うしのクビ
家紋 武範 さん主催、「牛の首企画」参加作品です。
当企画はホラー作品のみとなっています。
ホラー苦手な方はここでブラウザバックしてください。
臼野 孔師は、からだがでかい。よく食べる。気は優しい。力持ち。
……しかし、のんびり屋で動きが遅い。
そのため、ウスノロ仔牛と呼ばれいじめられていた過去があった。
「こらあっ! このウスノロ! この書類間違っているじゃないか! すぐやり直せ!」
「……すみません。直します」
臼野 孔師は、目が細くおとなしい。
……そして、言葉が少なく考えていることが他人に伝わりにくい。
そのため、誤解を受けやすい。
「承知しましただろうがっ! 何度教えたら分かるんだ! このウスノロが!」
「……すみません。承知しました」
臼野 孔師は、からだがでかく言葉が少ない。
そのため、他人に威圧感を与えやすい。
つまり、その場にいるだけでストレスを感じるものもいた。
目の前の係長とか。
「おいウスノロ、これもってさっさと失せろ。もう来なくていいぞ。どうせ役に立たないし」
「…………………………はぁ」
解雇通知を突きつけられ、長い沈黙のあと吐いた言葉は、ため息と区別がつかなかった。
冷たい罵声を背中に受けて立ち去る姿には、係長以外誰も声をかけることができなかった。
……たとえ、憐れに思っていても。
翌日、会社に牛の被り物を被ったスーツ姿の巨漢が姿を現す。
警備員に止められるが、右手に持った鉈を振り下ろし頭をかち割った。
いつも臼野のことを鼻で笑う五十代の妻に逃げられた男だった。
牛の巨漢は受付嬢にゆっくりと歩み寄り、ハンマーで顔を殴った。顔が潰れて誰だか分からなくなるまで殴った。
いつも臼野のことを気持ち悪いと聞こえるように嘲笑っていた三十手前の二股かけていると噂の女だった。
牛の巨漢は事務の女性を引き倒し、首に斧を振り下ろした。
表情の読めない臼野を性犯罪者扱いした四十代の既婚者だった。
牛の巨漢はオフィスの男性社員の腹を包丁で突き刺した。
いつも臼野が係長に怒鳴られている際聞こえるように笑っていた近い席の独身男だった。
牛の巨漢は係長の右腕を掴み、肘をへし折った。
痛みで悶える係長の腹を蹴り、左足首を逆方向に曲げた。
痛みで跳ねる係長の右足の膝を何度も踏みつけた。
痛みで泣きながら片手で這って逃げようとする係長の左手を取り、指を1本1本へし折った。
そして、鋸を取り出し係長の背中を踏みつけて首に刃を当て、ギコギコと何度も引き、鉈を何度も振り下ろして首を断った。
いつも臼野をストレス発散の相手に罵倒していた憎き男だった。
「もおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
牛の巨漢は吠えた。
「もおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
牛の巨漢は何度も吠えた。
何度も吠えて、やがて声が枯れたように吠えるのをやめた。
牛の巨漢は、所々血の赤に染まるオフィスを見渡す。
腰を抜かして動けないもの、隠れて震えているもの、泣きながら謝っているもの、様々いた。
その中で、一人の若い女にからだごと振り向く。
「ひぃっ!?」
腰を抜かしたまま悲鳴を上げる若い女から、血ではない液体が広がっていく。
牛の巨漢は、その若い女にゆっくりと歩み寄り、手を伸ばす。
臼野の新人教育を任された一年先輩で、係長のセクハラの被害に遭っていると漏らしたこともある若い女だ。
「いやあっ、離して! 人殺し! 助けて! 誰か!」
臼野と共に係長から叱責されたこともあり、何度も臼野を励ました女だった。
だから、褒めてくれると思っていた。
しかし、現実は違う。
牛の巨漢は、若い女の首に両手をかけ、ゆっくりと締め上げていった。
呼吸ができなくなり、舌を出しわずかに震える女を持ち上げ、ゆっくりゆっくりと締める力を強めていった。
牛の巨漢の手を外そうとする女の手から、床から離れた足から、ゆっくりゆっくりと力が抜けていく。
……そして、
「警察だ! その女性を離せ!」
オフィスの入り口には、拳銃を構えた複数の警官が。
「もおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
牛の巨漢は吠えた。
そして、女を放り出し警官に向かい突進していった。
制止の声と発砲音が一度。
それでも止まらない牛の巨漢。
牛の巨漢の叫びと、たくさんの発砲音が重なり………………。
『臨時ニュースです。先ほど、牛久保商事に刃物のようなもので武装した男が侵入し、複数の社員を殺傷したという情報が入ってきました。今、カメラが現場に向かっています。詳しい情報が分かり次第お伝えします。
繰り返します。先ほど、牛久保商事に刃物のようなもので武装した男が……今、新たな情報が入ってきました。視聴者から寄せられた現場の映像のようです。血のようなものが飛び散り、物が散乱しています。人が倒れている様子もうかがえます。現場は大変に混乱している様子です。新しい情報が入り次第お伝えします』




