14話 特訓開始
「先生こんにちはー!」
「やあアンナ、久しぶりだね。隣の君は⋯⋯初めて見る顔だね。新人冒険者かい?」
「あぁ、ジン・スミキだ。よろしくフレディ先生」
「こちらこそよろしく。それで、今日は一緒に魔法を習いに来たのかい?」
「そう!特訓にね!」
「相変わらず元気がいいね。立ち話もなんだ、詳しい話は中で聞こう」
「はーい!」
「おじゃまします」
フレディ先生の家は郊外にあった。その敷地はばか広い。
とはいえ決して豪邸と言う訳ではなく、敷地の殆どは魔法の練習場のようだ。この広大な練習場を確保する為、また近隣への迷惑を考慮し、こうして郊外に家を持つことになったらしい。
案内された客間も決して豪華では無い。しかし、随所に品が見え、そこから先生の人間性も窺い知れる。
「まずはアンナから聞こうか。アンナは⋯⋯水魔法の習得かい?」
「さっすが先生!よくわかってる!」
「アンナももうブロンズ級だからね、そろそろ使えるようにならないとね」
「うっ⋯⋯頑張りまーす」
厳しい先生、というのはどうやら本当らしい。
「さて次だ。ジンと言ったね、君は?」
「恥ずかしながら⋯⋯魔法の知識が全く無い。出来れば1から、教えてほしい」
「全くとは具体的にどれくらいかな?」
「文字通り全く。事前知識として本は何冊か読んだが、あまりピンとこなかった。それくらいだ」
「ほう。ジンはこれまで、身近に師と呼べる人物が誰もいなかったのかい?」
「もしかしたら、いたのかもしれないけれど⋯⋯」
「いたのかも?」
歯切れの悪い言い方に先生が疑問を持ったところで、アンナが会話に割って入る。
「あのね先生⋯⋯ジン君、実は記憶喪失なんだ」
「記憶喪失!?本当かい!?」
「⋯⋯本当だ。何もわからず魔物に襲われ、殺されかけたところをアンナに助けられて、今ここにいる」
「それは⋯⋯大変だったねぇ」
「おかげでアンナとも出会えたし、悪いことばかりじゃ無いとは思っているよ」
「やめてよ恥ずかしい〜!」
事前にアンナと、先生には打ち明けようと話し合っていた。
アンナには、教わる立場で隠し事をするのも良くないとかなんとか適当な理由を言ったが、本当の理由は齟齬を消す為だ。
アンナに伝えた、また先生に伝えるスキルは『火属性の適正中アップ』。しかし実際は、『全属性大アップ』。火属性のみにしても習得速度は大きく変わってくるに違いない。
そこで記憶喪失を伝えておけば、元々魔法を使えていた人間として誤魔化せる⋯⋯かもしれない。まぁ伝えないよりはマシだろう。
「火属性魔法適正中アップを持っているのに、魔法に目覚めないまま少年期を終える、というのも考えにくいな。となるとジンは案外すぐ魔法を習得出来るかもね」
「なぜ?」
「頭は覚えてなくても、体は覚えていたりするもんだよ」
先生はそう言って微笑んだ。作戦成功だ。
先に練習場へ行ってて、先生はそう言うと奥に消える。練習場で1分程待っていると、先生が遅れて現れた。その手には、先端に石のついた杖が2本握られている。
長さ50cm程の杖に直径7cmの石。水晶玉みたく加工された石からは、なんとも言えない不思議な印象を受ける。これが魔石か。
「アンナにはこっちの杖を。前に言ったことは覚えているかい?」
「力まない、気負わない、集中は切らさない!」
「よし、覚えてるね。それではまず30分、向こうで魔力操作の復習から始めなさい。終わったら30分休憩。休憩が終わる頃に私が行くから、そしたら水魔法の習得に移ろう。」
「えー?ここじゃ駄目なの?」
「ここだと私やジンが目に入るだろう?」
「⋯⋯ちぇ〜。ジン君がんばってね!」
「アンナもな」
心無しか、とぼとぼと去っていくアンナを見送った後、先生は俺の方に向き直る。
「それでは、ジンも始めようか」
「まず始めに、ジンは魔導書を読んだと言ったね。その知識は全て忘れなさい」
「どうして?」
「邪魔だからだよ。いいかい、魔法とは底無しに奥が深い。極めようとすれば必要な知識は膨大だ。しかしね、最初の一歩目、魔法を身につける段階において必要なのは、感覚なんだ」
そういえばアンナもイメージ力が大事と言っていたな。
「思考は集中の妨げになる、か」
「察しがいいね。その通り、無駄に知識があるとどうしても色々考えてしまうからね」
「了解。なるべく何も考えないようにするよ」
「素直で良い子だ。⋯⋯ウチのノノもこれ位素直だと助かるんだが」
「ノノ?」
先生の子だろうか。
「ああいや、こっちの話だ。⋯⋯さて、それでは魔法の習得、その第一段階へ入ろう。魔法には様々な属性や種類がある。ジンの得意とする火属性魔法や回復魔法、強化魔法等挙げればキリが無い。しかしその全てに共通するのは、『魔力』だ」
「魔力⋯⋯」
「人は誰しも、魔力を身体に宿している。それを操作し、様々な現象を起こすことを『魔法』と呼ぶ。逆に言えば、魔法を使うには魔力の操作が不可欠、という訳だ。ときにジン、自分の中にある魔力、感じることは出来るかい?」
「いや、全然」
「だろうね。魔力はいうなれば血と一緒だ。常に身体に流れているが、自覚しないとその存在に気付けない。つまり最初のステップは、魔力を自覚することだ」
先生から杖を渡される。
「その杖の先端にはめ込まれている石は、魔石というものだ。魔力を吸収、増幅してくれる。まずはその魔石に触れてみなさい」
「わかった」
魔石に触れる。⋯⋯感覚に何も変化は無い。
「触れて何か変わったことは?」
「⋯⋯なにも」
「それはね、まだ魔力を送れていない証拠だ。魔力を送ることが出来たら力を吸われる感覚がある。まずはそこを目指しなさい」
「魔力を送るコツは?」
「魔石を、身体の一部と思うことだ。両手で魔石に触れ、右手から魔石を通って左手へ、まぁ逆でもいいがね。魔石を通じて血が巡っている。そう思い込みなさい」
「わかった、やってみるよ」
「立ちながらだと疲れるだろう。座りながらでいいよ、私も座る」
言うと先生は目の前に腰を下ろした。
「ずっと見ていてくれるのか?」
「見てないと集中が切れてても分からないだろう?」
なる程いい先生だ。クリスが苦手と言うのもわかる。
先生に倣って俺も座り、集中を開始した。
「あぁ、それともう一つ、『力まない、気負わない、集中は切らさない』。これを念頭に置きなさい」
毎日投稿できてる人達、バケモンやでぇ⋯⋯
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