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夜明けが君に届くまで  作者: ちる
第一章
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26話 男子高校生と写真と親友からの追及

 友人達と昼食を囲んでから、何だかんだ馴染みの場所になりつつある体育館と更衣室を繋ぐ廊下へとやってきた。

 もう別に夕鶴との連絡にコソコソとしているわけではなく、寒さ対策みたいなものだ。


 毎日恒例となりつつある夕鶴ゆづるからのメッセージは、昨日の話を聞かせろと言っていたのに連絡できなかったことへの文句だろうと予想していた。

 けれど、開いてみれば予想に反して俺の体調を心配する文章が書かれていた。


『倒れたんだって? 大丈夫?』

『浮かれてないでちゃんと寝ろ!』

『昨日の話はまた今度ね。逃げるなよ』


 最終的にはいらない釘を刺す一言が入っているあたり、夕鶴らしくはある。

 可愛い絵文字を文末につければ脅し文句がマイルドになると思ってるのか?


『今は平気、ありがとう』

『今週はもっと寝るから、夕鶴は期末の勉強に集中しててくれ』


 あわよくばそのまま忘れてくれますように、と祈りつつ返事を送った。


 授業間の休憩中に赫夜かぐやへ送った、今日家に来ると親に言ったらしいことを確認するメッセージには既読も付いていなかった。

 夜中にむしを追い掛けてるんだから、昼間は寝ているかもしれない。

 可能性を考えると追加で送るのは止めておいたほうが良いだろう。


 連絡がつく時間帯をあらかじめ聞いておけば良かったと思ったが、昨日の感じだとまたいじけてしまいそうなので暇な時間は何時かとは問いにくい。



 必要な連絡を終えてスマホをポケットに仕舞い、大きく腕を上げて伸びをした。


「で、わざわざついて来て何の話したいの?」


 ちらりと、俺の横に座っている竜へと視線を送る。

 昼を食べ終わって移動する俺の後ろを先週同様ついて来た竜は、なにか言いたげにしつつも律儀に俺の連絡返しが終わるまで隣で黙って座っていた。


 どうせろくな話じゃないだろうとは感じるが、大人しく待っていたのだから聞いてやらんこともない。


「高月さんのお姉さんのことマジで好きなのお前?」

「……教室帰っていいか?」


 聞かなければよかった。


 それ、俺が「はい」って言うまで続くやつじゃないんだろうか。

 頭が痛くなってきて、もう聞きたくないと両耳を抑えて主張する。


「そのネタ使って俺で遊ぶの、夕鶴だけでもう十分だからやめろよ」

「友人として本気で聞いてるんだよ」

「友人なら聞かないという選択肢も持てよ。そして選べ」


 いつもよりは真面目な口調だが、だからといってこの話に付き合う気はない。


「俺も最初に聞いた時はこっそり後ろで見守っておくかと思ったんだけどさぁ……なんつうか、正気? っていうか」


 竜は首筋を掻きながら、さり気なく俺に吐いた暴言の言葉尻を濁している。

 見守られる筋合いもないが、そのまま黙っていれば良かったものを。


「正気かってなんだよ。俺の好き嫌い以前に失礼だろ」

「いやー、そうなんだけど。あの人は狙うには高すぎないかと俺は思うわけよ。だから、高月さんが本当に冗談言ってるだけなのかなとも考えちまってさ」


「…………ん?」


「あ……でも、よく考えたら、朝来が憧れてた夢の金髪美少女ってお姉さんのことか! なら俺も本気で応援するわ!」


 バシバシと、竜は力強く俺の腕を叩く。

 振動で後ろの壁に頭をぶつけたが、その痛み以上に気になる部分ができて、それどころではなかった。


「竜、なんでそんな向こうのこと知ってるような言い方……」


 ぎこちなく竜の方へと首を曲げる。

 ギギと錆びついた音が出そうなほど俺の動きはきっと硬かっただろう。

 竜はそんな俺の顔を見ておらず、スマホを操作して俺の目の前に一枚の写真を差し出した。


「この人だろ? 高月さんのお姉さん」


 液晶画面の中では、淡い金色の短い髪をしたきれいな少女が微笑んでいる。

 紛れもなくそれは、赫夜だった。


「なんで?!」


 驚きのあまり、竜の手首ごと掴んでスマホの写真を凝視する。


「なんでもなにも、高月さんとメッセしてた時に、『お姉さんてどんな人か、写真とかあります?』って聞いたら送ってくれたんだよ」


 竜は俺に押されるように若干身体を横に引きながら答えた。

 夕鶴か……冷静に考えればそこしか出どころがあるはずない。


 写真の赫夜は、ふわふわと柔らかそうな素材の白いルームウェアらしきものを着て、ソファの上で膝を抱えて座っている。

 撮影者である夕鶴へと微笑みかける顔は、普段よりも幼げに見えて可愛い。

 彼女達の日常の一コマなのだろうけれど、きれい過ぎる赫夜の笑顔は広告写真と言われたら信じてしまいそうなほどだ。


「……わかった、わかったから手を離してくれ」

「……あ、悪い」

「お前まじで気が付かねえのかよ……」


 竜の呆れたような声が聞こえて我に返る。

 いくら友人とはいえ、男にがっちりと手を握られていたら確かに気持ちが悪い。

 素直に謝って手を離した。




「朝来、この写真は横流ししてやるから、お前はトイレに寄って鏡見てから教室に帰ってこい」


 竜は手を離すとすぐに勢いよく立ち上がり、俺にまるで忠告するかのように人差し指を突きつけて振ってみせる。

 高月さんも折り込み済みだろ、と呟いた言葉が少し気になった。


「何? ソースとか付いてる?」


 これでなんとかならないものかと、手首で口元を拭う。

 竜は目を伏せながら首を振る。意味が違うのか拭いきれていないのかは判断できない。


「見ればわかる。言ってもいいけどお前キレるから言いたくねぇ」

「……なんだよ言えよ。俺が短気みたいじゃん」

「既にイラッとしてるじゃねぇか……顔が赤いからそのまま帰ると変に思われるぞ」


 竜の発言に、自分の目が大きく見開いていくのを感じた。

 むしろ、その指摘によって顔に熱が集まっていく感覚すらある。


「昨日熱が出てたんだよ!」


 だから誤解だと、俺自身少し苦しいとわかりつつも言い切った。


「でも、写真いらないとは言わねーんだろ?」

「……っ」


 じろりと目を細めながら言われて言葉に詰まる。

 俺が何も言い返せなくなると、竜はそのまま無言で立ち去っていった。


 しばらくして、ポケットの中でスマホが震えた。

 そっと取り出して通知を見れば、先ほどの宣言通り竜から写真データが送られてきていた。


 もうすぐ午後の授業が始まるから、これは見られない。

 直に指摘されたせいだろうか、写真のデータの存在を意識するだけで、耳のあたりが熱く感じる。


 今、俺の顔はどれくらい赤いのか。

 走って教室に駆け込めば、朝みたいに息が切れただけってことにならないかな。


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