1話 試し撃ち
「さて、と⋯⋯」
快晴を走る馬車の中、地図を広げこれからの旅路を確認する。
この世界には大きく分けて4つの大陸がある。
北のノーザ大陸、南のサウル大陸、西のウェス大陸、そして今いるイース大陸。
イース大陸の中でもサージの町は東の果てにあり、一方王都は西の果て付近にある。そのため、真っ直ぐ王都に行くだけなら順路としてはひらすら真西に進む形だ。
しかし、地図を見ると興味深い町や遺跡も数多くある。もし受験するとしてもまだ半年もあるんだ。ゆっくりのんびり、ジグザグに旅をするのも悪くない。
「とりあえず近場で行ってみたいのは⋯⋯やはりエルフの里だな」
エルフの里オーリーン。排他的なエルフ種の居住地には珍しく、他種族にもオープンな里らしい。
サージの町では目にすることが出来なかったエルフ種にも勿論興味はあるが、この里を訪れたい理由は、それだけでは無い。
「大賢者オーリーン⋯⋯『言の賢者』とも何か関係あるのだろうか」
大賢者オーリーン。この世界の歴史に名を残す、三大賢者の一人。エルフの里オーリーンは、その大賢者が築いた里らしい。
里の名前の由来ともなったオーリーン自体は400年前の人物、とっくにこの世を去っている。しかし、彼女の名を冠する里には、大賢者の遺した何かが残っている可能性は高い。行かない手は無いだろう。
エルフの里は3つ先の町を南に行ったところにある。何事も無ければ⋯⋯着くのは10日後くらいか。
「何が待っているのか。楽しみだ」
地図を閉じ、魔力をうねうね操作しながら窓の外を見やる。
ゆっくり進む青と緑はこの先何色に変わるのか。先の景色を想像すると、胸の奥がほんのりと朱く染まった。
サージの町からおよそ3時間、馬車は中間地点であるタニタ村で一度止まる。
「ここで1時間休憩だ。トイレなり飯なり、行きたい奴は行ってきな」
運転手の言葉をきっかけに俺を含めた乗客達は全員降りる。すると、村の者が一人寄って来て、
「食堂は向こうにある。トイレもあるしウチの名産も売ってるから寄るならそこにするといい。それと⋯⋯最近この近辺にはホーンウルフがうろついている。命が惜しくば村の外はうろつかないことだ」
そう言ってきた。⋯⋯ホーンウルフか、試すには丁度いい相手だ。
「そのホーンウルフ、俺が討伐してやろうか?」
「え?いいのか?」
「あぁ。見たとこ困ってそうだしな」
「⋯⋯ウチの村は貧乏だ。依頼料はそんなに払えんぞ?」
「はは、そんなのいいって。困ったときはお互い様だ」
村人から感謝を貰い、村の奥の森へ向かう。
「ホーンウルフか。対峙するのは初日以来だ」
森沿いの道を少しだけ慎重に歩く。しばらくすると、唸り声と共に強い殺気が現れた。
「出たな犬っころ。悪いが試させてもらうぜ」
「グルルルル⋯⋯」
あのときと同じような道で、あのときと同じように威嚇するホーンウルフ。懐かしささえ感じるシチュエーションは、俺がどれほど変わったか浮き彫りにさせてくれる。
「カモン」
「ガアッ!!!!!」
言葉が通じたとは思えないが、俺の言葉を合図に飛びかかってくるホーンウルフ。だが、魔法で強化した俺の目にはまるでスローモーションの様に見える。
そして、ここからがずっと試したかった実験だ。
「『取り出し』」
詠唱と共に右手に収まった握り慣れた感触。俺はその先端をホーンウルフの眉間に合わせ、
「じゃあな」
1発、2発。引き金を引いた。