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契約その104 私は生まれながらのidol!

「しかし、何なんだコイツら」


 ユニは額の汗を腕で拭いながら言う。


 ユニの巫女服の袴が、スリットの様になって破れていた。


「動きにくいから」とやむなく自分から破ったのである。


 ユニの側には、ユニに倒された黒いローブの男達の体が転がっていた。


 ルーシーとミズキが「悪魔」の襲撃を受けた同時刻、ユニ達も黒いローブを羽織った謎の男達の襲撃を受けた。


 だが、ユニ、紫音、ルアの三人は、彼らを難なく撃退しており、そこは問題なかった。


 しかし、ユニは他の彼女達が心配だった。彼女達が襲撃されている可能性もあるからだ。


 その事を紫音に言うと、紫音はしっかりした口調で言ってのける。


「大丈夫じゃ。これまでの傾向からこういう事が起こるのは予想していた。じゃが急いで救援に行った方がよさそうじゃな」


 それを聞いたユニ達は、急いで他の彼女達の元へ向かうのだった。


 一方その頃、アゲハとアキのコンビもまた、謎の男達の襲撃を受けていた。


「どうだ!剣術なら得意だぞ!」


 どこで拾ったか不明の鉄棒を剣に見立て、アキは次々と男達を倒していた。


「紫音が渡してくれたこの『追い払い御幣』?っていうのも便利ー」


 御幣とは、要するに神主さんがよく振っているアレの事である。


 この発明品は、テキトーに振るだけであらゆる危険から使用者を守ってくれるものである。


 攻撃のベクトルを変えて逸らす事ができるのだ。


 紫音はこれを全員に持たせていた。使えば不審者からも身を守れるからである。


 この「追い払い御幣」とアキの剣術のお陰で二人は何とか窮地を脱する事ができたのだった。


「よし。アゲハ、終わったぞ。急いでみんなと合流しよう」


 二人は慌ててみんなの元へ駆けつけるのだった。


 数十分後、集まれる者達全員が集まる事ができた。


 ユニはすぐに異変に気づく。


「ルーシーとミズキがいないな。まさか……」


 二人がいたであろう場所はわかっていた。


 悪い予感がしたユニ。ユニ達は、社務所の方へ急ぐのだった。


「まさか……」


 ユニの悪い予感は的中してしまった。


 地面にはルーシーが仰向けに横たわり、ミズキの姿はどこにも見当たらなかった。


 ユニはすぐさまルーシーを抱き抱えると、必死に呼びかけた。


「おいルーシー!しっかりしろ!ここで一体何があったんだ!」


 呼びかけに答え、ルーシーは何とか意識を取り戻し、ぽつりと呟く。


「悪魔だ……」


「悪魔!?」


 それを聞いたみんなは驚く。


 確かに、ルーシーを倒した相手がいるとしたらそれしか思いつかない。


 それにルーシーの頭部の傷、後頭部にコブがある様だ。おそらく不意打ちで後ろからガツンとやられたのだろう。


「ごめん……守れなかった……。ミズキは連れ去られた……その『悪魔』に……」


 ルーシーは悔しさに顔を歪ませた。


「気にするなよ。相手が悪魔だったんなら、誰がいても結果は同じだった。守ろうとしてくれてありがとう」


 ルーシーを抱きしめながら、ユニはお礼を言った。


「ミズキを攫った『悪魔』と、僕達を襲った黒いローブの男達は、たぶん仲間だろうな。男達は陽動で、ルーシーに悪魔をぶつけたんだ」


 藤香が推測した。


 おそらく、その推測は正しい。


 そもそも準備できる攻める側と準備できない守る側でこっちが不利だった事もあるが、相手の方が一枚上手だったのだ。


 だが肝心な事がわからない。その「悪魔」と男達は一体どこの誰で、そして今どこにいるのか。目的は何か。


「そいつらが誰なのかはわかる」


 口を開いたのはルアである。


「……?」


 ユニ達は驚いてルアの方を見る。


「こないだ萌絵と体が入れ替わった時、私が萌絵としてファンミーティングに言ったでしょ?その時の周囲の服装とさっきの男達の服装が同じだった」


「……!」


 ユニ達は戦慄した。


「じゃあつまり、ミズキが攫われたのって……」


 ユニが確認する。


「うん。私と間違えられた可能性が高いと思う」


 ルアは確信を持って頷いた。


「そういう事だったのか……」


 ルアは話を続ける。


「あのファンミーティングは、むしろ新興宗教の様な雰囲気だった。私を勝手に讃え崇める集団かも」


「じゃあその時のファンミーティングの場所に行けばいいんだな」


 ユニが聞くと、ルアは頷くのであった。


 ここでだいたいの目的が決まった。


 まず本来の仕事である巫女さんをやるグループと、ミズキを取り戻しに行くグループに分ける。


 巫女さんをやるグループは、ルーシーの看病も兼ねるのである。


「おれも行きたいな……」


 ぼやくルーシーを、みんなは止めた。


「ダメだ。治療に専念しないと」


「じゃあせめて、『悪魔の力』をユニに渡しとくよ。いざという時には使え」


 ルーシーは、ユニの方に両手を突き出してユニに力を渡した。


 渡されたユニは、何だかくすぐったい様な感覚を覚えたのだった。


「『悪魔の力』は基本的に人間には居着かない。だから使い所が大事だから注意してほしい」


「わかった。気をつける」


 ルーシーの忠告を、ユニは素直に受け取った。


「よし。じゃあ戦闘要員はミズキを取り戻しに、戦えない者は引き続き巫女の仕事をやっていこうか」


「各々!目的を果たすんだ!」


「おーっ!」


 発破をかけるユニに、彼女達は拳を上げて応えた。


 そんな中、一人後ろめたい気持ちでいた者がいた。


 ルアである。


「また、ウソついちゃったな」


 ルアは、自分が攫われかけた理由を知っていた。


 自分の母親である。


 零細新興宗教を運営していた母は、ルアを自分の理想の通りになる様に育てた。言う事を聞かなければ暴力を振るった。


 そして、幼くして「神童」とされたルアを、自分の宗教の偶像(アイドル)に仕立て上げたのである。


 やがて、度重なる暴力に耐えきれなくなったルアは、出奔した。


 トップアイドルとして君臨するのは、事務所に拾われた後の事である。


 そして今、縁を切ったはずの親が、自分に接触してきた。


 ケリをつける時が来たのかも知れない。自分の過去に。


「言うべきだよね……。その事を」



 当然ながらルアは、救いに行くグループに割り振られていた。


 彼女を、仲間を救う戦い、そして自分の過去にケリをつける戦いが、始まろうとしていた。


 悪魔との契約条項 第百四条

悪魔自身が認めれば、「悪魔の力」を一時的に譲り渡す事は可能である。

読んで下さりありがとうございます。

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