23話 冒険者なら
「「「「なんじゃこりゃあ!?!?」」」」
ゴブリンの悲鳴を聞いてか、魔法の光が目に映ってか。息を切らせて戻ってきた探索班は目の前の、ゴブリンの死骸で埋め尽くされたシアン平原を見て絶句している。
自分達が慎重に追っていた相手が、知らぬ間に知らぬ所で全滅していたのだ。無理はない。俺だって同じ立場なら驚くだろう。
そんな中、唯一驚きを表に出していない男、ヒューが親指を立てながらこちらに寄ってきた。
「上手くいったみたいだな!」
「大・勝・利!!」
「ヒューもお疲れ。ごめんな、つまんない役やらせちまって」
「いいってことよ!それに、俺は俺で色々と勉強になったしな。視野が広がったぜ」
「え〜なに?いつもの偉そうなヒューらしくないじゃ〜ん」
「うるせージェシカ。俺だって成長してんだよ」
揶揄うジェシカをヒューがあしらっていると、
「「おいヒュー!一体どういう事だ!?説明しろ!!」」
メアリー、俺、ジェシカとの一連のやり取りで、探索班の中でヒューだけはこの惨状の原因を知っている。と理解した冒険者達が、一斉にヒューへと詰め寄る。
「あ〜、実はな⋯⋯」
ヒューが説明しようとする。しかし、それはエマによって遮られた。
「説明は、総責任者である私がします」
「⋯⋯⋯⋯そして、無事殲滅する事が出来ました。事の顛末は以上です」
エマが告げた『本当の作戦』に感心する者もいたが、不満を露わにする者もまたいた。主にシルバー級冒険者だ。
「俺達は功績を残そうと命懸けでここに来たんだ。それなのに実際はストーン級でも出来る、ただの陽動係だったってか?」
「いえ、そうではありません。今回のゴブリンは賢かった。仮に皆さんが弱ければ、身のこなし等でゴブリン達に感づかれ、襲われていたでしょう。貴方達の確かな腕が、ゴブリンをここまで追い込んだのです」
それは間違いない。ヒューからの報告によると、ゴブリンは何度も偵察に来ていたようだ。しかし、結局一度も探索班に近づくことは無かった。もし奇襲への警戒が未熟であれば、もし誰かが不用意に罠にかかってしまっていたならば、ゴブリンは容赦無く牙を向いていただろう。
「にしてもよ、前もって教えてくれたって良かったんじゃないか?それならこっちももうちょい気軽にやれたのによ」
「すみません。皆さんに教えたい気持ちも勿論あったのですが⋯⋯演技がゴブリン側に見破られる事を恐れました」
「言ってる事は分かるけどよ、やっぱ納得いかねぇなあ」
「騙された気分だぜ。実際騙されたんだけどよ」
「見破られる事を恐れたって、要は信用されてないって事だろ?」
「そーだそーだ!」
エマの説明に納得できず、ぶーたれる数人の冒険者達。
ボスを含め、ゴブリンの半数を倒したのはエマだ。自分も貢献したかったという気持ちは分かるが、誰よりも貢献した人物を叩くというのも少し違うだろう。
作戦を立てた身としては黙って見ているのもなんだ、俺もエマに加勢しよう。そう思った時だった。
「うるさい!!!」
怒鳴り声と共に、ぶーたれる冒険者達に投げ込まれたゴブリンキャプテンの首。突然目の前に現れた生首に彼らは、「ぎゃっ!」と悲鳴をあげた。投げ込んだのは、メアリーだ。
「あんたらねぇ、その首がなんだかわかる?ゴブリンキャプテンよ、ゴブリンキャプテン。こいつ相手に無傷で勝てる人はあんた達の中にどれだけいる?」
やば、ブチ切れてる。
「いや、それは⋯⋯」
「なめんな!多少怪我はするかもしれないが、俺だって倒せたさ!」
言い返す冒険者をメアリーは嘲笑う。
「はっ!多少怪我はするかも?ドラ、今回怪我人は何人いたっけ」
「死者、怪我人共に0よ。最高の結果ね」
「そう、これ以上無い最高の結果。さっきエマも言ってたけどさぁ、これはあんた達がいなきゃ成り立たない作戦だったんだよ。つまりあんた達の手柄でもあるって事。それなのにぶつぶつぶつぶつ⋯⋯冒険者なら、自分達も貢献した遠征が最高の結果を出したことに胸を張りなさい!!」
メアリーの一喝に、場が静まりかえった。
言い返す事の出来ない冒険者達にメアリーは、「わかったら行くわよ」とだけ言い、背を向け、歩き出す。
「⋯⋯行くってどこに?」
「決まってるじゃない。ゲイル達の供養によ」
先行くメアリーを慌てて追いかける冒険者達。いやに絵になるその光景に、傍観していた冒険者の一人がポツリと呟いた。
「⋯⋯かっこいいなぁ」
同感だ。これがアンナの一番尊敬する冒険者か。アンナがあれだけ熱を帯びて語っていた理由も、今なら理解る気がした。
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