスピードが早くなってきた。
「ねェ思うんだけど……ヤバくないかこのパターン」
経験者であるルーシーは言った。
「ヤバいって?」
聞いてくる彼女達に、ルーシーは続ける。
「こういう時ってだいたい……」
ルーシーが言いかけた時、それは起こるのだった。
突然鍋のチョコレートが急激に膨らみ始める。
「え!?わ!どうなってんのこれ!?」
動揺するユニ。
しかし、もう遅かった。
ドッ……カァーン!!
キッチンを覆い尽くす程の大爆発に、ユニ達はなす術もなく巻き込まれた。
やがて黒煙が晴れると、キッチンでは黒コゲのアフロになったユニ達が仲良くぺたんと座っていた。
そんなユニ達が目をパチクリとさせて、ぶはっ……と口から煙を吐き出すと、黒コゲになった服がボロリと崩れた。
「どうして料理だとこんなにポンコツになるの?姉さんって」
黒コゲになった由理が呟く。
みんなを巻き込む形になったユニは、ごめんとただ謝る事しかできなかった。
その後、煤だらけになったキッチンとユニ達は、ルーシーの「悪魔の力」によって修復された。
それからは由理の指示の元各々が手作りチョコを作り、いよいよ当日の二月十四日を迎えたのだった。
「……というわけで、ハッピーバレンタイン!」
彼女達は、ユニに一人一人手渡ししていった。
「ありがとうみんな」
ユニがお礼を言う。
「みんなで示し合わせて、めちゃくちゃ甘くしたんだ。たぶんキミにしか食べれないと思う」
アキが言った。
「それでいいよ。ありがとう」
じゃあおれも……と、ユニもまた、袋に入ったチョコレートを一つ一つ丁寧に取り出していく。
「これって……」
ハート型のチョコに、それぞれ文字が書かれている様だった。
その出来栄えを危惧していた彼女達だったが、普通においしそうな出来である。
「市販の奴にチョコペンで書いたんだ。手作りとは言いがたいかも知れないけど……」
「嬉しいしおいし〜!」
「嬉しおいし〜!」
「嬉おいし〜!」
嬉しいのと、安心と、普通においしいのと、異なる三つの感情に挟まれ、彼女達は泣きながら食べていた。
「そんなに泣く程うまいモンだったかな……」
ユニはその光景に驚いていた。
ユニもまた、彼女達のチョコレートを一口ずつ食べる。
「うん。おいしい」
口の中に甘い味がゆっくりと広がった。
悪魔との契約条項 第百八条
魔界にも、バレンタインの文化がある。
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