たからもの
「処分しなさい」
生まれて初めての衝撃的発言。 今でも忘れない。
我が子を処分?
この子を?
処分って何?
体に強烈な怒りと憎しみが芽生えた。
「あんたに賢二の子供は産んでもらいたくないの。もう、2人も子供いるんだから十分でしょ!!」
確かに私はバツイチで2人の子持ちだが、お腹の子に対して
「処分」なんて 表現で考えたことなど 1度もない。 母親なら当然の気持ちだと 思うが…
私 舘内 エミ 25歳の夏の忘れもしない衝撃的出来事だ。
母子家庭で育ち 5歳上の姉と風呂なしの いわゆるビンボー育ち。
高校に入学したものの 勝手に就職を決め、勝手に退学を決め、勝手に家を出て、勝手に18で結婚。 19、20で 第一子、第二子を出産。
親にしたら、どうしようもない子だ。 結婚してから ダンナの借金を打ち明けられ、母と同居し、風呂付きのボロい平屋に家族5人で暮らしていた。
ダンナといえば 私とは正反対の穏やかな性格。 私が母とケンカしたものなら、
「親に向かってそんな言い方はダメだよ。育ててもらって‥謝ってこい!」 というのが クチグセ。
反発ばかりしてたワタシに素直に入るコトバ。 なぜなら…
理想の父親像を ダンナにダブらせていた…
別れた父親といえば ワタシが5歳の時に 女に子供を作って離婚。 再婚離婚… 会う度にとは 言い過ぎだが、 それに近い離婚再婚を繰り返していた。
皮肉なことに どんどん裕福になっていた。 思春期の頃には 父親は死んだと 思うようにしていた。
そんな環境下にいたワタシを ダンナは 「どんな親でも親は親。お父さんとお母さんがいたからエミがいるんだよ。感謝しないとね」 はぁ?ありえない!
あんな父親に 父親と別れてことあるごとに 虐待する母親。
こんな家早く出て お金貯めて ビンボーから脱出しないと。
ずっと そう思って生きてきたんだから…。 「やだと思うことは そうしなきゃいい。ただ それだけ」
キヅカナカッタ…
ダンナはそんな父親にも 偏見の目で見ず慕ったいた。 もちろん 母親に対しても
「きっとハケグチがなかったんだよ。女でひとつで子供2人育てるのは 大変なんだから… 立派だよね」
ウレシイ
そう 思った。
ワタシが変わった。 ダンナが変えてくれた。 借金だらけのダンナだが ワタシ的に尊敬していた。
結婚して2人目ができた時 うちは 借金だらけ… ダンナが結婚するまえに作った借金。 返済額1ヶ月 約11万!手取19万! やってけるハズがない
どうしよう…
「ねぇ、パパ?また、できた…」 恐る恐る。
「なんでそんな暗い顔してるの?」 「だって…かわいそう…」 「なにが?」 「だって…」 「もしかして…おろそうてかって思ってない?」 「だって…やってけないから…産めないよね」
言われる前に… きっと いいづらいよね… オロシテクレなんて…
そう 思っていた。
「エミ?誰にその子を殺す権利がある?命だぞ! オレもエミも 親だからといって その子を 生かす死なすは決める権利なんて… 授かったんだから 頑張って育てよう。 金のことなら オレ 土日バイトするから。 ねっ! もう おろすなんて 思わないでね」 前のダンナはいつも ワタシ達に気遣い 優しい人だった。
お金のこと以外では すごく 尊敬できた。
だから ワタシも 素直に聞けたんだろう。
唯一 ワタシが 素直になれた人だ。 貧乏でもシアワセ
借金は払えばなくなる
家族… ワタシの…
パパがいて ワタシがいて 子供たちがいて…
ずっと 続いていくと思っていた。 あんなことがあるまでは…
澪が産まれて 3ヵ月。
ワタシは昼間は保険屋 夜 スナックで働くようになっていた。 ダンナも土日のバイトを続けている。借金も着実に減ってきた。
ボーナスも全部 積立と借金返済に回してきた。
来年パパの満期金が入れば半分に減る!
ワタシはそう 思っていた
そんなとき…
「エミ?オレ、3曹きた!」
ダンナは自衛官で 階級というのがあって 昇任すると階級が上がっていく。
3曹から 会社でいう 正社員扱いらしい。
ダンナは航空自衛隊で 3年目 5年目まで 3曹になっていないと 満期金が支給される。
ダンナに内定きたのは 4年目だった。
「満期金は?」 「もらえないけど、昇任だから…」
………。
普通なら 素直に喜べることだが、 ワタシには マンキキン のことしか 頭になかった…
3曹になったら 単身で静岡に 勉強の為 教育で4ヶ月いかなければ ならない。
また 借金するかも…
頭によぎる
「オレさぁ、頑張るよ」
ワタシの不安をよそに ダンナは静岡に 出発した
ワタシは昼間は保育園、夜は母に 子供たちをみてもらい スナックにいき 借金返済に向けて 働いていた。
が、 ある日…
借金の残高が 増えていた。
あれ?
昨日より 増えてる…
利息がつくから 当たり前だが、 それ以上に。
昨日 半分位まで減ってるのを 確認してるハズなのに 満額いっぱいまで 借金が増えていたのだ。
まさか… いや… もう 借りないって約束したし…
「ねぇ、パパ?」 「ん?」
「なんか…わかんないけど借金増えてるの。 ちゃんと 返してるのに…。 明日 聞いてみるね」
「あ、ごめん… それ オレだわ…」
耳を疑った
なんていったの?
受付たくなかった
「ごめん!急に打ち上げすることになったり、土日こっちでヒマでさ〜 金なくて エミにも いいづらくて ちょっと 借りたんだ。 もう 借りないから… ほんっと ごめん!」
それから 幾度となくワタシが返して ダンナが借りてを繰り返していた。
離婚
ワタシはそう 考え始めていた。
今度 裏切られたら…
きっと もうないよね…
失いたくない やっと作った家族を手放したくない気持ちから わずかな期待を胸に抱いて…
27日 \270000 指定口座から引き落とし
ん? 2万7千円?
イチジュウヒャクセンマン
27万? はぁ?
苦しい苦しい…
はぁっ はぁっ はぁっ はぁ… バタン。
過換気症候群…
初めて発作を起こした。
もう24時間じゃ 足りない! この日まで 寝ないで働いても稼げない!
まず それを思って ワタシは倒れた…
ワタシは覚悟を決め ダンナに電話した
「パパ?離婚して」
「なした?」 こみ上げてくる 怒り 憎しみ 悔しさが発作を呼び 言葉にならない
「とりあえず…オレ帰るまで待って」
そういって 電話を切って ダンナが帰ってくるのを待った
ワタシは マイナスより ビンボーを選んで離婚した
借金返済したら 復縁…
そんな 希望と期待を持って…
あれから 1年9ヵ
ワタシは相変わらず 昼夜働いていた
「いらっしゃいませ〜」
夜の仕事で ワタシは 古株になっていた
「エミ、斎藤さんとこついて」
「はいっ」
ママに言われ 常連の斎藤さんとこにワタシついた
「お邪魔しまぁす いらっしゃい 斎藤さんっ(笑) 今日はいっぱいですね」
「おぉ!エミ! 今日は若いの連れてきたぞ!」
1月8日
この日が 今のダンナー賢二との出会いだった
「かっこいいだろ〜(笑)うちの期待のホープだぞ」
確かにかっこいい
そう思った
自分のお客さんにしようとも…
「地元は?」
「どこ中?」
「まぢで?」
共通の話題を探し 賢二は小中学校の後輩だと判明!
「待って!2コ下だもんねぇ」
全く知らない…
結構先輩後輩はわかる方だが、全く知らない この顔
自衛隊だから 頭よさげだし 真面目かぁ… ふ〜ん
「ねぇ 実家どの辺?」 「二葉」
「二葉?エミもだよ」「何丁目?」 「二丁目」
もしかして…
「お母さんソロバンの先生で妹いない? 実家って 大戸商店の横じゃない?」
まさかのまさか
超ビンゴ!
「なんでオレんちのこと、そんなくわしいの?なんか 何? 気持ち悪い」
確かに
今 思うと ワタシも思う(笑) が、その時 ワタシは電話番号をゲットしようと必死だった
「え!?あっ!だって…」
ワタシはストーカーでもなんでもない
第一賢二を全く知らないわけだから…
「エミも違う教室だけど ソロバンやってたし…
あ!友達 そこでやってたし」
なんかあたし しどろもどろ(笑)
「ねぇこれ…」
ワタシは自分の名刺にケイバンを書いて渡した
いつもなら あっ これ オレのなんてゆって ゲットできるのに…
「あ…ども」
はぁ!? あなたのは!?
賢二はイツモドオリにはいかなかった
「携番おしえてよ」
もぉ めんどくさい!
ワタシは賢二にちょっと イラつきながら言った
ワタシはカウンターから自分の携帯も持ってきて 登録しますみたいなカンジ
「あ…090ー××××××××」
やっとゲットした
次の日…
昨日のお礼もあるし…
自分に理由を付けて 賢二に電話
「トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル」
出ない
一時間後
「トゥルルル、トゥルルル」
出ない
なに!? 使えない! 何回かかけてみたものの 出る気配なし
悔しかったが ワタシは賢二に エイギョウデンワ をかけるのをやめた
夜の仕事で 使えないやつはいらないし…
自慢じゃないが ワタシには都合のいいオキャクサンいたのだ
都合のいいオキャクサン…
適当に いいこと言って
あげとけば お店にくる客
ワタシの時給アップにつながる
んなんせ… 風呂なし平屋から 風呂付ボロ平屋 やっと 風呂付一軒家築6年に引っ越したばかりで 車も買い替えていたワタシにとって 時給アップは大事だった…
稼がなきゃ!
ビンボー脱出!! 常に思っていた
リリリーン、リリリーン
お店の出勤前 ワタシの携帯がなった
だれ?
今と違って メモリーできる数が当時は 少ない
誰かわかんない
必要ない人は登録してなかった
「もしもし…」 「もしもし」
沈黙… はぁ!?誰? 「もしもし」
ちょっと 気持ちキレぎみ
「あっ…!賢二です」
賢二賢二…!? 誰? 知らない
「賢二…ん〜誰だろ…」
「下田賢二です…ソロバンの息子の…」
あぁ!! 思い出した! 電話にでなかったやつ!
「何回か電話くれましたよね…ちょうど訓練でいなくて…今日帰ってきたんですよ」
いなかったのはどうでもいいが 携帯のハズなのに…
え!?なに?だって 携帯だよね… 全く意味がわかんなかった
携帯おいて白金…スキーの訓練いってたんで…」
あぁ そういうことね
やっと 理解できた
「そうなんだぁ お帰りなさ〜い」
思いっきり エイギョウ(笑)
「なんか、賢ちゃん かっこいいから 彼女いてシカトなのかなぁと思って…」
エイギョウエイギョウ(笑)
そんなの たいていみんなに適当に使う
「明日、トクガイなんで…明日飲みにいきます」 「え〜っホント嬉しい」
トクガイー自衛隊の特別外出 翌日の門限まで 外出してもよいこと
外泊許可みたいなもの
やった! 明日のオキャクサン ゲット!
と 思いつつ
「うん、じゃあ明日待ってるね」
そういって電話を切った
1月16日 カランカラーン
「いらっしゃいませ〜」
賢ちゃんだ
早い!こんな早い時間にきたら 閉店まで いないよなぁ…
ワタシは あっちいったり こっちいったり… 賢ちゃんを気にしながら…
「ただいまぁ」
賢ちゃんとこに戻ってきたワタシ
「電話くれて、ありがとね まぢでちょっと電話でなかったから 地味にショックだったわぁ ホントだよ」
嘘… 使えないと思っただけ…(笑)
「すいません(笑)ってか ホント 彼女とかいないし…」 ホント 素直に謝ってる賢ちゃん
かわいい ゥフッ
「こいつさぁ、こんないい男なのに女いないんだぁ まぢで もったいないしょ」
と 賢ちゃんの先輩の栄ちゃん
この 栄ちゃんがのちに
キューピットになってくれるとは 知るよしもなかった
「ねぇ、賢ちゃん、帰りどこに帰るの?送ってったあげるよ」
閉店まで おいとくのに 得意の一言
ワタシはタクシー代をうかせるのに 車で通勤していたのだ
「あ、うん、じゃあ 」
よっしゃあ 閉店まで おいとける 売上になる 良かったぁ ワタシは そう思っていた
「エミ、上がっていいよ お疲れ様〜」
ママの一言
やった!帰れる!お疲れ様ワタシ!
「賢ちゃん、栄ちゃん、ごめんねぇ 遅くまで ありがとね 帰ろ」
ワタシは賢ちゃんと栄ちゃんを車に乗せ出発!
「えっと、最初どっち?」
心の中で 栄ちゃんが最初でありますように…
「あ、オレ、そこ真っ直ぐいって左でいいよ」
と、栄ちゃん
思いは通じた(笑)
「そこでいいの?うん、わかったぁ」
冷静冷静 栄ちゃんに悟られないようにっと…
「栄ちゃん、ありがとね
おやすみ〜」
ワタシは栄ちゃんを下ろした
次は賢ちゃん!
賢ちゃんの実家は知っている
「賢ちゃん実家?」
「あ、うん」
「なら、わかる」
ワタシは車を賢ちゃんの実家に走らせた
「ここでしょ」
「うん、ホントだ!知ってんだね」
「知ってるよ〜ソロバンの先生んちだもん」
ワタシは もうちょっと 賢ちゃんと居たかった
「少し話す?」
頑張って切り出した
なんか 飾らない賢ちゃんが ワタシを癒やしてくれた
口数も少ないが 飲みにくるオキャクサンは 飲み屋慣れしていて こっちも気を使う
賢ちゃんは 違っていた
ワタシと賢ちゃんは それから 3時間 小学校の時 中学校の共通の知り合いの話 兄弟のことなど 話していた…
そう この時 賢ちゃんが 飲み屋街デビュー2回目でワタシと初めて会った日 1月8日が デビューの日ということが判明したのだ
「もうすぐ、氷凍まつりだね」
冬になると 毎年支笏湖氷凍まつりが開催されるのだ
「そうなんだ オレ 行ったことないんだ」
え〜っ嘘?
ないわけないじゃん! 社会人になったら みんな 友達やら彼氏彼女やらで 一回は行くよね…もう 薄明るくなってきていたが 氷凍まつりのことで まだ 賢ちゃんの実家の横に車を止め 話していた
「一緒に行く?」
びっくり!
賢ちゃんがワタシを誘った
この時 賢ちゃんは まだ ワタシがバツイチの子持ちなんて知らないのだ
ん〜 どうしよう
子供のことを 言おうか言わないか…
頭 フル回転!
言わない
決定! ただのオキャクサンだし 別に…
離婚してから 付き合った人はワタシがバツイチ子持ちなのを知っていたが オキャクサンには 言ってなかった
もちろん 昔からワタシを知ってる人は わかっていたが…
「うん、いいよ 行こ」 ワタシは賢ちゃんと氷凍まつりに行く約束をした
それから ほとんど 毎日連絡をとっていた
ワタシから かける方が多かったが、 週末 賢ちゃんがトクガイのとれるときは必ず お店にきてくれて 一緒に帰っていた
氷凍まつり当日
ワタシは保育園に子供たち知恵と澪を預け 賢ちゃんを迎えに行った
賢ちゃんも車はもっていたが ワタシが出した方が 家も知られなくて住むし、保育園のお迎えまで 動きやすい
なんせ 夜7までお迎えにいかなければ ならないから…
氷凍まつり会場到着
賢ちゃんとワタシ 2人並んで見て回る
彼氏彼女なら 手でもつなぐとこだろうが
ワタシと賢ちゃんは そうではない
ホステスとオキャクサンなのだ
ワタシと賢ちゃんは 賢ちゃんの外出できる日…
部隊からでてこれるとき お店まで送ってもらったりお店にきてくれたりと 会う頻度は多くなっていた
気になる…でも 彼氏ではない
ワタシには 毎月生活費が足りないと相談すれば 出してくれる いわゆる パパ
がいた
ずんぐりムックリで 超キモイ!!
でも 一級建築士で お金持ち
ワタシの一回り上で バツイチ子持ちなのも知っている
知恵と澪も一緒に料亭に連れてってくれたり 服など 買ってくれたり
お店にきてくれたりと…
使える客だ
みすみす 捨てる訳にいかない
もちろん 彼も男なので下心ありあり(笑)
でも ワタシは前のダンナのおかげで過換気を自分で起こせるようにまでなっていた
自分を追い込めば発作が起きるのだ
そう!危険を感じたら 発作だ
誰だって発作が起きてるのに手をだそうとはしない
そうやって 切り抜けていた
他にも、ちょっとちまたで名のしれた かっこいい和希も足に使っていた
ベンツで出勤 気持ちがいい
大工のよしくん…
この人はご飯係
知恵も澪も一緒に白老牛のステーキ
高級寿司屋
海鮮料理
保育園のお迎え
この人ももったいない
ワタシは後から 痛い目に遭うことも考えず 賢ちゃんとも会っていたのだ
ワタシにしたら 別に みんなと付き合ってる訳じゃないし…
余裕さえあった
遂にワタシに天罰がきた
うまい話には罠がある
ワタシにはそれにまんまと引っかかった
「エミ、金入るぞ」 和希
「まぢで!?」
半信半疑のワタシ
「オレがケツ持つから名義貸してやってくれないか?」
「え〜!返してくれなかったらエミにくるじゃん」 「誓約書も書かせるし、オレだよお前 払えなかったら10倍にして とっちゃっから」
信用した
ワタシはたった 16万で 100万の借金をした
いわゆる 名義貸し
和希がいるし…
なんかあったら よしくんもいるし…
ワタシはたかをくくっていた
結果は… そう 逆に利用されていたのだ
母子家庭で借金百万!!
そうだ!よしくんに助けてもらおう!
「よしくんに相談があるの」
一部始終話したワタシ
「ごめん!名義貸しだべ
それはオレ…無理だな〜
法律上エミが借りたんだし、ヘタにもめたらオレがまずい」
よしくんの答えは予想していなかったものだった
どうしよう…
あ!一級建築士の松永さん
あの人にうまいこと 言おう
トゥルルル、トゥルルル…
「もしもし」
「松永さん?エミ!」
「丁度良かった エミに話しがある」
「なに?」
ワタシは早く お金の話しをしたかったが とりあえず 機嫌をとる
「お前さぁ 男いるべ」 「いないよ〜」
マズい!!! 非常にマズい!
「オレ、知ってんだ
見たんだ! ふざけんな お前 ぶっ殺すぞ!!!」
悪いことは重なるもんだ
ワタシは一気に罰があたり地獄に落ちた
そんな時 賢ちゃんから 電話がきた
「今日店いこっかな…」
もちろん 普通の賢ちゃんは全くそんなこと知らない
誰かそばにいてほしかった
自業自得
その通り!
賢ちゃん 助けて!
ワタシは心の中で叫んでいたカランカラーン
「いらっしゃいませ〜」
「いいかな…」
ちょっと 恥ずげな賢ちゃん
「どしたの?なんか具合悪いの?」
今日1日でこんなことが
あったなんて 言える訳がない
「別に…ちょっと寝不足なんだ」
ワタシはそういって 賢ちゃんのとこについた
「大丈夫?好きなの飲みな」
「ありがとう いただきまぁす」
ワタシは いつもよりキツめにウーロンハイを飲んだ
今日の悲劇を忘れたくて…
賢ちゃんと初めてあって 1カ月たっていた
2月14日
バレンタインデー…
ワタシはオキャクサン用のチョコの他に密かに作った賢ちゃん用の特別仕様を持っていた…
いつも通り 帰りは賢ちゃんと一緒
2人で歩いていた
「今日チョコもらった?」
「誰からも…」
「嘘〜?」
「ホント、まぢで!?」「じゃあさ、エミがチョコあげたらもらってくれる?」
「うんっ!」
「じゃあ、これ…」
「賢ちゃんに作ったやつ…」
「まぢで!あ、ありがとう」
ワタシはなかなか渡せないでいたのを渡すことができた
「あれ?エミじゃない?」
同級生の優子とその妹の恵子
「久しぶりだね〜 元気?」
と返すワタシ
「ちょっと彼氏?」
やめてよ 優子! 怖い! 聞かないで!
心の中で…
人間不信になったワタシに追い討ちかけないで!
今のワタシに賢ちゃんの存在がおっきくなっていた
賢ちゃんがワタシを見る
…。
「賢ちゃんに聞いてみて」
ワタシはいった
付き合ってる訳がない
ただ よく 会ってはいるけど…
『付き合って』
なんて お互いに言ったことがないんだから
「賢ちゃんってゆーの? ちょっと いい男〜
エミと付き合ってるの?」
優子はもちろん恵子も
ワタシがバツイチ子持ちのことは知っている
きっと こんな若くてかっこいい人がワタシと付き合う訳ないのわかってて…
ワタシは若干 イラっとしていた
「違うの?」
賢ちゃんがワタシに照れたように聞く
はぁ? 賢ちゃんがワタシと?
付き合ってるぅ?
身に覚えがない…
「違うよ〜 だって 言われたことないもん」
優子に言った
ちょっと 嬉しかったワタシの顔は きっと真っ赤だっただろう
「オレはそう思ってたけど…」 知らなかった… 付き合ってたんだ…
優子たちと別れ
「いつから そう 思ってたの?」
賢ちゃんに聞いてみた
「ちょっと前ぐらいから…いつって わかんないけど…」
「エミ、知らなかったぁ 言われてないし…」
「付き合って」
うんっ!って 言いたい
でも 子供たちのことも バツイチのことも言ってない
「賢ちゃん…あのね、」 「なに?」
「エミ、バツイチなんだ」
言ってみた! 怖い怖い! 早く なんか言って!
「知ってるよ」
え?なんで? 考えてたワタシに
「最初に一緒に帰った日言ってたしょ」
覚えてない!
「エミ、言ったっけ?」 思い出せない!
賢ちゃんがいうには 普通に言ってたらしい…
あとは 子供のことだ
「でね、子供2人いるの」
もう 心臓バクバク!! 反応が怖かった
「知ってる…
人数まではわかんなかったけど…なんとなく、わかってたよ 車に子供の靴あったし 電話してる時 子供の声したから…」
なぁんだ 知ってたんだ
「大丈夫?子供いても?」
「うんっ!結婚はできないけど…」
最初っから 結婚できないって 言っちゃう普通?
そう 思いながら
「それは全然いいの!」
ちょっとショックなのを 隠して 言った「うちきてみる?」
「いいの?」
「子供とばぁちゃん、寝てるけど…」
ワタシは 子供たち 母が寝ている
家−ウチ に賢ちゃんを連れてった…
ガチャガチャ バタン
「どうぞ、散らかってるけど入って」 「あ、うん」
ワタシは まず 自分の部屋ではなく 子供たちの寝ている子供部屋を開けた
賢ちゃんの反応をみたくて…
「ね、子供…」
賢ちゃんを見る
「おっきいね 女の子?」
「2人ともね!右がお姉ちゃんの知恵で、左が妹の澪」
「かわいいね!」
「ワタシは自分の子だからかわいいけど、ムリしなくていいよ…」
「いや、ムリしてないよ ってか こういうの初めてだから なんかわかんないけど… かわいいよ」
子供部屋をあとにして
賢ちゃんをワタシの部屋に案内した
「散らかってるけど…」
「全然大丈夫!」
なんか ちょっと 落ち着かない!
「あ、なんか飲む? あ! 待ってて…」
ワタシは賢ちゃんの返事も聞かず 飲み物を取りに部屋をでた
「ハイ、コレどうぞ☆」
ワタシは ビールを差し出した
ワタシも 飲めないビールを飲む
ワタシはビールが飲めないのだ
ばぁちゃんのビールを拝借!
ワタシ用の焼酎もなければ、たいしたジュースもない
あるのは 牛乳 麦茶 オレンジジュース…
とても 飲んだ後に イマイチなものばかり
だから こっそり 拝借!(笑)
明日 勝って返しとこ…
ローベッドに ワタシが 座って 賢ちゃんがラグ
テーブルなんて 置いてないから ビールと お菓子はフローリングの上…
「付き合った日ってわかんないけど…今日?」
ワタシは賢ちゃんに 聞いてみた
「え…違うしょ…」
ん〜… 意味わかんない
「じゃ…いつ?」
「わかんない(笑)」
(笑)って…
「エミ、記念日とか大事だから 決めたいな」 「決めよっか」
「あの日に初めて会って〜 それから〜 賢ちゃんから電話きて〜…」
賢ちゃんと会ってからのことを 思い出していた
「いつにするぅ? エミの誕生日が5月で 賢ちゃんとあった 記念日が1月8日でしょ…」
ワタシはブツブツ ひとりごと
「そういえば、賢ちゃんの誕生日っていつ?」
「もう終わった 1月14日だもん」 「え〜っ!2回目会った日の何日か前じゃん」
「あ、そうそう」
「ゆってくれれば良かったのに!(笑)」
「14日にしよっか!付き合ったの そしたら 忘れないし… 」 と、ワタシ
「そうしよっか」
と、賢ちゃん
1月14日… この日を付き合った記念日にした
この日、初めて我が家に泊まった賢ちゃん
それから 毎週賢ちゃんが部隊から トクガイをとれるときは ウチにきていた
…賢ちゃんの不思議がでてきたのは この頃だった
「今日、店終わったら電話するから迎えにきてもらえる?」
ワタシはお店の前で 送ってもらった賢ちゃんに といかける
「ん〜…ムリかも…あんまり遅いとおかあ うるさいから…」
ハタチも過ぎた 社会人の男がぁ!?
「うるさいって… なんで? なにが?」
ワタシは理解に苦しむ 未成年の女の子じゃあるまいし…
「遅くなると危ないって…」
「危ないって何が?」
「遅いから…」
ん? マザコン?
他にも ワタシには不思議な言動がよくあった
「携帯代高いっておかあに言われちゃったから、金おいてきた」
賢ちゃんは携帯代を親に払ってもらっていたのだ
「おじさんが出張から帰ってきたから、家に帰らないと…」
勝手に帰ってくればいいじゃん!それが どうしたの?ぐらいのワタシ
「おかあが遅いから帰ってこいって言うから帰るわぁ」
などなど…
そこそこの家で 違うがワタシは その度に
社会人なのに… 女より おかあかぁ…と 不思議に思っていた
たまにそれについて もめることもあったが
うちは エミんちと違うから…
で 済まされていた
この時、
おかあ
とのちに天敵になるとは
思ってもいなかった
賢ちゃんと付き合って3ヵ月がたとうとする頃 ワタシは 異変に気づき始めていた
賢ちゃんが電話にでない
「こちらは○○です 只今電話にでられません」
おかしい…
何度かけても 通じない
部隊に電話してみた 「あの、下田賢二さんお願いします」
電波が通じないことを願って…
「外出してますけど」
電話を切って ワタシは 聞いてないのと 連絡が取れないことで不安でいっぱいだった
翌日 やっと 連絡がとれた賢ちゃんに お店に送ってもらう
ない…
賢ちゃんととったプリクラ
ルームミラーに貼った 3枚のプリクラ…
「アレ?プリクラは?」
昨日のことは 聞けずにいたが プリクラの事は聞いてみた
「あぁ アレ… エミが子持ちなのおかあにバレちゃって… 別れろってうるさいから 別れたことにしたんだ だから 剥がしたんだ」
「あ、そうなんだ わかったよ」
「だから…あんまり会えなくなるわ ごめんね」
賢ちゃんは 別に 普通に言い放った
トゥルル、トゥルル…
「あ〜はい もしもし」
適当にでる賢ちゃん
「あ!賢ちゃん 今どこ? これる?」
なんとなく 機嫌をとるワタシ
「あ〜 ちょうど話したいことあったから 今 いくわ」
前ほど 会えなくなっていたから 嬉しかった反面 話? と ちょっと気になっていた
とある 駐車場で待ち合わせ
ワタシが先に到着
話って なんだろ…
酔いも覚めていた
賢ちゃん到着
ワタシは いつも通りを装って 助手席に乗る
「話ってなに?」
明るく 振る舞う
「あのさ、ん〜」
つまる賢ちゃん
涙目で続ける
「なにも言わないで別れてほしいんだ…」
え!?
予想はしていたが やっぱりショックだった
「なんかエミ、悪いことした?なんで?好きな人でもできた?エミが子持ちだから?」
涙が勝手にでてくる…
納得しようと 質問攻め
「いや、そうじゃないんだけど…
このまま付き合ってても …
オレんち 反対だし…
別れよ ごめん…
送ってくわ」
そういって 賢ちゃんはウチに車を走らせた
無言…
涙だけでてくる
賢ちゃんも 涙を流していた
ウチに到着
これで 賢ちゃんと 最後なんだ
涙が止まらない
「エミ、ごめん」
その言葉が 更に涙を誘う
「別れてもエミが賢ちゃんを好きなのは自由だよね
また、電話するかもしるないけど、やだったら出なくていいから…」
「うん、わかった」
涙目の賢ちゃんを見て ワタシは車を降りた
家に着いて 顔を洗う
真っ赤な目が鏡に映る
部屋に入って ベッドに倒れ込む
着替えなんてできる余裕がない
賢ちゃん…
涙が止まらない…
リリリリ…リリリリ…
目覚ましで目を覚ました
はれぼったい目で ワタシは子供たちを保育園に預け昼間の仕事 保険屋に出勤した
「おはようございまぁす」
遅刻寸前
真向かいには 嫌いな年下の先輩 真紀子
デブでブスで 鼻の下には でっかいホクロをつけている
こいつは 異常にいつも テンションが高い
「でね、キクリンがね アハハハ ウケる アハハハ」
ほんっと うるさい!
キクリンは真紀子の彼氏でデブセンらしい
「キクリンがあたしのお腹の肉にね〜 顔うずめてね〜 アハハハ」
9時15分
朝礼の時間だ
「え〜っとみなさん おはよう
石田さん ちょっと…」
所長が言った
真紀子だ
なんだろ!? やめんのかな…
「え〜っと この度 石田さんが Wおめでたで
赤ちゃんができて 結婚することに なったんだよな」
はぁ!? やめんじゃないの?
よりによって デキ婚報告かよ…
ほんっと むかつく
そう ワタシは思っていた
賢ちゃんと別ればかりのワタシには 酷だった
デスクの上に置いてある 賢ちゃんの写真…
つい 目がいく
でも 別れたとは 言いたくない
少なくとも 真紀子には 意地でも知られたくない
ほんとなら 賢ちゃんの写真を見るのも辛いのに
ワタシは 賢ちゃんのことを 忘れられないでいた
真紀子の そんな報告を聞いたせいもあって 悔しくさえいた
トゥルルル、トゥルルル
ワタシは賢ちゃんにかけていた
「もしもし…」
でた
でないと思った
「賢ちゃんの声ききたくて…」
「今、ゲームしてんだよね うわぁっ もっかいだ
やるぞ…」
「もしもし…」
「まただ つえ〜」
遠くで聞こえる賢ちゃんの声…
電話を置かれていたのだ
「もしも〜し」
電話置かれてる…
切ればいいのに…
応答なし
「あ、ごめん、もしもし ゲームしててさ〜 あとで かけ直すわ
ごめんね〜」
「あ、うん、わかった」
かけ直してこない日なんてザラだった
それでも ワタシは 賢ちゃんに毎日電話をかけていた
でない日があっても…
仕事してても なんか 集中できないワタシ
ちょっとしたことでも つい子供たちに怒るワタシ
この子供がいるから…
そう 考えたりさえいた
前にも増して ワタシは 稼がなきゃいけない日が続いていた
和希に負わされた借金返済が 支払いに加算されていたのもあったし
携帯代も増えていた
月10万の電話代
ワタシは 夜の仕事 お店を掛け持ちして 稼ぐしかなかった
そんな生活をして
1ヶ月が過ぎた頃
リリリーン、リリリーン
電話が鳴った
賢ちゃんだ
ワタシは賢ちゃんからの着信は黒電話の音にしていたから すぐ わかる
「もしもし、賢ちゃん」
ワタシの声も弾む
なんせ 賢ちゃんから電話くることなど ここ1ヶ月あっただろうか
「なんかあった? なんかさ 嬉しくて…」
涙声のワタシ
「今日ちょっと 会えないかな…」
「お店休むわ」
休んでもいいと思った
「いや、オレ 帰り迎えにいってもいいかなぁ?」
「うん!1時!1時であがらせてもらうから…
帰り 電話する」
「あ、いいよ
オレ 焼き肉屋の前で待ってるから」
「うん!じゃ、あとでね」
久しぶりに なんか 気持ちが晴れた
嬉しい
早く会いたい
ワタシは時間を気にしながら
会えるのが待ち遠しい…
つい テンションがあがる
1時…
1時だ
「エミ、1時だよ
あがっていいよ」
いつもなら ラストまでいるとこだが 今日は特別
ワタシは
「お先に失礼しまぁす ごちそうさまでしたぁ」
と、オキャクサンとママに挨拶して 賢ちゃんの待っている 焼き肉屋の前に向かって走り出した
「ごめん、賢ちゃん 待ってたしょ」
ワタシは久しぶりに助手席に乗る
「全然…それよりお店大丈夫なの?」
「うん!大丈夫!」
大丈夫な訳がない
今日は週末
稼ぎ時なのだから
ママに無理いって 嫌な顔されながらもあがらせてもらったのだ
そんなこと せっかく会える賢ちゃんには言えるハズがない
「オレさ〜 あ、いや、 とりあえず 飲み屋街でるわ」
そういって 賢ちゃんは車を走らせた
焼き肉屋から 少しいったとこの公園の横
賢ちゃんは 車を止めた
なんとなく 目には涙を浮かべいる
なんか 様子がおかしい
「オレさぁ…」
賢ちゃんが話し始めた
「エミと別れた時、女いたんだ」
やっぱり…
「オレの1コ下の。 でもその彼女がいなくなっちゃって… 東京いっちゃって… 都合いいかもしれないけど エミに会いたくなっちゃって…
また、より 戻せないかな…」
大泣き
初めてみた!
しかも 元カノ…にワタシに 他の女の話を涙ながらに話している
ワタシに会いたくて 泣いてるんじゃなくて
その彼女がいなくなっちゃって 泣いてる
変なの! イラっとする
話しって…
よりもどそう
だけで良かった
他の女の話なんて 聞きたくなかった
それも 寂しげになんて…
それでも ワタシは 賢ちゃんが好きだった
「うん、いいよ
ただね…」
ワタシは ちょっと強気にでた
「知恵も来年1年生になるの、もうね、記憶に残る年頃だし… 結婚するつもりだったら よりもどせるけど… ムリなら やめよう」
なんか 意外に 吹っ切れた
ダメなら いいや、ぐらいに…
「そうだね、オレ勝手だよね…んっと…
一週間 考えさせて オレなりに色々 考えてみるよ
答えがでたら 電話する」
賢ちゃんの返事だった
「わかったよ じゃ…」
ワタシは 賢ちゃんの車を降りた
今度こそ きっぱり 最後かもしれない…
そう おもいつつ…
一週間たった
賢ちゃんから 連絡なし
ワタシは 吹っ切れていた
彼氏こそいなかったが
そこそこ 楽しんでいた
あれだけ賢ちゃんに執着してたのに…
気持ちが なぜか 楽になっていた
その3日後
リリリーん、リリリーん
「もしもし?エミ?オレだけど…」
賢ちゃんから 結果報告の電話だ
「あ、もしもし…別にいいよ もう…」
なんか ちょっと 自分の強さにビックリする
「オレ、オレなりに考えたんだけど…ちゃんとした お父さんに慣れる自信ないけど… やれるだけ頑張ってみようと思うんだ ダメかな…?」
予想外だった…
悲劇の幕開け…
幸せな生活の始まりにしか思いもしなかった
賢ちゃんとよりを戻して 数ヶ月
小さなケンカこそあったがわりと うまく いっていた
わりと… 別れる前よりも ラブラブだった
知恵と澪もなついている
賢ちゃんも 前より おかあおかあと言わなくなっていたが 相変わらず
おかあ
には 内緒で付き合っていた
むしろ、バレてないと 思ってたといった方が正しいが…
賢ちゃんとワタシ 知恵と澪 公園にいったり 動物園にいったり…
ワタシの空いてる時間 土曜の午前 日曜1日
賢ちゃんの外出できる日
お店の出勤時…
会える日は少なかったが それはそれで 楽しみで 幸せだった
ワタシの誕生日には ばあちゃんに 知恵と澪を みてもらって プチ旅行
たった 一泊だったが 丸1日 2人っきりでいたことがない…
すごく 新鮮だった
色々あったが 賢ちゃんと付き合って 1年があっという間にすぎていた頃 ワタシの体に異変がおきた
まさか…
妊娠…
嬉しい反面 複雑
まだ 結婚する予定など 決まっちゃいない
それよりなにより おかあ
は、 反対なのだから…
賢ちゃんは きっと 喜んでくれる
だって 自分の子供だもん!
そい 自分に言い聞かせないと 不安だった
賢ちゃんに言わなくちゃ…
ワタシは
妊娠
を 誰にも言えずに
賢ちゃんに会える日を待った
発覚してから 具合が悪い
極度の貧血 吐き気、眠気…つわりだ
今のワタシに 仕事を休めるはずがない
今日は土曜
賢ちゃんが栄ちゃんと お店にきてくれている
なにも知らない賢ちゃん
いつもと変わらない
ワタシの帰りを待ってくれている
仕事が終わって
賢ちゃんと栄ちゃんとワタシ
3人でお店をでた
「オレ、寄るとこあるから…」
最近 栄ちゃんは1人でお店来づらい賢ちゃんに付き合って ラストまでいてくれて 一緒に帰れるようにしてくれる
その上 気を使って お店をでたら
「寄るとこあるから…」
いつも そういって 2人にしてくれる
とっても 良い人
「またねっ 栄ちゃんっ」 と ワタシ
「ありがとうございましたでゎ また」
付き合ってもらった お礼をいう 賢ちゃん
ワタシたちは タクシーを拾って ウチに向かった
どうしよ…
妊娠のこと…
「どした?エミ、 調子悪いの? なんかあった? 顔色わるいよ…」
それもそのはず
1日 2、3時間の睡眠時間
仕事3つと家事 一睡もできない日が続いての
妊娠事件!
顔色も悪くなる
なんかあった?
賢ちゃんのその言葉で打ち明けようと 決めた頃 ウチに到着した
賢ちゃんを部屋に待たせ 化粧を落として パジャマに着替える
よし! 頑張って言わなくちゃ!
顔をパンパンっ と叩いて 気合いをいれた
心臓は飛び出そうな位に ドックン ドックン … バンジージャンプでも
するのかぐらいに
ジュースの入ったグラスとビールをもって
部屋のドアを開けた
「お待たせ」
「ううん、お疲れ様」
神様 どうか この子を歓迎してくれますように…
「賢ちゃんに話があるの」
ドアを開けて 第一声が それだった
「ん?」
戸惑った様子の賢ちゃん
「いや、うんと、あのさ…」
気合いを入れたハズなのになかなか 切り出せない
「いや、あのさ…
エミの友達ができちゃったんだけど まだ 結婚してないし 友達バツイチ子持ちで 彼氏の親 付き合ってるのも 反対だから
彼氏に言えないでいるの
でね…
賢ちゃんがもし その彼氏の立場だったら どうする?」
気づいても いいくらいだが 全く まさか
自分のことだと おもっちゃいない様子
「そんなの、その立場にならないとわかんないよ
それより…」
ワタシをベッドに押し倒した
全くそんな気分じゃない
「いや、例えばだよ
だって ほら エミもバツイチ子持ちだしさ
賢ちゃん知ってんじゃん
真由、 エミと腐れ縁っていってた 真由がそうなの!」
よくある 自分のことを友達に例えて反応をみる アレ
ワタシはめいいっぱい 聞き出そうとがんばる
「オレはムリだな〜
だってさ…
−−−−−−−−−−−」
オレはムリ…
その後 なんていったか 耳に全く入っていない
オレはムリ…
ただ この言葉だけが
頭ん中で連呼する
思わず 涙がでた
だって 真由のことじゃない
自分のこと
賢ちゃんと付き合って
また 泣いた
今までの人とはちょっと違う
ケンカしても 謝らない
ワタシが 怒って車から降りても 追っかけない
クリスマス ホワイトデー誕生日 記念日にプレゼントなんてくれたことがない
お出かけするときも
行き先はいつも 決められない
何よりも一番は おかあ
これが 賢ちゃん
カッコつけない
ムダな言い合いはしない
行き先は相手に合わせる
親、家族を大事にする
殴ったりしない
自信のないことはしない
そう 思ってた
好きなうちは 相手を美化してしまう
ワタシもその1人だった
自然にお腹に手がいく
これが 母性本能なのか…
この子をおろしたくない
この子は悪くない
過呼吸… 発作だ
いっぱいいっぱいになっていた
確かに欲しくて 作った子じゃない
でも 自分のお腹に命がある
生きている
神様が授けた 大切な命 おろすなんて 殺すなんて…
澪を授かった時
ワタシはおろすことを考えた
あの時 借金で大変だから…
生活の為と…
自分に言い訳して
でも 前のダンナのおかげで 澪に会えた
殺す権利など ないことを教わった そして 反省した
この子も同じ… たからもの なのだから…
「エミ?落ち着いて! しっかり!」
気が薄れる中 賢ちゃんの声
「賢ちゃん…実は…
さっきの話…」
途切れ途切れ
不思議と発作がおさまっていた
「エミ、できたみたいで
さっきの話 自分なの」
「……。」
沈黙
「産んだらダメかな?」
「自信ない…
ホントにオレの子?」
この時…いや、
もっと前に気づくべきだった
そういう人だと…
「まぢでかぁ…チッ」
なに今の 舌打ち!
しかも なに オレの子って!?
母は強し
まさしく ワタシは 瞬間湯沸かし器のように火がついた
かわいさ余って 憎さ百倍
例えがあっているかは
別として そんなカンジ
「賢ちゃん、自分の子殺せる? どうにか 育ててあげられない?
っていうかさ オレの子?ってなに?
子供作って そうやって 逃げんの? サイテー!」
意外に スイッチって入るもんだ
あれだけ 言い出せずに 悩んでたのに(笑)
「きっと、いや絶対
おかあ ダメだってゆーよ」
でた! おかあ
何度聞いたか
この、おかあ…
一体 どれだけ 怖いのか…
「毎回 ことあるごとに
おかあ おかあって マザコン?
男なら好きな女と 我が子 ぐらい守れないの?」
遂にぶっきれた!!
「オレ、正直自信ないけど …
おかあに 言ってくるわ
待ってて! 」
そう言って 賢ちゃんは 実家に行った
あぁ 良かった
言って良かった
ちょっと キレたけど これで良かった
この子の為に 賢ちゃんも
頑張ってくれる
そんな 期待を胸に 賢ちゃんの帰りを待った
それから 1、2時間たっただろうか
賢ちゃんが帰ってきた
「おかあさん なんて? ちゃんと 説得できた?」
ワタシは
『なんとかね!』
そう 安心できる一言が早く 聞きたくて せかせる
「やっぱ ダメだって… エミと会って話したいっていうから 電話くると思うんだ
オレじゃダメだから
そん時エミ 言ってみて ごめん
ほんっと ごめん!」
この人じゃダメだ
ワタシが この子の為に
おかあ
と 戦わなくちゃ!
「わかったよ」
ワタシはそういって 眠りについた
翌々日 月曜日
いつも通り 保育園に送って出勤
♪♪♪♪〜 ♪♪♪〜 朝礼中に 携帯が鳴った
着信 ○○○○ー○○ー○○○○
知らない番号
あ!
賢ちゃんのお母さん!
頭によぎった
ヤバいヤバい!
「ちょっと スイマセン」
ワタシは電話だと いうことを マネージャーに 口パクで伝え 電話にでた
「もしもし…」
歩きながら トイレに向かう
「あ!賢二の…」
「はい、お母さんですよね、エミですが…賢ちゃんから 聞いてました」
もう ドキドキ!
「あなたと話ししたいなぁと思って…赤ちゃんできたんだって まず いいわ とりあえず インターの手前の喫茶店に10時に… いいかしら?」
「はい、わかりました」
そう いうしかなかった
ワタシがいかなくちゃ!
電話をきって 席に戻る 朝礼が終わって 思い切って マネージャーに事情を打ち明けた
「−ーーそういうわけで、ちょっと10時にいってきたいんですけど…」
マネージャーはワタシの肩をポンっと叩いて 「急いで 髪染めて 着替えていきな!時間ないよ」
ワタシは金髪に近い茶髪だったし 格好も 落ち着いている風ではなかったからだ
車も 真っピンクに全塗装していたし
マネージャーが いうのもわかる
会社を出て
家に帰って
髪を黒く染め
おとなしめのスーツに着替えた
猛ダッシュ 時間がない…
ギリギリ一分前 到着した
お母さんの顔はわかる
なんせ ソロバンの先生だし
カランカラン お店に入る
一番 奥
視線を感じる
お母さんだ
こっちこっちとばかりに手招きしている
おかあ対 ワタシ
初対面だ
「初めまして…」
挨拶するワタシを 上から下 ギョロっとした おっきな目で ワタシを見るおかあ
「あなた、コーヒーでいいわよね‥」
「あ、ハイ」
「ちょっとぉ、コーヒー2つ、ホットね」
なにげに 不愉快なのが 顔と言葉にでている
「で、あなた名前聞いてなかったんだけど…何エミさん?」
「舘内エミです。」
「舘内…ふ〜ん、 で、 赤ちゃんできたんだって?
ん〜 あなたには悪いけど 賢二がそんなことするなんて 信じられないのよ
ほんっとに賢二の子供なの?
あなた 離婚して 子供もいるんだってね、 どうやって 騙したんだか知らないけど…
ま、しゃあないわ
早い話 今日は 賢二と別れてほしいと思って…
赤ちゃんなんて 悪いけど ほら この時代 おろしてる子なんて いるんだし ねっ! そうして!」
機関銃のように 強烈に一方的!!
びっくり!
なんか言われることは だいたい予想していたが まさか ここまで強烈とは…
「あの、口返すようですけど 騙した覚えもないですし、 別れる別れないは お母さんが 決めることじゃないと思うんですよ
赤ちゃんのことも…」
言いかけたワタシに
「あなたから 身を引いてほしいの
賢二は優しい子で 真っ直ぐ育ってきたから
あなたにいいづらいのよ
だから あなたから 身を引いて 赤ちゃんは そう! 早めに処分した方がいいわ
それがいいわ!
そうしてねっ
あなた ちょっと携帯貸してくれる?」
またしても
おかあ攻撃炸裂!!
携帯を差し出した後 更に 事態は急展開
おかあはワタシの携帯から なにやら 手帳を見ながら電話をかけた
「あのぅ、あ、もしもし?そちらで 今日中絶お願いしたいの
今すぐ…
あ、ムリ、 あ、そう で、いつなら…
うん 、 あ、そう
わかりました
ハイハイ どうも」
おかあは産婦人科に電話していたのだ
危ない危ない!
しかも ほんっと強烈に強制的!!
唖然とするくらいに…
「あの、勝手になんでも決めるのやめてもらえませんか?」
反論してみたワタシ
我ながら がんばった!
ものすごい エネルギーを使った気がする位に…
今まで こんな強烈な人に会ったことがあっただろうか
おそらくない
いや、絶対にない!
おかあはびっくりして
ワタシをみる
下田家では
おかあ
に楯突く人はいないのであろう
おかあは呆れたかの様に 軽く首を傾げ、こう言った
「さっきのこと お願いね
あのね あなた あたしを敵に回すなんて…
悪いけど 覚えておきなさい」
そう言い捨てて 会計伝票を握りしめ 店をでていった
おかあ
との戦いに疲れたワタシ
モヤモヤしながら 仕事に戻った
夜の仕事を休んだ
賢ちゃんに報告したくて…話したくて 電話した
トゥルルル、トゥルルル
「もしもし…」
「今日でてこれる?おかあさんに呼びだされたから
その報告…」
「今日は泊まれないけど、今 いくわ」
ウチにきた賢ちゃんに
一部始終報告
別れなさいって言われた事処分しなさいって言われた事
すべて…
聞き終えた賢ちゃんは というと…
「おかあがそういうなら… ごめん! 今回は おろして… 結婚したら… 次… もし次できたら 絶対 産ませるから…」
涙を流して 土下座した
この時に…
もっと 前に別れれば良かった
今になっては もう遅いが…
あまりにも
泣いて頼む賢ちゃんをみてワタシは 結婚をすることと 次は 絶対に産むということで 了承した
9月29日
「舘内さ〜ん」
「ハイ」
「そちらから台に上がって。」
そう
ここは
おかあ
の指定した病院…
産婦人科
朝から考える度に涙がでる
この子がもし…もしも最初の子だったら、間違いなく歓迎され、愛されていたのだから…
「1、2、3……」
ぼんやり目が覚めた頃
もう お腹に 赤ちゃんはいない…
「舘内さんね、キレイに取り除くことができましたが、もし、出血がとまらないようなら…」
先生の話も
たいした耳に入らない
むしろ
どうでもいい
帰り
賢ちゃんが迎えにきた
別に自分でも帰ることは
でかたが
賢ちゃんにも辛さを見せたかった
なにかあったら傷つくのは女なんだから…
親に言われたことがある
その時は軽く流していたが今のワタシには
重くのしかかる
もっと注意すべきだった…
避妊はしていた
あの薄っぺらい1枚に100%頼っていた
100%…
そうではないことを
今回で学んだ
結果我が子を犠牲にすることになって…
帰りの車の中
ガマンしていた悲しみと辛さを賢ちゃんにぶつける
この子を忘れないこと
この日を忘れないこと
2人で涙ながら
約束した
賢ちゃんが忘れるなんて
思いもせずに…
12月12日大安吉日
ワタシたちは 入籍した もちろん 知恵たちも 養子となった
晴れて 家族になった
おかあ…
賛成した訳ではない
子供おろさせたことが申し訳なくて 結婚を許した訳でもない
賢二が 初めて 別れないと反抗したから 仕方なく…
ただ それだけ…
仕方なく…
結婚式も挙げたかったが
おかあ
の 「あなた、2回目だからいいよね…」
結婚させてあげたさまさま
なにも言えなかった…
それでも 家族ができたこと
これからを大事にしよう
いろいろあったが
ワタシは なるべく
おかあに
可愛がられようと 努力した
知恵たちも…
おかあは…
お父さんが定年退職を迎え 退職金が入ったので
パチンコ三昧
「エミちゃん、結婚祝いもらったんだからみんなに お返しなんだけど…」
「はあ…」
「ご飯でもご馳走してくれればいいから…
明日なんだけど 焼き肉屋 予約しとくから
私に任せなさい
ねっ!」
「わかりました」
この日だけ
明日だけだと思っていた
そうは 甘くなかった
一週間に一度は必ず 食事会の電話
行けば必ず
「今日はエミちゃんのおごりだから、お礼言っといて〜」
親戚がくるたび
このコトバ…
ワタシには
「お祝いいっぱいもらったんだし、親戚付き合いは大事よ」
と。
赤字20万…
お祝いは確かにもらったが1ヶ月で 食事会に消えた
このままじゃ生活していける訳がない
賢ちゃんにも 言ってみたが いつも返事は決まっていた
「おかあに任せとけば大丈夫!」
食事会がない時でも
夕飯の支度を頼まれることもしばしば…
母の日、父の日 、誕生日 敬老の日…
おかあは 普通ではなかった
普通なら 気持ちで頂いたものは ありがたく もらうのが
普通
そう ワタシなりに認識していた
おかあ
の 考え…
自分の欲しい物をもらってこそ 嬉しい
花なんて 枯れるから いらない
ことあるごとに
パイソンのバッグ
パイソンの財布
ディオールのバッグ
温泉旅行
シャネルの財布
パークゴルフのウェア…
プレゼント指定の電話
買えません…
一度言ってみた
賢ちゃんに内緒で…
「実はもう買っちゃったから給料日にごめんね〜
お金もらいにいくから〜」
どっちにしろ 集金されていた
嫁 イビリ…
おかあのイビリは
こんなもんじゃすまなかった
毎日 朝来ては 一言二言
賢二はコシヒカリで育ったから お米はちょっと高いけどコシヒカリにしてね!
賢二は働いてるんだから 大黒柱なんだから ビールぐらい飲ませてやってね!
賢二はパチンコ好きだからパチンコぐらい行かせてやってね!
毎日毎日
賢二は… 賢二は… の連発だった
ガマンガマン
子供たちもいるし…
せっかくお父さんできたんだし…ワタシはガマンしていた
体重も20キロ落ちた
激やせ…
さすがに 母も ビックリしていた
「賢ちゃんもちょっと
エミの気持ち 考えてくれてもいいのにね…」
確かに 大声だす人でも 浮気する人でもない
借金癖のある人でもない
ただ おかあより 家族を大事にしてほしい
ただ、それだけ…
それって 贅沢ですか?
そんな中 妊娠発覚!
結婚後 賢ちゃんとも
話し合い
もし、授けてもらえるなら 9月生まれの赤ちゃんが欲しいねと 作った子
知恵と澪
2人とも9月生まれ
父親こそ 違うが 何かつながりを…と 考えついたのが これだった
予定日9月9日 バッチリ!
今度こそ なんとしても 守ってあげるからね!
ワタシは お腹の子に誓った
そして 賢ちゃんも…
妊娠3ヵ月
卵巣に水がたまったものの至って順調
おかあには秘密…
賢ちゃんは もう大丈夫だよ
結婚もしたしとは言っていたが、ワタシが怖かったから…
もし… おろせっていったら 賢ちゃんも…
賢ちゃんもまた
おかあが…って始まるんじゃないか
あの時のコトバ
「おかあが…ダメだっていうから…おろしてくれ」
もう2度と 聞きたくない!
おかあが口を挟むと 賢ちゃんが翻る
ワタシの中では そう 思わずにいられなかったから…
あと もう少しで 安定期
おかあが ウチにきても
妊娠の にの字もださない
今度は絶対 守る!
お腹に手も行かないようにいつも通りいつも通り
そんな中悲劇は起きた
日曜日
賢ちゃんも休みで
起きたばかり。
ガチャ バタンっ!
「おはようさん」
おかあだ!
「ちょっとエミちゃん!
あんた また 妊娠してるんだって!!」
目はつり上がって 怒り狂っている
鬼の形相だ
ワタシも賢ちゃんも目が合う
なんで知ってんだ!?
そう思ったに違いない
少なくとも ワタシは そうだった
「澪がママのお腹に赤ちゃんいるって言ってたわ!
ちょっと 嘘でしょ!? やめてね!!
私 言ったわよね!
賢二の子供は あなたに産んでもらいたくないって!約束したわよね!!」
約束なんてした覚えがない
するハズがない
「約束なんてしてません!!」
ワタシは言い切った
久しぶりの反撃!
「そんなの、もうどうでもいいわ!!して、病院には行ったの?」
少しもダメージなし
あっさり かわされた
ワタシは
真新しい母子手帳とエコーの写真を取り出した
「行ってきました
今、3ヵ月です」
その瞬間
ワタシは目を疑った
おかあは
エコー写真を払いのけたのだ!
そして こう言ったのだ
「処分しなさい!」
賢ちゃんはただ黙ってるだけ…
賢ちゃん なんか言ってよ
心の中で叫ぶ
全く通じない
結局 おかあは
「子供だけは絶対許さないから…」
そう 捨て台詞を残して 帰って行った
「ほらね、賢ちゃん エミの言った通りでしょ お母さん おろせって言ったでしょ
…賢ちゃんもお母さんに
なんか 言ってくれれば良かったのに…
ねぇ なんか言って」
賢ちゃんを責めるワタシ
考えこんで 賢ちゃんが やっと 重い口を開けた
「やっぱり、おろしてくれないかな…?」
ワタシの勘は当たった
予感してたまさかの翻りだった
「いいよ、もう離婚しよ…
人殺し!」
また ワタシは泣いていた 何度 泣いただろう
このままじゃ 潰れちゃう
離婚してもいい
この子は守る!
そう決めた
「明日離婚届持ってくるから…」
この日 1日 賢ちゃんをシカトした
話したくない!
裏切られた気持ちでいっぱいだった
おかあに話しちゃった澪は仕方ない
賢ちゃんは 別な意味であ
りえない!
次の日
離婚届にサインをし
賢ちゃんの帰りを待つ
ガチャ バタン
「ただいま」
賢ちゃんだ
ワタシは 何も言わず 離婚届を差し出した
「いや、エミ、ちょっと待って わかった わかったから オレ おかあ説得するから 産んでいいよ! 産んでくれ!
育てよう」
「良かったぁ」
泣きながら 賢ちゃんに抱きついた
また 翻るともしらずに…
この日の夜
実家にリベンジ
おかあを説得しに 賢ちゃんだけ
知恵と澪とワタシ
3人で夕飯を食べながら
賢ちゃんの帰りを待つ
子供たちが寝た頃 帰ってきた
「説得できた?」
詰め寄るワタシに賢ちゃんはゆっくり首を振る
「はぁ…」ため息までついた
そして 2度目の翻り
「知恵と澪とエミとオレ、4人じゃダメかな?」
そういう問題じゃない
実際 お腹にいるのだから…
ワタシは呆れ果てていた この人は自分の子供に愛情はないのだろうか…
たからもの
そう思わないのだろうか…
作る
いらない
処分する
まるで幼い子供の工作のように…
その神経がわからない
ワタシがおかしいのか…
作る
いらない
処分する
まるで幼い子供の工作のように…
その神経がわからない
ワタシがおかしいのか…
いや、違う
危なく 人殺し親子の同類になるとこだった
なぜに ここまで
おかあ は権力があるのか不思議だった
賢二の兄は おかあが気に入った 中古住宅を購入
早く入籍しなさいの一言で入籍
車もおかあの気に入ったのを購入
夜遅く
「遊びにおいで」
その一言ですぐ出動
妹は おかあが気に入らないからと 彼氏と別れた
おかあが 反対するからと 中絶もした
生命保険の受取人も
全ておかあ
おじいちゃんもおばあちゃんも おかあの 電話一本ですぐ 出動する
パチンコ屋の開店も おかあの為に並ぶありさま
ワタシは不思議でしょうがない
自分の意思はないのだろうかと…
お父さんの存在は 影が薄い
全て お父さんは知らないのだ
お父さんがいると みんな わりと寄り付かない
常に 下田家の中心が おかあなのだ
まるで教祖様のよう
「賢ちゃんちは なんで 何でもおかあなの?
自分の意思とか ないの?なんか、変な宗教団体のシモベみたいだね」
思わず
口にでていた
ヒドいことを 言ったのはわかっている
でも ワタシも ヒドいことを言われ続けてきた
金もない育ちの バツイチ子持ちを拾ってやった
子持ちなんて 恥ずかしくて 周りに言えない
あんたの親は 好きじゃない
ビンボーくじ引いた
騙された
賢二がかわいそう
そして
子供を処分しなさい
挙げてくと キリがないくらい…
それに比べたら 全然 たいしたことないじゃない!
そう 思って 否定も訂正もしなかった 賢ちゃんはというと 親の事と自分のことを言われたので 当然 ムッとしている
イラついてるようで
タバコを吸っている
そんなのいちいち 気にしてられない
我が子の命がかかっているのだから…
むしろ ワタシの中で答えは出ている
この子を守りきって産んで育てること
あとはそこに賢ちゃんが
いるかいないかだけのこと
意思は変わらない
「あのさ〜
さっきから 何考えてるか知らないけど エミは
この子 絶対おろさないから!
目障りだから 実家帰ってくれる?
もう いいから!!」
今度は泣かない
泣くもんか!
ワタシには守るものがある
くじけそうになったこともあったが もう 大丈夫!
死ぬ思いなら なんだってできる
落ちるだけ落ちたら あとは這い上がるだけ…
ビンボーは強い!雑草と一緒
けど、裕福な人ほど 落ちたら大変なんだから
母がよく 言っていたコトバを思いだす
ワタシも雑草の子
雑草なのだ
守るものがあると 人間 意外に強くなれるものだと我ながら 感心する
子宝…
字のごとく
タカラモノ
ワタシにパワーをくれる
ワタシを強くしてくれた
まさしく
宝物 なのだ
「離婚はしたくない」
賢ちゃんがポツリと言った
「仕方ないよね…」
ワタシも一言 返す
「その子産むことで、おかあ また なんか 言ってくるかも しれないけど エミは大丈夫?」
「そんなの大丈夫に決まってんじゃん!」
ワタシじゃなくて 賢ちゃんが大丈夫かよ
そう言ってやりたかったがおさえた
「だったら…
オレも頑張るから
新しい家族 みんなで仲良く迎えていこっ
心配かけたり 悩ませたり 辛い思いさせて ごめん!
オレ 変わるから…
これからは おかあが なんか言ってきても 守るから
離婚なんて 言わないで…」
賢ちゃんが変わった
何か 伝わってくるものがあった
もう大丈夫!
良かったね 赤ちゃん! あなたも不安だったよね
心配かけて ごめんね
もう 大丈夫よ…
お腹の子に報告
良かった良かった♪
おかあは というと
ワタシへの攻撃は 弱まる訳もない
ウチにきては
「まだ おろしてないの!? その子 早く処分しなさいよ!」
お腹もだいぶおっきくなってきた
もう
安定期後半戦!
流産の心配もない
軽く早産のぐらい
無事に産まれてくるの待ち
健診の日
先生に聞いてみる
「性別はもうわかりますか?」
「知りたいかい?」
「はい 服の準備もあるので…」
「ん、女の子だな」
女の子かぁ…
贅沢言えばワタシも賢ちゃんも男の子が 良かったが、元気産まれてくれれば
それでいい
8月23日
ワタシは賢ちゃんの立ち会いで女の子を出産した
みんなに 愛されるように そして 挑戦することが 実を結びますように
そう 願いを込めて
愛結ーあゆ
と 命名した
やっと 会えたね
初めまして ワタシがママよ
守りきった 宝物 ワタシに自信と強さをくれた ちっちゃな天使
家族の絆を深めてくれた
愛結 ありがとう
愛結が 産まれて なにかが変わった
おかあだ
毎日毎日 愛結を見に ウチに訪れる
下田家の初孫 愛結…
あの時
『処分』されかかった愛結…
毎日毎日
『あゆた〜ん』と 猫なで声
時には 愛結グッズを 持って 誘拐のように 連れていく
この 変わり様
とても 同一人物かと 不思議に思う
可愛がってくれて いいじゃん!
そう とる人もいるかと思うが 執念深いワタシは
どこか 許せない!
妊娠から歓迎されてきたなら ともかく 『処分』扱いだったわけだから…
かわいさ余って なんでもあり
一歳前で 炭酸系のジュース チョコレート なんてあげちゃってくれる
しかも
ワタシは悪者だ
『ママは、こんなおいしいものくれないでしょ』と。
あげないじゃなくて
ダメですから!
何度いっても なんでもあり
『大丈夫大丈夫!』と。
ワタシにしたら ほんっと
迷惑だ
この頃から ワタシは 賢二に転属、転勤をまだか まだかとせがんでいた
車で 下田の実家から 5分の家から
おかあがなかなか これないとこ
下田一族になるべく 過剰にふれあわない場所に
行きたかったから‥
愛結が産まれて ワタシは専業主婦
若パパのお給料で 家族5人 厳しい中
おかあ
の たかりは変わらない
なんとかなんとか 応じていた
応じる他 なかった
愛結は初孫で初曾孫
予想外の超がつくぐらいめんこめんこだった
澪と6歳空いたため、1人っ子でかわいそうだと思い 今度は男の子をと 望んで次を 妊娠した
今回は賢ちゃんパパも
乗り気!
産み分けの本も 熟読しての熱の入れ様
おかあには 秘密計画
が、やっぱり バレた
カレンダーに
『エミ病院』
なんて うかつに書いてしまっていたから‥
『おろしなさいよ!』
おかあの一言も 更に 重低音が効いている
愛結の時 同様 守りきり 我が家に 再び 家族が増えた
愛結が2歳を迎える年の
5月24日
産み分けの甲斐なく
元気な女の子
陣痛がきてる中 賢ちゃんパパは ワタシを置いて
仕事に行ったため
ワタシの姉の立ち会いで
無事出産
希望に満ちあふれ みんなに愛されるように
『望愛』ー のあ
と 名付けた
望愛の夜中の授乳が 落ちついた頃 ワタシは 夜の仕事を復帰した
家計を助けようと‥
まもなく 昼間も食堂にパートにでるようになった
愛結も望愛も 保育園に預けて‥
朝から 夕方
夜から明け方
家にワタシはほとんどいない
賢ちゃんパパとも すれ違い
時間に追われる生活
当然 夫婦仲も悪くなり
ケンカが 絶えなくなっていた
ワタシも いくらか 稼げるようになって 態度もでかい
今 思うと 反省点だが‥
この時には 全く気づいてなかった
「飯は?」
「よそって食べてくれる?」
「俺が?」
「エミだって忙しいんだって!」
次第に 顔も合わせたくなくなり、仕事にかこつけて帰りを遅くする
「離婚したっていんだから! マザコンなんて いらないし なんでも エミ、エミって 頼らないで! 男のクセに! 」
どんどん エスカレートする
朝 賢ちゃんパパが出勤する
ワタシが家に帰る
賢ちゃんパパが帰ってくる頃 ワタシはお風呂 そして お店に出勤する
あえて 日曜日も仕事を入れる
お互い イライラ
『離婚するか‥もうダメだな…』
いつもなら ワタシが離婚をけしかけるが 初めて賢ちゃんが ポツリといった
「だからぁ 離婚しよってゆってんじゃん!こっちのセリフだわ!」
初めて言われて 一瞬 ドキっとしたが 気の強い ワタシがひく訳もない
頭が痛い
え!?なに!?
具合も悪い
微熱も続いている
貧血 吐き気 食欲もない
寝不足と飲み過ぎかな‥
気にしつつ 家にいたくない
賢ちゃんと 賢二となんか顔も合わせたくない
と 思ってるんだから 仕事を休むハズもない
なんか めまいがする
苦しい、苦しい!
過呼吸の発作も頻繁になっていた
仕事中に倒れることも しばしば
「なんか、生理不順でピル飲んだら太っちゃって‥」会社の理恵ちゃん
あ!そういえば
あたしもきてないな‥
まさか‥
賢ちゃんと不仲なわけだから そうそう 覚えも…
あった!
ワタシが 酔っ払って帰ってきて 賢ちゃんが代休だった日
爆睡してて わからなかったが 目が覚めたら
それらしい 形跡があった
あの日‥
あるとすれば その日しかない
でも まさか たった1回で‥
できないことはないが 確率は少ないハズ‥
ワタシは最後の生理の日から ありったけの知識を使って 排卵日を割り出した
ガーン…
その日は 排卵日
危険日だった
すぐさま 薬局に妊娠検査薬を買いにいった
もちろん 仕事中
トイレに駆け込んだ
+ ‥ 陽性
目の前が真っ暗になった
なんで こんなときに‥
仕事を終え 帰宅
今日は月曜日
夜は休み
賢ちゃんが帰ってきて
いてもたっても居られず 切り出した
「あのさ、生理遅れててさ」
「で、」
「検査薬買ってきたら… +だった」
「知らね オレじゃねーわ!」
「オレじゃないって何?」
「オレじゃないから」
全く進展なし
一週間たっても
賢ちゃんは 知らん顔
ワタシは 母親に打ち明けてた
「どうするの!5人も…『おろしなさい』」
だった
叔母からも 母親から 聞いたのか 中絶の方向で 説得の電話がきた
「悪いけどおろして!」
久しぶりに口を開いたかと思ったら それだった
確かに 不仲だ
確かに もう 作るつもりもしてなかった
が、
確かにいる
ワタシは 早速 次の日 病院にいった
『6週目ってとこかな‥』
やっぱり‥
「出産するなら4週間後 中絶希望なら なるべく早めにきてください」
エコーの写真を受け取る
ちっちゃな物体がそこに 映っている
まだ 人間の形にもなってないちっちゃな ちっちゃな 我が子
おろせない‥
おろさない!
ワタシは 産む決意をした
離婚しても いい
なんとかして この子を育てなきゃ!
なんとかなる!
ワタシは つわりがきつくて 仕事をやめた
家に居るようになってから賢ちゃんは
『離婚』の話も
『中絶』の話も しなくなった
ワタシが 家にいることで 夫婦仲も 元に戻ってきていた
もちろん 家族仲も連動して平和だ
子沢山ビンボーの中
望愛が二歳を過ぎた 8月17日
女の子 『梨央』ーりお
が 産まれた
二文字で 最後が 『お』で画数が 11画5画で 選ばれたのが 『梨央』だったから
梨央が産まれて一層生活は厳しい
お金がなくてピリピリしていた
ワタシは以前いた会社に再入社した
なんせ保険の仕事は好きだし、子供がいても働きやすい
ここまでは良かった
昼の仕事だけに留めておけば良かった
「エミ、週末だけ店、手伝いにきてくれないか?」
高校の同級生しゅんちゃん
「うん、いいよ」
生活苦だし、同級生のお店だし働きやすい
返事は即答
早速週末出勤!
お店には1コ下のママ1人
しゅんちゃんはオーナー
時々くるだけ
ママとワタシ
小さな店でそれほど忙しくもない
ワタシには
とても働きやすい
ママは可愛い
ちょっとブリブリな感じで自信過剰がたまに傷だが
それが売りでもあった
ワタシはちょっと控えめキャラ
むしろ、ママの逆を売りにした
お店にも慣れてきて、1カ月がすぎた頃
「おぉーっす!」
なんか強烈なテンションの高さの3人組!
背の高い『たつくん』
ちょっとポッチャリの『ひろしくん』
ちょっとちっちゃい『たかしくん』
の、出会いだった
この時は誰も
この3人のうちの1人と
進展するなんて
思いもしていなかった
当の本人のワタシさえも…
この3人がきたら、ブリブリのママはオババ扱い
年上のワタシは気分がいい
『たつくん』
口は悪いが凄く、情が厚いケンカっぱやいが、たよりがいがある
『ひろしくん』
見た目は3人の中で1番
オヤジくさいが、冷静で
気が利く
『たかしくん』
1番口数少ないが、さりげなく優しい
3人ともワタシの2コ下
そして3人とも既婚者
お客さんには
ワタシが既婚者なのは内緒
この3人にも…
だんだん
週末のどちらか必ずきてくれるようになり、それが待ち遠しくさえ思うようになっていた
2コ上のワタシをとても
まるで年下をよしよしするように可愛いがってくれていた
「エミはホントめんこいな☆ほんとに年上かぁ?」
『たつくん』は
特に…
もちろん1コ下のママはいい気がしないが
「ババアはあっちいってれ!エミこい!」
『たつくん大好き☆』
賢ちゃんとうまくいってないワタシはちょっぴり
恋をしていた
『ひろしくん』も
「エミちゃんは可愛いいから、今度ご飯でもどお?
これ、俺の携帯の番号‥」
「オレのエミだぞ(笑)」
と『たつくん』
超楽しい☆
この時
『たかしくん』は
特になにもいっては来なかった
が、野球観戦の話になったとき
何故か急接近した
「ゴールデンウィークどっかいくの?エミ、野球でも観にいこっかなぁ」
賢ちゃんと一緒にいく予定になってたから、話のネタに言ってみた
「いいね〜!一緒にいくか?笑」
と、『たかしくん』
「まぢで?エミはいいけど、たかしくん
奥さんいるからムリじゃん!笑」
さりげなく流した
別に一緒にいきたいなんて本心で思うわけがない
第一、賢ちゃんと行くことになってるんだから
そんなこととは知らず、
「エミちゃんの為なら、嫁なんて‥予定空けるに決まってんじゃん!」
ノリノリの『たかしくん』
ま、まずい
このままでは行く羽目になる‥
「それならやっぱり、どうせ行くなら一泊で函館いきたいなぁ(笑)」
これはムリ間違いなしでしょ〜
と、余裕ぶっこいた
が、そっちの方がまずかった
むしろこっちの方が都合がよかったらしい
「函館この前行ったけど
めっちゃ夜景キレイだったよ
今度一緒にいく?」
「いきた〜い!(笑)」
ってか
普通ムリでしょ
結婚してんだし…
「まぢ行く?いくか!」
ちょっと待って待って、
んんっ!?
「いやぁ俺、トレーラー運転してっから函館も行くんだよね」
なるほど!運転手か‥
それに付いてくってことね
飲み込めた!
車は大好き☆
運転手になりたかったこともあって
ヘッドに乗ってみたかった
しかも
行き先は函館!
行くっきゃない!
「今度行くとき誘って♪」
乗り気な返事をした
「あ、連絡するからアドレスとか教えてよ」
携番とアドレスを交換した
ちょっと
『たつくん』が気になるけど、みんなもワタシも
結婚してんだし…
このときには
特にどうなりたいもなかった
普通はなくて当たり前だけど‥
「帰るよ〜っ」
ママの機嫌わるそうな声
始まった
最近、ワタシが入ってから自分のお客さんが
ワタシについてきてるのがおもしろくないらしい
それがまた、わかりやすいから客も引く
八つ当たりもでてきたが
全然平気!
しゅんちゃんに言いつけるから(笑)
賢ちゃんに迎えのメールをする
行き帰りは賢ちゃん
なにかと心配らしく
夜働くときの条件
そうでもしないと
余計ワタシの帰りが遅いから
♪♪♪〜
『たかしくん』からメールだ
「ぼくドラえもん」
意味わかんない
とりあえず
「ぼくドラミちゃん☆」と返信
楽しかった反面
賢ちゃんの不機嫌な顔をみるとイラっとする
昼夜働いてんのに、その態度はなに?
おもしろくない
自分でもまた、
いつもの
『ワタシだって働いてるんだから』
悪い病気が芽を出してたのは言うまでもない
あとから大変なことになるとは知らずに‥
欲がでてきたワタシは
なにかと理由をつけ
平日も週2日、違うお店にも働きにいくようになった
バリバリのママのお店で
店内もモダンな感じ
年配向けのお店
あんまり働きやすくはなかったが、紹介で入ったから辞める訳にいかない
演歌、政治の話、チークダンス‥
全く合わない
早く帰りたいなぁ
今、何時だろ・
♪♪♪♪〜
『たかしくん』から
今日は平日なのに…
「もしもし‥」
「エミちゃんどこ?
お店いったらいないんだもん」
話をきけば、同級生同士で飲み会があったらしい
ここでは
キャラが違うため、こっちには呼ばなかった
結局、お店が終わったら
一緒に飲もうということに‥
1時!
お疲れ様でしたぁ☆
すぐ
たかしくんに電話した
裏の路地で待ち合わせ
たかしくん発見!
「ごめんね〜」
そこにはたかしくん1人
大好き☆なたつくんがいない
な〜んだ
たつくんいないのか‥
そんな思いとは裏腹に
「すっげー会いたかった〜」
たかしくんが抱きついてきた
なんとなく‥たつくんは?なんて聞けなかった
「いっつも俺さ〜、たつにエミちゃん取られるから‥今日は俺だけ!ねっ」
手をつないできて無邪気に手を振り回してる
悪い気はしない
2人で手をつないで週末のお店に向かう
カチャ
カウンターのママも
たまたま来ていたしゅんちゃんも目を丸くしていた
「今日は珍しいコンビで‥」
ずっと手をつないだまま
カウンターでデレデレのたかしくん
さすがにしゅんちゃんがワタシに小声で怒った
「なにそいつ!いつもの客だべ
随分だな‥」
まだ、言いたそうにしてるしゅんちゃんに
たかしくんが入ってきた
「オーナーなに?やきもち焼いてんの?笑
ラブラブでごめんね〜
悪いけど邪魔しないでくれる?」
相当酔ってる
軽く飲んで帰るつもりだった
お店の閉店で店をでた
「帰ろっか」
いつもの帰り時間より
はるかに遅い
賢ちゃんから怒りのメール5件、着信30件!
ヤバい!!
しかももう、迎えにきてるらしい
チョロチョロなんてしてられない
「たかしくん、ごめん!
契約してるタクシー
だいぶ待たしてるから‥」
なんとかかんとか車に乗った
賢ちゃんにとりあえず
適当に謝りながら‥
週末だけ連絡をとるようになった
ワタシとたかしくん
たかしくんがくるなら
『たつくん』も来てくれる
遅くなっても必ず‥
日に日に仲良くなり、
お店が終わったら、4人で居酒屋に行きご飯を食べて帰る
習慣になっていた
そのうち
仕事にかこつけて
函館に行ったり
釧路に行ったり
北見に行ったり、
温泉に行ったりと
4人の中で公認のカップル!?になっていた
『たつくん』ではなく
たかしくんと。
結婚してることも
子供がいることも
打ち明けても
変わらず続いていた
賢ちゃんにもバレず、1年が過ぎた頃
ワタシはお店の掛け持ちを辞め
BARのママになっていた
カランガチャッ
「スイマセン、ここ、どういうお店ですか?」
黒ブチ眼鏡にチェックのシャツ
デニムの腰に真っ赤なキャップ
優しい感じのちょっと小太り
「Barって書いてますけど、なにを飲んでも90分
2500円のスナックみたいな…」
「それならちょっと、寄ろっかな」
店の外にいる仲間を連れて‥
オシャレな公務員の『げん』
車屋の『龍』
学校の先生の『ティーチャー』
初めてということで
色々質問攻め
「先生ってどこの先生なんですか?」
子供がいるせいか気になって聞いてみた
「いや、ちょっとそれは‥」
「うちの子も学校いってるから、どこかな?って(笑)」
「え?ママの子供?
どこどこ?」
「「北翔小6年」と
「富山中1年」に」
「あ!俺いた!名前は?」
自分のことは言わないくせに、やたらと聞いてくる
「下田知恵と澪」
考え込むティーチャー
「あ!わかる!知恵ちゃん、なんだ保護者の店かぁ
つまんねえ‥俺、帰るわ」
席を立とうとした
感じ悪い!
一瞬イラッとしたが
他の女の子
ゆっこに任せて、ワタシは他についた
ティーチャーたちも結局帰らず、飲み放終了までいたりして‥
ここには二度来ないと言っていたティーチャーたちも
時々きてくれるようになった
気になる存在になっていた
ある時の店の帰り
1人で歩いてるティーチャーを発見!
声をかけた
「どこいくんですかぁ?」
「どっかで飲もうかと‥」
「一緒に飲みませんかぁ?」
「いいですよ」
ビール、チュウハイ、つまみを買ってティーチャーのお家で飲むことに‥
なんだかんだ話して、勢いで…
それから、連絡をとるようになった
すぐ怒って、間違いなく
その日には機嫌が直らない
面倒くさい人
疲れる‥
が、どこか憎めない
こんな性格悪い人初めてって思うくらいなのに
きっと不器用なんだなぁなんて思ったり
いつしか、毎日会いたいくらい大好き☆になっていた
頼りない賢ちゃんよりも
器の小さいたかしくんよりも…
たかしくんは
会えば会うほどワタシにお金をださせるようになっていたし、飲みにきた時は
勝手にサーバーからビールを持ってきたり…
ワタシは熱しやすく冷めやすいから
なにより、たかしくんは
この時
正直どうでも良かった
ティーチャーは独身
お家にも行ける
お金も車も出してくれる
時間が合えば函館だって
洞爺湖だって連れてってくれる
ご飯食べに行くのも
いつも違うお店
そしていつも柔軟剤のいい香りがたまらなかった
お店が終わったらティーチャーのお家に会いにいく
お店の休みでも
お店のふりをしてティーチャーとお出かけ
もちろんティーチャーは結婚してるとは知らなかった
最初にバツイチまでしか
話してないため
言い出せなかった
いつものようにティーチャーのお家から朝帰り
賢ちゃんはもう出勤していた
良かった良かった
保育園に子供を送って
ワタシも出勤
いつものこと
仕事を終えて家に帰る
…賢ちゃんの様子がおかしい
怒ってるのはいつもだが
今日は尋常じゃない
「エミ、朝までどこにいた?」
なにか知ってそうな言い方
「あ!ごめん、ゆみちゃんに会って、ゆみちゃんちで飲んでた」
「それどこよ?」
「なにが?」
「ウソつかないで言ってみ
それウソだろ」
いつもなら
こんなにしつこく聞かれないのに…
なにかバレてる‥
え?なに?
足りない頭をフル回転
「どうやって帰ってきた?」
「タクシーで」
ティーチャーに送ってもらったなんて言えるハズがない
「ウソつくなって!財布もないのにか!」
財布?
急いでバッグの中をあさる
ない!ない!財布がない!
「ほらよ」
賢ちゃんが投げてよこした
なんで?
全くどこで落としたか
わからない
「どこにあったかって?
エミのいたとこだ!」
よくよく聞けば
ティーチャーのお家‥教員住宅の集合玄関に落ちていたらしい
おむかえの先生が交番に届けて、ワタシがいない間に連絡がきたらしい
はぁ‥
普通ならここで反省して
、おとなしくするだろうが‥
ティーチャーに会いたくてしかたない
車の置き場所を変えて
会いに行っていた
それなりに楽しく、うまくいっていた
そんな時ぐらいから、たかしくんから電話がきたり
メールがきたり
追っかければ逃げる
逃げれば追っかける
その心理は間違いないと確信した
たかしくんもその1人
ティーチャーの家に行ってる週末はしつこく電話がなる
ほんとウザイ
賢ちゃんみたい
ティーチャーとワタシ
付き合ってる訳でもない
付き合えない
ワタシには一応旦那さんがいるから
ティーチャーとは4コ違い
ワタシが上
バツイチ子持ちだから
好きな人が出来たら、すぐいなくなってあげるね
そう言っていた
ティーチャーもできるかわかんないけどね!
なんて言ってくれていた
なんか生理遅れてる‥
ヤバい!
できてれば間違いなく、ティーチャーの子
賢ちゃんにバレる前におろさなきゃ!
いつものようにティーチャーのお家
ティーチャーはなにやら仕事中
パソコンで‥
「ティーチャー話しかけても大丈夫?」
「なにかありましたか?」
時々敬語を使って話すティーチャー
「まだ、ハッキリしてないんだけど‥生理遅れてて‥」
「できた?」
嬉しそうに聞く
え?なんか嬉しそうに見えるけど、まさかね‥
「ごめんなさい」
謝るワタシ
だってティーチャーも困るもんねだって付き合ってないし‥
「いや、まだ調べてないんだけど、エミできやすいから多分‥でも、ちゃんとおろすから‥」
あ、そう
悪いけどそうして!
そうくると思った
が、ティーチャーは違った
「もしそうだったら、結婚する?」
ビックリした
嬉しかった
でも‥
「ティーチャー6人のパパだよ?長男だしムリ、ムリ、親反対するじゃん」
その前にワタシが結婚してるんだから、できるわけない
今更言えないし、
まさか喜ぶのは予想外
「親なんて説得するし、そうなったら堂々とできるね」
ほんとに凄い嬉しい
賢ちゃんでも言わなかった結婚してできた子でも、いつも困ってたんだから‥
もし、ワタシが独身だったら‥
間違いなく結婚してたかもしれない
そして、ほんとにできていたら
どうしてたんだろう‥
赤ちゃんはいなかった
遅れてただけだった
「なんかガッカリ」
そういってくれたのも
嬉しかった
そのうち
ティーチャーに好きな人
彼女ができて
ワタシは離れた
ティーチャーから彼女の話しを聞いた時
「良かったね〜」って言った
泣くのをガマンして‥
ほんとはすごいショックで涙があふれそうだった
「意外に平気なんだね」
あれは
どんな意味だったの?
泣いてたらどうしてた?
きっと困ったよね?
ワタシが遊んでる間
賢ちゃんはどうやって耐えてた?
まもなくワタシは6人目を妊娠
仕事をやめた
賢ちゃんは
「おろして」
とは、もういわなかった
おかあにもギリギリまで
隠し通した
我が家では 『離婚』の危機が訪れると 『妊娠』する傾向がある
6人目 『大翔』ーひろと が 産まれた
この時こそ最大の離婚の危機だった
子供が 『離婚の危機』から 救ってくれていた
ワタシと賢ちゃん
きっと この子供がいなければ 間違いなく
『離婚』 していたと 思う
結婚して 12年
知恵と澪を含め 子供6人
子供たちに助けられて
子供たちに成長させられた
ワタシの命より 大切な ー たからもの ー
知恵
澪
愛結
望愛
梨央
大翔
ありがとう
そして こんな パパとママをよろしくね
どんなことが あっても ママが守るから!
これからも ずっと…
そして賢ちゃん
色々心配かけてごめんね!
ビンボーだけど頑張っていこうね
ワタシは今、専業主婦
家族みんな仲良し
ワタシが働くといいことがない
よくわかりました
家族はワタシにとって
たからもの☆なんだから…
ワタシとおかあの戦いは
終わってないけど
賢ちゃん 守ってね☆