第32話 邂逅(1)
年末から降り続いた雨は雪に変わって地面に降り注いでいく。
今年はとても寒い年末年始となってしまいそうだ。
俺は……鬼となった小百合が大晦日にもかかわらずうちに来て、一緒に勉強している。
受験生に大晦日や正月は無いんだよと笑顔で言う小百合が、般若のお面を付けているようにしか見えなかった。
日が暮れ、外が暗くなる頃。
勉強につきあってくれた小百合がぼそっと言う。
「光君、今年は色々あったけど……お世話になりました。来年もよろしくね?」
「うん。こっちこそ、世話になりっぱなしだったな。来年も……その先もずっと、よろしくな」
「うん! それでね、初詣ってどうする?」
「んんー。 近場かな。どうせなら小百合と二人で行きたいな」
俺は元旦くらいは勉強休んでも良いよな? と思って小百合を誘うことにした。
「えっ、いいの?」
「うっ……うん。父さんと母さんは俺いなくても良いだろうし。じゃあ、元旦は昼くらいから遊んで——」
「元旦も勉強だよ?」
「ですよねー」
俺の悪だくみは一瞬にして見抜かれ、粉砕されたのだった。
「じゃあ、そうだ。今晩、日が変わる前から行くとか?」
「えっ……うん、いいねえっ」
あ……めっちゃ喜んでる。
あっという間にスマホを取りだし、ご両親に連絡をしているようだ。
「光君といっしょならいいって!」
「お……おう」
俺と一緒ならなんでも良いって言うんだな。
「じゃあ、どうする? 家に一回帰るか? 迎えに行ってもいいし」
「ううん。このまま……一緒にいたらダメ?」
「……わかった。父さんと母さんに聞いてくる」
聞くと言っても、俺の両親が首を横に振るはずも無く。
小百合も一緒に晩ご飯食べないかとも言われ、そうすることに。
なんだかこの感じ、小さい頃一緒にいたのと同じ流れでちょっと笑ってしまった。
☆☆☆☆☆☆
「じゃあ、出発!」
夜の二十三時。かなり寒いのでコートにたくさん使い捨てカイロを詰め込み、家を出た。
幸い、雪は止んでおり、星空まで見えた。
冬の夜の空気は澄んでいて、星の瞬きがとても綺麗に見えた。
父さんに目的の神社まで車で送ってもらった。帰りも、また連絡してきて貰うことになっている。
ありがたいことだった。
「なんかいろいろお世話になっちゃったね」
「小百合が来ると両親すごく喜ぶから……全然大丈夫だよ。多分」
「うん! なんか私って……」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
気になるけど、小百合は心底楽しそうに、恥ずかしそうに言った。
きっとたぶん……幸せだな、とかそういう言葉が続いたのだろう。
俺たちは、神社に続く階段を上っていく。
といっても、それほど高いわけでもなく、すぐに終点が見える。
「ついたけど……もう人がいるな」
「そうだね。この階段まで列が来てるってことは……ちょっと待ちそうだね」
俺たちは階段の途中で話をして時間を潰す。
幸い風も吹いておらず気温の割にそこまで寒くない。
階段の上には光が溢れ、賑やかな様子が分かる。
屋台などでているのだろう。
「ね……前の二人……」
既視感。
俺たちの一つ前にいる男女のうち男の方が、山本っぽく見える。
そうだ、クリスマスの時山本らしき後ろ姿をみかけたんだっけ。
その結果妙なところまで行ってしまったんだけど……ここなら見失わない。
「山本?」
俺がそう言うのとほぼ同時に、階段の数段上にいる二人が振り向いた。
仲よさそうに手を繋いじゃって……。
人のこと言えないけど。
「細川……千石さん?」
「おう。久しぶりだな」
やっぱり山本だった。
隣の女の子は……うーん、見覚えがあるけど誰だ?
小百合は見覚えがあるようだ。
「香奈子ちゃん……山本君と一緒……?」
「ありゃ……バレたか」
俺は小百合に、小声で「誰?」と小声で聞く。
「同じクラスの友達だよ。そういえば山本君彼女いるのかなって聞いていたけど……まさか付き合っているとは」
小百合は心底驚いたようだ。
誰にも言ってなかったのだろう。というか俺も聞いてないぞ山本よ。
俺たちは四人で行動することにした。
ここにくるのが初めてだったようで、二人とも勝手が分からず不安だったそうだ。
俺も詳しいわけじゃないけど親と何度か来ていたので知っていた。
お参りをして、くじを引いて、破魔矢を買って。
ちょっとお祭りの感じがして楽しい。
「光君、香奈子ちゃんとたこ焼き買ってくるね」
女同士でつもる話もあるのだろう。
二人は楽しげに歩いて行った。
さて、俺は山本を小一時間問い詰めることにする。
尋問の始まりだ。
「まさか……山本……お前彼女がいたなんて一言も教えてくれなかったよな」
「あ、ああ……ちょっとお前らには言いにくくて」
「うーん、色々と気にしちゃったのか。そんなの別にいいんだけどな。
まあ、おめでとう」
俺は握手を求め手を差し出した。
律儀に握ってくる山本。
「いつから?」
「……12月入ってすぐかな」
一ヶ月も前じゃないか。
小百合も気付いてなかったようだから内緒にしていたのだろう。
同じクラスでバレなかったというのは、なかなかすごいような。
「へえ……まあちょっと気がかりだったから……安心したよ」
「うん。あの時は色々と……千石さんにも迷惑かけちゃったし」
「迷惑なんて思ってないと思うけどな。小百合も喜んでると思うよ?」
「だといいけど……。
で、その……細川、お前……初めてってどうだった?」
「初めてって?」
「その、千石さんと……したんだろ?
俺ちょっとどうやって誘ったら良いのか……分からなくて」
大きな勘違いがあるようだけど、山本は悩みがあるようだ。
確かに経験が無いと分からない事ってあるよな。
俺も経験が多い方じゃないけど……なんとなく分かっているつもりのことはある。
山本なら信頼も出来るし、借りもあるから力になろうと思う。
「まず誤解があるけど……小百合とはまだしてないぞ」
「えっ? マジ? ウソだろ?
どうみても長年寄り添った夫婦にしか見えないって評判になってるぞ?」
……なんだそれ?
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