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死神の英雄記  作者: わにわに
第一章 異世界
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プロローグ

 ここは〇〇県にあるとある建物の一室。


 夕暮れ時にさしかかろうかという時間だが室内は薄暗い。陽が差し込む為の窓が無いのだ。もし窓が付いていたら深緑に染まった山々が織りなす荘厳な風景が広がっているというのに、勿体無いことである。


 しかしてこれは設計ミスなどでは無い。そうせざるを得ない理由があるのだ。

 大自然を一望できる場所に建てられているのに窓の一つも付けられていない。その理由は、建物内にいる2名の風貌を見れば勘の悪い者でもなんとなく察する事が出来るだろう。


 その内の片方、入り口で電話をしている中年の男は分かりやすく()()()()といった風貌だ。190cmに迫るであろう身長はスーツ越しでも分かる屈強な筋肉と合わさり更にでかく見え、首元の刺青や頬や手に刻まれた傷痕もこの人物が平穏な人生を歩んでいない事を教えてくれる。道で会えば殆どの者が避けて通るであろう。

 そしてもう片方、部屋の奥に座り煙草をくゆらせている初老の男はと言うと……。


 まず目がいくのは右脚だ。左脚と違い靴は履いておらず、代わりに機械で作られた義足がスーツの裾から覗いていた。事故にでもあったのか?と同情したくはなるが、もう一人の男とこんな場所にいるという事実が他の原因を想像させてしまう。


 次に体格。座っているので分かり難いが、身長は歳にしては高い(180cm位か?)。シルエットも引き締まっており、鍛えているのが見て取れる。が、しかしもう片方の男と比べればそれは目立つものでは無い。他の特徴はと言えば……()()()()()()()()()()()()事だろうか。

 特段変わった着こなしはしていない。しかし、スーツを纏ったその姿からはオーラとも呼べる気品が漂っている。驚くべき事に煙草も義足も、彼の着こなしの邪魔になっていない。


 最後に顔、だ。電話をしている男に比べ、その顔付きには恐さは無い。が、その目の奥には、誰しもが道を空けてしまうであろう、()()()()()怖さがあった。









◆◇◆◇



「……わかった。また動きがあり次第伝えろ。どんな些細な事でもな」


 通話を切った部下の菊池が青褪めた顔でこちらに振り向いた。


「……兄貴、良くない報せが」


「話してみろ」


「……とうとうここも嗅ぎつけられました」


「そうか」


 さほど驚きはしない。

 例え『死神』と呼ばれていようが一個人だ。文字通り()()が敵に回ればこんなものだろう。


 新たな煙草に火を付け、これまでの人生を振り返る。


 『金稼ぎ』それだけに費やした58年だった。世界をこの目で見て回りたい。それがきっかけだ。世界を回りながら、金も稼ぐ。それを満たせる商人は、自分にとってうってつけだった。


 40歳になる頃にはもう、回れる世界も無くなっていた。我ながら生き急いでいたと思う。当初の目的は無くなってしまったが、それでも商売は辞めなかった。別に金が欲しかった訳でも無い。自分がどこまでいけるのか、それを知りたくて売れるものは何でも売ったもんだ。


 そしていつしか付いた異名が、死の商人の神、『死神』。


 死神と呼ばれ、そのせいで世界から命を狙われる。……皮肉なもんだ。






「なぁ菊池」


「はい」


「俺達はいつまで逃げ続ければいいんだ?」


 一瞬の間の後、菊池は言う。


「……世界の果てまで逃げ続けましょうや。兄貴になら俺は付いていきますよ」


「俺はもう逃げるのに疲れたよ」






 まさか俺の口からこんな台詞が出るとは思いもよらなかったのか、菊池の表情は怒りとも悲しみとも言い表せないものになる。

 いや、言い表すとしたら、、、苦悶、か。


「そんなこと言わないで下さい!!そんなこと言わないで下さいよ!!!」

「俺はあんたの弱音を聞きたくてここまで付いてきた訳じゃないんだ!!!」

「他の誰が弱気になろうが!!あんただけはそんな感情とは無縁の筈だろう!?」

「俺はそう信じてきたから!!なのに……っ!!!」


 普段は負の感情を表に出さない菊池がまるで駄々っ子のように喚き散らす。

 気付かれない様言ったとはいえ、もう15年も連れ添っていながら真意に気付いてもらえないもどかしさと、見たかった顔が見れた。といういたずら心が胸中を交錯する。


 ニヤけそうになる口元を抑えるために次の煙草に火をつけながらもう一方の手で菊池を制し、我に返った菊池の呼吸が幾ばくか落ち着いたところで、尋ねた。


「なぁ菊池、そもそもよ……なんで俺達は世界中から指名手配なんて目に合ってんだ?」


「そりゃあ、兄貴が『死の商人』として危険すぎると判断されたからでしょう。今世紀最悪の生物兵器なんて言われてますからね兄貴は。


「一生懸命商売してただけなんだけどな、商才がありすぎるってのも考えもんだ。……まぁそれは置いといて、つまり今世界は『危険すぎる存在』に喧嘩を売ってる訳だよな?」


「……と言うと?」


 菊池の顔にわかりやすく血流が戻ってくる。


「『死神』ともあろうものがいざ自分の命を狙われたら尻尾巻いて逃げ隠れなんて拍子抜けもいいとこじゃねぇか。評価には答えてやろうぜ。

 俺達の命を最初に狙い始めたのはどの国だ?」


「……っ!アメリカです!!」


「コロラドの武器庫に行くぞ。ホワイトハウスにありったけのミサイルをぶち込んでやる!!」


「はい!!!!」







 コロラドに向かう為の移動手段であるステルス機。それが格納されている△△県に移動している最中、未だ興奮冷めやらぬ菊池が話しかけてくる。

 

「やっぱ兄貴はスケールが違う!ホワイトハウスにミサイルをぶち込むなんてまるで映画かゲーム体験ですよ!!」


「それを言うなら世界中から命を狙われるって時点でもうファンタジーみたいなもんだけどな」


「確かに!!」


 逃亡生活でのウサを晴らすかのようにケラケラと笑う菊池。このまましばらく他愛もない雑談をしてもいいのだが、やはり確認をしなければいけない事はある。返事もわかってはいるが……。


「なぁ菊池」


「どうしました兄貴?」


「俺達は今まで危険な橋を渡り続けてきたな。地面を歩くより橋を渡ってる時間の方が多かった位には」


「そうですね。兄貴なんか片足吹っ飛んでますしね」


「でも今こうして元気に生きている。今までの橋は正直崩れる気もしなかった。でも今回は違う。五分五分……いや八割方死ぬ。それでもお前は」


「お供しますよ兄貴」


 最後まで言い切る前に言葉は菊池に遮られた。


「まぁそもそも今回も死ぬとは思えませんけどね。兄貴が死ぬとこなんて想像つかないし。でももし死んだら、そのときは生まれ変わってまた一緒に商売しましょうや!」


「いやもういいよ商売は」


 快活に笑って答える菊池にこっちも軽口で返す。


「そこはノるとこでしょう兄貴!」


「商人はもうやり切った。もう刺激も薄れてるってのに来世でまでやりたくねぇよ」


「じゃあ来世では何します?」


「そうだな……」


 目を瞑って今までの人生を振り返る。


「色々と恨まれる事の多い人生だったからな……。次は」






「英雄にでもなるか」






 そう冗談を言い目を開けると、そこには見知らぬ大草原が広がっていた。

作品を読んで下さり、ありがとうございます!!

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