「人間らしく」と王女は条件を提示した
ライデンに、ローズマリーを伴って、王都へ来いとの命令が下る。場所は、王宮だった。
すれ違う人、老若男女問わず、ライデンの後ろを付き従うように歩く、ローズマリーに視線を奪われてしまう。そして、すれ違うと、立ち止まり、彼女の後ろ姿を見送っていた。
二人は、玉座の間に通される。
そこで待っていたのは、国王ではなく……。
王女リリアナ、女傑として有名な彼女であった。
彼女は、王座に座り、こちらを見つめている。
ライデンは片膝をつき、王女への敬意を示す。ローズマリーも、それにならう。
「面を上げよ」
その声に従い、顔を上げる。
「楽にせよ……」
ライデンが立ち上がる。
「お久しぶりです、姫殿下」
「うむ……」
彼女の表情は暗い。いつもより、ずっと暗かった。
「二人とも元気そうだな」
「はい……」
「そうですね……」
ライデンは、ローズマリーを見る。
(コイツは、何を考えているんだ?)
その疑問が頭に浮かんでいた。
「早速だが……」
「陛下は?」
「父上は、病気だ……」
「病名は?」
リリアナは、両手を挙げ、天を仰ぐ仕草をする。
「わからんのだ……、医者にも原因がわからないらしい」
「呪いか何かですか?」
「そうかも知れん……」
「わかりました……」
ライデンは、下を向く。ローズマリーの方は、膝をついたまま、動く気配がない。
帝国との戦いが幕引きをした後、ローズマリーとの会話は、ほとんど無くなっていた。
「では、まず、ローズマリー……、そなたが、ライデン殿の召喚獣とは、本当か?」
「はい……」
彼女は膝をついたまま返事する。
「私は、主人の召喚獣です」
「ふむ……」
リリアナの視線は、ローズマリーの頭の先から足の爪までを往復する。
「信じられん……。単騎でゴブリン軍団に飛び込み、帝国のドラゴンを撃破したというのは、本当か?」
「はい、全て事実です」
「うーむ……、ローズマリー……、そなたは、なぜ、ライデン殿の召喚獣となったのか? 理由を聞かせてくれぬか……」
「それは……」
彼女は、ライデンの方を見た。彼の方も、ローズマリーを見つめている。
ローズマリーの電子脳を持ってしても、召喚に関して、明確な回答が出ていない。
「私には、わかりません」
その言葉に、リリアナが眉をひそめる。
「信じがたいことじゃが、帝国では、王国がエインヘリアルを召喚したという噂が広がっておるらしい……」
「そんな、馬鹿なことはない! ローズマリーは、残虐非道のかぎりを尽くし、一度は、世界を終わらせたという、不死の戦士、エインヘリアルなどいうのは戯言だ!」
「ライデンよ、そう、熱くなるではない」
リリアナは少し楽しそう。それはまるで、興奮した息子をなだめる母の仕草だ。
ライデンが、慌てて頭を下げる。
「ローズマリーは、俺の大切な召喚獣です」
「大切……、いいえ、私は、主人の剣であり盾です。それ以上ではありません」
ローズマリーが、主人の非礼を詫びる従者のように深々と礼をした。
「それで、いいのか? ローズマリーよ……」
「問題ありません」
「わかった……」
リリアナは、ため息をつく。
「それでは、ローズマリーよ、そなたを正式に我が国の魔道士として招こうと思う」
「ありがとうございます」
ライデンが頭を下げて感謝を示す。
「しかし、条件がある。まず、ローズマリー……、彼女の力を試させて貰うぞ。構わないな、ライデン」
「承知しました。ご期待に添えるよう努力いたします」
「次に、この国で、ローズマリーは、人間らしく生活すること」
「それは、必要ありません」
ローズマリーは立ち上がった。
そして、リリアナに向かって歩き出す。
「おい……」
ライデンが、手を伸ばし、彼女を引き留めようとする。
「心配はいりません。私は、主人に迷惑をかけないように行動できます」
ローズマリーは兵器である以上、人として扱われるのは障害でしかない。
「大丈夫です」
彼女は、ライデンを見つめる。
彼は伸ばした手を下ろす。
「ローズマリー……」
彼が口にできたのは名前だけ。その先は、何も出てこなかった。
ローズマリーが、リリアナの前で止まる。
「姫殿下、失礼を……」
「いいや、許さん。人間らしくは、絶対だ。それが、唯一、エインヘリアルではないとの否定になる」
リリアナは、まるで少女のようなウインクをライデンへした。