21話 ゴブリンの逆襲
調査開始から2時間、ヒュー達が森から帰ってきた。その表情を見るに、事は順調に運んでいるようだ。
俺達補給班が用意した弁当片手に、皆しばしの休息を取る。
「森はどうだった?」
「罠、罠、罠。もう罠だらけだ。よくもまぁここまで罠を張れたもんだぜ」
「てことは、ゴブリンキングの可能性は?」
「相当に低くなったな。ゴブリンキングやゴブリンジェネラルならこんなに罠は張らねぇ。自分に絶対の自信があるからな」
それは嬉しい報告だ。この作戦において一番の懸念点は、『強力な個体が正面突破してくること』だ。その線が薄くなったというのは素直に喜ばしい。
「引き続き宜しく頼む」
「おう、任せとけ。そっちはどうだ?」
「こっちも順調。2回ほどゴブリンが偵察しに来てたよ」
ヒューと進捗を確認し合いながら、弁当を平らげる。「この肉うめぇな!味付けが最高だ!」と、ジェシカ作の肉料理をヒューがベタ褒めしていたのは少し笑えた。
「弁当は食い終わったな!出発だ野郎共!!」
そう叫び、ヒュー達はまた森の奥へ消える。
俺達補給班は後片付けを終え、次の仕事である、おやつ作りに取りかかった。
◆◇◆◇
キトの森東側、ゴブリンの集落。
森にひしめく大小様々な罠。そんな罠の数々を仕掛けられるような大所帯とは思えない程、この集落の建築物は簡素だ。
木造の建物は1つしかなく、その他もテントが3つだけ。一応集落全体の上部に雨よけの布を張ってはいるが、布に太陽光も遮られているせいで一帯は暗く、ジメジメと湿っている。
そんな劣悪な環境の中、唯一建っている木造の小屋内で、この集落のボスであるゴブリンキャプテンは部下からの報告を聞いていた。
「⋯⋯⋯⋯イジョウデス。ボス」
「ワカッタ。サガレ」
「ハッ!」
罠を張り、かかれば良し。かからなくても、そこに奇襲を加えることによって人間共は罠を踏まぬよう戦わなければいけない。これ以上無い、難攻不落の完璧な作戦であるとゴブリンキャプテンは自負していたが、まさかここまで徹底して、奇襲を常に警戒しながら広い範囲で罠を潰しにかかるとは。
人間のくせに小賢しい真似しやがって!!ゴブリンキャプテンは卑怯な手を使う人間共に苛立ちながら、次の手を考える。
「ボス。モウイッソ、全員デ、オソッチャイマス?」
「ダメダ」
「デモ、オレタチハ50人デスヨ。人間ハ30人デスヨ。オレタチノホウガ多イデスヨ?」
「馬鹿ハ黙ッテロ。気ガ散ル」
「ゴメンナサイ⋯⋯」
人数で勝っているから勝てる。そんな単純な考えしか持てない馬鹿な部下達に苛立ちを募らせるゴブリンキャプテン。
何故こいつ等はここまで馬鹿なのか。数いるゴブリン種の中でも、おそらく飛び抜けて頭がいいであろう自分程とは言わない。自分程とは言わないが、せめてまともに話せる位の知能を持ってくれ。俺を苛立たせるな。
自分達の被害は最小限に、人間共を全滅させる。そんな画期的な手を求めて、ゴブリンキャプテンはしばらく考える。考えるが、しかし、思いつかない。
天才である自分に思いつかないということは、そんな手は無いのだ。無いものにこれ以上時間を使うのも勿体無い。悔しいが、諦めよう。
「ショウガナイ、逃ゲルゾ。コノ森ハ捨テテ、次ノ森ヲ探ソウ」
「エー、人間殺サナインデスカー?」
馬鹿な部下が口にする不満にゴブリンキャプテンはまた苛立つ。俺だって殺したい。殺したいに決まってるだろ!!
下等種族の癖に我が物顔で地上にのさばり、数だけを武器に我々の住処を奪い続ける野蛮人共!あいつ等の下卑た顔を思い浮かべるだけで殺意の衝動が湧き上がってくる!!
が、しかし、その衝動のままに襲いかかり、返り討ちにされるのは頭のいい行いとは言えない。そのこともゴブリンキャプテンは知っていた。
「⋯⋯人間ヲ殺スノハ、マタ今度ダ。文句ヲ言ウナラ、オマエヲ殺スゾ」
「ゴメンナサイ⋯⋯」
部下を黙らせ、逃げ道を考えるゴブリンキャプテン。
沼地側は駄目だ。あそこは歩き辛い上、凶暴なモンスターもいる。襲われたら最悪全滅もあり得る。
そうなるとやはり、どちらかの平原からか。片方は誰もいない、片方は給仕係らしき冒険者が5人いる。
「⋯⋯⋯⋯ン?」
給仕係らしき冒険者が5人?待てよ!?
「オイ」
「ナンデスカ?」
「ヨロコベ。全員ハ殺セナイガ、チョットナラ殺セルゾ」
「ホント!?ヤッター!!」
喜びの舞を踊る部下を見つめながら、自分の賢さを再認識するゴブリンキャプテン。
逃げながらも人間はきっちりと殺す。そんな逃走ルートに一瞬で気が付くとは、やはり俺の頭脳は規格外だな。
「全員アツメロ!全員デ移動ダ!!」
「ハーイ!!」
馬鹿な人間共め、必死に罠を潰しつづけろ。俺達のいないこの森でな!!
◆◇◆◇
「おっ!やっと来たね〜」
ヒュー達が3回目の探索に出てから1時間後、森に変化が現れた。ガサガサと決して小さくない音を立て、木々の隙間から何十もの目が光った。
俺達は気付かぬふりをし、椅子に腰掛け、水を飲みながら会話を続ける。
「あれで隠れてるつもりかなー。めちゃくちゃ丸見えだけど」
「所詮はゴブリンってことね。けど多いわね」
「最初は数匹で襲ってくると思ったんだがな。もしかしたら俺達を殺してそのまま移動するつもりなのかもな」
それは裏を返せば、冒険者30人を相手にするだけの戦力が無いということでもある。
「か弱い演技しなくて良くなったならラッキーよ」
「まーねー!」
きゃっきゃ言ってる皆を他所に、先程まで煩く喋っていたジェシカだけは何故か会話に入って来ない。
「どうしたジェシー?」
「⋯⋯ちょっと緊張する」
「へ〜、ジェシーも可愛いとこあるんだね〜。大丈夫、お姉さんが守ってあげる」
「お姉さんってエマあたしより年下じゃん!」
揶揄うようにウインクしたエマに、ジェシカは頬を膨らませる。
「大丈夫、お兄さんも守ってあげるから」
「あー!ジンくんまであたしのこと馬鹿にしたー!もういい!ジンくんが死にかけても守ってあげない!!」
怒るジェシカに笑う一同。今のやりとりでジェシカの緊張も幾ばくか解けたようだ。
◆◇◆◇
「ヤッパリ人間ッテ馬鹿ダナ。俺達ガ見テルコトニモ気ヅカナイデ、ノンキニ笑ッテヤガルゼ」
その笑いが悲鳴に変わる、その瞬間を想像するだけで顔がニヤつくゴブリンキャプテン。
「アノ子カワイイナー!ネーボス、ヤッパリ犯ッチャダメ?」
「ダメダ。悲鳴ヲ聞イタ人間共ガ戻ッテクルカモシレナイカラナ。ソンナ暇ハナイ」
「エー、デモ犯リタイヨー!」
「ワガママ言ウナ。⋯⋯ソンナニ犯リタイナラ、殺シテカラ死体ヲ運ンデ、次ノ森デ犯レ。ソレナライイゾ」
「ヤッター!」
「ソノカワリ、一番目ニ犯ルノハ俺ダ」
「リョーカイ、ボス!!」
まさか襲う直前にこんな妙案を思い付いてしまうとは。自分の賢さに恐ろしささえ感じながら、ゴブリンキャプテンは50匹の部下達に合図を飛ばす。
「今ダ!!襲エー!!!全員殺セー!!!!」
「「「「「オー!!!!」」」」」
相手は弱そうな給仕係5人。勝ちを確信しているゴブリン達は下卑た笑みを浮かべながら、一斉に襲いかかった。
作品を読んで下さり、ありがとうございます!!
もしよろしければ、↓↓↓部分から作品の評価をして頂けるとすっごく、すっごく嬉しいです!!
また、これから先も読んでやってもいいぜ、と思われた方はブックマーク登録もして頂けると!!