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断罪されるのは覚悟していました

作者: 高月水都

モフモフが好きです。

『お父様!! お願いです!! この子を助けてくださいっ!!』

 小さい時、必死に怪我をしたその子を運んでお父様にお願いした。


『ルーフィア。その子を助けたいのなら強い覚悟と努力と力が必要だ。一つ間違えると多くの人たちが苦しんで恨むかもしれない。それでも助けたいか?』

 お父様の言葉に頷く。


『頑張ります。だから助けてっ!!』

 その約束を違えないで、勉強も運動も礼儀作法も誰よりも優秀な結果を残した。


 王太子妃候補になったのもその優秀さを耳にした王命があったから。

 王太子はそんな私を煙たがっていたが、国を支える立場であるし、恋愛は出来そうもないがいい関係になれると信じていた。


 男爵令嬢との噂があった事は情報として聞いてはいたが、それも学生のうちの事であるし、そもそも政略結婚だ。身分の事もあって、苦言も言いにくいし、こちらは知られたくない弱みもある。

 それに王太子妃教育やら領地での仕事などで忙しかったので傍観に徹していたが。



 王太子の大事にしていた男爵令嬢が聖女になったとは聞いていたが。




「ルーフィア。罪もないシンディを取り巻きを使って迫害するようなお前との婚約は破棄させてもらう」

 とある式典でそんな理由で衛兵に囲まれて剣を向けられるとは思わなかった。


「迫害。ですか……」

「ああ。そうだ。シンディをわざとお茶会に呼ばずに、呼んだと思ったら礼儀作法がなっていないと難癖をつけて笑いものにして」

 王太子の後ろでは涙目で庇われている少女がいるが。


「その後ろの方がシンディさん……? ですか?」

 噂の男爵令嬢。聖女。


「惚けるのもいい加減にしろっ⁉」

 いえ、初めて会った方ですよね。噂には聞いていたが、忙しかったのでどんな方か直接会った事なかった。

 

 それ以前に、先日までお茶会を簡単に行える状況ではなかったと思ったが。


「ひどいです。私なんて覚える価値などないというんですかっ⁉」

「ルーフィア!! よくもシンディを!!」

 こちらに向かって叫んでくる少女を庇う王太子。


 きらびやかなドレスに身を包んでいて、分かりにくいが、開かれた胸元に確かに聖女の証である聖痕が輝いているのが見える。


「その方が聖女様ですね……」

 聖女の証である聖痕がきらびやかな格好で目立たなくなっている。聖女は神官服に身を包んでいるイメージがあったから想定外だった。


「はっ。白々しい。知っていただろうが!!」

 噂話程度ならと言っても信じないだろう。


 足を掬われないように情報は小まめに仕入れていたつもりだったが、この情報はなかった。僅かな情報で危機に陥るからと気を付けていたのに。


 だが。

(それにしても意外ですわね)

 王太子がこちらを煙たがっていたのは知っていたけど、こんな冤罪を婚約破棄の理由に持ってくるとは思わなかった。


「全く心当たりはありません」

 わたくしでないとしたらおそらくわたくしを潰したい敵派閥か。


 あの様子だと王太子は【聖女】さまと結婚したいからわたくしが邪魔になったと言う事だろうが、それならそれで話をしてくださればいくらでも婚約を解消したのに。


 こちらは王命に従っていただけなのだ。


 一瞬だけ王太子の後ろにいる陛下の方に視線を送る。じっと黙ってこちらを見ている視線は何か考えがあるのだろうか王太子のふるまいを止めずにいる。


 全く動じないで冷静になろうと様子を窺っているわたくしを見て、苛立っている王太子に、

「殿下」

 と王太子に近づいて耳元でささやく側近の姿。


 ささやかれた内容は聞こえないが、それを聞いた途端王太子の目が大きく見開き怒りを顕わにする。

「お前。魔物を匿っていたそうだな」

 びくっ

 王太子の言葉と同時にざわざわと。


「魔物だと……」

「先日の件、もしや……」

「聖女様がおられたから王都は無事だったが……」

 こちらを見てひそひそと話をする声を聞こえて、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。


『ルーフィア。お前の判断が領民を窮地に追いやる事もある。だからこそ力をつけなさい』

 お父さまに言われた言葉が脳裏に響く。足を掬われないように気をつけろと。


(申し訳ありません。お父さま。みんな)

 あの子を助けた事を悔やんでいない。だけど、それを理由に断罪されて、皆を巻き込んでしまう事は申し訳ない気持ちがあった。 





 あの子の事は忘れた事ない。


 お父さまとともに領地の視察をお忍びで行った帰り、真っ黒な狭い路地で血だらけで倒れているあの子を見つけた。


 慌てて駆け寄ると辛うじて息をしているのに気づいて安堵した。

 血で汚れてぼろぼろの状態だったから気づかなかったが、お尻にはふさふさのしっぽがあり、頭にはイヌ科の動物の耳があり、灰色の髪。灰色……黒に近い色は魔族の色といわれている。


 このまま見捨てたほうがいいと知っていた。でも。

『お父様っ!!』

 助けてほしいとお父さまにすがった。


 その時に交わした約束を忘れずにできる事以上に努力した。だが、努力は足りなかったのだ。こうやって、足を掬われるのだから。




「……確かにわたくしはあの子を匿ってきました。ですが、魔物だからと言って、その人となりを知らずに一方的に敵視するのは間違っています」

 あの子は優しい子だった。

 最初はずっと傷つけられていたからかこっちを信頼しようとせずに近づくのを拒んでいた。でも、少しずつ心を開いてくれて、最初は警戒していた領民もあの子を受け入れてくれた。


 でも、魔物の被害が酷くなり、あの子は去って行ってしまった。

 自分がいたら、迷惑になると言って。


「他の事ははっきり違うと言いますが、あの子を匿ってきたのは事実です。そして」

 一度言葉を切り、

「それに関して断罪は受け入れますし、処刑されても文句は言いません」

 だが、

「悪いとは思っていません」

 きっと何度も同じ事を行うだろう。

 強く言い切ると。


「――そう言ってくれると思っていたよ」

 ふわっ

 声がしたと思ったら銀色の髪の青年が庇うように前に立っている。その頭には犬系の耳……。


「ノヴァ?」

 名前がないと告げたあの子にわたくしがつけた名前。


「うん。ただいま。ご主人さま」

 嬉しそうにこちらを見てほほ笑む瞳はきれいな朝焼けのような紫色。


 魔王が復活した噂とともに魔物の侵攻が激しくなった日々。

 明るいのに夜のような日々に光を与えてくれる朝焼けみたいだと思ったから朝焼け色と告げたらノヴァは泣きそうな顔で笑ってくれた。


 ノヴァという名前も闇夜に輝く星を意味して与えたのだ。


「ノ……ノヴァ……」

「うん?」

 なあにと首を傾げてくるノヴァに言いたい事がたくさんあるのに言葉にない。


「だ、誰だ。おま」

「えぇぇぇぇぇぇっ⁉ なんで続編の隠しキャラが出てるのっ⁉」

 王太子が誰何する声を消し去るように【聖女】さまが叫んでいた。


「――いきなりの訪問申し訳ありません」

 広間の入り口が開き、数人の男性と一人の少女が現れる。 

 そのうちの一人があいさつをする。


「われらはグルーミン帝国から来ました。聖女ニナとその婚約者であるオーウェン王子一行です」

「えっ!? なんで続編の攻略キャラがっ!?」

 意味が分からないと叫んでいる【聖女】さま……いや、聖女が二人いるから紛らわしいのでシンディ様と呼ぶべきだろう。


「なんで、もうイベント始まったのっ!!」

「シ…シンディ……?」

 興奮状態になっているシンディ様に王太子が困惑している。


「魔王討伐よねっ⁉ もちろん協力するわっ!!」

 と興奮したまま告げてくるシンディを見て、聖女ニナは目を大きく開いて。


「あの……もう討伐しましたが……」

 と返事を返す。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ご主人様が俺を庇って大変な想いをしたのはすべて魔王が暴れるからだからな。さっさと魔王を倒してこようと思ったんだ」

 にっこりとほほ笑んでノヴァは抱き着いてくる。


 ぴょこんと頭から見える耳が可愛らしくてつい自分の状況がいまいち把握できていないが、ついつい和んでしまい撫でてしまう。


「な…なんで魔物が……」

 王太子が信じられないつぶやく声を聞いて慌ててノヴァを庇おうと動こうとするが、ノヴァが抱きしめたまま押さえてくるので動けない。


「彼は魔物ではなく、グルーミン帝国で崇められている守護神。女神とフェンリルのうち、フェンリルの眷属が地上に降りた姿です」

 グルーミン帝国の宗教を思い出す。我が国では女神しか崇めていないが、グルーミン帝国では女神とともに守護獣フェンリルも信仰の対象で、女神の力を受け入れる事ができる存在が聖女として聖痕を与えられるが、かの国では危急の時にフェンリルの眷属が降臨して、女神の力を受け入れた聖女とともに行動すると言われている。


「だけど、降臨場所で魔物と言われて殺されかかったのをご主人様が助けてくれたんだ。ご主人様がいなかったらとっくの昔に役目を果たせずに消滅していたよ」

 ありがとうと尻尾を振ってくる様を見て、

「つまり、あなたは魔物じゃなくて、もう危険な目に遭わないのね」

 この場に現れてどう庇えばいいのかと考えていたけど、無事ならいいかとほほ笑むと。


「ご主人様……。よかった。会えて」

 と強く抱きしめてくる。


 その様を。

「どういう事よっ!! せっかく無印のキャラを攻略して、二作目の合流イベントをしようと思ったのにっ!!」

 とシンディ様が叫んだ。





 シンディはこの世界が【君は煌めく星】略して【きら星】の世界で自分がその作品のヒロインだと知った時歓喜した。


 【きら星】は魔物の被害が酷いとある国で多くの攻略キャラと絆を深めて聖女として覚醒をして魔物から国を守るという話であった。

 ただ、彼女は無印よりも二作目の方が好きで、その隠しキャラであったノヴァに恋をしていた。


 無印は一国だけだが、二作目は一作目と違う国の聖女が勇者や英雄とともに旅に出て魔王を倒すという設定だ。一作目をクリアしていると、一作目のヒロインと攻略キャラも一緒に魔王討伐のパーティーに加わるという話になっていたので、仕方なく一作目のキャラを攻略する事にしたのだ。


 攻略キャラをある程度攻略しないと一緒に魔王を倒しに行けないからだ。


 だが、思うように進まない。

 攻略キャラと絆を深めるために悪役令嬢であるルーフィアが様々な妨害を行い、しまいには魔物を呼び出して国を襲わせるという設定なのに全く魔物を呼び出さないのだ。

 

 ルーフィアが魔物を呼び出さないと攻略キャラと絆が結べない。絆が深まらないと二作目の合流イベントに間に合わないと思って、ルーフィアの名前を使って魔物を呼び寄せた。




 ルーフィア……というかルーフィアの実家である侯爵家を潰したい勢力の手を借りて様々な罪を捏造したのに。


 なんで魔王を倒しているのよ。なんで、二作目のヒロインがすでに攻略しているのよ。


 それに何より。


「あんた魔物を匿っていたはずでしょう!! なんで、ノヴァに庇われているのよっ!!」

 おかしいじゃないと叫ぶと。


「ご主人様が匿っていたのは俺だ。俺自身も覚醒するまで魔物だと思っていたしな」

 迷惑をかけると出奔したのだが、

「ニナがフェンリルの眷属だと教えてくれて封印を解いてくれなかったらきっと覚醒しなかっただろうな」

「――覚醒するきっかけを促したのは私ですが、大元の鍵はノヴァが誰かを大事に想い、その人のために魔王を倒したいと想わないと解けない封印でした。よほど、貴女がノヴァを愛してくれていたのですね。お礼を申し上げます。後、お名前を聞かせてください」

 抱きしめられている私の顔を覗き込みながらニナ様が問いかける。


「ルーフィア。です……」

「じゃあ、私の事もニナって呼んでください。ルーフィアさま…あと、さん付けにしていいですか」

「呼び捨てでも構いません!! ニナ様っ!!」

「じゃあ、ルーフィアさんもニナって呼び捨てしてください」

 となぜかのほほんと会話していると。



「――どうやら、旗色が悪いようだな。ロベルト」

 ずっと黙っていた陛下が口を開く。


「聖女に現を抜かして、ルーフィア嬢を蔑ろにしているなと思っていたが、聖女がお前にとって利点になるのならこのまま婚約解消しても構わないと思った、もともと王命で婚約を決めたからな。お前がもしルーフィア嬢の価値に気づいて大事にできなかったら婚約を解消するとアルベルトと約束もしてあったからな」

 アルベルトというのはお父さまの名前だ。

 もともとお父さまは婚約に乗り気でなかったので、条件を付けていたのだろう。


 で、その条件があったから口出さなかった。


「――ルーフィア嬢。この場で謝罪しよう。貴女を利用して、この馬鹿息子が王位に本当に相応しいかの見極めとそこの()()()の行いを調査した」

 そこの女の本性を見抜けたら合格だったのにな。

 舌打ちとともに告げられる言葉。


「ちっ……父上……?」

「陛下……?」

 どういう事だと王太子共々首を傾げると。


「ルーフィア」

 今までずっと静観していた。そう、この断罪劇でも黙っていたお父さまがこちらに近付き。


「お前が……いや、私たち全員がノヴァを庇っていた事は陛下にはとっくの昔にばれていたんだ。で、その事で罪に問わない代わりに王太子妃候補として殿下を試す試金石になれと脅さ……王命が下ってな」

 敵を騙すには味方からと言う事で言えなくて済まないと謝ってくるお父さまを見て。


「いえ……気になさらずに」

 いろいろ気になる事が多いが、それだけしか言えない。


「君のおかげで色々調べられたよ。魔物を国に呼び寄せた人物とかもな」

 陛下がシンディ様に視線を向ける。


「連れて行け」

 陛下の命令で動く兵士たち。ちなみにわたくしを捕らえていた者たちも一緒に連れていかれている。


「さて」

 陛下の視線が王太子に向けられる。


「此度の式典。聖女が覚醒した式典であり、国にいた魔物を追い払った英雄を称えるモノだったが」

 ちらっと英雄たちを見る視線。


「偽聖女の口車に乗っての自作自演。ご苦労だったな」

 お前たちのせいでどれだけの民が犠牲になったか。

 

「聖女ニナ。そして、オーウェン殿下。あなた方の来訪の場でこのような騒ぎを起こして申し訳ない」

「いえ、恩を売れるいい機会なので気にしていませんよ」

 にこやかに互いが優位につけるように話をしているのを聞きながら。いろいろあって頭を整理していると。


「ご主人様……いえ、ルーフィア様……」

 ずっと抱きしめていたノヴァの手が外れ、ノヴァは跪く。


「貴女に命を救われてからずっとあなたを思っていました。あの……俺と……」

 白い肌が赤く染まっている。

 その姿にこっちもつられてしまう。


「結婚を前提にお付き合いさせてください」

 差し出される手。


 あの子を守るためにいろんな力を身に着けてきた。守るためなら政略結婚の必要さも理解してきた。だからこそ諦めていた。


 ………私は貴族失格だろう。


「はい」

 もうあの子というには立派になったノヴァの手を取り、顔を赤らめて返事をする。


 あの子の事を言われたら言い訳もしないで断罪されようと思っていたのだから。


 嬉しくて顔を赤らめてほほ笑むとノヴァもまた笑ってくれる。


 それを見て、諦めていた幸せが手に入ってもしこれが処刑前に見る夢でも許せてしまうと思ってしまった。




ゲーム二作目では、ノヴァは人間不信になって闇落ちしたフェンリルの眷属だったのを聖女ニナによって本来の役目を思い出して覚醒する。

ルーフィアがゲーム開始前に覚醒きっかけを作ったのか。無印で悪役令嬢として処刑されて闇落ちするかは不明。

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[気になる点] 「連れて行け」 の段階では一体誰が連れていかれたんでしょうか。 偽聖女とそれに踊らされた者たち(王太子以外)? てっきり王太子も連れていかれたのかと思いきや、王太子に話しかけだしたの…
[気になる点] 主人公はケモナーなのかな?
[気になる点] えっと聖女ニナは転生汚染はされていないんですよね?
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