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死神の英雄記  作者: わにわに
第一章 異世界
19/40

18話 VSエマ・メインズ

 午前10時、ギルド依頼受付所前。


「ごめんね〜急に予定早めちゃって〜。準備できてる〜?」


 時間きっかりにやってきたエマが、普段通りの気怠い口調で話しかけてきた。⋯⋯口調こそ普段通りだが、体調は普段通りでは無さそうだ。


「寝てないのか?」


「ぐっすり寝たよ〜。てかむしろ今寝起き〜」


 目にクマを浮かべながら言う台詞じゃないな。ゴブリン討伐が難航しているのか?

 しかし誤魔化すということは、言えない事情があるのだろう。無理に聞くことではない。


「寝起きを負けた言い訳にはするなよ?」


「はっ!なまいき〜。心配しなくてもストーン級なんかにゃ負けませんよ〜」


 手をひらひらとさせ、冗談として受け止めるエマ。随分余裕そうだ。しかし⋯⋯、


「エマは本部所属とはいえギルド職員だろ?冒険者と張り合える程の強さなのか?」


「わたしはこう見えて武闘派なんだよ〜?なんせ元冒険者だからね〜」


 元冒険者だったのか!そういえば前に「ギルド職員としては新人みたいなもの」と言っていた。

 エマの年齢はパッと見23〜4歳といったところか。若いには若いが、ギルド職員は10代半ばからいる。それを考慮すると、冒険者からギルド職員に転職した、と考えた方が辻褄も合うな。


「冒険者としてのランクは?」


「ゴールド級だよ〜」


「ゴールド級!?!?」


 前にアンナから聞いたことがある。ゴールド級と言ったら町にも数人しかいないトップ層だ。そのゴールド級?エマが?それもこの若さでか!?そしてそれ程の資質があるならば何故ギルド職員に転職した?考えられるとすれば⋯⋯


「⋯⋯なんだ嘘か」


「嘘じゃないよ〜!」


「嘘じゃないなら教えてくれよ。一体何をどうやったらその若さでゴールド級になんてなれるんだ?」


「まぁ正規のルートじゃないからね〜。半分ズルみたいなもんだよ。てか冒険者になって10日で昇級しようとしてるジン君がそれ言う〜?」


 確かにこの試験も正規のルートとは言い難い。しかし、


「レザー級とゴールド級じゃ全然違うだろ」


「あはは!ま〜ね〜!ん〜、それじゃあ⋯⋯こうしよっか!」


 エマは一瞬宙を見た後、何かを思いついたかのようにこちらへと振り返り、ニヤリと笑いながら()()を言った。


「わたしに一撃でも食らわせられたら、その方法も教えてあげるよ。全力でかかってきな、ストーン級(ルーキー)


「上等!!」


 ゴールド級なら間違って殺す心配も無いだろう。胸を借りるつもりで、全力で()ってやる。









 今回の試験に使う訓練所はギルドから歩いて20分の所にあった。広さはサッカーコート位か?何故か観客席まである。

 試験はその1画を貸し切って行われるらしい。


「はいこれジン君の木剣〜」


 エマが投げ渡してきた木剣を受け取る。


「始める前になんか質問とかある〜?」


「観客席にいる3人は?」


「お、気づいた〜?あれはね〜、ギルドの職員さん。やっぱこういうのは第三者の目も無いとね〜」


「ふーん」


 試験ならば複数人の目が必要、まあ当たり前の話だ。


「他は〜?」


「魔法は使っても?」


「え?ジン君魔法使えるの?」


「あぁ、実はな」


 4日前に覚えたばかりだが。


「へ〜。まぁ使えるなら全然ありだよ〜。見たいのは剣技じゃなくて実力だからね〜」


「ありがたい。じゃあ早速始めるか!」


「最初の一撃は譲ってあげるよ〜。わたしはここから動かないからいつでもどうぞ〜」


 エマは構えも取らず、余裕をぶっこいている。舐められたもんだ。

 ゴールド級ならそれも当然かもしれないが、それでも多少頭には来た。必ず一泡吹かせてやる。






 エマとの距離は約10m。魔法を撃ってもいいが、せっかく初手を譲ってくれたんだ。最大限活用しよう。


 エマから木剣を受け取ったはいいが、正直まだまだ剣技には疎い。しかし、徒手空拳には覚えがある。職業柄、身を守る為には必須だったからな。

 それを踏まえ、取るべき策は⋯⋯。


「かも〜ん」


 相も変わらず余裕ぶっこいているエマに対し、俺は木剣を肩に担ぎながら、ゆっくりと距離を詰める。


「え、なにその余裕な感じ」


「エマに言われたかねーよ。どうせエマは動かないんだ、急いで距離を詰めることもないだろ」


「確かにそうだけど〜」


 勿論考え無しに詰めている訳では無い。会話をしながらも強化魔法で足を強化。神経を研ぎ澄まし、タイミングを図る。適切な間合いは⋯⋯3mってところか。


 5m⋯⋯4m⋯⋯3m、今!!


「『ファイアソード』」


 聞こえ良く言ったが、要は()()()()()()()()()()だ。だが、それで充分!


「食らえやぁ!!」


「えっ!?わっ!?」


 俺は燃え盛る木剣をエマに思い切りぶん投げた!エマもこれには不意をつかれたようで、慌てて木剣を捌く。捌いてる間は隙だらけだなぁ!?


「どらああっ!!」


「へぶっ!」


 その隙を突き懐に入ると、そのまま強化した左足で、エマの鳩尾(みぞおち)に後ろ回し蹴りを炸裂させた!!食らったエマは派手に吹き飛ぶ⋯⋯が、手応えは無い。


「ちっ、受け流されたか⋯⋯」


 その証拠に、派手に吹き飛んだにも関わらずエマは空中で姿勢を変え、足で着地しようとしている。くそっ、器用な真似しやがって。だが、まだだ。まだエマの体制は整っていない!

 後ろ回し蹴りで得た遠心力を利用し、右手で投げる動作に移りながら魔法を生成する。イメージは槍。形なんざ不格好でいい、とにかく速度と貫通力にありったけの魔力を込めろ!!


「貫けぇ!!『ファイアランス』!!!」


 詠唱と共に具現化された不定形の槍を、全力でエマに投げつける!!エマに向かって最短距離を真っ直ぐに駆け抜ける炎の槍!まだ立ち上がってすらいないエマに直撃するかと思った次の瞬間!!


「『アイスウォール』」


 突如現れた氷の壁に、炎の槍は防がれた。⋯⋯全力の一撃だったのだが、氷壁にはキズ一つ付いていない。

 ⋯⋯これが今の実力か。ゴールド級とはまだ絶対的な隔たりがあるようだ。


「ジン君今わたしのこと殺そうとした?」


「してないよ」


「貫け!って言ってたじゃん。貫かれたら死ぬんだけど」


「ゴールド級ならこの程度は捌けると信じて全力を出したんだ。実際完璧に捌かれちまったしな⋯⋯」


「信じてた割には悔しそうじゃん⋯⋯まぁいいか、実力はわかったよ。これにて試験は終了とします」


 起き上がり、パンと土を払うエマに俺は早速結果を尋ねる。


「で、俺は()()()()()に上がれそうか?」





「⋯⋯やっぱ()()狙ってたんだ」


 俺の問いに苦笑いを浮かべるエマ。やはり察していたようだ。


「もちろん。じゃなきゃあの蹴りで攻撃は止めてたさ」


 あのファイアランスは俺の魔法の成熟度を明かす行為でもあった。レザー級に上がるだけなら必要の無かった攻撃だ。


「女の子のお腹を躊躇(ちゅうちょ)無く蹴りとばすってのもどうかと思うけどね⋯⋯。まぁギルドの方々を待たせるのも悪いし、お望み通りちゃっちゃと結果発表に移りますか〜。」


 言うとエマは背筋を伸ばし、逆手に持ち替えた木剣を、カン!と地面に突き刺した。仕事モードだ。


「ジン・スミキ、先ずは貴方をレザー級と認めます。ストーン級とレザー級は非なるもの。ストーン級に比べ、より様々な地域に足を踏み入れる事が出来るようになりますが、それは同時に死の危険も増すということ。ここで舞い上がり、実力を見誤った結果、命を落とす者も多くいます。貴方も昇級したからと言って油断せず、一歩ずつ、誠実にこれから先も精進するよう心掛けなさい」


「承りました」


 ここまでは既定路線。問題はこの先だ。


「また、貴方はアイアン級への昇級を希望とのことですが⋯⋯、結論から言えば、それは不可能です。確かに実力だけを見れば貴方はアイアン級、いえブロンズ級にも匹敵し得るでしょう。しかし、まだ貴方には功績が足りません。昇級とは、実力と功績、その両方が揃ったとき初めて成し得るものなのです」


 功績が足りない、か。エマの言っていることはもっともだ。そして、エマの言葉はまだ続く。


「と、ここまでが今回の結果です。⋯⋯しかし、貴方には実力があるのもまた事実。そこで、特例ではありますが⋯⋯貴方さえ良ければ、2日後に予定されているゴブリン討伐の遠征に参加しませんか?」


「ゴブリン討伐の遠征に?」


 見れば観客席の面々が、あからさまにざわついている。本来ならばレザー級が参加出来るようなものではないのだろう。それを一存で⋯⋯エマも大概だな。


「⋯⋯既に偵察に出ていたシルバー級3名、ブロンズ級2名が帰らぬ人となりました。非常に危険な任務です。本来ならばブロンズ級であろうと、誰でも参加出来る類のものでは無いのですが⋯⋯」


 ⋯⋯本当に危険だな。そら観客席のギルド職員も驚くわ。


「何故そんな任務に俺を?」


「先程の試験で貴方は、こちらの予想を遥かに超える活躍を見せてくれました。確かに単純な魔力量や戦闘技術だけを見れば、遠征入りの基準は満たせていません。ですが、それを補って余りある判断力、胆力、そして発想力。私はこれを非常に高く評価しております。従って、前線のメンバーではなく、後衛の、参謀補助として、同行してもらいたいのです。後衛と言えどもやはり、命の危険は多大にありますが⋯⋯」


 なるほど、趣旨は理解出来た。

 さっき一歩ずつって言ったばっかだろ、と揚げ足を取って揶揄(からか)う場面でも無いな。観客席の様子からしてこれを断れば次も無い。エマに感謝し、受ける一択ではあるのだが、その前にこれは一応聞いておこう。


「同行することによるこちらのメリットは?」


 質問に対し、エマはニッコリと笑う。


「ブロンズ級ですらおいそれと参加出来ない遠征。そこに加わり、生きて帰る。アイアン級に上がるには十分すぎる功績では?」


「乗った!!」


 こうして俺は、ゴブリン討伐の遠征に加わることとなった。














「おいエマ!!一体どういう事だ!!先程までストーン級だった者を遠征に加えるなんてどうかしてるぞ!?」


「ストーン級だろうが彼には能力がある。死者を減らす為にも使わない手は無いわ」


「能力?戦闘を見る限りアイアン上位か、精々がブロンズ下位だろう!」


「ブロンズ級下位が私相手にあそこまで迫れるとでも?」


「ぐっ⋯⋯!あんなのはただの不意打ちではないか!!」


「そう、不意打ちよ。この私の虚をつく程のね。不意打ちが基本戦術であるゴブリン相手に、彼程の適任はそういない」


「⋯⋯試験を見れば私にだってわかる、彼は優秀なルーキーだ。超がつく程のな。それをむざむざ殺してみろ、その時は⋯⋯」


「無論、全責任は私が取ります」


「その言葉、覚えておくからな⋯⋯」


 カツ、カツ、と、怒りの収まらぬ靴音が離れていく。

 靴音が完全に聞こえなくなったのを確認すると、エマは一際大きなため息を吐いた。


「はぁ〜っ、昨日からため息ばっかだな〜。幸せ逃げちゃいそ」


 気分を変える為大きく伸びをし、呟く。


「ここまでリスク取ったんだから、期待には応えてよね。ジン君」

作品を読んで下さり、ありがとうございます!!



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