25話 賞与と昇級
遠征翌日午前11時頃、ギルド4階大会議室。
普段ならあるであろう机や椅子は全て取り除かれ、ただの広い空間となったその部屋に俺達冒険者が入ると、そこにはエマとギルドマスターの2人だけが立っていた。
ギルドマスターか。初めて見るが、強者の風格が漂っている。この人も元冒険者なのだろうか。
「報酬を渡す前に、私から皆に一言述べさせてくれ。⋯⋯まさか50匹規模のゴブリン相手に死者どころか怪我人すら出さず、完璧に任務を遂行するとは。それも、あの広大な森を舞台にたったの1日で。素晴らしい!これは本当に凄いことだ!前にこの規模のゴブリンが現れたのは⋯⋯確か2年前だったか。そのときなんか」
「所長、一言では無くなっています」
「あ、いや⋯⋯すまん」
エマに指摘されたギルドマスターはコホンと一つ咳をし、
「とにかく皆、良くやった!!これより報酬授与を行う!」
勢いで誤魔化しながら、本題へと入ってくれた。
「まず基本報酬だが、これは募集要項にあった通りブロンズ級は5万ゼニ、シルバー級は10万ゼニだ。そしてここに今回の出来高、1人3万ゼニを上乗せする!⋯⋯さらに!!」
ギルドマスターの発した、さらに!という言葉に冒険者からも、おぉ〜!!と歓声が上がる。
「これはギルドからの気持ちだ!特別報酬として1人2万ゼニをプラスする!最終的な報酬はブロンズ級10万ゼニ、シルバー級15万ゼニ!!さあ受け取りに来てくれい!」
「「「「やったー!!!」」」」
大喜びで報酬を受け取る冒険者達。特にブロンズ級は、倍額になった報酬に皆ニヤけが止まらないようだ。
「よし、皆に行き渡ったな。それではこれにて報酬授与を終わりにする!サンドラ、ジェシカ、ジン、メアリー、ヒュー。以上の5名はここに残れ。残りは解散!皆、ご苦労だった!!」
ギルドマスターの声に合わせ、一斉に部屋を後にする冒険者達。「飲みに行こうぜー!」そんな声が廊下から聞こえて来た。
冒険者達の声が遠のき、聞こえなくなったところで、ギルドマスターは改めて俺達へと声をかける。
「さて、それではこれより個別の賞与授与、昇級認定を行なう。先ずはジェシカ、サンドラの両名は前へ!」
「「はい」」
「2人共ゴブリンの討伐部隊として、良く戦ってくれた。両名には特別賞与として各5万ゼニを与える」
「いえす!」
「やった!」
エマが2人に金貨の入った袋を渡す。ジェシカもサンドラも嬉しそうだな。
「受け取ったら2人共下がって良し。では次⋯⋯ジン、前へ!」
「はい」
2人に倣って俺も1歩前へと踏み出す。
「レザー級にも関わらず討伐部隊に参加し、その上で自身もゴブリンを2匹討伐。先ずはその勇気に2万ゼニを。また、今回の遠征でこれだけ素晴らしい結果が出せたのは、やはり作戦が光った部分が大きい。その作戦の発案者であるジンには特別賞与20万ゼニを与える!」
合計22万ゼニが入った袋がエマから手渡される。これで最初に貰った10万と合わせて計32万ゼニか。上出来だ。
「そして、ジンにはもう一つ渡す物があるな。エマ、あれを」
ギルドマスターの合図に合わせ、エマからギルドマスターへ、ギルドマスターから俺へ、プレート付きのペンダントが渡る。そのプレートは、鉄色に輝いていた。
「ジン・スミキ。此度の功績を讃え、貴殿をアイアン級に認定する!!今後とも精進するように!!」
「はい!!」
「「おめでとうー!!」」
背後からも祝福の声が聞こえ、俺もそれに応えるように後ろに下がる。
「では最後。メアリー、ヒュー。両名前へ!」
「はい」
「おう」
「先ず両名には本遠征の初期から携わってくれた礼として3万ゼニを。そして以後は個別になるが、メアリーにはエマの右腕として本遠征隊を鼓舞し、また自身も10匹以上のゴブリンを撃退した功績を讃え特別賞与12万ゼニを、そしてヒューには27人を率い、陽動作戦の中心として活躍した功績を讃え特別賞与20万ゼニをそれぞれ与える!2人共本当にご苦労であった!!」
「「ありがとうございます!」」
「また、2人に関してもこれで終わりではない。2人にはゴールド級に昇級する為のクエスト、それに挑戦する権利を与えよう!!」
「えー!?」
「マジかよ!?」
「「おめでとうー!!」」
今度は俺が祝福側に回り、2人を祝う。メアリーとヒューは互いに顔を見合わせ、勢い良く手を合わせた。
「「よっしゃー!!!!」」
「これにて授賞式を全て完了とする!!解散!」
廊下に出るとメアリーが、エマを含めた6人での打ち上げを提案してきた。
「いい店知ってるんだー!エマも仕事終わったら来てくれるって!」
「もちろん行く行くー!」
「私も勿論!」
「俺も行くぜ!もちろんな!」
「ジン君は?」
メアリーの問いに、笑顔で応える。
「もちろん行くとも。けど⋯⋯」
「けど?」
「すまん、用事があって少しだけ遅れる。店の場所を教えてくれないか?」
皆と一時別れ、3階の冒険者登録受付にてエマを待つ。20分程待ったところで、エマが現れた。
「お待たせ〜」
「お疲れ。これで遠征もようやく終わりか」
「事後処理はまだまだ残ってるけどね〜。罠の処理とかゴブリンの死体処理とか。でもそっちの担当は全力で外れる!!」
感情のこもった叫びに少し笑う。
「で、また4階に行くのか?」
「いんや、今回は私的な話だからね。あんま人に聞かれたくない話でもあるし⋯⋯ジン君の部屋行ってもいい?」
「俺の部屋?」
「あ、今エッチなの想像した?」
「するかよバーカ」
しかしそこまでして人に聞かれたくない話とは、一体なんなんだ?
「質素な部屋だね〜。お金あるんだからもっと良い宿泊まればいいのに」
「店主が良い人でな。で、話って一体なんだ?」
部屋に着くなりボフッとベッドに座るエマ。俺もその横に座り、エマの話を促す。
「⋯⋯ジン君さぁ、冒険者としての目標ってある?」
「目標?」
「うん目標。例えばゴールド級になりたい〜、とか、プラチナ級になりたい〜、とか」
「もしかしてエマがゴールド級になった経緯を教えてくれるのか?」
「うわ察し良〜。かわいくな〜い」
もう少しだらだら話しながら核心に迫りたかったのだろう。エマは不満そうに少し頬を膨らまし、
「⋯⋯まぁそういうことだね。『王立第一学園』。わたしが卒業した学校なんだけどね、そこに3年通って無事卒業出来たらシルバー級から、特別枠として卒業出来たらゴールド級から冒険者生活をスタート出来るんだ。卒業後の進路に冒険者を選ぶ場合はね」
「そんな裏技があったのか!」
なる程、学校は盲点だった。だが、言われてみればこの町にも学校はあり、地球においても学校によって進路のスタート地点は大きく変わる。気付くべきだったな。
「言うほど簡単じゃないけどね。でもジン君なら特別枠にも入れるんだろうな〜」
「エマも特別枠で卒業したのか?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ俺もいけるな」
「生意気〜!」
頬を軽くつねられた。話は続く。
「でさ、少し話は変わるんだけど⋯⋯この町に何人ゴールド級がいるか、ジン君知ってる?」
「10人くらいか?」
「ぶー、不正解。正解は4人。なんでかわかる?」
「ゴールド級になるような人材はもっと大きな町に行くから?」
「それも正解。けどもう一つ理由があるの。それはね、この町が平和だからだよ」
⋯⋯平和だから、か。
「危険なモンスターなんか滅多に出ないから安心して暮らせる。けど逆に言えば功績を残す事も出来ないから昇級も難しい。昨日倒したゴブリン軍団なんて地域によっては日常茶飯事だもん」
エマの言いたい事は既に伝わっている。
「王立第一学園を受験するには受験資格が必要なんだけど、それはわたしの紹介としてあげれる。受験するかどうかはジン君の好きにすればいいよ。受験は毎年3月だからまだ半年以上あるしね。でも⋯⋯」
「でも?」
エマは少し言いにくそうに、けれども俺の目を見て、告げた。
「冒険者として上を目指したいなら、どっちにしろこの町を出た方がいい」
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