2話 タニタ村とリャンド町
響き渡る銃声と共に、ホーンウルフが力無く崩れ落ちる。
これで、カタログで呼び出した物もこの世界できちんと威力を発揮してくれる事が分かった。疑っていた訳でも無いが、確かめておくに越したことはない。
「ここまでは上出来。後は⋯⋯右が1発目だったな」
ホーンウルフの首を落とし、角を剥ぎつつ眉間の銃痕を確認する。銃痕は5mm程の感覚を空け、線対称に2つあった。
左右の銃痕に違いは⋯⋯ほぼ無い。
食い込んだ深さも調べてみたが、若干右の方が深く刺さっているものの、あまり変わりは無いようだ。
「まだ実力不足か」
1発目、右の銃弾には貫通力と硬度アップの魔力を込めてみたのだが、魔力操作の問題か、それとも魔力の込め方が悪かったのか、今回は失敗に終わったと言っていいだろう。しかし、
「後は俺が成長すればいいだけだ」
悲観的に捉えることは無い。魔力を込めることにより変化自体は起こる、それが分かっただけでも大きな収穫だ。
「っと、のんびりもしてらんないな」
あまり時間を食いすぎると馬車が出てしまう。角と牙を剥いだ頭部は銃痕をごまかす為傷を増やしてから捨て、胴体を引きずりながら村へと戻った。
「お待たせ。土産も持ってきたぞ」
タニタ村に着いた俺がホーンウルフの胴体を高々と掲げると、タニタ村の住人や普段魔物からは縁遠い生活を送っている馬車の乗客達から歓声が上がる。
「おー!すげぇ!流石冒険者!!」
「ありがてぇ!!恩に着るぜ!!」
「これが生の魔物か⋯⋯うわ爪すご!」
「せめて素材は買い取ろう。相場はいくらだ?」
そう提案してきた村人に対し、俺は首を横に振る。
「土産だって言ったろ?依頼料もポンと出せない村から金を取る趣味は無いよ、村の皆で食ってくれ。オススメはシチューだ」
「⋯⋯恩に着る」
困ったときはお互い様。ともう一度言い、馬車に乗り込もうとした俺に村人が再度、話しかけてきた。
「良ければ名前を教えてくれないか?」
「ジン・スミキだ」
「ありがとう。ジン、次来たときは是非もてなさせてくれ」
「楽しみにしとくよ」
村人達に手を振られ、馬車はタニタ村を出発する。リャンド町までの道中、俺は馬車の人気者になった。
「あんた太っ腹だねぇ!冒険者のこと少し見直したよ!」
「ジンは大物になるよ。俺が保証する」
「はは、よしてくれ。ただの気まぐれだよ」
実際善意でやった訳じゃない。たかだか金貨1枚で村1つ分の信用が買えるのだ。破格の買い物、買わない手は無いだろう。
「謙遜するのもまた可愛いじゃない!」
「ところであの切り口凄かったな。ホーンウルフの首を真っ二つ!あれが強化魔法ってやつか?」
おだてられ、時に質問されながら、馬車はリャンド町へと向かう。
「着いたぞ、リャンド町だ」
乗客達に別れを告げる。馬車から降りると時刻はもう昼過ぎだ。
「ここがリャンド町か⋯⋯」
大きさはサージの町の半分程、サージの町のような活気は無いな。こうして他の町と比較すると、サージの町は町として賑わっていたのだとわかる。
「とりあえずはギルドだ」
ギルドに寄りマーケットや依頼掲示板を見る。特にこれと言って面白そうな依頼も無いので町をぶらぶらし、書店でこの町関連の本を2冊買った。気付けばもう夕方だ。
「⋯⋯今日はもう酒場にでも行くか」
ギルド酒場でもいいのだが、情報を仕入れるなら町の酒場だろう。ギルド酒場は安くていいのだが、どうしても大衆向けな感が強い。
ギルドに寄った際に聞いた、この町の冒険者から人気らしいバーに入る。カウンターで店員にリャンド町について聞いてみたが、面白そうな情報は入ってこない。まぁ明日1日は依頼でも受けつつ町近辺を散策して、明後日にはもう町を出てもいいかもな。⋯⋯そう思っていた矢先だった。
「王都に向かうってことは、次はザリ町か?」
「?⋯⋯いや、アロナ町だ。ザリ町には何かあるのか?」
ザリ町はこの町から南西の方角だ。王都に行くならアロナ町経由の方が早い。なのに何故ザリ町だと思ったのか、何か理由がありそうだ。
「逆だよ。もしかしてアロナ町のダンジョン問題知らないのか?」
「ダンジョン問題?」
「あぁ。1ヶ月ほど前、アロナ町のすぐ近くにダンジョンが出現してな。規模としては小さいダンジョンらしいが、なにぶん町から近すぎる。一応王都から派遣されてきた冒険者が常に見張ってはいるが、危険なことには変わりない。余程の急ぎでないならわざわざ地雷を抱えてる町を通るより、遠回りでもザリ町を経由しな」
なる程、規模の小さいダンジョンね⋯⋯。
「教えてくれてありがとう。これは気持ちだ」
「お、サンキュー」
店員にチップの銀貨を1枚渡し、ビーレを一気に流し込む。
予定変更、明日は朝一でアロナ町に出発だ!