5話 スキルと魔法
スキルを持っているであろう予感はあった。
最初に草原に立ったときに感じた得も言われぬ力。若返ったから、と自分を納得させていたがあれはそう、異質だった。
スキルが発していた力、と考える方が自然だろう。
だがしかし、まさかここまでとは⋯⋯。
目の前に現れた3つのスキル。それを目にした瞬間、その詳細が頭に流れ込んできた。
受付はスキルもピンキリと言っていたが、スキルを自覚した今なら確認せずとも理解る。俺が得た3つのスキル、その全てが数多あるスキルの中でも最上位だと。
⋯⋯特にカタログ、こいつはやばいな。その気になればこのスキルだけで世界のバランスさえ壊せるだろう。
「お、その顔はスキルがあった顔だね〜!」
「えほんと!?ジン君凄いじゃん!!」
表情の変化に受付が目ざとく気付く。ポーカーフェイスを貫くつもりであったが、そのスキル達のあまりのオーバースペックについ緊張が漏れてしまったようだ。
⋯⋯いや違うな。半日前までの俺なら例えこれらのスキルを目の当たりにしてもポーカーフェイスは崩さなかった。⋯この世界に来てから心に小さくない隙が出来ている。
疲れや戸惑いも原因の一端ではあろうが、それより何より、この見た事も無い新しい世界に浮かれているのだ。
『死神』ともあろうものが情けないが、認めなくてはならない。認めなければ次に繋げることも出来ないのだから。
改めて二人を見ると、俺が得たスキルが何なのか聞きたそうにこっちを見つめている。
俺は観念した顔を作ると、
「⋯⋯アンナには後で教えるよ」
「え〜!わたしにも教えてよ〜!ケチ〜」
「もっと仲良くなったらな」
「ケチ〜!!」
ぶ〜ぶ〜言う受付を無視し、その場を後にした。
「ねージン君、なんで受付の人にはスキル教えないの?」
冒険者登録受付は3階にある。そこから地下の酒場へ向かう為階段を降りていると、アンナがそう問いかけてきた。
「うーん⋯⋯教えてほしそうにしてたからかな」
「うわ、いじわる〜」
「はは、まぁそれにスキルって才能なんだろ?あんま信用できない人に自分の才能をポンポン教えるのもどうかなって思ってさ」
「あたしはいいの?」
「姉貴分ですから。それにしても腹減った〜。喉もカラッカラ」
「確かに!ジン君記憶取り戻してからまだ何も食べてないんでしょ?」
「なんにも」
「じゃあ今日は楽しみにしてて、あたしの一押しメニュー頼んだげるから!おいっし〜よ〜!」
「そりゃ期待しちゃうね〜。⋯お、着いたかな?」
階段を降りた先にはまるで扉のような、どでかいウエスタンドアがあった。右側の壁にはこれまたでかでかとジョッキの絵が描いてある。
「開けるよ?」
「どーぞ!」
扉を押し酒場に入ると、そこは熱気に包まれていた。
広い酒場だ、にもかかわらず半分以上の席が埋まっている。親しまれているのだろう。俺達も適当に空いている席に座る。
やはり冒険者とは血の気の多い職業らしい。喋り声や笑い声、時に歌声や怒鳴り声が大音量でひっきりなしに耳を揺さぶってくる。
「盛況だな」
「いつもこんなもんだよ。ところでジンくん、お酒はイケるくち?」
「試さないとわからないな」
「じゃあ試してみよう!おーい!!」
アンナが立ち上がり手を振ると、それを見つけた店員が近寄ってきた。
「アンナー!久しぶりじゃーん!」
「ソフィー!こないだ来たばっかだよー!」
会うなりハグする二人。どうやらアンナとこの店員は仲がいいようだ。
「あれ?この子誰?初めてみるけど新人さん?」
店員がアンナの肩越しに俺を見つけたので、俺も立ち上がり、ペンダントを見せながら挨拶をする。
「新人冒険者のジンだ、アンナに色々と教えて貰ってる。よろしくソフィ」
「わたしはソフィア、呼び方はソフィでいいよ!こちらこそよろしくね!」
「ソフィは怒ると恐いから怒らせないようにね!」
「ん?なんか言った?」
「なんにも〜」
こいつめー!とまた少しの間じゃれ合った後、ソフィアはようやく注文をとる体制に入る。
「オレンジビーレ2つにワイルドサーモンのカルパッチョも2つ、あとフォレストピッグのステーキとロックシュリンプのフライ、それとホーンウルフのシチューも!」
「ビーレはすぐ?」
「もっちろん!」
「オーケー!じゃあ急いで持ってくるね!」
言うが早いか、ソフィアは厨房へと消え、1分もしないうちに戻ってきた。その手にはジョッキが2つある、早い。
「はいおまたせー!おかわりするときはジョッキを持ったまま手を振ってね!」
ジョッキには黄金色に輝くビーレが並々と注がれている。いよいよだ、いよいよ水分を口に出来る!!
太陽の照りつける中を半日歩き、短くない時間狼を担ぎ、命の危険にも晒され、カルチャーショックの塊な世界のせいで常に緊張状態。おかげで喉は砂漠と化していた。正直もう音を発するだけで毎回痛い!
風呂場でも喉を湿らすくらいはしたが、流石に飲みはしなかった!全てはこの時の為に!!
ごくり、と、唾も出なくなった喉を鳴らす。
「それじゃあジン君ジョッキを持って!今日の出会いに!」
「「乾杯!!」」
ごくっ、一口目を飲む。
ごくごくっ!もう止まらない。
ごっごっごっごっごっごっごっ!!!
気がついたらジョッキが空になっていた。
その飲みっぷりを見たアンナが尋ねてくる。
「美味しい?」
答えは決まっている。
「最高」
俺は立ち上がり、手を高く掲げてジョッキを振った。
4杯目にしてようやく喉も落ち着いてきた頃、1品目のカルパッチョがテーブルに置かれた。
「これも美味いな!」
「でしょ!?あたし大好きなんだよね〜これ!」
ワイルドサーモンのワイルドな味にレモン風味のソースが良く合う。俺がカルパッチョに舌鼓を打っているとアンナが少し申し訳無さそうに、
「あたしが水魔法使えてたらジン君と出会ったときにお水飲ませてあげられたんだけどね、あたし火魔法しか使えないから⋯⋯」
と言ってきた。
「それなんだけどさ」
「ん?」
「⋯⋯魔法ってなに?」
「⋯⋯魔法も?」
「覚えてない⋯⋯。俺が持っていたスキルが『火属性魔法適性中アップ』だったから火属性魔法は使えるんだろうけど、適性の無い属性の魔法も覚えられるものなのか?」
「え!?ジン君のスキルって魔法適性アップなの!?凄いじゃん!魔法適性アップはスキルの中でも当たりの部類だよ!!それも中アップなんて!!」
1属性の中アップでも当たり扱いなのか。
「俺のスキルって結構凄いんだ⋯⋯。ちなみに一番凄いスキルはどんなスキルなんだ?」
「一番はやっぱあれかな、ユニークスキル」
「ユニークスキル?」
「そう、ユニークスキル。その人だけのオリジナルスキルなんだって。なんでもスキル持ちの中でも1000人に1人くらいしか持ってないらしいよ」
「1000人に1人!そりゃ凄いな。凄すぎてよくわかんねぇ」
「確かに!あたしらには無縁の話だね〜、ってごめん話が逸れちゃったね。魔法についてだったっけ?」
ちょうど頼んでいたロックシュリンプのフライとホーンウルフシチュー、それから新しく頼んだグレープビーレがテーブルに運ばれてきた。オレンジビーレはビールのような味わいだったが、グレープビーレはワインに近いな。
「もしかしたらジン君が運んできたホーンウルフかもね」と言うアンナに、「言われてみたらほんのりアンナの剣の味がする」と返し、アンナが笑ったところで魔法について改めて聞く。
「そもそも魔法ってなんなの?」
「私達の身体にはね、目に見えない『魔力』ってのが宿ってるんだ。それを使いこなすことが出来れば色んな現象を引き起こせる」
言ってアンナは人差し指を立てる。
「例えばこんなふうにね、『ファイア』」
そう唱えると、人差し指の先からボッと小さな炎が点る。もう完全にファンタジーの世界だ。魔法という言葉から予想はしていたが、いざ目の当たりにすると目が点になる。
アンナは「フッ」と息でその炎を吹き消し、
「少し例外な属性はあるけど、魔法はスキルと違って鍛えれば誰でも使えるようになるよ。魔力は全員が持ってるものだから。」
なるほど、魔法自体は特別なものでは無いのか。だが、だとすると一つの疑問が生じる。
「水魔法は冒険者にとってあんま重要じゃないの?」
「重要!超重要!!特に遠征行くときなんかは水魔法使えるかどうかで生存率全然違ってくるからね!」
それなのにどうしてアンナは?俺がそんな視線を向けると、
「うぅ⋯⋯、ほら魔法ってさ、スキルとはまた違った才能が必要なんだよ、、、なんて言うか、イメージ力??」
「イメージ力?」
「うんイメージ力。あたしの場合は火をボーボー燃やすイメージは簡単に出来るけど、手から水を出すイメージは全然出来ない⋯⋯」
「なるほどな〜。手から水か、確かに難しそうだな」
「でしょ〜!⋯でももうブロンズクラスだし、いつまでも苦手だから出来ません!って訳にもいかないよね⋯⋯。そろそろ本格的に水魔法の特訓しなくちゃ⋯⋯」
やりたくは無いのだろう、憂鬱そうに言うアンナ。しかしアンナが特訓するなら渡りに船だ。
「なぁアンナ。良ければその特訓、俺も付き合ってもいいか?」
「そっか、ジン君はそもそも魔法の使い方知らないんだもんね。いいよ!あたしがジン君を火魔法マスターにしてあげる!」
「借りがまた一つ増えたな」
「借りなんていっくらでも作っていいよー!なんたってジン君はあたしの弟分だし!」
「弟分だぁ〜!?」
その言葉に反応した体格のいい酔っ払いがズカズカとこっちに近寄ってくる。アンナの知り合いか?
結構酔ってるな、男はおぼつかない足取りでこちらのテーブルまで来るとテーブルをバン!と叩き、
「兄ちゃんよぉ、アンナの弟分ってのぁいったいどういう了見だ?」
そう言って絡んできた。口元は笑っているが目は笑っていない。
⋯⋯少しめんどくさい事になりそうだ。
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