表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/299

契約その107 Top idolの帰る場所……!

 ルアの思いの力を得たユニは、より大きな悪魔の翼や角が生えるなど、先程と比べてより強そうな雰囲気に変化した。


「何だこの雰囲気は……」


 その迫力に、対峙した「悪魔」はたじろいだ。


 ユニは、一瞬消えた様に高速で移動した。その速さは、「悪魔」すら視認できないものだった、


「消え……」


 次の瞬間、「悪魔」にユニの前蹴りがクリーンヒットする。


「!!?」


 何が何だかわからず、大きく吹き飛ばされる「悪魔」。


「まったく見えない!」


 続いてユニに顔面にドロップキックをぶち込まれる「悪魔」。


「ぐ……」


 間髪入れずに、「悪魔」は今度は掌底を食らって吹き飛ばされる。


「すごい……『悪魔』を圧倒してる……」


 由理が呟いた。


「でも結構息が上がってるみたいだ」


 アキの指摘通り、人間の器で「思いの力」を受け取るのには制限がある。今はギリギリの状態を保っているだけである。


「大丈夫だ。その前にこいつを倒す……」


 ユニは再び「悪魔」を殴り飛ばした。


「『悪魔』!何やってんの!たかだかそんな子供一人に……」


「一人じゃない!」


 母の言葉を、ルアが遮った。


「あの子には……恋人がいる……!あなた達とは違うんだ!自分しか見えてないあなた達に、負けるはずがない!」


「少し見ない間に……ずいぶんと反抗的になったわね」


 母は心底不快そうに呟いた。


「ユニは絶対勝つ……!見ときなさい」


 ルアはまっすぐな目でユニの戦いを見るのだった。


「ハアハア……こんなはずは……たかだか()()()()が集まった所で……」


 自分が追い詰められているという事実を、「悪魔」はまだ受け止め切れずにいた。


 信者の大半をルアに取られ、自分への「思いの力」が弱まっているのである。


「ハァ……そういや、お前にはまだ()()があったな……」


 戦いの最中、ユニは「悪魔」に問う。


「借り?何の事?」


「悪魔」はよくわかってない様である。


「理解してないなら教えてやるよ。まず一つ、ルーシーを傷つけた事。二つ、ミズキを攫った事。そして最後に、おれの彼女を『ゴミクズ』呼ばわりした事だ」


「うるさい!お前らさえいなけりゃ、『思いの力』で、人間界を支配する事もできたんだ!」


「悪魔」が叫ぶ。


「仮におれ達がいなくても、結果は変わらねェよ……」


 ユニは今度は後ろ回し蹴りをかまして、「悪魔」を大きく吹き飛ばした。


「ゼェゼェ……くっ……」


「悪魔」は膝をついた。


「トドメだ!」


 ユニは軽やかなバク転を繰り返しながら「悪魔」に近づくと、その勢いのまま踵落としを脳天目がけて叩き落とした。


「ゴッ!」という鈍い音がして、「悪魔」はそのままうつ伏せに倒れ、気絶した。


「ハァ……ハァ……それで済んでよかったな……」


 ユニは、倒れた「悪魔」にそう声をかけたのだった。


「やったァ〜〜!」


 ユニに駆け寄る彼女達。


「タイムアップか……」


 ユニがそう呟くと、「悪魔の力」が彼女の体から抜け、元の姿に戻ったのだった。


 ユニも限界だったのか、ガクっと地面に膝をつくと、そのままうつ伏せに倒れようとする。


 その体をすんでの所で受け止めたのは、ルアだった。


「お疲れ様。そして、ありがとう」


「ハァ……ハァ……いいさ。気にするな」


 和気あいあいとした雰囲気のなか、ただ一人納得しない者がいた。


「どういう事なの……?あの『悪魔』が敗れるなんて……そんな……どうして!?どうして!?どうして!?」


 ルアの母である。彼女はしきりに「どうして!?」と繰り返していた。


 もはや発狂一歩手前の精神状態に追い詰められている様だ。


 その様子を見ていたルアは、そんな彼女に言った。


「かわいそうな人……」


 それは侮辱したわけでもなく、悪意もない、精一杯の同情だった。


 しかし母は、その言葉に憎悪に顔を歪ませて叫んだ。


「『かわいそう』だと!?お前……娘の分際で!この私に同情するのか!ゴミクズめ!お前に!私の何がわかる!?」


 母は、折りたたみ式の警棒を取り出すと、それでルアの頭を思い切り殴り飛ばした。


 ガァン!という激しい音。ダラダラと頭部から出血しながらも、ルアは憐れむ様な顔を崩さなかった。


「ルア!てめェ……」


 ユニは一瞬、ルアの母に手が出そうになったが、その手を全力で押さえた。


 母娘の問題だとわかっていたからである。


 今度はユニが見守る番だった。


 ルアは自分の母に近寄ると、ギュッと強く抱きしめた。


「何を……」


「あなたにこういう事、一度もした事なかったから」


 それを聞いた母は、さらに憤慨した。


「それで愛してるつもりか!?まだわからないのか!私はお前を愛してないんだよ!この……」


 母はルアを引き剥がそうとするが、ルアは彼女をガッシリ掴んで離さなかった。


「私だってあなたの事なんて愛してない。今の私には友達がいる。恋人がいる。それが今の私の全てだから」


「何だと!?」


 ルアの母はさらに憤慨する。


「だからこれは、愛なんかじゃない。あなたへの慈悲……」


「だからそれを……やめろって言うんだよ!離せ!このバカ娘!」


 母はまた激怒し、どうにかノアのハグを振り解いた。


「ハァ……ハァ……私の野望が……願いが……!うわぁぁぁ!」


 仰向けに倒れ、手足をジタバタとしながら暴れるルアの母。ついに発狂してしまったのだ。


 その時、ウーウーとパトカーのサイレンが表から鳴ってきた。


 信者の誰かが呼んだ警察だった。


 数人の警察が、ユニ達を取り囲む。


「『新興宗教ルアの会』、その代表だな!?」


 警察の問いかけも、すでに発狂したルアの母には届かなかった。


 抵抗する事なく、そのまま捕まるルアの母。


 それにルアは駆け寄り、何か言葉をかけようとしたが、母はそれを睨んで拒否した。


 そのまま警察に連行されていくルアの母。結局、わかり合う事はできなかったのだった。


「お母さん……」


 ただ呟く事しかできないルアを、今度はユニが優しく抱きしめた。


 やがてユニ達の存在に気づいた警察官の一人が、ユニ達に駆け寄って言った。


「そういえばキミ達、負傷しているじゃないか。急いで病院へ……」



 その後、病院で手当てを受けたユニ達は、仲間達の待つ神社へと帰ってきた。


 最初は忙しかった巫女仕事だが、帰ってきた時にはだいぶ客足も落ち着いてきた様だった。


「帰ってきた!おーい!」


 留守番組が駆け寄る。まず、彼女達は頭部に大きな包帯を巻いたルアに驚いた。


「ちょっ……大丈夫!?これ」


 心配するアゲハ。


「大丈夫大丈夫。幸い傷跡は残らないみたいだから。残っちゃ今後に影響しちゃうよ」


 そう自分で言いながら、ルアはかつて自分が負った火傷の跡を思い出す。


 その跡とも、いよいよ向き合う時が来たのかも知れない。


 巫女仕事も終え、みんなは瀬楠家へ戻ってきた。


「ふう……やっぱりここか……私の帰ってくる場所は……」


 ルアはそう呟いた。


 その後、ルアの母の裁判が始まった。責任能力が認められれば、重い刑罰になるのは必至である。


 ルアが頭部を負傷した事に、事務所はぶったまげていたが、「自転車に乗っていたら転んだ」という事にして、予定通り三が日明けから仕事に復帰した。


 包帯が取れた時から、ルアは自分の火傷の跡を隠さない様にしていたが、ケガがあったのでそれを指摘してくる者はいなかった。


「本当によかったのか?キミのお母さんとはわかり合えないままで」.


 数週間が過ぎてから、ユニはルアに聞いてみた。


「うん。いいのもう。だって私には友達が、何よりあなたがいるからさ。それを今回で再認識できた」


「そうかそれは……よかった」


「ギュッとしてよ、ユニ」


 ルアはハグを求める。


 それを快くOKしたユニは、ルアを優しく抱きしめた。


 決して振り払う事のない、優しいハグだった。


 悪魔との契約条項 第百七条

どんな人間にも、悪魔にも、帰るべき場所がある。

読んで下さりありがとうございます。

いいね、感想などをよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ