契約その10 ユニのpunkへの怒り……!
「車ありがとうございます。先生」
七海がお礼を言う。
「いいって事よ。こんぐらいしか役に立てねェからな」
ユニは、この先生について思い出していた。
確か名前は「岩倉友児」だったはずである。日本史教師で、ボサボサの髪に不精ヒゲが特徴の三十歳ぐらいの男性。
この人が顧問だったのか。
ユニはこの教師の授業を受けていたのでわかった。見た目とは裏腹に案外ノリがよく、生徒からは人気の先生である。
バスを借りる程の部費はないので、今回自家用車を出してくれた。
しかし助手席に七海が座るとして、残り五人はその後ろに座る事になるので、中々窮屈である。
「それじゃ行くぞ。出発!」
車は勢いよく発進した。発進した時、「ガガガッ」という何やら不吉な音がしたが、走行に問題はない様だ。
時間には余裕を持って出発していた。少し前には到着できるはずだ。
しばらく行くと、車が曲がった。国道に入ったのだ。しばらく道なりに進む事になる。
しかし運転する男の人、何だかかっこいいな……。ユニは思わず思ってしまった。
我に帰り危うく男にホレかけた事を後悔する。その様子を、事情を知らない者達は不思議そうに見つめるのだった。
その時である。「バァーン!」という何かが爆発する様な音がした。次の瞬間、車内が大きく揺れる。
「キャー!何が起きたの!?」
騒然とする車内。
「マズイ!路肩に止めるぞ!しっかり掴まれっ!」
先生が指示を出す。車はガードレールに車体を擦りつけながらも何とか止まった。
「ふー止まった……。大丈夫かみんな……」
先生が全員の安否確認をする。とりあえず全員大丈夫そうだ。
とりあえずハザードランプをつけ、全員が車から降りる。
「車大丈夫ですか?」
ユニが聞く。
「いやーこりゃダメだ。タイヤがパンクしてる。一週間前に買った新車なのについてねェな……」
タイヤの様子を確認しながら、先生はため息混じりに呟いた。相当落ち込んでいる様だ。そりゃそうである。
「一週間前に買った新車なら、勿論タイヤも新品のはずですよね?それがいきなりパンクするなんてあり得ないと思いますけど」
由理の言う事はもっともである。
「じゃあ、誰かがパンクさせたって事か!?」
アキが言う。
「どうやらそれで間違いないみたいだ……」
何かを見つけたユニが言った。
「……!?これってまさか……」
ユニが見つけたのは釘である。
「おそらく犯人は、車のタイヤに少し釘を刺しておいたんだろう。出発した時の妙な音はそれが原因だったわけだ。釘はタイヤが回転すると共にどんどん深く刺さっていき……最終的には……」
「パンクを起こしたって事?」
七海が言う。
そういう事だとユニは言った。
「それで!どうするんだ!車はもう走れないし、このままだと……」
アキが最悪の状況を言おうとしたその時である。
「待って!見つけた!代わりのルート!」
突然アゲハが叫ぶ。
さっきからスマホをすごいスピードで触っていたと思っていたら、代わりのルートの検索をしていたのである。
「えっとね、ここから少し行った先に駅があって、そこから電車でこの駅まで行って、路線バスに乗り込めば……」
「ギリギリ間に合う!」
全員で声を揃えて言った。
「よし、早速出発だ!」
先生はレッカーを待つのでここで別れる事になった。あんなにいい人なのにあまりにも不運である。
彼には幸せになってほしい。ユニはそう思うのだった。
その時、何かに気づいたルーシーが、ユニに耳打ちをする。その瞬間、ユニの顔が曇り、怒りに震えた。
「悪いみんな。先に行っててくれ」
いきなりの発言に、みんなは驚いた。
「ちょっと何でだよ!私達ギリギリの人数しかいないわけだからさ、一人でも欠けたら出場できないんだぞ!?」
アキが言う。
「必ず追いつく。絶対間に合わせるから!」
そしてユニは走り出した。
「待っておれも行くぞ!」
それをルーシーは追いかけていった。
「ちょっと!」
七海の静止も聞かず、二人は走り去っていった。
「お前の『悪魔の感覚』によれば、この辺なんだな?」
「うん、たぶんな」
ルーシーはユニの剣幕に少しビビりながら言う。
ここは目立たない路地裏である。身を隠すにはちょうどいい所だ。
まあ隠す必要はないと当人らは思ってるんだろうが……。
そう思うと今すぐそいつらを殴り倒したくなる衝動に駆られるユニだった。
仇を見つけ出すのに、そう時間はかからなかった。
案の定堂々としていたからである。
「オイお前らァ……一体どういうつもりだ?」
ユニ達が見つけたのは、「元晴夢高校女子陸上部」のメンバーである。クーデターによって放逐された方の。
リーダー格と思しき少女が言う。
「誰かと思えば……そこの内藤について来た子じゃん。今日大会でしょ?こんな所にいていいの?」
「とぼけるなァァ!」
そのあまりの剣幕に、周りの少女達も思わずビビる。
ビビりながらも、リーダー格の少女は続ける。
「でもよかったじゃん。大した事故じゃなかったし、あなた達も全員無事でいられるわけだし」
その言いぐさに、ルーシーも少しムッとした。
「何で事故が起きた事とおれ達が無事だって事を知ってるんだ?」
揚げ足を取られたリーダー格の少女はつい黙ってしまう。
「しかも事故が起こったのは国道だ。今回は幸い大事には至らなかったが……一歩間違えれば大事故……お前らは運がよかっただけだ!それに何より……マジメな人間の夢の道を!バカにするなァァ!」
かつて、七海はユニに夢を語った。「女子の陸上部を再び盛り上げる事」である。
その邪魔をした者達を、ユニは許す事ができなかったのである。
ものすごい怒りで迫ってくるユニ。その迫力に、リーダー格の少女は腰を抜かしてしまった。
ルーシーは、その姿をまるで本物の悪魔だと感じた。しかし、やり過ぎる前にユニを制止する。
「ダメだユニ。少し落ち着け!これから大会だ!そんな興奮状態じゃ、勝てるものも勝てないぞ!」
ルーシーの制止で、ようやく落ち着きを取り戻したユニ。リーダー格の少女は涙目になりながらへたり込んでいた。
「わかったわかった!全部言うから!命だけは取らないで!」
それを聞いたユニは驚く。
「オイ全部ってどういう事だ!?」
「どういう事って、さっき自分で言ってたでしょう!?『何で自分達が無事なのを知っているのか』って!ある人に頼まれたからなんです!」
「何……!?」
少女は全てを洗いざらい話した。それは、ユニ達にとってとても残酷な真実だった。
しかし、それを知ったとしても会場へは急がないといけない。
ユニは、ルーシーの悪魔の力を使って、会場へ急ぐのだった。
悪魔との契約条項 第十条
人間にも、ごくまれに悪魔の片鱗を見せる者がいる。悪魔との関連性は不明である。
読んで下さりありがとうございます。
いいね、感想などをよろしくお願い致します。