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死神の英雄記  作者: わにわに
第一章 異世界
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15話 特訓2

 30分が経過した頃、身体に異変が現れた。

 魔石がダムとなり、失ってはいけない何かをせき止められ、奪われ続ける感覚、とでも言うのだろうか。あまりに気持ちの悪い感覚に、思わず魔石から手を放してしまう。

 カラン、と落ちる杖を見て、先生が驚いた顔で尋ねてきた。


「もしかして、感じたのかい?」


「あぁ⋯⋯想像していたよりずっと嫌な感覚だな」


「凄いな、この段階で何日かかかってもおかしくは無いと言うのに⋯⋯どうやら記憶を失う前の君は、魔法の扱いに長けていたようだね」


 いや初めてなんだけどな。これも言の賢者の効果か、それとも人生の経験値か。どちらにせよ嬉しい誤算だ。エマに見栄を切ったはいいが、1週間で覚えられるか少し不安だったからな。


「それではもう一度やってみなさい。今度は杖を落とさないようにね」


 魔石に魔力を通す。やはり嫌な感覚だ、しかし一度経験した分先程よりは大分マシか。


「ではそのまま、少しずつ掴む位置を下げ、魔石から距離を取ってみよう。ゆっくりでいいからね。杖の先端から魔石に魔力を流せるようになったら、第一段階は終了だ」


「了解」


 言われた通り、魔石から手を放す。⋯⋯手を放した瞬間に、魔力が途切れてしまった。


「難しいな」


「そりゃそうさ。魔力を通す、から魔力を送り込む、に変わるからね。しかし焦る必要は無い、ジンなら1日もかからず柄を掴めるようになると思うよ」


「力まない、気負わない、集中は切らさない。だな」


「はは、その通り。⋯⋯うん、ジンはもう1人で大丈夫そうだね。少し早いが、私はアンナを見てくるよ。疲れたら無理せず休むようにね」


「アンナによろしく言っといてくれ」


 先生が去った後も、引き続き練習を進める。

 少しずつ魔力を送り込む感覚が掴めてきたが、まだまだ不安定だ。慣れた距離から5mm手を遠ざけるだけで、途端難易度が跳ね上がる。

 自転車の補助輪を初めて外したときのような感覚。しかし、


「自転車は5分で乗りこなせるようになったな、確か」


 力まない、気負わない、集中は切らさずに。焦らず、ゆっくり、一歩ずつ。







 それから1時間が経ち、ようやく魔力の扱いに慣れてきた。


「疲れたー!!」


 気を抜いた瞬間、運動したときとはまた別の疲労感がどっと押し寄せ、身体が鉛のように重くなる。

 おそらくは魔力を使いすぎた反動だろう。魔法という形にしてこそいないが、1時間もの間、ずっと魔石に魔力を送り込み続けていたからな。


「先生も疲れたら休めって言ってたし、少し休憩だ」


 無理せず休む、それも大事だ。先生が帰ってくるまで横になろう。





「あー!ジン君さぼってるー!」


 アンナの声に、ハッと目を覚ます。どうやら寝てしまっていたらしい。


「アンナ、あまり言ってやらない。ジンは初めての魔力操作だからね、仕方無いさ」


「え〜先生ジン君に甘くな〜い?」


「そんなことは無いさ。ジンもそろそろお昼にしよう」


 もう昼か。結構寝てしまった。けど寝たおかげでスッキリしたな。

 立ち上がり、一度背伸びをしてから右手のみで杖を拾い、そのまま杖に魔力を流し込む。よし、魔力も回復してる。


「それで〜?()()()なジン君はどこまで進んだの〜?」


 アンナが進捗を聞いてきた。寝ていた事をからかってやろうという悪戯心が透けて見えるな。俺はそれに微笑みながら答える。


()()()()はクリアしたよ。このペースなら今日中に魔法を使えるようになるかな」


「「え??」」




 昼食はサンドイッチだった。うん、美味い。


「どーゆーことジン君!?もう魔力の感覚掴めたの!?あたしでさえ2日かかったのに!!」


「感覚掴めたと言うか⋯⋯ある程度操れるようになったよ」


「それは杖の先から魔石に魔力を流せるようになった、という事かな?」


「あぁ」


 その答えに先生は目を丸くし、アンナは素っ頓狂な声を上げた。やはりと言うか、俺の習得速度は相当早いようだ。


「えー!?そんなのあたしでさえ10日かかったのに!?!?」


「アンナ、そんなに騒がない」


「だって先生!!」


 信じられない!そう言いたげなアンナに理由を説明する。


「どうやら記憶を無くす前は魔法が得意だったみたいだ。身体が覚えていたらしいよ」


「それにしても覚えが早いとは思うけどね」


「え〜なんか納得いかない〜」


 アンナは不満そうに頬を膨らませている。納得いかないと言われてもな⋯⋯少し機嫌をとるか。


「アンナは火属性が得意なんだろ?俺も最初は火属性を覚えたい。アンナさえ良ければ、後でお手本を見せてくれないか?」


「え〜先生に教わればいいじゃ〜ん。ジン君ならそれでもすぐ使えるようになるんでしょ〜」


「最初の魔法はアンナに教わりたいんだ」


「え〜〜⋯⋯しょ〜がないなあ」


 よし、アンナの機嫌が直った。


「先生もいいかい?」


「⋯⋯⋯、まぁ人に教えるというのも、それはそれで勉強になる。いいでしょう。やってみなさい」


「はーい!」


「ありがとう先生」


 昼食が終わり、食器を片付けていると、先生がアンナに聞こえないように話しかけてきた。


「どうやらジンが得意なのは、魔法だけじゃないみたいだね」


「⋯⋯アンナに教わりたかったのは本当だよ」


「君は悪い人間じゃないと信じているよ」


「少なくともアンナに対しては、恩を仇で返す真似はしないさ」


 これは嘘偽り無い、本心だ。







「え〜、コホン。それではこれより、ファイアボール(火球)の使い方を教えます。ファイアボールは火属性の基本。まずはこれを使いこなせるように頑張りましょう」


 アンナの講義が始まった。先生の口調を真似してるのか?得意気な顔がかわいい。


「ファイアボールを使うには3つの段階があります。

 1、魔石に魔力を送り込む⋯⋯これはもう大丈夫ですね。

 2、イメージを固める⋯⋯具体的なイメージですね。ファイアボールなら『真っ直ぐ飛ぶ、こぶし大の火の玉』みたいな。これもまた難しいです。詠唱を駆使して頑張りましょう。

 3、イメージを解き放つ⋯⋯これが最難関ですね。手から魔石に魔力を込めたときと同じように、今度は魔石から外に向かって魔力を放出します。このときにイメージがきちんと出来ていないと、仮に飛ばせたとしても魔力はファイアボールになってくれません。

 以上の3つを全て完璧にこなせたとき、初めてファイアボールを飛ばすことが出来るのです。ジン君、なにか質問は?」


 まあまあ雑な説明だな。アンナらしいと言えばらしいが。


「先生質問です」


「なにかねジン君」


「詠唱とは具体的には?」


「いい質問ですね。詠唱とはイメージをより具体的にする為のものです。いいですか、頭の中にイメージを思い浮かべる、それだけでは少しふわふわしちゃいます。そこで例えば、「炎よ小さき球となりて」と唱えることによって、炎を小さい球にするイメージがより明確になると言うわけです」


「つまり決まった文言等は無いと」


「そういう事です。しかし最初のうちは中々いい詠唱も思いつかないでしょう。そういうときは私やフレディ先生の使う詠唱を真似してもいいですよ」


「わかりました!」


「元気があってよろしい。それでは一度お手本をお見せしますね。いいですか、一度しか見せないのでよく見ておくように」


 そう言うとアンナは杖を構え、目を瞑った。⋯⋯先生ごっこが楽しいのだろう。口角が少し上がっている。


「⋯⋯炎よ小さき球となりて、先の目標に向かって飛べ!『ファイアボール』!!」


 アンナがそう唱えると、杖の先からボッと小さな火球が発射された。

 まさしく『火の玉』。()()()()()()()()()その形や色合いは、これがまごうことなき魔法であることを証明している。

 火球は真っ直ぐ前へと飛び、練習場の先にある案山子に当たる。火球の当たった案山子は勢い良く燃え、その魔法の威力を俺に教えてくれた。


「どーよ!」


 こちらに振り返り、ピースするアンナ。俺はそれに応えるべく拍手をし、


「ブラボー!!」


 初めて目にした本格的な魔法。その可能性に心踊らせながら、目の前で起きた幻想的なマジックに感嘆の声を上げた。

祝!初ブックマーク!!

ありがとうございます!!めっっっちゃくちゃ嬉しいです!!!





作品を読んで下さり、ありがとうございます!!



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