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死神の英雄記  作者: わにわに
第二章 旅立ち

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6話 到着、鉱山エリア

「ここが鉱山エリア⋯⋯」


 横にも縦にも、他の部屋の倍はあろうかという広大な空間。奥を見ると壁がチカチカと不規則に光っている。恐らく鉱物が光を反射しているのだろう。


「魔物は⋯⋯いないな」


 遮蔽物の無い空間、それでも何が起こるかは分からない。

 少し神経が尖っているな、そう自覚しながらも臨戦態勢は崩すことの無いまま俺は部屋の奥へと進む。





 あれからの2階層はまるで別世界だった。

 辛くも猿達を退治した俺の前に現れたのは、疲弊した美味しい獲物を横取りせんとす魔物、魔物、魔物。


 思えば入り口付近の魔物が少なかったのは冒険者を1階層に逃さない為なのかもしれない。肉体的な負傷は少なくて済んだが、体力と精神は相当に消耗してしまった。もう血も沸かない。疲れた。

 帰りもまたあの道を通らなくてはならないのかと思うと気が重くなるが、


「⋯⋯目的地に着いたんだ。気を取り直そう」


 そう。苦労はしたが、辿り着いたここは目的地鉱山エリア。あとは目的を果たすだけ。

 目的とはダンジョンでしか手に入らないレア鉱物、即ち魔石の入手だ。


「まさか魔石があんなに高いとはなぁ⋯⋯とももう言えないか」


 20万ゼニ。フレディ先生の所で俺が使っていた魔石の値段だ。

 値段を聞いたときは驚いたものだが、なるほど実際ダンジョンに潜ってみればその価格にも納得せざるを得ない。文字通り命懸けの入手難易度なのは肌身に()みた。


「『取り出し』」


 鉱床に着いた俺は右手につるはしを持ち、左手は壁に当て魔力を流す。魔力のイメージは杭だ。1本の杭を真っ直ぐ、出来るだけ遠くまで打ち込むイメージ。


「⋯⋯外れか。次」


 10秒待ったが、杭に変化は見られない。そのことを確認した俺は1m右にずれ、繰り返し同じ作業をする。


「⋯⋯おっ」


 6本目の杭に変化が起きた。手から3m程先だろうか、その部分が淡く右に引っ張られる。それは()()()()()()()だ。

 つるはしを両手に持ち替え、魔力を流し壁を叩く。ガン!と言う音と共に、壁の一部がガラガラと崩れ落ちた。つるはしに施した強化魔法のおかげか、手に振動は反って来ない。


「いい感触だ」


 2振り、3振り、4振り、5振り。調子良く掘り進む。

 3mに到達したところでつるはしを小型のそれに持ち替え、左手で壁に魔力を流しながら今度は慎重に掘り進めると⋯⋯、


「まずは1個目」


 魔力を帯びているせいか、存在感を示す様に淡く光った小ぶりの魔石が、壁から顔を覗かせた。








 魔石はダンジョンの目玉商品の一つだ。

 ダンジョン限定ということに加えその特性故需要が尽きることも無い。更には入手方法も採掘という比較的楽な類であることも人気に拍車をかけている。


 そしてこの目玉商品というのが逆に厄介の種でもあった。


 理由は簡単、もう掘り尽くされているからだ。

 勿論魔石もダンジョンの一部なので魔物同様復活はする。復活はするが、しかしそれがいつ来るのかはランダムだ。いつ来るか分からないリポップの為に毎日足繁くダンジョンに通う。⋯⋯実際やっている者も少なからずいるらしいが、生憎俺にはそれが出来る実力も、そこまで悠長な時間も無い。

 残念だが魔石を手に入れるのはしばらく先の事になるな。そう思っていたのだが、


「本当に俺は運がいい」


『町を脅かすダンジョンの攻略』という緊急事態が発生したこのダンジョンは例外だ。相応の実力ある者が魔石掘りに勤しもうものなら「あいつは町の危機にセコセコ魔石掘ってたセコい奴」という、不名誉な評判が立ってしまう。


 それ故実力者(高クラス)は敬遠し、未熟者(低クラス)は辿り着けない、少し寂しい気もする鉱山(例外)。しかしもし、そこに辿り着ける低クラスがいたのなら。


「これで10個目」


 そこは宝の山となる。











 開始から5時間が経過。魔物の襲撃に備え充分な休憩を取りながらの作業だが、それでも掘り出した魔石は20を越えた。作業は至って順調だ。


「それにしても⋯⋯」


 作業が順調だからと言って気掛かりが無い訳では無い。そしてここはダンジョン、気になるのはやはり魔物の存在だ。

 近くに魔物はいない。いないが、却ってそれが気掛かりとなる。なにせ、


「⋯⋯不思議な空間だ」


 ここに来てから5時間もの間、魔物の姿を見ていない。


 運が良い⋯⋯訳では無いだろう。俺が殺した魔物が2階層の全てだとも思えない。魔物が姿を見せないのには、間違いなく何かしら理由がある。

 そして原因はこの部屋にあるのだろう。嫌な予感は勿論あるが、それは掘るのを止める理由にはならない。


「そろそろ再開するか」


 4回目の休憩を終え右手でつるはしを拾った、丁度その時だった。


 ガラッ


 突然壁から岩が外れた。


 ガラガラッ


 それは周りに伝染し、


「まずい!!」


 間一髪、壁の崩壊から逃れた俺は跡地を見て絶句する。


「おいおい⋯⋯なんだよこいつは」


 崩壊した壁の代わりに現れたのは、高さ5mはあろうかという巨大な岩の人形だった。

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