第33話 邂逅(2)
「小百合とはまだ、してないぞ」
「えっ? マジ? ウソだろ?
どうみても長年寄り添った夫婦にしか見えないって評判になってるぞ?」
……なんだそれ?
「それってさあ、褒めてんのか?」
「違うの?」
「どうだろ。多分さ、幼馴染み同士の安定感って言うか……そういう事なんじゃない?
たぶん、深く考えてないよ」
「そうなのか」
微妙に納得していない様子の山本だが……彼が聞きたいのはこの話じゃ無いな。
だいたい、そう言われる理由は俺にもよくわからん。
「まあ、お互いのペースって言うか、そういうのはある。
周りが期待していても、俺たちが納得してなきゃダメだろうし」
「あ、ああ……色々あるんだな」
「まあな。で、山本の質問だが……」
「お、おう……」
ごくり、と山本の喉が動いたような気がした。
どうやって彼女を誘ったらっていう話だったな。
誘うのは、エッチするって事だろう。
「普通にしたいって聞いて見たら?」
「えっ? い、いや、そんなの困るんじゃ……?」
「困るくらいならできないだろ。
経験があったら、それとなく誘うっていうか、そういう雰囲気に持ち込むことは出来るとは思うけど。
相手の準備もあるだろうし分かんないなら聞いてみたらいいんじゃないかな」
「……ああそうか……」
「ズルい方法は聞いたことがあるな」
「えっ? 詳しく」
むしろ聞きたいのはこっちなのだろうか。
まあ、俺に聞かなくても他の誰かから聞くこともあるだろう。
「まずキスをする。拒否されなかったら……胸に触れる。できれば直接」
「ふ、ふむ……」
「そこで拒否されなかったらだいたい最後まで大丈夫。
心配なら、次は下に……という風に段階進んで確認、を繰り返す」
「な、なるほど……拒否されたら?」
「諦めろ。引け。次のチャンスを待て」
またゴクリ、と山本が唾を飲み込むのが分かった。
俺は少し楽しくなっていた。
山本に限って、拒否する相手に対して強引に段階を進めることはないだろう。
だいたい、山本がこんな質問をしてくるとは思わなかった。
人は変わるものなんだな。
同時に、こういう話を出来るようになったことが楽しくもある。
「イヤよイヤよと言われても押せばなんとかなるというヤツもいるけど、
見極める自信があるならいい。
けど外すと、単なる痛いヤツだし」
「そ、そうだな」
「相手を傷付けることにもなるから、そういう場合でも聞くのがいいとは思うが……雰囲気もあるし難しいところかも知れない……らしい」
「らしいって……細川お前さぁ、経験済みだろうに……そんな自信がなさそうなこと言うなよ」
「経験があるってだけで、俺は分からないことの方が多いって実感しているよ。
小百合のことも、付き合って……ちょっときわどい事もあって……」
「き、きわどい事って?」
俺は山本を無視した。
「でもまだまだ知らないことがあってさ。
多分、完全にわかったと思ったとしたら、それは勘違いなんだなって。
本当に思ったんだ」
「そ、そうなのか……。細川が言うと重いな」
「そうでもないけど。
まあ、最初の話に戻るけど、話し合うといいんじゃないか?
お互い初めてなら分からないことだらけだろうけど、だからこそ。
山本と彼女のことは分からないけど、一番確実だと思うよ?」
俺は自戒も込めていった。
絵里の時は若干流された感じだしなぁ……。よく考えると危なかったのかも知れない。
だから小百合とは失敗したくない。
ないのだけど、結局俺、流されている気もしないでも……。
「おまたせ! たこ焼き買ってきたよ」
小百合たちが帰ってきた。
しかし、彼女たちは俺たちの顔を見て首をかしげる。
「どうしたの?
何か難しい顔してるけど……二人とも、哲学の話でもしてたの?」
と、心配されたのだった……。
もちろんその場で何の話をしたのか言えるはずも無く。
☆☆☆☆☆☆
「初詣楽しかったね」
小百合と二人で父さんの車が来るのを待つ。
山本たちは自転車で来ていたようだ。
この寒さの中のにすごい奴らだ。
なんとなくだが、まっすぐ互いの家に帰らなそうな雰囲気を感じた。
「うん。あいつらに会うとは思わなかったけど」
「そうだね。なんか、よかったなって思ったよ」
「そっか」
俺はなんとなく小百合が考えていることが分かった。
あれからも罪悪感でも抱いていたのかもしれないな。
「それで、小百合は何をお願いしたんだ?」
「光君は?」
「質問に質問で返すとはずるいなあ。
俺は、受験が上手くいきますようにって。
小百合とずっと一緒にいられますようにって」
「えへへ……。
私もね、受験のことと……」
そこで、続きを言わず黙り込む小百合。
俺はその先を促す。
「ことと?」
「……ひみつ!」
なんとなく予想がついた。
小百合がこういう風にはぐらかすときは……。
「俺と結ばれますように、かな?」
「なっ、なっ、なんで分かったの?」
「お、当たった!」
「あー。ずるい!
たまに光君ってずるいことするよね」
「そ、そう?」
あまり自覚が無かったが、俺はずるいやつらしい。
小百合はちょっと膨れながらも、すこし嬉しそうだった。
こうしてつつがなく正月が終わったかと思ったのだが……。
冬休みが明ける前に、突然山本から緊急を告げるメッセージがスマホに届く。
「細川! すまん、お前にしか聞けないから聞くんだが。
この前、初詣の後に彼女としたんだが」
「おめでとう。よかったな」
まじかコイツ。
いや、早すぎだろう。
俺はあっさり追い抜かれたわけだ。
「ありがとう……じゃなくってな、その、彼女の生理が遅れていて……
もしかして妊娠したのか?」
俺はふう、と息をつく。
「お前さあ、あれから何日経ったよ……。いくら何でも早すぎだろ。
ちゃんとしてたんだろ?」
「あ、ああ。完璧だったはず」
「じゃあ、心配ないと思うけど、検査用のやつ買って…………」
俺は言いかけてやめた。
そうだ。山本も一回経験しておいた方が良いと思った。
あの雰囲気も含め……色々と。
こうして俺に慌てて聞いてくるくらいだ。
色々と頭が回らなかったのだろう。
ちゃんとした知識を聞いた方が良いのかも知れない。
俺も一応、あれからしっかり話は聞いたのだが……俺よりもお医者さんにちゃんと聞いた方が良いと思う。
「検査薬?」
「いや、とりあえず彼女と一緒に婦人科に行ったほうがいいぞ——」
俺は、これからも小百合と一緒に行くであろう、前に行った婦人科を教えてやったのだった。
まあ、何があるか分からないし適当なことを言うよりいいだろう。
——俺の言ったことを山本は真面目に行ったらしい。
その結果、何ごともなかったようだ。
山本からは妙に感謝されつつ、最近アイツが言う言葉が全部自慢のように聞こえてくる。
全部上から目線に聞こえるのは、気のせいだろうか?
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この小説を読んで
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