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死神の英雄記  作者: わにわに
第一章 異世界
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27話 出発

「お!やっと来たか!」


「おーそーいー!」


「昇級おめでとー!」


「ジンは何飲む?」


 皆と別れてからおよそ3時間、地図を頼りに辿り着いた『BAR:ジャッジウルフ』では、既にエマを除いた4人で大いに盛り上がっていた。


「おすすめは?」


「これ美味しいよ。『ロディスペシャル』。店長さんのオリジナルカクテルだって」


「じゃあそれにしよう」


「あたしもー!」


 祝い、祝われ、笑い合う。しばらくが経ち、エマが合流してきたところで、俺は皆に報告をした。

 付き合いがまだ短いからか、それとも冒険者として長いからか、遠征組の反応はアンナと違ってあっさりしたものだった。町を出ていく事より王立第一学園の名前を出したときの方が断然驚いていた位だ。


「やっぱりこういうのはよくあるのか?」


「まぁな、日常茶飯事だ。かく言う俺もゴールド級になったら町を出ようと思ってるしな。メアリーはどうする?」


「あたしは今んところ町を出る気は無いかなー。やっぱりこの町好きだし」


「あーあ、この町からまた一人イケメンが消えるのか」


「とりあえず〜、ジンくんの門出に〜」


「「「かんぱーい!!!」」」


 サージの町最後の宴は、夜が更けるまで続く。



 ◆◇◆◇



 翌朝、サージの町のとある宿。

 店主に頼みしばらく待つと、カンカンと階段を下りる音が聞こえてきた。


「なんだジンかよ⋯⋯久しぶりだな。こんな朝っぱらからどうした?」


「クリス、久しぶり。ちょっと散歩に付き合ってくれ」


「散歩ぉ〜?⋯⋯まぁいいけどよ。ちょっとだけだぞ?」


 ドアを開け、外に出る。少し歩いたところで、クリスの方から口火を切った。


「で?何の用だよジン。話があって来たんだろ?」


「⋯⋯ゴブリンが出てから1週間、クリスはどこで何してた?」


「何って⋯⋯金には少し余裕があるからな、基本宿でダラダラしてたよ。仲間から誘われて1日だけ仕事に出たけどな」


「そうか」


「あと剣の練習も少ししたな。そう言うジンは何してたんだ?」


「俺はアイアン級に昇級したよ」


「は!?」


 嘘だろ、と疑うクリスに鉄製の冒険者証を見せる。


「魔法を覚えてから世界が変わった。クリス、お前も魔法を覚えろ」


 町を出る俺からクリスへの、これが最後のメッセージだ。





「長くなるから詳細は省くが、これだけは確実に言える。魔法を覚えていなかったら、アイアン級には上がれなかった」


「いやちょっと待てよジン、もう少し詳しく教えてくれ」


「教えない。クリス、アンナの横に並びたいなら、魔法から逃げるな」


 言いたいことだけ矢継ぎ早に言う俺に、クリスは少し怒ったようだ。口調が喧嘩腰になる。


「いきなり来てなんだよ一方的に⋯⋯魔法を覚えた俺偉いってか?」


「偉いな。少なくともクリス、スライム3匹相手に焦るお前よりかはブロンズ級にも近い」


「⋯⋯調子乗んなよ、昨日今日冒険者になったばっかのルーキーが」


「疑うなら今から()るか?」


 売り言葉に買い言葉。睨みつける俺に対しクリスは一瞬たじろいだ後、


「⋯⋯けっ!ルーキー相手に喧嘩だなんて、勝ったところで笑いもんだぜ。ジン、昇級できていい気になってんだろうが、今日のお前はどうかしてるぞ。少し頭冷やしてこい」


 そう言い足の向きを変え、帰ろうとするクリス。だが俺は、そんなクリスの肩を掴む。


「離せよコラ!!」


 振りほどこうとするクリス。だが魔力で増強した俺の手は、クリスには振りほどけない。


「クリス、お前アンナのことが好きなんだろ?」


「なんのことだよ!!」


「苦手な事から逃げ続ける男を、アンナが好きになると思うか?」


 肩から手を離し、そのまま背中をドンと押す。前によろめくクリスに、最後の言葉を投げかける。


「アンナはこの1週間、毎日魔法の特訓してたぞ。苦手だった水魔法も覚えた。⋯⋯クリス、ゴブリンが出てから1週間、クリスはどこで何してた?」


 動かないクリスに背を向け、俺はその場を後にした。



 ◆◇◆◇



「クリスにも伝言残したんだけど⋯⋯来ないね」


「クリスとは朝ちゃんと2人で話し合った。大丈夫さ」


 ここはギルドの地下酒場、最後の夜はやっぱりここだ。アンナとビーレで乾杯し、ワイルドサーモンのカルパッチョをつまむ。


「ジン君と会ってから、まだたったの2週間かぁ」


「そう考えると短いな」


「⋯⋯けど、長かった」


「⋯⋯俺もそう思う」




 2品目、ロックシュリンプのフライが届く。


「心残りは⋯⋯」


「心残りは?」


「アンナへの恩を返しきれなかった事だ」


「もう十分返してもらったよ。水魔法が使えるようになったのはジン君のおかげだし」


「いや、まだ全然足りない。だから」


「だから?」


「返しきれなかった分は、3年後に返すよ」


「うん、待ってる」




 ホーンウルフの肉を齧った俺は、驚いたリアクションをとる。


「どうしたのジン君?」


「⋯⋯アンナの剣の味がする」


「大丈夫?その肉腐ってない?」




 フォレストピッグのステーキも、これが最後の一口だ。


「ジン君」


「ん?」


「⋯⋯死なないでね」


「あぁ、お互いに」


「「約束」」











 ◆◇◆◇



「『カタログ』」


 これで準備は完了だ。世話になった部屋を出る。


「もう発つのか?早いな」


「これ以上長くいると、もう1日居たくなる」


「⋯⋯達者でな」


「モフレズさんも元気で!」


 表門、目当ての馬車の前に着くと、まだ眠そうな運転手が話しかけてきた。


「この馬車はリャンド町行きだ。乗ってくかい?」


「あぁ、頼む」


「はいよ」


 揺れる馬車。遠ざかるサージの町に一抹の寂しさを感じながら、同時に新たな町への想いも広がる。


「とりあえず、目指すは王都!!」


 この先何が待っているのか。15年ぶりの感覚に胸を高鳴らせながら、俺は馬車に身を預けた。

作品を読んで下さり、ありがとうございます!!



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