13話 半休
「え〜、ど〜しよっかな〜」
わざとらしく渋るエマ。むかつく。
「何が足りない?」
「いやさ〜、足りなくはないんだけど〜⋯⋯ほら、実際にジン君がゴブリン倒したとこは誰も見てない訳だし〜、ほんとにゴブリン倒したのかな〜?」
聴取までしといて⋯⋯。だが、なるほど。言いたい事が見えてきた。
「疑ってるのか?」
「まぁ多少はね〜?倒したとしても偶然ってこともあるし〜。だからさ〜⋯⋯」
そこまで言うと、エマはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「私と戦ろうよジン君。一発でも当てれたらレザー級にしてあげる」
「断る」
「よし!そうと決ま⋯⋯え?今なんて?」
「聞こえなかったか?断る、と言ったんだ」
勿論本当に断る訳は無い。エマのペースで話が進むのも癪なので、少し意地悪しただけだ。
「え?マジ?え?なんで?昇級したいんじゃないの?」
素で戸惑うエマ。愉快だ。
「すまん、言い方を間違えた⋯⋯1週間待ってくれ」
「絶対わざとっしょ」
「わざとじゃない」
「笑ってんじゃん」
しまった、笑ってた。
「⋯⋯まぁ、とにかく1週間待ってくれ。そしたら⋯」
「そしたら?」
「ご期待に添える結果が出せると思うぜ?」
自信満々に言う俺を見て、今度はエマが理解した。マジかよ、とでも言いたげな表情を一瞬浮かべ、
「1週間でそんなに変わるの?」
「あぁ、劇的に」
「⋯⋯わかった。じゃあ1週間後の17:00、ギルドの依頼受付の前に来て」
「決まりだな、それじゃあ俺は⋯⋯」
「あ、待って。最後にこれ、今回の報酬」
そう言うとエマは脇の袋からジャラジャラと金貨を取り出した。その数なんと20枚!
「こんなにいいのか?」
「ジン君のおかげで最低1人⋯⋯いや、拠点の位置を考えたらシアンキャンプを襲う予定だったと推測できる。そう考えると10人前後の命が救われたんだから、これでも少ないくらいだよ」
「ならもう少し上げてくれ」
「い〜やだね!わたしのことからかったし〜!」
「ケチ」
「ジン君に言われたくないね〜!」
最後までエマとは仲良くなれないまま、俺は応接間を後にした。
思わぬ臨時収入も手に入ったことだし、明日から1週間は魔法の特訓に費やすか。
ゴブリンに出会うまでに採取したガーゼ草57本を納品し、少し早めの風呂に入る。それでも時刻はまだ14時過ぎだ。
暇をするのも勿体無いので、アンナに伝言を残し、帰りに本でも買って、今日は1日、読書に興じよう。
「ここがアンナの泊まってる宿か」
いかにも女性用らしい、ポップな見た目の宿だ。玄関の両脇には花が植えられている。看板には、『ローラの家』と書かれているが、そういう名前の宿らしい。
ドアを開けると、宿を営むにしては若めの、上品な女性が鉢植えに水をあげていた。似合うな。この人がローラか?
「あら、ごめんね。ここは女性専用の宿なの。それとも誰かのお連れさん?」
こちらに気付いたローラが、にっこりと笑う。その笑顔はまるで花のようだ。
「連れというか⋯⋯ここに泊まってるアンナに伝言を頼みたくて。ジンから、って言えばわかると思うんだけど、いいかな?」
「まあ!あなたがジン君?アンナから話は聞いてるわよ。凄い優秀な弟分ができた、って」
「それは嬉しいね、けどそんな大したもんじゃないよ」
「あらまあ、若いのに謙遜も出来るなんて。さすが優秀な弟分さん」
「はは、敵わないな⋯⋯」
照れ臭そうにそう返すと、ローラはまた、ふふ、と微笑む。笑顔を絶やさない女性は、素敵だ。
「それで、伝言って?」
「ああ、『明日予定が無ければ、朝迎えに来てほしい。前倒しになって申し訳無いが、魔法の修行を始めたい』これで頼めるか?」
「わかったわ、ちゃんと伝えておくね。ところでどうかしら?一緒にお茶でも」
「男性は入れないんじゃないの?」
「優秀な弟分さんなら話は別よお。貴方の話、聞いてみたいわ」
「それじゃあお言葉に甘えて」
ローラと1時間ほど他愛もない会話をし、ローラの家を後にする。⋯⋯長居してしまったな。
その後は書店で世界地図、この大陸の地図、近辺の地図、魔導書3冊と魔物図鑑2冊、歴史書3冊を買う。どうやらこの国では、読書とは高尚な趣味らしい。金貨5枚が飛んだ。
また、帰り道の屋台で夕飯用の串を5本買い、家路につく。
先ずは魔導書3冊、これを今日中に読み切ろう。何事も、事前知識の有無は成果に直結する。
「⋯⋯基本属性は火、水、氷、風、土、雷か。水と氷が別なのは面白いな。それと風⋯⋯風、か⋯⋯」
ブツブツ言いながら魔導書を読んでると、外からドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえた。その音はどんどんこの部屋に近づいて来、とうとうドアが、バァン!と勢い良く開かれる。
「ジン君大丈夫!?!?怪我してない!?!?」
「アンナか。大丈夫さ、この通りピンピンしてる」
「良かったぁ〜〜!!」
立ち上がり、力こぶを作る。アンナは安心して力が抜けたのか、その場にへたり込んだ。
「帰ってきたら、シアン平原にゴブリンが出た!ってギルドが大騒ぎでさー、無事ならここにいる筈と思って酒場に行ってもジン君いないし⋯⋯もう気が気じゃなかったよ⋯⋯」
「心配しすぎだよ、俺だって冒険者だ」
「心配するよ!ストーン級じゃん!!」
「⋯⋯まぁ、そうか」
「そうだよ⋯⋯魔法も使えないの知ってるし、もしゴブリンに出会ってたのがジン君だったら殺されてたよ?」
あぁ、アンナはまだ知らないのか。
「ひどいな、アンナは俺が幽霊だとでも言うのか?」
「??何言ってんの?どゆこと?」
「シアン平原でゴブリンを倒したのは、俺だよ」
「えええええええーーーーーっ!?!?!?!?!?」
アンナの驚声が拳骨亭に響き渡る。「うるせーぞ!!」他の部屋からクレームが飛んできた。
アンナはいそいそとドアを閉め、改めて聞いてくる。クレームが来たため、少し小声で。
「ジン君がゴブリン倒したの!?魔法も使えないのに!?どうやって!?」
「半分偶然だけどな。足でこう、思いっきり土を蹴り上げたんだ。それがたまたまゴブリンの目に入って、奴が一瞬目を瞑った。その隙をついて、右腕を切り落とした」
「はえ〜、すご〜〜」
「でもまた同じように出来るとは限らない。だからさ、アンナ」
ローラに伝言を頼んだのが無駄になったな。
「なるべく早く、魔法を習得したい。次も死なずに済む為に」
「うん、そうだね!じゃあ早速明日から特訓開始しよ!」
「毎回付き合わせてしまって悪いな、お詫びといっちゃなんだが⋯⋯」
脇にあった袋を手にし、アンナへ向ける。
「串、1本食うか?」
「あ、食べたい」
2人で仲良く串を頬張る。いよいよ明日から、特訓開始だ!
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