第36話 卒業・幼馴染みの初めて(1)
卒業式。
クラスメイトたちの様子はそれぞれで、女子は泣き出す者が多かったが男の多くはあっけらかんとしていた。
俺もあまり実感がないので涙が流れたりはしない。
でも、これで終わりなんだなと思うと少しだけ鼻がツンとした。
式が終わり、小百合を迎えに行く。
彼女は泣いていなかった。泣き虫だと思っていたのに意外だ。
小百合はひたすらに、泣きはらす友達を慰めていたようだ。
これから先の楽しみ——俺と一緒に住んで、同じ大学に通うこと——が勝っているのかな?
友達に別れを告げ、俺の元に駆けてくる小百合。
今日は彼女の方から手を繋いできた。
式に参加した俺の両親と小百合の両親はこのまま一緒に飲みに行くらしい。
昼間からマジかよ、と思う。
しかも小百合のご両親も一緒とは……。
前々から交流があったのだけど、俺と小百合が付き合ってからはさらにつきあいが濃厚になっているような気がする。
俺たちは子供だからと飲みには誘われなかった。
妙な気を利かせてくれたみたいだ。
いつもと同じように二人で一緒に帰り、小百合の家で、ささやかなお疲れさま会をすることにしている。
友人からクラスの打ち上げがあると聞いていたけど……細川は来ないよな? と言われてしまった。
みんなから、変な気の使われ方をしている。
学校から小百合と一緒に出るとき、後輩の一年生、以前俺に告白をしてきた吉川さんから制服のボタンが欲しいと言われた。
断ろうとしたものの、小百合があげて、と言って引かなかったから渡すことにする。
すると吉川さんは俺たち二人に深々と頭を下げ、笑顔で去って行った。
「小百合……よかったのか?」
「うん。だってこれからずっと……というか今までも光君を独り占めしてきたし……これくらい、どうってことないよ」
小百合はなんてこともないように言う。
これが世に聞く本妻の余裕ってヤツなのか?
☆☆☆☆☆☆
そして今、俺は小百合の部屋にいる。
小百合の部屋は女の子という割にはスッキリとしていて、甘く良い香りがする。
それに重なるように、うっすらと小百合の匂いもするような気がした。
俺は床に敷かれたカーペットの上に座り、当たり前のように小百合がその隣に座る。
ケーキが用意してありそれを一緒に食べた。
なんでもない時間だが、それがとても幸せだった。
食べ終わると俺たちは、ベッドに縋るようにして座った。
もう当たり前のように手を繋いでいる。
「学校も終わって通うこともなくなるんだな」
「そうだね。光君、今までありがとう」
「なんだよ急に。これからもよろしくだろ?」
「うん。でも感謝の気持ちを伝えたかった」
「俺も楽しかったし……これからも一緒だ」
「うん!」
小百合はにっこりとして体を寄せ俺の肩に頭をあずける。
温かい体温が伝わり、彼女の香りが鼻をくすぐった。
俺は少しそわそわする。
特に何か約束しているわけでも無いのに、まるで、互いに何か期待しているような雰囲気だ。
結局俺たちは、合格した後も最後の一線を越えていない。
多分、超えるとしたら今日なのだろう。
そんな予感がしていた。
その為なのか、俺の体……下半身がめっちゃ反応して、小百合に悟られないようにするのに苦労する。
落ち着け……俺……。
「ねえ、光くん。どうして……合格してからも、私に何もしてこなかったの?」
「えっあっ。そう感じた?」
まるで考えていることを見抜くような質問に俺は驚いた。
「うん。一緒にいて、そういう雰囲気になったこともあったのに」
「それは……ずっと、俺がチャラすぎるって言うか、そう感じてしまって。
俺は元カノと別れて、小百合に乗り換えたみたいになったのは事実だし。
経験がある俺が手を出したら、まるで小百合との付き合いが遊びになってしまいそうで……ずるずると甘えてしまいそうで。
それが嫌で、怖くて我慢してた」
小百合は、俺の目を見つめてにっこりとした。
「ふふっ。光君は考えすぎだよ」
「そうかな?
でも嬉しそうだね、小百合」
「うん。私のこと考えてくれるだけで嬉しい。
でもね、私は光くんさえよかったら何をされても……してもいい」
小百合の言葉に、どくんと心臓が跳ねる。
俺も同じ事を感じていた。
小百合を押し倒しても抵抗しなかっただろうし、何をしても受け入れてくれたのだろう。
あの時の約束は、願いが叶ったら……自分の初めてをあげるという意味だったのだろう。
はっきりその答えを聞いてはいないけど、合格したのだからいつでも俺はそれを手にすることができた。
だからこそ、俺は自分を戒めてきた。
「光君、あの時の約束覚えてる?」
「もしも願いが叶ったらってやつだよね。それって……」
艶のある吐息のあと、甘えるような声で小百合が言った。
俺も小百合も笑顔で……二人の雰囲気ってそういうものなのかもしれない。
小百合の明るい弾むような声で、俺の緊張は少し和らいでいく……。
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