11話 初戦闘
今俺はシアン平原、ガーゼ草の採取ポイントに立っている。
少し距離をあけて、まるで少年少女のような瞳でこっちを見つめてくるアンナとクリス。更には噂を聞きつけたらしい他冒険者30名に、キャンプ管理人のガジまでいる。
「はぁ⋯⋯」
まるで見世物だ。俺は一つ大きなため息を吐くと、昨日と同じように、昨日より少し速度を上げて歩き始める。
⋯⋯1分程で違和感に当たった。
「あったぞ」
「「「おおおおおおおーーーーーーーっ!!!!!」」」
「「「すげえええええええええ!!!!!!!」」」
「「「マジかよーーーーーーーーー!?!?!?」」」
大掛かりな手品を見たかのように、沸きに沸く観客達。
この瞬間から、俺のあだ名はガーゼ神になった。
今回のキャンペーンが終わったら、ガーゼ草採取は卒業しよう。
2日目、108本。
3日目、135本。
時折野次馬に絡まれながらも、よくやったと思う。
ちなみにアンナとクリスは最初こそ俺の真似にチャレンジしていたものの、クリスは10分で、アンナは2時間で音を上げた。
「ねージン君今どれくらい持ってるの?」
「25000ゼニ位かな」
「おーすごーい!さすがガーゼ神!」
「その呼び方はやめてくれ⋯⋯」
「え〜かっこいいと思うけどな〜。なんかこう、神様みたいで!」
そのまんまだな。
「まぁ自分でも驚くくらい順調だ。このペースでいけばキャンペーンが終わるまでに5万ゼニは貯めれるな」
「ねね、ジン君は自分へのご褒美とか考えてる?例えば新しい剣とか!」
「本を何冊か買おうと思ってるよ」
「本?」
「うん、本。⋯⋯記憶が無いせいでまだ知識に乏しいからね。それに本を読むことで何か思い出すかもしれないし」
「なるほどね〜⋯⋯一緒に剣とかはどう?」
一緒に買い物にでも行きたいのだろうか?しかしまだ無駄遣い出来る程の金額ではない。次の金策の目処もまだ立っていないのだ、出費はなるべく抑えたい。
「せっかくだけど今の短剣のデビュー戦もまだなんだ。初めて買った武器だし愛着もある。とりあえずこいつをデビューさせるまでは他は考えてないよ」
棚に無造作にばら撒かれていたワゴン品だ、愛着なんかもちろん無いが。
「そっかそうだよね、今の話は無しで!忘れて!!⋯⋯ふふ、なんかあたしも初心思い出しちゃった」
アンナが微笑ましそうにこちらを見る。
「ごめんな、また1ヶ月後にでも声かけてくれ」
「ジン君が謝ることじゃないよ!あたしこそごめんね、ジン君の気持ち考えてなかった」
「アンナが謝ることじゃないさ、アンナの気持ちは嬉しいよ」
2人して笑っていると、遅れてクリスが合流してきた。
「なんだ?楽しそうだな!ジンがまた記録更新でもしたのか?」
「まぁそんなとこだ」
「今日は何本採れたんだよ」
「135本」
「はぁ〜!?また30本近く更新かよ!?ガーゼ神の名は伊達じゃねーな!」
「ほんと凄いよねー!」
「よしてくれ、特にガーゼ神は」
「このままいったらキャンペーン期間だけで10万ゼニくらい稼げんじゃねーか?」
「流石にそれは無理だよ、けど7万くらいは稼げるかもね」
「はえ〜!さすがガーゼ神!!」
「順調にいけばね」
そう、順調にいけば。
しかし、ここは魔物の蔓延る世界。
いつ、いかなるイレギュラーがあっても不思議ではない。そのことを俺は翌日、思い知ることになる。
4日目、昼過ぎ。
4日目ともなると、絡まれることも少なくなる。とはいえ、他の冒険者達の近くで採取をすればどうしても注目を集めてしまう。
常に目線を感じるというのはあまり気分のいいものでは無いので、他の皆からは随分離れた、採取ポイント最奥が俺の定位置だ。目の前には森がある。
「モンスターが飛び出してくる可能性もあるから注意しとけよ!まぁめったにねーがな!」
ガジがそう言っていた為、森の方にも注意を払いながら採取を続けていたときだった。
ガサッ
森の方から音がした。聞き間違いではない、これは草木を踏み分ける音だ。そしてそれは、言うまでもなく、危険信号を意味する。
まずい!モンスターか!?慌てて顔を上げると、
『ア、ヤベ』
緑色の、醜い小鬼と目が合った。
顔は醜く、肌は緑。異様にでかい鼻と耳に、異様に細い手足。
その細い手足と不釣り合いにぽっこり出ている下っ腹、右手に持っているのは、その細い腕でどうやって持てるのか不思議な程に巨大な棍棒だ。
そして、そんな外見的特徴がどうでも良くなる程の特徴がもう一つ。
『人間ニ見ツカッチマッタカー、ボスニ怒ラレルカナー。スグ殺セババレナイカナー、ヨシ!サッサト殺スカ!』
(この魔物、喋るのか!?)
そう、言語を有しているのだ。もちろん人語とは異なる言語ではあるが。
それを理解出来るのは『言の賢者』のおかげだろう。思わぬ副次効果だ。
『ラッタッター、ラッタッター』
鼻歌交じりに森を抜け、こちらに近づいてくる魔物。本来なら大声でも出し、他の冒険者に助けを求めるべきだろうが⋯⋯、
『待テ』
『エ?』
『待テト言ッテル』
『ハ!?ナンデ人間ガ、ゴブリン語ヲ喋レルンダ!?』
喋れるなら喋らなければ損だよな。ゴブリン語か⋯⋯なる程、この魔物はゴブリンと言うのか。
ゴブリンという名前には馴染みがある、地球での創作物にもよく出てくる名前だ。実物を見れたことに少しの感激がある。
『珍シイカ?』
『珍シイモナニモ、初メテ見タヨ!!』
『ソウカ、ソノ理由モ話シテヤルカラ、トリアエズ止マレ』
『ウーン、デモナー、人間ニ見ツカッタノガ、バレタラ怒ラレチャウカラナー』
『他ノ人間ニハ言ワナイ、コレナラドウダ?』
『エー、ウーン、ホントカナー』
『ホントダヨ』
『ドーシヨー、オレ考エルノ苦手ナンダヨナー、ウーン』
ゴブリンは少し立ち止まり悩んだ後、
『ヤッパリ考エルノ苦手ダ!メンドクサイ!殺ス!!』
こちらに飛びかかってきた。交渉失敗だ。
俺も腰の短剣を抜き、両手に構える。⋯⋯ホーンウルフを除けば、この世界での初戦闘、か。
『ラッタッター、ラッタッター』
右手を振りかぶりながら、まるでスキップするかのようにダカダカと駆け寄ってくるゴブリン。
その手に持った棍棒を投げつけてくる様子は無い、考えるのが苦手と言っていたし、おそらく単純に射程圏内に入ったら殴りつけるつもりだろう。リーチは見たところ120cm程か。
単純な戦法だが、そのパワーがどれ程のものかは未知数だ。受けるのは悪手だろう。また、スウィングスピードも未知数だ。避けようとするのもこれまた悪手か。つまるところ、近距離戦は相手に分がある、と言わざるを得ない。
しかし、それを加味しても攻略は簡単だ。何故なら、射程距離は俺の方が長い。
集中し、タイミングを見計らう。そしてゴブリンが150cmに入った瞬間⋯⋯唱える!
「『取り出し』」
『ラッタッタ⋯⋯ブワッ!?ナンダコレ!?』
突如眼前に現れたスーツがゴブリンの顔面を覆う。視界を塞がれ、慌てるゴブリン。勿論その隙を見逃すなんてことはしない。
「ゴブリンよぉ、考えるってのは大事だぜ?」
俺はその右腕目掛け、両手で握った短剣を思いっきり振り下ろした。勝負あり、だ。
『ギャアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』
ゴトン、と落ちる右腕。と同時にゴブリンの悲鳴が周囲に響き渡る。⋯⋯今ので他の冒険者も気づいたな。
欲を言えば、ダルマにでもしてゴブリンにしか知り得ない情報を根掘り葉掘り聞きたいところではあるが、少しすれば悲鳴を聞きつけた冒険者達が駆け寄ってくるだろう。
ゴブリン語を話せるなんて他人に知られる訳にはいかない。ゴブリンをダルマにして楽しむサイコ野郎とも思われたくは無い。⋯少し勿体無いが、仕方ないか。
二の腕を押さえゴロゴロと地面を転がるゴブリン。その心臓目掛け、逆手に持ち替えた短剣を突き刺し、捻り、抜く。
刺した箇所から勢い良く血が吹き出し、腕を落とした時とは逆に、ゴブリンの悲鳴は途切れ、動きも止まる。
「ふぅ」
予定外のデビュー戦は、こうして俺の勝利に終わった。
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